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第四部 96話 存在の多重化

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 ギン、と青鬼の長刀をナイフで大きく弾く。
 さらに魔弾で追撃するが、こちらもあっさりと弾き飛ばされた。

 これで何度目だろうか。
 致命傷には至らないまま、また互いに退いては仕切り直す。

 広場の中では俺の魔弾が飛び交っている。
 青鬼と向き合いながら、さらに追加した。

「俺の寿命は残り短い。温存はとうの昔に止めたからな。
 ……ここで使い切る他にはないというわけだ」
 
 このままでは埒が明かないと考えたのだろう。
 青鬼は俺に語り掛けた。

 それはつまり、何かのカードを切るということだ。



「俺の能力はな、結局は辻褄合わせなんだよ。
 裏を返せば、存在の辻褄さえ合えば良いんだ」

 青鬼が続ける。確かに、黒鬼から聞いていた。
 青鬼の能力は寿命を使って、存在を対象にするのだと。

「最終的に元の場所に戻れば、どこへでも行ける」
「…………」

 だから元の場所に『戻る』まで、寿命を削る。
 この元の状態に『戻る』ことを『辻褄が合う』と言っているのか?

「だが『存在』という概念は何も『場所』だけを示すものではない」
「……?」

 どういうことだ? 場所だけではない?
 俺は理解できずにまじまじと青鬼を見つめてしまう。

「例えば『数』というのも『存在』を示すだろう?
 ……最終的に『数』の辻褄が合えば良い」

 そう言って、青鬼がにっと楽しそうに笑った。
 次の瞬間、広場には無数の長刀と脇差が浮かんでいた。

 青鬼の両手にも未だ握られている。
 突然『数』が増えたことになる。

「さあ、行くぞ」
「――ッ!」

 青鬼の姿が消える。
 未だに混乱したまま、俺はどうにか反応した。

 急いで振り返ると、青鬼の長刀をナイフで受ける。
 ぎし、と青鬼が強く押してきた。さらに脇差も乗せて鍔迫り合いとなる。

 腕力に大差はない。
 しかし――青鬼はやはり楽しそうに笑う。

「!?」

 青鬼の上に浮かんでいた長刀と脇差が一本ずつ飛んできた。
 真っ直ぐに俺の首へと向かっている。

「ああ、くそ!」
 
 俺はどうにか、青鬼との鍔迫り合いを弾く。
 さらに飛んできた長刀をナイフで落とし、脇差は魔弾を当てて防いだ。

 エルみたいな幻覚なんかじゃない。
 間違いなく、実物として増えている。

 一体、どういう理屈だ?
 数の辻褄が合えば良い……?

 青鬼がさらに踏み込んでくる。
 長刀と脇差の両方を大きく払う。

 俺は急いで後ろへと跳んだ。
 視界の端で動いたものを見て、背筋が凍る。

「……っ」

 大急ぎでその場にしゃがみ込んだ。
 すぐ真上……俺の首があった位置で三つの長刀が空振っていた。

「ち……相変わらずしぶといな」
 青鬼が毒づくが、俺には返す余裕はない。

 数の辻褄……要するに全体数ということか?
 だとすれば、どこかで減っているのか? ここで増えているのだから。
 
「……そうか」
「……相変わらず、察しは悪い癖に勘が良い」

 俺の様子に青鬼が吐き捨てるように言った。
 存在が減るというのなら、まさに覚えがある。

 青鬼は王都を襲撃してから七年間、存在を消していた。
 その間の目撃情報もないし、次に現れたのは『アッシュ・クレフ』を殺した時だ。辻褄が合えば良いというのなら、消えていた分増えれば良い。

