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section04「記録されなかった真実」

ー/ー




 格子扉を開けた瞬間、冷たい空気が一気に吹き抜けた。まるで、ずっと閉ざされていた時間が動き出したかのような感覚だった。
 地下へと続く階段は、照明もなく、古びた鉄製の手すりが赤錆に覆われていた。
 だが、その先には明らかに「人の手」が入った痕跡があった。配線、タイル、空調口。廃墟のはずの施設の下に、誰かが“何か”を隠していたのだ。
「電源、入ってる……?」
 みゆきが声を潜めて呟く。
 答えはなかった。誰もが声を出すのをためらっていた。
 沈黙の中、最初に足を踏み出したのは凌空だった。
「行こう。もう、ここまで来たんだ。……確かめるべきだろ」
 彼の声に引かれるようにして、皆が階段を降りていく。
 数十段下りた先、鉄扉が閉ざされた空間に辿り着いた。扉にはセキュリティ用のパネルが取り付けられており、電子キーが必要な構造だった。
「これ……開けられるの?」
 拓巳が懐から別の端末を取り出す。
「多分、ね。“学園の旧管理者アカウント”を拾ってあったから、通るはず」
「またお前、どこからそんなもんを……」
「努力と偶然と悪意と、いろいろ混ざった結果ってやつさ」
 軽く笑った拓巳が端末を操作すると、扉がゆっくりと開いていく。
 ギィ……と、機械的な音。
 その向こうに広がっていたのは——
「ここ……研究施設……?」
 希帆の声が、震えていた。
 真っ白な無機質な廊下、並ぶ実験室の扉。廃棄された資料が無造作に散らばり、ホコリが宙を舞っていた。
 だが、明らかに“撤収”ではなく、“放棄”された跡だった。
 一同は無言で奥へと進む。
 ある部屋の前で、一樹が立ち止まった。
 扉の札には、英語でこう書かれていた。
【Subject Room - Resonance Core】
「ここ。俺が夢の中で何度も見た部屋だ」
 恐る恐る扉を開けると、中央には奇妙な装置があった。
 六角形の台座に、半球状のコア。内部には無数のコードが巻き付けられており、中心には淡い青い光が灯っていた。
「これが……何?」
 みゆきが震える声で問う。
 一樹はそっと歩み寄り、コアの前に立つ。
(レゾナンス・コア)——人と異能の“共鳴適性”を数値化する装置らしい。でも、これはただの測定機器じゃない。“記憶”を操作する副次機能があったって、文献に書かれてた」
「つまり……記憶を消されたのは、こいつのせいってこと?」
 結香が鋭く言うと、一樹は頷いた。
「うん。そして、恐らく……俺たちの“異能の根源”もここにある」
 その瞬間、コアが青く脈動した。
 まるで反応しているかのように、凌空の胸に強烈な圧迫感が走る。
「……っ!」
「凌空!?」
 希帆が駆け寄ろうとしたその時、コアの表面に、映像が浮かび上がった。
 それは、過去の記録。
 幼い凌空が、コアに接続され、意識を失っていく場面。
 その傍らには、現在の教員たちと思しき人物たちの影があった。
「“実験体A-07、共鳴反応・異常なし”——記録、削除対象」
 音声記録が流れる。
 次に映ったのは、同じように繋がれた希帆。彼女は涙を流しながら叫んでいた。
「やめて! この子たちは、みんな苦しんでる! これは“学び”じゃない!」
 その時の彼女の目は、まだあどけなさを残していたが、確かに“誰かを導こうとする”光があった。
「……これが……私?」
 希帆が震える手で、自分の映像に触れる。
「君は……ずっと前から、リーダーだったんだよ。自覚はなくても、周囲に“希望”を与えてた。だから……僕は、君の隣にいたかったんだ」
 そう呟いた一樹の顔に、久しぶりに“素の少年”の顔が浮かんだ。
「でも、俺の中の“もう一人”は、そうじゃない。“希望なんて幻想だ”って、ずっと言ってくる」
「それって……一体誰なの」
 舞香の問いに、一樹は答えなかった。ただ、振り返り、こう言った。
「そろそろ——目覚める頃かもね。僕じゃない“僕”が」
 そして——コアが脈動を止めた瞬間、廊下の照明が一斉に消えた。
「停電……!?」
「違う。何かが“来てる”!」
 その直後、警告音が施設中に響き渡った。
『警告。第零収容体、封印解除まで残り30秒』
 誰かが、何かを——開けた。



