第四部 97話 魔弾の圧縮
ー/ー
青鬼が大きく踏み込んだ。長刀を大きく払う。
俺は横に転んでやり過ごすと、すぐにその先に脇差が二本飛んできた。
さらに大きく飛び退くが、今度は青鬼が消えて長刀を払う。
俺はどうにか右手のナイフで抑えた。
「クソ鬼」
「……勉強しようかなと思って。先生?」
俺の暴言に青鬼が笑う。
青鬼は飛んできた脇差を掴みやがった。
俺を真似るように、そのまま脇差を斬り下ろす。
脇差目掛けて、俺は魔弾を放った。
そうやって、どうにか一通り防ぐ。
すると、今度は長刀と脇差の一斉掃射が放たれた。
「この……っ」
俺は毒づきながらも、魔弾を合わせて迎え撃つ。
何とか相殺して、さらに魔弾を追加した。
広場内のあちこちには長刀と脇差が浮いている。
さらに俺の魔弾も常に反射を繰り返していて、状況の把握が難しい。
「……そろそろじゃない?」
「ああ」
エルの言葉に、俺は小さく頷いた。
周囲を跳ね返る魔弾はすでに百を優に超えていそうだった。
青鬼の猛攻を凌いでゆく。長刀の刺突を避けて、脇差を弾く。
さらに迫る長刀と脇差を『青い幻』に従って、躱していった。
「……?」
追い詰められながらも下がらない俺に、青鬼が不思議そうな顔をする。
俺は青鬼と戦りあいながら、魔弾を反射させていく。
計算というより、経験に基づいて、魔弾を望むように移動させていった。
百の魔弾を弾いては折り返す。幾重も幾重も。
「お前……!」
俺が何かを狙っていると気が付いて、青鬼は声を荒げた。
長刀を横に一閃する。だが、もう遅い。
俺はまとめた魔弾を直方体の障壁に押し込めた。
青鬼の長刀は腰を落として、やりすごす。
同時に俺は左腕を真横に伸ばす。
その先には障壁で作った直方体。自由に移動できる障壁の方だ。
「……!」
青鬼がちらりとそちらを見た。
直方体が一気に縮んだからだろう。
今は俺の腕くらいか。
……だが、この中には百の魔弾が圧縮されて詰まってる。
俺は左腕を青鬼へと向ける。
連動するように直方体が青鬼へと向かった。
それはまさしく砲塔のようだった。
俺はそっとその蓋を開ける。
真っ白な魔力の束が解放される。
至近距離から青鬼へと向かっていった。
「力技かよ……っ!」
今度は青鬼が毒づいた。
急いで両手の二刀を交差させる。
正確に受けたが、その衝撃は簡単には殺せない。
青鬼の体が受けた二刀と一緒に吹き飛んだ。
俺がしゃがんでいたから斜め上へと。
『ドワーフの大空洞』の天井付近へと強く叩きつけられる。
一度、大きく息を吐いたが、致命傷には程遠いだろう。
……だからこそ、青鬼は能力を使わずに受けたはずだしな。
「……威力はまずまず」
俺は小さく呟いた。実戦で使うのは初めてだ。
重要なのは魔力特性『弾性』には強度の制限がないということ。
どれだけ障壁が魔弾を弾いても、障壁が割れることは一度もなかったんだ。
とは言え、仕組みはアホほど簡単。
要は水鉄砲と大差ない。魔弾を圧縮して撃ち出すだけ。
魔弾を溜める必要はあるが、この状況ならもう十分。あとは補充してゆけば良い。俺は周囲の魔弾を見回した。
「それに……」
俺は先ほどの直方体を全部で四つ用意する。
さっきの一撃は不意を狙ったからああやったけど、事前に箱を用意しておけば後は中に撃てば良いだけだ。
「……やってくれるな」
「周りを見ろよ。人のことは言えないだろ」
周囲には長刀と脇差が浮き、魔弾が障壁に弾かれて飛び回る。
俺の周囲には直方体の障壁が浮いている。終いに青鬼は消えるのだ。
俺たちは互いに軽く鼻で笑ってしまった。
あまり意味のある言い合いには思えない。
今度は俺が踏み込んだ。
四つの直方体の一つには、すでに魔弾が溜まり始めている。
青鬼が迎え撃つ。しかし、今度は浅く。
俺の進行方向に長刀を置くように軽く払った。
右に小さく跳ぶと、さらに障壁を一つ足場にして、俺は跳び上がる。
そのまま例の直方体を蹴って折り返す。
青鬼の左上から右手のナイフを払う。
しかし、青鬼も軽く体を傾けて避けた。
