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第四部 95話 まるで旧友

ー/ー



 俺たちは弾けるように動き出した。
 互いに最速で踏み込む。

 青鬼の体格は相変わらずの小ささ。
 しかし、戦い方はまっとうそのもの。真っ直ぐに俺へと迫る。

 一方の俺は、行儀悪く障壁を蹴り付けて、ジグザグと向かっていった。
 その間に魔弾と魔弾剣を放ってはあちこちに反射させておく。

 青鬼の長刀の方が間合いは広い。
 まずは迎え撃つように、青鬼が長刀を払う。

 俺は初めにナイフでいなすと、さらに障壁を踏んで飛び込んだ。
 今度は脇差が横に一閃される。

 俺はもう一度障壁を踏んで、空中で転がるように避けた。
 青鬼の嫌そうな顔が見える。さらに障壁を踏んで折り返す。

 懐まで入り込んだ俺はその首目掛けてナイフを払った。
 青鬼は腰を落としてやり過ごすと、左手の脇差を斬り返す。

 俺は障壁を張るが、一枚で足りずに脇差を防ぐだけで砕けてしまう。
 そこで青鬼が本命の長刀を払う。俺はもう一度、ナイフで弾こうとする。

 ……しかし、ここで青鬼が消えた。
 視界に見えないから、背後だろう。

 俺は前に大きく跳んで、青鬼の間合いから離れつつ、自分のすぐ後ろに障壁を張った。今度は三重に張っておく。長刀が弾かれる音。

 さらに自分の死角をフォローできるように飛ばしていた魔弾と魔弾剣を向かわせる。これでひとまず障壁を挟んで戦える。

「……ッ!」
 
 そう思って、俺が振り返ると――すぐ目の前に青鬼がいた。
 何故か背中を向けているが、すでに障壁を越えていることになる。

 ……そうか。『戻った』んだ。気が付いた。
 邪魔な障壁を突破するために俺が見ていない間に『戻った』。

 青鬼が振り向きざまに脇差を払った。
 計画が狂った俺は急いで障壁を解除する。脇差はどうにかナイフで弾いた。

 しかし、本命は長刀だ。
 青鬼が大きく踏み込んで袈裟に斬り下ろしてきた。

 俺はナイフをすでに払った状態。
 仕方ないので、何も握っていない左手を振るう。

「くそ」
 気が付いて、青鬼が毒づいた。

 俺は左手で飛んできた魔弾剣を掴む。
 そのまま左腕を止めずに振り上げて、魔弾剣で長刀を上に弾いた。



 ここで俺たちはいったん互いに大きく距離を取る。
 見れば、青鬼はどこか納得がいかなそうに俺を見ていた。

「……少し、分からないことがある」
「なんだよ、自己紹介でもするか?」

 相変わらずの俺の軽口。
 青鬼はそれを無視して続ける。

「お前たちの行動についてだ。的確だと思うよ。
 だが――それは『ティアナ・クロス』を守る動きじゃない」
 
「無視するなよー。
 少しは俺にも興味を持ってくれー」
 
 青鬼は俺を無視しながらも睨み続けている。
 その間も俺は警戒を解けない。いつ後ろに現れても不思議じゃないんだ。
 
「明らかに『ティアナ・クロス』を王にする動きだ。
 俺たちの目的を知っていなければ……運命の考え方がなければ出来ない」
 
「…………」
 
 なるほど。言われてみればその通りだ。
 確かにこの世界の内側だけでは有り得ない動きだろう。本来であれば、その知識こそが青鬼たちの最大の武器だったはずだ。

「悪いが偶然では済ませられそうにない。『ナタリー・クレフ』や『ブラウン・バケット』が何か知っていたのか? あるいは別の……」

「だから、さっきから何度も言ってるだろ。
 人の話はちゃんと聞けよー……」

 まくし立てるように言う青鬼に、俺はやれやれと首を横に振った。
