第四部 90話 白と黒
ー/ー
黒鬼に受け止められたので、俺は一度ナタリーの方へと跳んだ。
同時にミアも白鬼を突き飛ばす。そのまま俺の隣に並んだ。
「……どうしてここにいる?」
ゼノが唸るように俺たちを見る。
王国の王都にいるはず……というより、この場所が割れるはずないという意味だろう。
「白じゃな?」
「あの時、ですか」
黒鬼の言葉に白鬼はミアを睨みつけた。
対するミアは肩を竦めて見せる。
そして俺に「何で怒ってるっすか?」なんて囁いた。
俺は「きっとお腹が減ってるんだよ」と返しておく。
「……やってくれますね」
「まあ、落ち着け」
白鬼が踏み込むより先に、黒鬼が制した。
そして、二人並んでゼノを庇うように立つ。
俺とミアが向かい合う。
背後にはナタリーとアリスがいる。
グレイとセシルはティアナの護衛と周囲の警戒だ。
城から増援が来てもおかしくない。
目で合図して、俺とミアは踏み込んだ。
俺が黒鬼、ミアは白鬼だ。
黒鬼の武器は大斧。
柄が長く、槍のような印象も受ける。
黒鬼の能力はまだ不明だ。警戒するべきだろう。
しかし、攻めなければ情報も手に入らない。
四方八方へ魔弾と魔弾剣を飛ばす。
俺自身はナイフを構えて走った。
「……ふむ」
黒鬼はゆったりとした動作で左右へと目を向ける。
周囲を飛び交う魔弾を眺めて、最後に俺を見た。
俺は警戒しながらも、黒鬼の脇を抜けようとする。
狙うのはその首の左側。同時に全ての魔弾が黒鬼へと向かう。
『青い幻』が描くのは大斧で防ぐか、あるいは後ろに退がるか。
……しかし、黒鬼は動かなかった。
「ほれ」
ただ、静かにトン、と大斧の石突きで地面を軽く叩く。
「!?」
俺は驚いて小さく声を上げた。
一瞬で石の槍がいくつも迫っていた。
さらに黒鬼の周囲には壁がせり上がっている。
――錬金術、か?
咄嗟に障壁を斜めに展開した。
黒鬼側に傾けて、足場とする。
黒鬼の頭上に跳んだ。
背後で障壁の割れる音がした。
ちょうど黒鬼の真上。
垂直に障壁を張って、着地する。
一瞬で空中から状況を俯瞰する。
しゃがみ込んだ俺の正面で、黒鬼が見上げている。
周囲の魔弾は壁で弾かれたらしい。
黒鬼の涼しい顔と目が合った。
「……ち」
俺は舌打ち一つしてやると、その顔目掛けて魔弾を撃ち下ろす。
そのまま壁を蹴って元の位置へと跳んだ。
「ははは! 元気じゃなぁ」
黒鬼は楽しそうに笑って、大斧で払う。
一振りで魔弾を全て弾いてしまう。
大斧が地面に叩きつけられる轟音が響いた。
……しかし、それだけでは済まなかった。
「な――」
「自業自得」
着地しようとしていた俺へと、再び石の槍が迫る。
俺は急いで障壁を張ると、もう一度跳び上がった。
さらに二度三度と障壁を跳ぶ。
魔弾を追加して、もう一度挑戦する。
それを見て、黒鬼は大斧を――捨てた。
思わず一瞬だけ混乱してしまう。間違いなく大斧は地面を転がっている。
――武器を捨てた?
――一体何を……?
しかし、足を止めるわけにもいかない。
黒鬼は今度は何をする気か、地面にしゃがみ込んでいた。
俺はその頭上からナイフを突き下ろす。
しゃがんでいた黒鬼が俺を見上げた。
「……!」
俺は危険を感じて、咄嗟に障壁をいくつも張った。
俺と黒鬼の頭上を囲むように向かい合った障壁。
その中を跳び回りながら、俺は螺旋階段を駆け下りるように黒鬼へと迫る。
地面に着地すると、そのまま左足を軸に回転――ナイフを振るう。
同時に黒鬼が地面から『何か』を取り出した。その『何か』を払う。
『青い幻』が示す、俺の無意識に従って腰を落とした。
……?
身に覚えのある違和感に首を傾げる。
「お前の能力は……」
「……儂の技量では当たらんか」
黒鬼が握っていたのは『長刀』だった。俺と黒鬼の攻撃はどちらも空振り。
黒鬼の攻撃を俺は躱したし、俺の攻撃は黒鬼に当たらなかった。
「仕方ない。ひとまず仕切り直しじゃ」
「?」
その瞬間、強風が黒鬼から吹いた。
俺は吹き飛ばされる。
能力は『錬金術』じゃない?