俺は着地の勢いを殺さずに、右足で踏み切って反時計回りに振り返る。
ナイフは逆手に持ち直し、そのまま青鬼の首へと斬り返した。
だが、青鬼は予想していたのだろう。
余裕をもってしゃがみ込んで避ける。
「……は」
青鬼が楽しそうな声を出した。
俺は左腕を伸ばしていた。
その先には魔弾の溜まった直方体。
圧縮された魔弾が放たれる。
が、青鬼はその直前にぴょん、と跳んだ。
「馬鹿にしやがって……」
青鬼は俺の直方体の障壁に飛び乗って、こちらへと迫ってきやがった。
何食わぬ顔で長刀で俺の首を狙ってくる。
俺は咄嗟に大きく後ろに下がった。
どうにか長刀の間合いからは逃れる。
「!?」
そこに、宙に浮いていた青鬼の二刀が迫って来た。
数に制限はないのだろう。それこそ七年分だ。
……付け入る隙があるなら、魂の方だと思う。
……もっとも、それだって期待はできない。
「鬱陶しいな」
俺は直方体の一つに溜まった魔弾を開放する。
真っ直ぐに向かってきた長刀と脇差を薙ぎ払う。
今度は『ドワーフの大空洞』の岩壁が抉れていた。
……威力は十分。ただ、俺の魔力にも限りはある。
「さらに足場にも使うのか。まるで猿だな」
軽く息を切らしながらも、五体満足な俺を見て、青鬼が口を開いた。
その上に乗った自分を棚に上げて、軽口を叩く。
「……おい、桃太郎って知ってるか?」
ちょっとだけ思うところがあって、俺は前世の話を切り出した。
とある有名な御伽噺である。
「知らねぇよ、どうせ間抜けな猿の話だろ」
青鬼は面倒臭そうにひらひらと手を振る。
流石にある程度は話の流れも伝わるか。
「ああ、食い意地の張った間抜けな猿に鬼がやられるんだ――鬼退治の話だよ」
「……じゃあ、この世界と共通してるのは『間抜けな猿』の部分だけだな?」
青鬼は「猿が間抜けなのはどこも一緒か」なんて言いやがった。
俺が「いやいや、鬼が負けるのも定番だろ?」と返す。
これで、互いの手札は出揃ったのだろう。
あとは使うだけだ。
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俺は横に転んでやり過ごすと、すぐにその先に脇差が二本飛んできた。
さらに大きく飛び退くが、今度は青鬼が消えて長刀を払う。
俺はどうにか右手のナイフで抑えた。
「クソ鬼」
「……勉強しようかなと思って。先生?」
俺の暴言に青鬼が笑う。
青鬼は飛んできた脇差を掴みやがった。
俺を真似るように、そのまま脇差を斬り下ろす。
脇差目掛けて、俺は魔弾を放った。
そうやって、どうにか一通り防ぐ。
すると、今度は長刀と脇差の一斉掃射が放たれた。
「この……っ」
俺は毒づきながらも、魔弾を合わせて迎え撃つ。
何とか相殺して、さらに魔弾を追加した。
広場内のあちこちには長刀と脇差が浮いている。
さらに俺の魔弾も常に反射を繰り返していて、状況の把握が難しい。
「……そろそろじゃない?」
「ああ」
エルの言葉に、俺は小さく頷いた。
周囲を跳ね返る魔弾はすでに百を優に超えていそうだった。
青鬼の猛攻を凌いでゆく。長刀の刺突を避けて、脇差を弾く。
さらに迫る長刀と脇差を『青い幻』に従って、躱していった。
「……?」
追い詰められながらも下がらない俺に、青鬼が不思議そうな顔をする。
俺は青鬼と戦りあいながら、魔弾を反射させていく。
計算というより、経験に基づいて、魔弾を望むように移動させていった。
百の魔弾を弾いては折り返す。幾重も幾重も。
「お前……!」
俺が何かを狙っていると気が付いて、青鬼は声を荒げた。
長刀を横に一閃する。だが、もう遅い。
俺はまとめた魔弾を直方体の障壁に押し込めた。
青鬼の長刀は腰を落として、やりすごす。
同時に俺は左腕を真横に伸ばす。
その先には障壁で作った直方体。自由に移動できる障壁の方だ。
「……!」
青鬼がちらりとそちらを見た。
直方体が一気に縮んだからだろう。
今は俺の腕くらいか。
……だが、この中には百の魔弾が圧縮されて詰まってる。
俺は左腕を青鬼へと向ける。