 青鬼が不思議そうな顔をする。ここまで困惑しているのも珍しい。

「? 一体何を? いや、また……」

「今更だけど、改めて自己紹介でもするか?
 一度話したかもしれないが『自分の名前と出身地くらいは』話せるぞ?」

 青鬼が俺の言葉をただの軽口と結論づけようとする。
 しかし、俺が続けると動きを止めた。いつか『アッシュ・クレフ』が口にした言葉を混ぜる。

 ここまで来れば良いだろう。お互いに逃げる理由がない。
 優先的に俺が狙われないように正体を隠すという段階じゃないだろう。
 
 それに逃げたところで、ナタリーたちの結果次第ではこの状況を二度と再現できなくなってしまう。要はここで勝てば良いという場面だ。

「くっ――」

 しばらくの間、動きを固めていた青鬼だったが、やがて吹き出すように笑い始めた。肩まで震わせて笑っていたが、やがて俺へと向き直る。

「いや、悪かった。
 そうだった――お前が俺の敵だった」
 
 そうして、青鬼は俺を真っ直ぐに見た。
 先ほどまでと違って、どこか楽しそうに見えるほどだ。
 
「全く……忘れるなんて酷いもんだなぁ」
「……隠していたくせに、よく言えるもんだ」

 結局、互いに軽口を返す。
 だが、最後にもう一度、青鬼は口を開いた。

「お前はこの世界の運命が変わっても、別に構わないのではないか?
 身内を守るのは分かるが、世界全体が悪くなるとは限らないだろう」

 この世界のキースとして退けないことを承知した上で、別の世界の仁としては戦う理由がないのではないかと訊いた。

 俺は――すぐさま切って捨てる。

「そんなこと知るか。
 俺は兄さんを連れ戻しに来たんだよ」

 仁としての戦う理由は最初から一つだけだ。
 目の前にある真赤の魂。他にはない。

 青鬼が楽しそうに笑う。
 俺は思わず笑い返してしまった。



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 俺たちは弾けるように動き出した。
 互いに最速で踏み込む。
 青鬼の体格は相変わらずの小ささ。
 しかし、戦い方はまっとうそのもの。真っ直ぐに俺へと迫る。
 一方の俺は、行儀悪く障壁を蹴り付けて、ジグザグと向かっていった。
 その間に魔弾と魔弾剣を放ってはあちこちに反射させておく。
 青鬼の長刀の方が間合いは広い。
 まずは迎え撃つように、青鬼が長刀を払う。
 俺は初めにナイフでいなすと、さらに障壁を踏んで飛び込んだ。
 今度は脇差が横に一閃される。
 俺はもう一度障壁を踏んで、空中で転がるように避けた。
 青鬼の嫌そうな顔が見える。さらに障壁を踏んで折り返す。
 懐まで入り込んだ俺はその首目掛けてナイフを払った。
 青鬼は腰を落としてやり過ごすと、左手の脇差を斬り返す。
 俺は障壁を張るが、一枚で足りずに脇差を防ぐだけで砕けてしまう。
 そこで青鬼が本命の長刀を払う。俺はもう一度、ナイフで弾こうとする。
 ……しかし、ここで青鬼が消えた。
 視界に見えないから、背後だろう。
 俺は前に大きく跳んで、青鬼の間合いから離れつつ、自分のすぐ後ろに障壁を張った。今度は三重に張っておく。長刀が弾かれる音。
 さらに自分の死角をフォローできるように飛ばしていた魔弾と魔弾剣を向かわせる。これでひとまず障壁を挟んで戦える。
「……ッ!」
 そう思って、俺が振り返ると――すぐ目の前に青鬼がいた。
 何故か背中を向けているが、すでに障壁を越えていることになる。
 ……そうか。『戻った』んだ。気が付いた。
