その日、空には一片の雲もなかった。
新学期の始まりを告げる4月最初の朝、優真は晴れ渡った青空に向かって、大きく腕を伸ばした。
「おっしゃーっ、今日からは俺がこの街を盛り上げる番だーっ!!」
駅前のロータリーで叫んだその声は、道行く人の笑顔を誘い、何人かの目を引いた。
だが、彼は気にしない。むしろ、それがいいのだ。目立ってナンボ。注目された分、何かを返せばいい。
——そういう生き方しかできない。そういう生き方が、きっと自分には合ってる。
「うるさい。朝から絶好調かよ」
後ろから軽く肘をつつかれる。
振り返れば、整った顔立ちの青年・真吾が、手にぶら下げたパソコンバッグを揺らしていた。
「ちょっとは落ち着けよ、優真。新しいシェアハウス、まだ誰も引っ越してきてないって言ってただろ」
「それがいいんだよ。俺らが“最初の起爆剤”になるってやつ?」
「お前が爆発しても、誰も巻き込まれたくねえよ……」
真吾はそう言いながらも、口元には微かな笑みが浮かんでいた。
無茶苦茶に見えて、どこか憎めない。それが優真の持ち味だ。
「ま、でも……あのシェアハウス、いろんな人が来るらしいな」
「うん。クリエイターとか、社会人とか、学生とか。バラバラな人たちが集まるって聞いた」
「面白くなりそうだな〜!」
その時、足音が近づく。
向かってくるのは、春らしい薄桃色のコートを羽織った女性——晴だった。
「……優真、やっぱり騒いでた」
「おー、晴! 久しぶりだな!」
「久しぶりって……こっちは二週間前に会ってるし」
少しだけ呆れたような笑みを浮かべる晴は、控えめな性格とは裏腹に、芯の強さを感じさせる瞳をしていた。
「それでも久しぶりって思えるぐらい、会ってないと物足りないんだよ」
「……そういうこと言うと、すぐ誰かに誤解されるよ?」
「誤解されても全然OK!」
真吾が頭を抱える。
「それが良くないって言ってんだよ、前から……」
そこに、もう一人の足音。
グレーのスウェットにパーカーを羽織った瑞季が、スマホをいじりながら近づいてくる。
「うるさい声が聞こえると思ったら、やっぱり優真か……この朝の空気が台無しだよ」
「瑞季〜! 久々じゃん! なんだよその冷たい第一声!」
「いや、久しぶりでもテンション差ありすぎでしょ……」
瑞季は基本的に淡々としていて、距離を詰めるのが苦手なタイプだった。
けれど、こうして集まっているという事実が、少なからず彼女の中にも“期待”を残している。
そして、その日、シェアハウスには続々と新しい住人が現れる。
最初に現れたのは、全身から“旅の匂い”をまとった男——雅樹。
「やあやあ、ここで合ってる? 《casa-sora》って、名前のシェアハウス」
「うん、合ってる! 君が……?」
「雅樹。何でも屋。……まあ、アートと自転車が好きってことで」
続いてやって来たのは、冷静な目つきで周囲を観察している女性、みづき。
「このメンツ……だいぶうるさそうだな」
「おいおい、最初にそれか!?」優真が叫ぶ。
「うるさくて冷静なのが一緒にいたら、バランスいいでしょ?」
「……まあ、否定はしない」
さらに、柔らかい印象の朝陽と、明るいけどちょっと後ろ向きな桜子が到着する。
朝陽は空気を読むのが得意で、まず部屋の中をくるりと見渡した。
「ふむ……窓の位置、ドアの開き方、動線悪くない。家具も悪くない」
桜子は荷物を置くなり、開口一番。
「引っ越しは嫌い。体力使うし、あちこち傷つけたくないし……でも、なんか、こういう“新しい場所”は……少し、わくわくするかも」
そして全員が顔を合わせた瞬間。
この不思議なメンバーで始まる新生活の序章が、静かに幕を開けた。