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第四部 92話 複製

ー/ー



「……来た」
「あまり持たないぞ!?」

 セシルとグレイが声を上げる。
 城から来た兵士は四人程に見える。

 あくまで様子見に来たのだろう。
 しかし、すぐに追加の増援が来るのは間違いない。

 ナタリーは頭を切り替える。
 どうにか今の手札で勝率の高い手順を再構築し始めた。



「アリス、行って。
 無茶を言うようだけど、二人を押さえてほしい」

 ほんの少しの間、考え込んでいたナタリーは、顔を上げるとそう言った。
 アリスは思わずちらりと横を向く。

「ゼノと黒鬼を? ……本当に無茶だね」
「あはは、長時間は無理だよ?」

 ナタリーの呟きに苦笑すると、アリスは黒鬼へと向かう。
 その間も加奈はゼノの襲撃に備えている。

「ほう……?」

 黒鬼が意外そうな声を出す。
 あくまで魔術師だと思っていたのだろう。

「風よ、吹き飛ばせ」

 アリスがさらに速度を上げる。
 黒鬼は大斧で地面から槍を出した。

「大地よ、持ち上げろ」

 加奈の魔法で、石槍を避けてアリスは宙に浮いた。
 空中から真下へと両手を向けた。

「炎よ、焼き払え」

 アリスの魔法を黒鬼は大斧の刃で防ぐ。
 しかし、まだ止まらない。

「魔弾よ、貫け」
「……む」

 今度は加奈が斜めに撃ち下ろすように魔弾を放つ。
 黒鬼は大斧を上空へと払った。

「氷よ、突き刺せ」
「……!」

 着地と同時にアリスは左腕を黒鬼へと伸ばして、今度は氷柱を飛ばした。
 もう一度、大斧の刃で弾く。上空から着地までに、合計三度の魔法行使。どこか侮っていた、黒鬼の目の色が変わる。