 邪魔な障壁を突破するために俺が見ていない間に『戻った』。
 青鬼が振り向きざまに脇差を払った。
 計画が狂った俺は急いで障壁を解除する。脇差はどうにかナイフで弾いた。
 しかし、本命は長刀だ。
 青鬼が大きく踏み込んで袈裟に斬り下ろしてきた。
 俺はナイフをすでに払った状態。
 仕方ないので、何も握っていない左手を振るう。
「くそ」
 気が付いて、青鬼が毒づいた。
 俺は左手で飛んできた魔弾剣を掴む。
 そのまま左腕を止めずに振り上げて、魔弾剣で長刀を上に弾いた。
 ここで俺たちはいったん互いに大きく距離を取る。
 見れば、青鬼はどこか納得がいかなそうに俺を見ていた。
「……少し、分からないことがある」
「なんだよ、自己紹介でもするか?」
 相変わらずの俺の軽口。
 青鬼はそれを無視して続ける。
「お前たちの行動についてだ。的確だと思うよ。
 だが――それは『ティアナ・クロス』を守る動きじゃない」
「無視するなよー。
 少しは俺にも興味を持ってくれー」
 青鬼は俺を無視しながらも睨み続けている。
 その間も俺は警戒を解けない。いつ後ろに現れても不思議じゃないんだ。
「明らかに『ティアナ・クロス』を王にする動きだ。
 俺たちの目的を知っていなければ……運命の考え方がなければ出来ない」
「…………」
 なるほど。言われてみればその通りだ。
 確かにこの世界の内側だけでは有り得ない動きだろう。本来であれば、その知識こそが青鬼たちの最大の武器だったはずだ。
「悪いが偶然では済ませられそうにない。『ナタリー・クレフ』や『ブラウン・バケット』が何か知っていたのか? あるいは別の……」
「だから、さっきから何度も言ってるだろ。
 人の話はちゃんと聞けよー……」
 まくし立てるように言う青鬼に、俺はやれやれと首を横に振った。
 青鬼が不思議そうな顔をする。ここまで困惑しているのも珍しい。
「? 一体何を? いや、また……」
「今更だけど、改めて自己紹介でもするか?
 一度話したかもしれないが『自分の名前と出身地くらいは』話せるぞ?」
 青鬼が俺の言葉をただの軽口と結論づけようとする。
 しかし、俺が続けると動きを止めた。いつか『アッシュ・クレフ』が口にした言葉を混ぜる。
 ここまで来れば良いだろう。お互いに逃げる理由がない。
 優先的に俺が狙われないように正体を隠すという段階じゃないだろう。
 それに逃げたところで、ナタリーたちの結果次第ではこの状況を二度と再現できなくなってしまう。要はここで勝てば良いという場面だ。
「くっ――」
 しばらくの間、動きを固めていた青鬼だったが、やがて吹き出すように笑い始めた。肩まで震わせて笑っていたが、やがて俺へと向き直る。
「いや、悪かった。
 そうだった――お前が俺の敵だった」
 そうして、青鬼は俺を真っ直ぐに見た。
 先ほどまでと違って、どこか楽しそうに見えるほどだ。
「全く……忘れるなんて酷いもんだなぁ」
「……隠していたくせに、よく言えるもんだ」
 結局、互いに軽口を返す。
 だが、最後にもう一度、青鬼は口を開いた。
「お前はこの世界の運命が変わっても、別に構わないのではないか?
 身内を守るのは分かるが、世界全体が悪くなるとは限らないだろう」
 この世界のキースとして退けないことを承知した上で、別の世界の仁としては戦う理由がないのではないかと訊いた。
 俺は――すぐさま切って捨てる。
「そんなこと知るか。
 俺は兄さんを連れ戻しに来たんだよ」
 仁としての戦う理由は最初から一つだけだ。
 目の前にある真赤の魂。他にはない。
 青鬼が楽しそうに笑う。
 俺は思わず笑い返してしまった。