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 格子扉を開けた瞬間、冷たい空気が一気に吹き抜けた。まるで、ずっと閉ざされていた時間が動き出したかのような感覚だった。
 地下へと続く階段は、照明もなく、古びた鉄製の手すりが赤錆に覆われていた。
 だが、その先には明らかに「人の手」が入った痕跡があった。配線、タイル、空調口。廃墟のはずの施設の下に、誰かが“何か”を隠していたのだ。
「電源、入ってる……?」
 みゆきが声を潜めて呟く。
 答えはなかった。誰もが声を出すのをためらっていた。
 沈黙の中、最初に足を踏み出したのは凌空だった。
「行こう。もう、ここまで来たんだ。……確かめるべきだろ」
 彼の声に引かれるようにして、皆が階段を降りていく。
 数十段下りた先、鉄扉が閉ざされた空間に辿り着いた。扉にはセキュリティ用のパネルが取り付けられており、電子キーが必要な構造だった。
「これ……開けられるの?」
 拓巳が懐から別の端末を取り出す。
「多分、ね。“学園の旧管理者アカウント”を拾ってあったから、通るはず」
「またお前、どこからそんなもんを……」
「努力と偶然と悪意と、いろいろ混ざった結果ってやつさ」
 軽く笑った拓巳が端末を操作すると、扉がゆっくりと開いていく。
 ギィ……と、機械的な音。
 その向こうに広がっていたのは——
「ここ……研究施設……?」
 希帆の声が、震えていた。
 真っ白な無機質な廊下、並ぶ実験室の扉。廃棄された資料が無造作に散らばり、ホコリが宙を舞っていた。
 だが、明らかに“撤収”ではなく、“放棄”された跡だった。
 一同は無言で奥へと進む。
 ある部屋の前で、一樹が立ち止まった。
 扉の札には、英語でこう書かれていた。
【Subject Room - Resonance Core】
「ここ。俺が夢の中で何度も見た部屋だ」
 恐る恐る扉を開けると、中央には奇妙な装置があった。
 六角形の台座に、半球状のコア。内部には無数のコードが巻き付けられており、中心には淡い青い光が灯っていた。
「これが……何?」
 みゆきが震える声で問う。
 一樹はそっと歩み寄り、コアの前に立つ。
「《レゾナンス・コア》——人と異能の“共鳴適性”を数値化する装置らしい。でも、これはただの測定機器じゃない。“記憶”を操作する副次機能があったって、文献に書かれてた」
「つまり……記憶を消されたのは、こいつのせいってこと?」
 結香が鋭く言うと、一樹は頷いた。
「うん。そして、恐らく……俺たちの“異能の根源”もここにある」
 その瞬間、コアが青く脈動した。
 まるで反応しているかのように、凌空の胸に強烈な圧迫感が走る。
「……っ!」
「凌空!?」
 希帆が駆け寄ろうとしたその時、コアの表面に、映像が浮かび上がった。
 それは、過去の記録。
 幼い凌空が、コアに接続され、意識を失っていく場面。
 その傍らには、現在の教員たちと思しき人物たちの影があった。
「“実験体A-07、共鳴反応・異常なし”——記録、削除対象」
 音声記録が流れる。
 次に映ったのは、同じように繋がれた希帆。彼女は涙を流しながら叫んでいた。
「やめて! この子たちは、みんな苦しんでる! これは“学び”じゃない!」
 その時の彼女の目は、まだあどけなさを残していたが、確かに“誰かを導こうとする”光があった。
「……これが……私?」
 希帆が震える手で、自分の映像に触れる。
「君は……ずっと前から、リーダーだったんだよ。自覚はなくても、周囲に“希望”を与えてた。だから……僕は、君の隣にいたかったんだ」
 そう呟いた一樹の顔に、久しぶりに“素の少年”の顔が浮かんだ。
「でも、俺の中の“もう一人”は、そうじゃない。“希望なんて幻想だ”って、ずっと言ってくる」
「それって……一体誰なの」
 舞香の問いに、一樹は答えなかった。ただ、振り返り、こう言った。
「そろそろ——目覚める頃かもね。僕じゃない“僕”が」
 そして——コアが脈動を止めた瞬間、廊下の照明が一斉に消えた。
「停電……!?」
「違う。何かが“来てる”!」
 その直後、警告音が施設中に響き渡った。
『警告。第零収容体、封印解除まで残り30秒』
 誰かが、何かを——開けた。