 つまり、現在における存在の多重化。
 事前に存在を消しておくことで、辻褄を合わせれば良いと言っているのだ。

 当然、この能力にも自分の寿命を消費するのだろう。
 だから、無制限に出せるというわけでもないはずだ。

 とは言え、脅威であるのは間違いない。
 瞬間移動だけでも強すぎるが、増える方が強いに決まっている。

 ああ、そうか。
 このためにこいつは存在を消していたんだ。

 その期間がそのまま――存在のストックになるというわけか。
 
「ま、分かったところで意味がないけどな」
「…………」

 その通り。
 種が分かったところで、対策の立てようがない。

 元の場所に『戻る』みたいな隙もない。
 すでに代償は払い終えているのだ。



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 ギン、と青鬼の長刀をナイフで大きく弾く。
 さらに魔弾で追撃するが、こちらもあっさりと弾き飛ばされた。
 これで何度目だろうか。
 致命傷には至らないまま、また互いに退いては仕切り直す。
 広場の中では俺の魔弾が飛び交っている。
 青鬼と向き合いながら、さらに追加した。
「俺の寿命は残り短い。温存はとうの昔に止めたからな。
 ……ここで使い切る他にはないというわけだ」
 このままでは埒が明かないと考えたのだろう。
 青鬼は俺に語り掛けた。
 それはつまり、何かのカードを切るということだ。
「俺の能力はな、結局は辻褄合わせなんだよ。
 裏を返せば、存在の辻褄さえ合えば良いんだ」
 青鬼が続ける。確かに、黒鬼から聞いていた。
 青鬼の能力は寿命を使って、存在を対象にするのだと。
「最終的に元の場所に戻れば、どこへでも行ける」
「…………」
 だから元の場所に『戻る』まで、寿命を削る。
 この元の状態に『戻る』ことを『辻褄が合う』と言っているのか?
「だが『存在』という概念は何も『場所』だけを示すものではない」
「……?」
 どういうことだ? 場所だけではない?
 俺は理解できずにまじまじと青鬼を見つめてしまう。
「例えば『数』というのも『存在』を示すだろう?
 ……最終的に『数』の辻褄が合えば良い」
 そう言って、青鬼がにっと楽しそうに笑った。
 次の瞬間、広場には無数の長刀と脇差が浮かんでいた。
 青鬼の両手にも未だ握られている。
 突然『数』が増えたことになる。
「さあ、行くぞ」
「――ッ!」
 青鬼の姿が消える。
 未だに混乱したまま、俺はどうにか反応した。
 急いで振り返ると、青鬼の長刀をナイフで受ける。
 ぎし、と青鬼が強く押してきた。さらに脇差も乗せて鍔迫り合いとなる。
 腕力に大差はない。
 しかし――青鬼はやはり楽しそうに笑う。
「!?」
 青鬼の上に浮かんでいた長刀と脇差が一本ずつ飛んできた。
 真っ直ぐに俺の首へと向かっている。
「ああ、くそ!」
 俺はどうにか、青鬼との鍔迫り合いを弾く。
 さらに飛んできた長刀をナイフで落とし、脇差は魔弾を当てて防いだ。
 エルみたいな幻覚なんかじゃない。
 間違いなく、実物として増えている。
 一体、どういう理屈だ?
 数の辻褄が合えば良い……?
 青鬼がさらに踏み込んでくる。
 長刀と脇差の両方を大きく払う。
 俺は急いで後ろへと跳んだ。
 視界の端で動いたものを見て、背筋が凍る。
「……っ」
 大急ぎでその場にしゃがみ込んだ。
 すぐ真上……俺の首があった位置で三つの長刀が空振っていた。
「ち……相変わらずしぶといな」
 青鬼が毒づくが、俺には返す余裕はない。
 数の辻褄……要するに全体数ということか?
 だとすれば、どこかで減っているのか? ここで増えているのだから。
「……そうか」
「……相変わらず、察しは悪い癖に勘が良い」
 俺の様子に青鬼が吐き捨てるように言った。
 存在が減るというのなら、まさに覚えがある。
 青鬼は王都を襲撃してから七年間、存在を消していた。
 その間の目撃情報もないし、次に現れたのは『アッシュ・クレフ』を殺した時だ。辻褄が合えば良いというのなら、消えていた分増えれば良い。
 つまり、現在における存在の多重化。
 事前に存在を消しておくことで、辻褄を合わせれば良いと言っているのだ。
 当然、この能力にも自分の寿命を消費するのだろう。
 だから、無制限に出せるというわけでもないはずだ。
 とは言え、脅威であるのは間違いない。
 瞬間移動だけでも強すぎるが、増える方が強いに決まっている。
 ああ、そうか。
 このためにこいつは存在を消していたんだ。
 その期間がそのまま――存在のストックになるというわけか。
「ま、分かったところで意味がないけどな」
「…………」
 その通り。
 種が分かったところで、対策の立てようがない。
 元の場所に『戻る』みたいな隙もない。
 すでに代償は払い終えているのだ。