いや、スキルは複数あってもおかしくないが……。
ナタリー達の元まで吹き飛ばされる。
見れば、白鬼は『初代赤鬼』の姿になっていた。
腕力でミアへと攻撃を繰り返しているが、当たらないようだ。
白鬼が一度大きく後ろに下がった。ミアは追おうとするが、黒鬼も構えていることに気付いて、俺の隣にやってくる。
「……地面から槍を出して攻撃する。刀をどこからか出した。風を出せる」
「……あたしは今のところは大丈夫っすね」
小さく情報共有する。
さらに俺は一度だけ後ろを振り返った。
ナタリーは変わらず集中状態。ぶつぶつと呟きながら、情報を集めている。
アリスはアリスでゼノから目を離そうとしなかった。
「あはは……ごめんね。
あいつは魔術師として規格外だから、アリスも余裕がないみたい」
加奈が口だけで呟いた。
なるほど。ゼノが動いたらいつでも相殺できるようにしてくれているのか。
「ソイツじゃ勝てないっすよ。
なにせ、オリジナルに勝ってるんだから」
ミアが声を張る。
白鬼への挑発のつもりだろう。
「……でしょうね」
しかし白鬼は動じた様子もなく、あっさりと認めた。
そして、その姿を変える。
それは『フレア・サリンジャー』だった。
すかさず、黒鬼が握っていた刀を渡す。
剣と刀では勝手は違う……だが、フレア・サリンジャーなら。
あの剣術バカなら……その違いすら感じないのではないか?
「ずっと探していたんですよ。
魔法もスキルもなく、純粋な身体能力と技量だけで貴方たちと戦える人を」
白鬼が刀を構える。
それがフレアということか。
「……今は大丈夫じゃないかもっす」
「……ははは」
ミアの言葉に俺は空笑いを返した。
黒鬼はその間に足元の大斧を拾う。
最初から、あの刀は白鬼のために出したということだろう。
黒鬼の能力も気になる……ひょっとしたら。
「ミア、白鬼が風を使うかも知れない。念のため、気を付けてくれ」
俺は白鬼が握る刀を見ながら、そう言った。
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同時にミアも白鬼を突き飛ばす。そのまま俺の隣に並んだ。
「……どうしてここにいる?」
ゼノが唸るように俺たちを見る。
王国の王都にいるはず……というより、この場所が割れるはずないという意味だろう。
「白じゃな?」
「あの時、ですか」
黒鬼の言葉に白鬼はミアを睨みつけた。
対するミアは肩を竦めて見せる。
そして俺に「何で怒ってるっすか?」なんて囁いた。
俺は「きっとお腹が減ってるんだよ」と返しておく。
「……やってくれますね」
「まあ、落ち着け」
白鬼が踏み込むより先に、黒鬼が制した。
そして、二人並んでゼノを庇うように立つ。
俺とミアが向かい合う。
背後にはナタリーとアリスがいる。
グレイとセシルはティアナの護衛と周囲の警戒だ。
城から増援が来てもおかしくない。
目で合図して、俺とミアは踏み込んだ。
俺が黒鬼、ミアは白鬼だ。
黒鬼の武器は大斧。
柄が長く、槍のような印象も受ける。
黒鬼の能力はまだ不明だ。警戒するべきだろう。
しかし、攻めなければ情報も手に入らない。
四方八方へ魔弾と魔弾剣を飛ばす。
俺自身はナイフを構えて走った。
「……ふむ」
黒鬼はゆったりとした動作で左右へと目を向ける。
周囲を飛び交う魔弾を眺めて、最後に俺を見た。
俺は警戒しながらも、黒鬼の脇を抜けようとする。
狙うのはその首の左側。同時に全ての魔弾が黒鬼へと向かう。
『青い幻』が描くのは大斧で防ぐか、あるいは後ろに退がるか。
……しかし、黒鬼は動かなかった。
「ほれ」
ただ、静かにトン、と大斧の石突きで地面を軽く叩く。
「!?」
俺は驚いて小さく声を上げた。
一瞬で石の槍がいくつも迫っていた。
さらに黒鬼の周囲には壁がせり上がっている。
――錬金術、か?
