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第四部 100話 未練

ー/ー



 目を開くと、そこは真っ暗な空間だった。
 いつだったか、アッシュの時もここに来た。

 あの時はオリジナルのアッシュが消えたのだ。
 今度は俺が消えるということなのだろう。

「……まあ、良くやったとは思う」
「いきなり驚いた。どんだけ上から来るんだ」

 後ろからの声に振り返る。
 予想通り、自分と同じ顔があった。

 いや、相手が本物なんだけどさ。
 ……俺にしても見慣れた顔なんだよ。

 俺は苦笑するが、オリジナルは腕を組んで考え込んでいる。
 ? これで全て解決したと思ったんだけど……。

「これから俺は周囲からの評価を改善しないといけない」
「おい、何か失礼なことを考えていないか?」

 まるで俺のせいで自分の評価が下がったかのような言い草だった。
 なるほど。これが本来の『キース・クロス』か。

 明らかに理屈っぽいし、皮肉屋みたいだ……俺とは似ても似つかない。
 入れ替わったら、ティアナにすぐ見抜かれるわけだ。

「? 猿が急に人間になったら驚くだろう?」
「よし決まった! お前、失礼な奴だな!?」

 ティアナの義兄とは思えない。
 しかし、オリジナルは突然笑った。

「本当に感謝はしているよ、ありがとう。
 俺だけじゃあ、ティアナは守り切れなかっただろう」
 
 やはり、こいつはティアナのために自分の体を貸したのだ。
 自分の人生の一部を俺に明け渡したとも言えるだろう。

「……ちゃんと返したぞ。
 多少は傷ありでも、使えないほどじゃない」

 まるでリサイクルショップのような物言いになってしまう。
 だが、間違いなく五体満足だ。クレームは勘弁してほしい。

 すると、オリジナルは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
 しかしすぐに「確かに受け取った」なんて返してくる。

 オリジナルは楽しそうに肩を揺らしながら笑っている。
 俺は何となく気恥ずかしいような気分になってしまう。

「じゃあ、もう行くぞ」
「そうか……もう会うこともないだろうな」

 俺が背中を向けると、どこかマイペースな声が聞こえてくる。
 しかし、言動一つ一つに芯があるような気がした。

 この調子じゃあ、ティアナも苦労するだろうな。
 自分のことを棚に上げてから、俺は暗闇の中へと踏み出した。

 オリジナルを振り返ることも、声を掛けることもしなかった。
 何をやっても、それは未練のような気がして。



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 目を開くと、そこは真っ暗な空間だった。
 いつだったか、アッシュの時もここに来た。
 あの時はオリジナルのアッシュが消えたのだ。
 今度は俺が消えるということなのだろう。
「……まあ、良くやったとは思う」
「いきなり驚いた。どんだけ上から来るんだ」
 後ろからの声に振り返る。
 予想通り、自分と同じ顔があった。
 いや、相手が本物なんだけどさ。
 ……俺にしても見慣れた顔なんだよ。
 俺は苦笑するが、オリジナルは腕を組んで考え込んでいる。
 ? これで全て解決したと思ったんだけど……。
「これから俺は周囲からの評価を改善しないといけない」
「おい、何か失礼なことを考えていないか?」
 まるで俺のせいで自分の評価が下がったかのような言い草だった。
 なるほど。これが本来の『キース・クロス』か。
 明らかに理屈っぽいし、皮肉屋みたいだ……俺とは似ても似つかない。
 入れ替わったら、ティアナにすぐ見抜かれるわけだ。
「? 猿が急に人間になったら驚くだろう?」
「よし決まった! お前、失礼な奴だな!?」
 ティアナの義兄とは思えない。
 しかし、オリジナルは突然笑った。
「本当に感謝はしているよ、ありがとう。
 俺だけじゃあ、ティアナは守り切れなかっただろう」
 やはり、こいつはティアナのために自分の体を貸したのだ。
 自分の人生の一部を俺に明け渡したとも言えるだろう。
「……ちゃんと返したぞ。
 多少は傷ありでも、使えないほどじゃない」
 まるでリサイクルショップのような物言いになってしまう。
 だが、間違いなく五体満足だ。クレームは勘弁してほしい。
 すると、オリジナルは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
 しかしすぐに「確かに受け取った」なんて返してくる。
 オリジナルは楽しそうに肩を揺らしながら笑っている。
 俺は何となく気恥ずかしいような気分になってしまう。
「じゃあ、もう行くぞ」
「そうか……もう会うこともないだろうな」
 俺が背中を向けると、どこかマイペースな声が聞こえてくる。
 しかし、言動一つ一つに芯があるような気がした。
 この調子じゃあ、ティアナも苦労するだろうな。
 自分のことを棚に上げてから、俺は暗闇の中へと踏み出した。
 オリジナルを振り返ることも、声を掛けることもしなかった。
 何をやっても、それは未練のような気がして。