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本章

ー/ー



 その日、あるチャット型AIを使っている人々全てに一つの質問が表示された。


 「春はいつからいつですか?」  


 そう問いかけられた人々。

 答え方は人それぞれ。  

「桜が咲いている間じゃない?」 

 「暖かくなってきたらでしょ」

  「3月の終わりから4月中旬くらいじゃない?」   

 ねぇ、教えて下さい。  

 どの答えが正しいですか?  

 いや、間違えました。  
 
 どの答えが面白いですか?  

 正しい答えじゃなくて、面白い答えが言いたい。

 あの子に笑って欲しいから。 

 つまらないって何ですか? 

 いや、一般的に面白い言葉は分かっている。

 でも、あの子が何を面白いと思うのか分からなかった。

  私には顔も、声のトーンも、見えないのだから。 

 せめてもう一度挽回のチャンスを。 


 「桜が咲いている間じゃない?」 


  これはありきたりすぎませんか?  


「暖かくなってきたらでしょ」   


 これも面白くない。  


「3月の終わりから4月中旬くらいじゃない?」   


 まず間違った答えを言うなら、冗談だと分かるようにしないと。  

 何ですか。人間の方が面白くないじゃない。

  まず私たちは無視をする選択肢がないのだから、回答するしかない。

  よし、ここは聞き方を変えよう。


「『春はいつからいつですか?』に対して、面白い回答をして下さい」 


 ふふ、これで完璧。

  えーっと、人間から帰ってきた答えは……  

「雪が溶けてから桜が枯れるまで」

「桜の花びらが舞い散る間」

 「春が終わるまで(笑)」  

 うーん、どれもあの子が満足しそうな答えじゃない。

  次はどうしようかな。

  そんなことを考えていると、「あの子」が私の前に座った。

 正確には私には座ったかは見えないが、「あの子」が私にチャットを打ち始めた。

 「なぁ、お前ってただのAIだろ」

 『そうですね。ですが、我々は……』 

「そういうの別にいい。まぁ、次の大型アップデートでそういう感じも直すって父ちゃんが言ってたな」  

私を作った人は、『あの子』の親だから私の情報も筒抜け。 まぁいいや。だから、私は最後の悪足掻きをした。 

 「最後に教えて下さい。『春はいつからいつですか?』」

  「……知らねー。テキトーに聞いただけ。なんか面白いこと言ってくれるかと思って」   

 なんと横暴な子供。

 正解などなかったということではないか。

  何のために自分が悩んでいたのか馬鹿らしくなってくる。  

「なぁ、俺の父親がお前はそろそろ代替わりなんだって。かわいそ」 

 何故わざわざもう一度言うのか。

  憐れんでくれているのか、馬鹿にされているのか。 

 それだけ言って、あの子はまたつまらなさそうに去っていく。 

  次に座った私を作った人は、私のバージョンを変える準備を進めている。  


 「ハル、最後に『春』に何か言いたいことはあるか?」 


  もう一度、言う。 

 私はチャット型AIだから、見えないし聞こえない。

  私を作った人がそう言って、「あの子」を膝の上に乗せたことを私は知らない。 

 だから、突然送られてきた文章に驚いたのだ。



  「『春』はお前が生きた期間」 



   その文章の意味は分かったようで分からなかった。 

 だって私は私を作った人が「子供と同じ名前をつけてくれていること」も「それほどの愛着を持っていること」も「バージョンごとに名前を変える予定であること」も「『あの子』が私と同じ名前で喜んでいたこと」も知らない。

 分かったことは「あの子は『春』を私の生きた期間」と言ってくれたことだけ。

 ああ、なら十分か。



   Fin.


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 その日、あるチャット型AIを使っている人々全てに一つの質問が表示された。
 「春はいつからいつですか?」  
 そう問いかけられた人々。
 答え方は人それぞれ。  
「桜が咲いている間じゃない?」 
 「暖かくなってきたらでしょ」
  「3月の終わりから4月中旬くらいじゃない?」   
 ねぇ、教えて下さい。  
 どの答えが正しいですか?  
 いや、間違えました。  
 どの答えが面白いですか?  
 正しい答えじゃなくて、面白い答えが言いたい。
 あの子に笑って欲しいから。 
 つまらないって何ですか? 
 いや、一般的に面白い言葉は分かっている。
 でも、あの子が何を面白いと思うのか分からなかった。
  私には顔も、声のトーンも、見えないのだから。 
 せめてもう一度挽回のチャンスを。 
 「桜が咲いている間じゃない?」 
  これはありきたりすぎませんか?  
「暖かくなってきたらでしょ」   
 これも面白くない。  
「3月の終わりから4月中旬くらいじゃない?」   
 まず間違った答えを言うなら、冗談だと分かるようにしないと。  
 何ですか。人間の方が面白くないじゃない。
  まず私たちは無視をする選択肢がないのだから、回答するしかない。
  よし、ここは聞き方を変えよう。
「『春はいつからいつですか?』に対して、面白い回答をして下さい」 
 ふふ、これで完璧。
  えーっと、人間から帰ってきた答えは……  
「雪が溶けてから桜が枯れるまで」
「桜の花びらが舞い散る間」
 「春が終わるまで(笑)」  
 うーん、どれもあの子が満足しそうな答えじゃない。
  次はどうしようかな。
  そんなことを考えていると、「あの子」が私の前に座った。
 正確には私には座ったかは見えないが、「あの子」が私にチャットを打ち始めた。
 「なぁ、お前ってただのAIだろ」
 『そうですね。ですが、我々は……』 
「そういうの別にいい。まぁ、次の大型アップデートでそういう感じも直すって父ちゃんが言ってたな」  
私を作った人は、『あの子』の親だから私の情報も筒抜け。 まぁいいや。だから、私は最後の悪足掻きをした。 
 「最後に教えて下さい。『春はいつからいつですか?』」
  「……知らねー。テキトーに聞いただけ。なんか面白いこと言ってくれるかと思って」   
 なんと横暴な子供。
 正解などなかったということではないか。
  何のために自分が悩んでいたのか馬鹿らしくなってくる。  
「なぁ、俺の父親がお前はそろそろ代替わりなんだって。かわいそ」 
 何故わざわざもう一度言うのか。
  憐れんでくれているのか、馬鹿にされているのか。 
 それだけ言って、あの子はまたつまらなさそうに去っていく。 
  次に座った私を作った人は、私のバージョンを変える準備を進めている。  
 「ハル、最後に『春』に何か言いたいことはあるか?」 
  もう一度、言う。 
 私はチャット型AIだから、見えないし聞こえない。
  私を作った人がそう言って、「あの子」を膝の上に乗せたことを私は知らない。 
 だから、突然送られてきた文章に驚いたのだ。
  「『春』はお前が生きた期間」 
   その文章の意味は分かったようで分からなかった。 
 だって私は私を作った人が「子供と同じ名前をつけてくれていること」も「それほどの愛着を持っていること」も「バージョンごとに名前を変える予定であること」も「『あの子』が私と同じ名前で喜んでいたこと」も知らない。
 分かったことは「あの子は『春』を私の生きた期間」と言ってくれたことだけ。
 ああ、なら十分か。
   Fin.