連動するように直方体が青鬼へと向かった。
それはまさしく砲塔のようだった。
俺はそっとその蓋を開ける。
真っ白な魔力の束が解放される。
至近距離から青鬼へと向かっていった。
「力技かよ……っ!」
今度は青鬼が毒づいた。
急いで両手の二刀を交差させる。
正確に受けたが、その衝撃は簡単には殺せない。
青鬼の体が受けた二刀と一緒に吹き飛んだ。
俺がしゃがんでいたから斜め上へと。
『ドワーフの大空洞』の天井付近へと強く叩きつけられる。
一度、大きく息を吐いたが、致命傷には程遠いだろう。
……だからこそ、青鬼は能力を使わずに受けたはずだしな。
「……威力はまずまず」
俺は小さく呟いた。実戦で使うのは初めてだ。
重要なのは魔力特性『弾性』には強度の制限がないということ。
どれだけ障壁が魔弾を弾いても、障壁が割れることは一度もなかったんだ。
とは言え、仕組みはアホほど簡単。
要は水鉄砲と大差ない。魔弾を圧縮して撃ち出すだけ。
魔弾を溜める必要はあるが、この状況ならもう十分。あとは補充してゆけば良い。俺は周囲の魔弾を見回した。
「それに……」
俺は先ほどの直方体を全部で四つ用意する。
さっきの一撃は不意を狙ったからああやったけど、事前に箱を用意しておけば後は中に撃てば良いだけだ。
「……やってくれるな」
「周りを見ろよ。人のことは言えないだろ」
周囲には長刀と脇差が浮き、魔弾が障壁に弾かれて飛び回る。
俺の周囲には直方体の障壁が浮いている。終いに青鬼は消えるのだ。
俺たちは互いに軽く鼻で笑ってしまった。
あまり意味のある言い合いには思えない。
今度は俺が踏み込んだ。
四つの直方体の一つには、すでに魔弾が溜まり始めている。
青鬼が迎え撃つ。しかし、今度は浅く。
俺の進行方向に長刀を置くように軽く払った。
右に小さく跳ぶと、さらに障壁を一つ足場にして、俺は跳び上がる。
そのまま例の直方体を蹴って折り返す。
青鬼の左上から右手のナイフを払う。
しかし、青鬼も軽く体を傾けて避けた。
俺は着地の勢いを殺さずに、右足で踏み切って反時計回りに振り返る。
ナイフは逆手に持ち直し、そのまま青鬼の首へと斬り返した。
だが、青鬼は予想していたのだろう。
余裕をもってしゃがみ込んで避ける。
「……は」
青鬼が楽しそうな声を出した。
俺は左腕を伸ばしていた。
その先には魔弾の溜まった直方体。
圧縮された魔弾が放たれる。
が、青鬼はその直前にぴょん、と跳んだ。
「馬鹿にしやがって……」
青鬼は俺の直方体の障壁に飛び乗って、こちらへと迫ってきやがった。
何食わぬ顔で長刀で俺の首を狙ってくる。
俺は咄嗟に大きく後ろに下がった。
どうにか長刀の間合いからは逃れる。
「!?」
そこに、宙に浮いていた青鬼の二刀が迫って来た。
数に制限はないのだろう。それこそ七年分だ。
……付け入る隙があるなら、魂の方だと思う。
……もっとも、それだって期待はできない。
「鬱陶しいな」
俺は直方体の一つに溜まった魔弾を開放する。
真っ直ぐに向かってきた長刀と脇差を薙ぎ払う。
今度は『ドワーフの大空洞』の岩壁が抉れていた。
……威力は十分。ただ、俺の魔力にも限りはある。
「さらに足場にも使うのか。まるで猿だな」
軽く息を切らしながらも、五体満足な俺を見て、青鬼が口を開いた。
その上に乗った自分を棚に上げて、軽口を叩く。
「……おい、桃太郎って知ってるか?」
ちょっとだけ思うところがあって、俺は前世の話を切り出した。
とある有名な御伽噺である。
「知らねぇよ、どうせ間抜けな猿の話だろ」
青鬼は面倒臭そうにひらひらと手を振る。
流石にある程度は話の流れも伝わるか。
「ああ、食い意地の張った間抜けな猿に鬼がやられるんだ――鬼退治の話だよ」
「……じゃあ、この世界と共通してるのは『間抜けな猿』の部分だけだな?」
青鬼は「猿が間抜けなのはどこも一緒か」なんて言いやがった。
俺が「いやいや、鬼が負けるのも定番だろ?」と返す。
これで、互いの手札は出揃ったのだろう。
あとは使うだけだ。