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プリマヴェーラ異聞

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 ルネッサンス時代に活躍したイタリア人の画家サンドロ・ボッティチェッリの代表作と言えば、まず思い浮かぶのが『ヴィーナスの誕生』だろう。巨大な貝殻に乗った愛と美の女神ヴィーナスは、豊かな胸の膨らみを片手で隠そうとして隠しきれず、片方の乳房をさらけ出している。片方の手は、股間を覆う長い金髪を抑えており、こちらはモロ出しを免れていて、多くの人々を悲しませたのである。
 どうしてボッティチェッリは、こんなエロい絵を描いたのか?
 この時代のヨーロッパはキリスト教に取材した絵画を描くのが一般的だった。ヴィーナスはキリスト教とは無関係なローマ・ギリシア文化の神である。つまりヴィーナスは異教の神だ。そしてローマ法王庁は、異教が大嫌いで異教徒狩りが大好きだった。ヴィーナスの絵なんか描くのは、もってのほかなのである。場合によっては、異端狩りの対象となるだろう。火刑に処されるのだ。
 ローマ教皇の名において焼き殺されるかもしれないのに、エロ美しい古き異教の神を描く神経が、よく分からない。
 それではボッティチェッリが描いた、彼のもう一つの代表作『プリマヴェーラ』(別題『春』)を鑑賞してみよう。何か分かるかもしれない。
 ここに描かれているのもギリシア・ローマ文化の神々だ。男性の神が二柱、女性の神が六柱。
 男性の神は絵の左右に描かれている。向かって左の男神は惚けた顔で気になった果物に手を伸ばしている。向かって右の男神は青い顔をして頬を膨らませ、中に浮いている。その手は薄物一枚をまとっただけの女神を捕らえようと伸ばしているように見える。他の神々と比べ、この青い神は薄気味が悪い。
 画面の左寄りに三人の女神が手を絡ませるポーズを決めている。着ているのは、ほぼ透明な薄物だけ。中央には胸と腹の膨らみが目立つ女神がいる。その隣にいる女神も、腹が膨らんでいるように見える。この女神は花柄の服を着ていて、他の女神たちより露出が低い。
 これらの女神の上にキューピッドが飛んでいて、矢をつがえている。矢の先にいるのは、前述の三人の女神の誰かだろうか?
 ボッティチェッリは、どういう意図があって『プリマヴェーラ』を描いたのか?
 春が来て植物が生い茂る様子を描いているという説がある。きっと、そうなのだろう。
 だが、わざわざキリスト教以外のモチーフを持ってくる意味が分からない。
 ボッティチェッリの作品はローマの詩人オウィディウスに影響を受けている、とも言われている。
 オウィディウスとは何者なのか?
 エッチな詩を数多く書いてローマの最高権力者を怒らせ、ローマから追放された人のようである。
 何をやっているのだろう(笑い)。
 オウィディウスが何を考えてエッチな詩を書きまくっていたのか分からないが、その影響を受けたボッティチェッリがエロい絵を描いたことは、流れとして分かる。
 ただしボッティチェッリは、オウィディウスより賢かった。オウィディウスは追放が解除されないまま死ぬが、ボッティチェッリは彼のエロ路線を憎悪する反対勢力に同調し、エロい絵を描くのをやめた。そしてエロくないキリスト教的な絵画を描いて一生を終える。その時期の作品に見るべきものはないようだ。
 ボッティチェッリはルネッサンス以降、忘れ去られた。その再発見は十九世紀に入ってからである。




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 ルネッサンス時代に活躍したイタリア人の画家サンドロ・ボッティチェッリの代表作と言えば、まず思い浮かぶのが『ヴィーナスの誕生』だろう。巨大な貝殻に乗った愛と美の女神ヴィーナスは、豊かな胸の膨らみを片手で隠そうとして隠しきれず、片方の乳房をさらけ出している。片方の手は、股間を覆う長い金髪を抑えており、こちらはモロ出しを免れていて、多くの人々を悲しませたのである。
 どうしてボッティチェッリは、こんなエロい絵を描いたのか?
 この時代のヨーロッパはキリスト教に取材した絵画を描くのが一般的だった。ヴィーナスはキリスト教とは無関係なローマ・ギリシア文化の神である。つまりヴィーナスは異教の神だ。そしてローマ法王庁は、異教が大嫌いで異教徒狩りが大好きだった。ヴィーナスの絵なんか描くのは、もってのほかなのである。場合によっては、異端狩りの対象となるだろう。火刑に処されるのだ。
 ローマ教皇の名において焼き殺されるかもしれないのに、エロ美しい古き異教の神を描く神経が、よく分からない。
 それではボッティチェッリが描いた、彼のもう一つの代表作『プリマヴェーラ』(別題『春』)を鑑賞してみよう。何か分かるかもしれない。
 ここに描かれているのもギリシア・ローマ文化の神々だ。男性の神が二柱、女性の神が六柱。
 男性の神は絵の左右に描かれている。向かって左の男神は惚けた顔で気になった果物に手を伸ばしている。向かって右の男神は青い顔をして頬を膨らませ、中に浮いている。その手は薄物一枚をまとっただけの女神を捕らえようと伸ばしているように見える。他の神々と比べ、この青い神は薄気味が悪い。
 画面の左寄りに三人の女神が手を絡ませるポーズを決めている。着ているのは、ほぼ透明な薄物だけ。中央には胸と腹の膨らみが目立つ女神がいる。その隣にいる女神も、腹が膨らんでいるように見える。この女神は花柄の服を着ていて、他の女神たちより露出が低い。
 これらの女神の上にキューピッドが飛んでいて、矢をつがえている。矢の先にいるのは、前述の三人の女神の誰かだろうか?
 ボッティチェッリは、どういう意図があって『プリマヴェーラ』を描いたのか?
 春が来て植物が生い茂る様子を描いているという説がある。きっと、そうなのだろう。
 だが、わざわざキリスト教以外のモチーフを持ってくる意味が分からない。
 ボッティチェッリの作品はローマの詩人オウィディウスに影響を受けている、とも言われている。
 オウィディウスとは何者なのか?
 エッチな詩を数多く書いてローマの最高権力者を怒らせ、ローマから追放された人のようである。
 何をやっているのだろう(笑い)。
 オウィディウスが何を考えてエッチな詩を書きまくっていたのか分からないが、その影響を受けたボッティチェッリがエロい絵を描いたことは、流れとして分かる。
 ただしボッティチェッリは、オウィディウスより賢かった。オウィディウスは追放が解除されないまま死ぬが、ボッティチェッリは彼のエロ路線を憎悪する反対勢力に同調し、エロい絵を描くのをやめた。そしてエロくないキリスト教的な絵画を描いて一生を終える。その時期の作品に見るべきものはないようだ。
 ボッティチェッリはルネッサンス以降、忘れ去られた。その再発見は十九世紀に入ってからである。


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