「――――!」
「大地よ、防げ」

 ゼノの言葉に合わせて、くるりと右腕をそちらに伸ばす。
 両手をゼノと黒鬼へとそれぞれに広げた状態。ゼノの魔弾は地面からせり上がった加奈の壁が防いでみせた。

「大地よ、防げ」

 それでも、ゼノの魔弾は強力で防ぎ切れない。
 きちんと把握しているからこそ、左腕も一度はゼノへと向けて、アリスは追加で壁を補強する。

 そうして、改めて黒鬼へと向き直る。
 長くは持たない。魔力も体力も。

 ――ミアに期待かな。
 ――あはは、相変わらず人任せだ。



「おい! もうあまり持たないぞ!?」

 グレイが辛そうな声を上げる。
 セシルの補助があっても、限界は近いだろう。

 しかし、ミアは防戦一方となっていた。
 あまりにも身体能力に差が有りすぎる。

 彼女は『フレア・サリンジャー』という人物を詳しくは知らない。
 連合の客人という程度の知識だ。だが、心底、恐ろしく思う。

 こちらが踏み込めば、受け流すように引く。
 逆にこちらが引けば、引いた分だけ押す。

 間合いの把握と攻撃の鋭さが尋常じゃない、と。
 加えて、一撃一撃が致命傷だ。

 それをどうにかミアは凌いでいるのだ。
 もちろん、スキルは駆使している。

 スキル『引力』『斥力』で妨害しているにも関わらず、避けることが精一杯だ。

 加えて、所々で交えてくる風の連携も厄介だ。
 元々、白鬼は外見しか複製できないという話だった。

 ――いや、その前提は違うか。
 ――そういう意味では『白鬼』の能力を見誤ってたっすね。

 ただ、外見を真似るだけではこうはならない。
 記憶や経験はともかく、考え方や対応の速度まで別人としか思えない。

 ――複製できるのは外見だけじゃない。
 ――きっと、知能や反射神経も複製してる。

 ミアが喉元を過ぎる刀の切っ先をやり過ごす。
 さらに右手を伸ばすが、やはり避けられる。

 ――記憶や経験といった、蓄積するものは複製できない。
 ――また、スキルや魔法も複製はできない。

 伸ばした腕を狙われて、急いで引いた。
『斥力』でどうにか軌道を逸らす。

 ――でも、生まれついてのものなら複製できる。
 ――つまり、物理的には完全に複製している。

 記憶や経験は白鬼のままだが、脳も骨も神経も血液すらも複製しているのだと、ミアは結論づけた。そうして、一つの結論に達した。

 ――そうか。だから、ナタリーを複製しようとしたっすね?
 ――要はナタリーの頭が欲しかった。

「あの時、止めて良かった。
 弟子の偽物なんて要らないっす」

「…………」

 白鬼は答えない。
 軽口に乗るタイプでもないのだろう。

 ――うん。
 ――このままじゃ勝てないっすね。

 一つ頷いて、ミアは白鬼の首へと左手を伸ばす。
 今までとは打って変わって、直線的な動き。

 それを隙と受け取って、白鬼は刀を振るう。
 ミアの肘へと刃を返す。

 それを……ミアは笑って受け入れた。

「――ッ!?」

 驚いたのはむしろ白鬼だ。
 宙を舞うミアの左腕を不思議そうに眺めている。

「いや、これで……」

 それでも白鬼は笑みを浮かべる。
 意図は不明だが、勝敗は決したと考えたのだろう。

「……やっと、捕まえた」

 しかし、同様の笑みをミアは浮かべていた。
 ぽとり、と落ちる自分の左腕に目もくれない。

「……?」

 するり、と白鬼の手から刀が落ちる。
 そのまま――宙に浮いた。何かに『引かれた』ように。

 彼女は刀を奪うにはこうする他にないと考えた。
 触れるためには、一度斬られる必要があったというだけ。

 ひゅんひゅん、と刀はミアの周囲を回る。
 左腕を失ったミアと、刀を失った白鬼が向かい合った。

 刀がミアの周囲を公転しながら幾度となく白鬼を斬りつけていく。
 白鬼は大きく後ろに下がった。紙一重で刀の切っ先を避け続ける。

 何度も何度も避けていく。それは難しくはない。
 フレアの身体能力ならば造作もないと言って良いだろう。

「――ッ!」

 何回転目だったのか、避けた刀が一気に遠ざかる。
 また何かに『引かれた』ように。

 代わりにミアが飛び込んでくる。普段の飄々とした姿とは似ても似つかない。
 左腕から絶え間なく血を零しながら、それでも笑みすら浮かべていた。

 そこで白鬼は凍り付いた。
 ミアは残った右手を伸ばしてくる。
 
 避ける術はない。迎え撃つ術もない。化けたところで意味はないだろう。
 懐から武器を出す暇さえ与えていないはずだ。

 そして、ミアの右手が白鬼の左手首を掴んだ。
 能力の標的が白鬼に戻る。

 ミアは白鬼に背を向けると、背負い込むように右腕を大きく下へ払った。
 同時にスキル『斥力』を最大出力。途方もない遠心力だが、右手だけは離さないように、ミアは歯を強く噛み締める。