咄嗟に障壁を斜めに展開した。
黒鬼側に傾けて、足場とする。
黒鬼の頭上に跳んだ。
背後で障壁の割れる音がした。
ちょうど黒鬼の真上。
垂直に障壁を張って、着地する。
一瞬で空中から状況を俯瞰する。
しゃがみ込んだ俺の正面で、黒鬼が見上げている。
周囲の魔弾は壁で弾かれたらしい。
黒鬼の涼しい顔と目が合った。
「……ち」
俺は舌打ち一つしてやると、その顔目掛けて魔弾を撃ち下ろす。
そのまま壁を蹴って元の位置へと跳んだ。
「ははは! 元気じゃなぁ」
黒鬼は楽しそうに笑って、大斧で払う。
一振りで魔弾を全て弾いてしまう。
大斧が地面に叩きつけられる轟音が響いた。
……しかし、それだけでは済まなかった。
「な――」
「自業自得」
着地しようとしていた俺へと、再び石の槍が迫る。
俺は急いで障壁を張ると、もう一度跳び上がった。
さらに二度三度と障壁を跳ぶ。
魔弾を追加して、もう一度挑戦する。
それを見て、黒鬼は大斧を――捨てた。
思わず一瞬だけ混乱してしまう。間違いなく大斧は地面を転がっている。
――武器を捨てた?
――一体何を……?
しかし、足を止めるわけにもいかない。
黒鬼は今度は何をする気か、地面にしゃがみ込んでいた。
俺はその頭上からナイフを突き下ろす。
しゃがんでいた黒鬼が俺を見上げた。
「……!」
俺は危険を感じて、咄嗟に障壁をいくつも張った。
俺と黒鬼の頭上を囲むように向かい合った障壁。
その中を跳び回りながら、俺は螺旋階段を駆け下りるように黒鬼へと迫る。
地面に着地すると、そのまま左足を軸に回転――ナイフを振るう。
同時に黒鬼が地面から『何か』を取り出した。その『何か』を払う。
『青い幻』が示す、俺の無意識に従って腰を落とした。
……?
身に覚えのある違和感に首を傾げる。
「お前の能力は……」
「……儂の技量では当たらんか」
黒鬼が握っていたのは『長刀』だった。俺と黒鬼の攻撃はどちらも空振り。
黒鬼の攻撃を俺は躱したし、俺の攻撃は黒鬼に当たらなかった。
「仕方ない。ひとまず仕切り直しじゃ」
「?」
その瞬間、強風が黒鬼から吹いた。
俺は吹き飛ばされる。
能力は『錬金術』じゃない?
いや、スキルは複数あってもおかしくないが……。
ナタリー達の元まで吹き飛ばされる。
見れば、白鬼は『初代赤鬼』の姿になっていた。
腕力でミアへと攻撃を繰り返しているが、当たらないようだ。
白鬼が一度大きく後ろに下がった。ミアは追おうとするが、黒鬼も構えていることに気付いて、俺の隣にやってくる。
「……地面から槍を出して攻撃する。刀をどこからか出した。風を出せる」
「……あたしは今のところは大丈夫っすね」
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さらに俺は一度だけ後ろを振り返った。
ナタリーは変わらず集中状態。ぶつぶつと呟きながら、情報を集めている。
アリスはアリスでゼノから目を離そうとしなかった。
「あはは……ごめんね。
あいつは魔術師として規格外だから、アリスも余裕がないみたい」
加奈が口だけで呟いた。
なるほど。ゼノが動いたらいつでも相殺できるようにしてくれているのか。
「ソイツじゃ勝てないっすよ。
なにせ、オリジナルに勝ってるんだから」
ミアが声を張る。
白鬼への挑発のつもりだろう。
「……でしょうね」
しかし白鬼は動じた様子もなく、あっさりと認めた。
そして、その姿を変える。
それは『フレア・サリンジャー』だった。
すかさず、黒鬼が握っていた刀を渡す。
剣と刀では勝手は違う……だが、フレア・サリンジャーなら。
あの剣術バカなら……その違いすら感じないのではないか?
「ずっと探していたんですよ。
魔法もスキルもなく、純粋な身体能力と技量だけで貴方たちと戦える人を」
白鬼が刀を構える。
それがフレアということか。
「……今は大丈夫じゃないかもっす」
「……ははは」
ミアの言葉に俺は空笑いを返した。
黒鬼はその間に足元の大斧を拾う。
最初から、あの刀は白鬼のために出したということだろう。
黒鬼の能力も気になる……ひょっとしたら。
「ミア、白鬼が風を使うかも知れない。念のため、気を付けてくれ」
俺は白鬼が握る刀を見ながら、そう言った。