 そして――ずしん、と。
 まるで森全体が揺れるような音と一緒に、白鬼は地面へと叩きつけられた。

「が、は……っ」
「……ふう」

 背中を強打して呼吸すらままならない白鬼。
 対するミアはゆっくりと立ち上がった。

 横たわる白鬼の横に立つと、右腕を上に伸ばす。
 そして、ぱし、と上に飛ばしておいた『刀』を掴んだ。

 そのまま、真下へと一閃。
 白鬼の首を切り落とした。

「はぁ……きついっすねぇ……」
 そう言って、ミアは膝を突いて蹲った。



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次のエピソードへ進む 第四部 93話 本当のお別れ


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「……来た」
「あまり持たないぞ!?」
 セシルとグレイが声を上げる。
 城から来た兵士は四人程に見える。
 あくまで様子見に来たのだろう。
 しかし、すぐに追加の増援が来るのは間違いない。
 ナタリーは頭を切り替える。
 どうにか今の手札で勝率の高い手順を再構築し始めた。
「アリス、行って。
 無茶を言うようだけど、二人を押さえてほしい」
 ほんの少しの間、考え込んでいたナタリーは、顔を上げるとそう言った。
 アリスは思わずちらりと横を向く。
「ゼノと黒鬼を? ……本当に無茶だね」
「あはは、長時間は無理だよ?」
 ナタリーの呟きに苦笑すると、アリスは黒鬼へと向かう。
 その間も加奈はゼノの襲撃に備えている。
「ほう……?」
 黒鬼が意外そうな声を出す。
 あくまで魔術師だと思っていたのだろう。
「風よ、吹き飛ばせ」
 アリスがさらに速度を上げる。
 黒鬼は大斧で地面から槍を出した。
「大地よ、持ち上げろ」
 加奈の魔法で、石槍を避けてアリスは宙に浮いた。
 空中から真下へと両手を向けた。
「炎よ、焼き払え」
 アリスの魔法を黒鬼は大斧の刃で防ぐ。
 しかし、まだ止まらない。
「魔弾よ、貫け」
「……む」
 今度は加奈が斜めに撃ち下ろすように魔弾を放つ。
 黒鬼は大斧を上空へと払った。
「氷よ、突き刺せ」
「……!」
 着地と同時にアリスは左腕を黒鬼へと伸ばして、今度は氷柱を飛ばした。
 もう一度、大斧の刃で弾く。上空から着地までに、合計三度の魔法行使。どこか侮っていた、黒鬼の目の色が変わる。
「――――!」
「大地よ、防げ」
 ゼノの言葉に合わせて、くるりと右腕をそちらに伸ばす。
 両手をゼノと黒鬼へとそれぞれに広げた状態。ゼノの魔弾は地面からせり上がった加奈の壁が防いでみせた。
「大地よ、防げ」
 それでも、ゼノの魔弾は強力で防ぎ切れない。
 きちんと把握しているからこそ、左腕も一度はゼノへと向けて、アリスは追加で壁を補強する。
 そうして、改めて黒鬼へと向き直る。
 長くは持たない。魔力も体力も。
 ――ミアに期待かな。
 ――あはは、相変わらず人任せだ。
「おい! もうあまり持たないぞ!?」
 グレイが辛そうな声を上げる。
 セシルの補助があっても、限界は近いだろう。
 しかし、ミアは防戦一方となっていた。
 あまりにも身体能力に差が有りすぎる。
 彼女は『フレア・サリンジャー』という人物を詳しくは知らない。
 連合の客人という程度の知識だ。だが、心底、恐ろしく思う。
 こちらが踏み込めば、受け流すように引く。
 逆にこちらが引けば、引いた分だけ押す。
 間合いの把握と攻撃の鋭さが尋常じゃない、と。
 加えて、一撃一撃が致命傷だ。
 それをどうにかミアは凌いでいるのだ。
 もちろん、スキルは駆使している。
 スキル『引力』『斥力』で妨害しているにも関わらず、避けることが精一杯だ。
 加えて、所々で交えてくる風の連携も厄介だ。
 元々、白鬼は外見しか複製できないという話だった。
 ――いや、その前提は違うか。
 ――そういう意味では『白鬼』の能力を見誤ってたっすね。
 ただ、外見を真似るだけではこうはならない。
 記憶や経験はともかく、考え方や対応の速度まで別人としか思えない。
 ――複製できるのは外見だけじゃない。
 ――きっと、知能や反射神経も複製してる。
 ミアが喉元を過ぎる刀の切っ先をやり過ごす。
 さらに右手を伸ばすが、やはり避けられる。
 ――記憶や経験といった、蓄積するものは複製できない。
 ――また、スキルや魔法も複製はできない。
 伸ばした腕を狙われて、急いで引いた。
『斥力』でどうにか軌道を逸らす。
 ――でも、生まれついてのものなら複製できる。
 ――つまり、物理的には完全に複製している。
 記憶や経験は白鬼のままだが、脳も骨も神経も血液すらも複製しているのだと、ミアは結論づけた。そうして、一つの結論に達した。
 ――そうか。だから、ナタリーを複製しようとしたっすね?
 ――要はナタリーの頭が欲しかった。
「あの時、止めて良かった。
 弟子の偽物なんて要らないっす」
「…………」
 白鬼は答えない。
 軽口に乗るタイプでもないのだろう。
 ――うん。
 ――このままじゃ勝てないっすね。
 一つ頷いて、ミアは白鬼の首へと左手を伸ばす。
 今までとは打って変わって、直線的な動き。
 それを隙と受け取って、白鬼は刀を振るう。
 ミアの肘へと刃を返す。
 それを……ミアは笑って受け入れた。
「――ッ!?」
 驚いたのはむしろ白鬼だ。
 宙を舞うミアの左腕を不思議そうに眺めている。
「いや、これで……」
 それでも白鬼は笑みを浮かべる。
 意図は不明だが、勝敗は決したと考えたのだろう。
「……やっと、捕まえた」
 しかし、同様の笑みをミアは浮かべていた。
 ぽとり、と落ちる自分の左腕に目もくれない。
「……?」
 するり、と白鬼の手から刀が落ちる。
 そのまま――宙に浮いた。何かに『引かれた』ように。
 彼女は刀を奪うにはこうする他にないと考えた。
 触れるためには、一度斬られる必要があったというだけ。
 ひゅんひゅん、と刀はミアの周囲を回る。
 左腕を失ったミアと、刀を失った白鬼が向かい合った。
 刀がミアの周囲を公転しながら幾度となく白鬼を斬りつけていく。
 白鬼は大きく後ろに下がった。紙一重で刀の切っ先を避け続ける。
 何度も何度も避けていく。それは難しくはない。
 フレアの身体能力ならば造作もないと言って良いだろう。
「――ッ!」
 何回転目だったのか、避けた刀が一気に遠ざかる。
 また何かに『引かれた』ように。
 代わりにミアが飛び込んでくる。普段の飄々とした姿とは似ても似つかない。
 左腕から絶え間なく血を零しながら、それでも笑みすら浮かべていた。
 そこで白鬼は凍り付いた。
 ミアは残った右手を伸ばしてくる。
 避ける術はない。迎え撃つ術もない。化けたところで意味はないだろう。
 懐から武器を出す暇さえ与えていないはずだ。
 そして、ミアの右手が白鬼の左手首を掴んだ。
 能力の標的が白鬼に戻る。
 ミアは白鬼に背を向けると、背負い込むように右腕を大きく下へ払った。
 同時にスキル『斥力』を最大出力。途方もない遠心力だが、右手だけは離さないように、ミアは歯を強く噛み締める。
 そして――ずしん、と。
 まるで森全体が揺れるような音と一緒に、白鬼は地面へと叩きつけられた。
「が、は……っ」
「……ふう」
 背中を強打して呼吸すらままならない白鬼。
 対するミアはゆっくりと立ち上がった。
 横たわる白鬼の横に立つと、右腕を上に伸ばす。
 そして、ぱし、と上に飛ばしておいた『刀』を掴んだ。
 そのまま、真下へと一閃。
 白鬼の首を切り落とした。
「はぁ……きついっすねぇ……」
 そう言って、ミアは膝を突いて蹲った。