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第四部 89話 好機

ー/ー



 俺たちはしばらくの間、ゼノからほど近い森に隠れていた。
 幸い、ピノという優秀な警戒役がいたので見つからずに済んでいる。

「……!」

 流石に息を潜めて隠れていたのだが、やがて城の方が騒がしくなってきた。
 クロード達が陽動を仕掛けてくれているということだろう。

 そして、とうとう屋敷からゼノが出てきた。
 白鬼、黒鬼も一緒だ。さらに護衛の兵士が二人。

 城へと向かっていく。そりゃそうだ。
 敵襲があれば、影武者と入れ替わる必要があるだろう。

 ゼノと黒鬼を見るのは初めてだった。
 もっとも、黒鬼を見たことがあるのはグレイだけだが。

 ゼノ・イリオスは高級そうなローブを纏った上で、顔を隠すようにフードを被っていた。それでも赤い瞳を不機嫌そうに細めているのが分かる。

 黒鬼は中肉中背と言った様子で、背格好は白鬼に近い。大斧を担いでいるが、歩く速度は速い。軽々と担いでいる印象だった。

 ナタリーを見ると、ゼノを強く睨みつけている。
 初めて会った時からひどく嫌っているようだった。

 少しの間、後を尾ける。
 城への道の途中、少しだけ開けた広場でナタリーは頷いた。事前に戦場として予定していた地点だ。

 それに合わせて、俺は飛び出す。まずは魔弾を放つ。
 次に障壁を何度も蹴りつけて、木々の隙間を跳ね回った。

「? なんだ?」

 ゼノたちが警戒する。まずは護衛二人へと俺は斬りかかった。
 頭上から急降下しながら、逆手に握った右のナイフを突き下ろす。
 
「……!」

 標的が気が付いて、俺を見上げた。
 構えていた長剣を上空に向けて払う。

 しかし、俺は気付かれたのなら、と障壁を蹴って狙いを変える。
 真下への落下から、斜めに地面へ向けた跳躍に切り替えた。

 さらにナイフを順手に持ち帰ると、もう一人の護衛目掛けてナイフを払う。
 標的ではなくなった相手の剣が空振りに終わる。標的になった相手はそれでも咄嗟に反応する。

 俺を迎え撃つように、剣を払った。
 しかし、俺は『青い幻』に従って、ほんの少しだけ体を縮めて避ける。

 味方が倒されたと気付き、もう一方の相手は俺へと踏み込んだ。
 そこに放っておいた魔弾剣が背後から迫る。やはり精鋭ということだろう、護衛はしっかりと反応して全て弾く。

「く……」

 足を止めて振り返った相手の背中へと俺は逆に踏み込んだ。
 ナイフを斬り下ろしながら、弾かれた魔弾剣の一つを左手で掴む。まとめて、左手も斬り下ろす。背後からの両斬り払い。

「……流石にさせませんよ」
 しかし、白鬼が割って入ろうとする。

「いやいや、させて欲しいっすね」
 その瞬間、白鬼の体が引っ張られた。

「!?」
「……良いリアクションっす」
 白鬼の驚いた声とミアの小馬鹿にするような声が続けて響く。

 これで白鬼は退かせた。邪魔はない。
 俺はもう一人の護衛もそのまま切り伏せると、すぐに障壁を蹴って離脱する。

「……うわ」

 直後、俺の立っていた場所へと、大斧が叩きつけられる。
 黒鬼の一撃に背筋が寒くなる。予想よりもギリギリだった。

「マジか」
「……嫌よ」

 上へと逃げた俺はちらりと下を見て、顔が引きつった。
 頭上のエルも「イヤイヤ」と首を振るように呟く。

 すぐ真下で『ゼノ・イリオス』が俺に掌を向けていた。
 何せ相手はエルフの生まれ変わりだ。きっと食らえば死ぬだろう。

「炎よ、焼き払え」

 それは非常に標準的な、教科書にでも載っているような『命令』だった。
 しかし、放たれた魔術はエリーナの青白い炎とほとんど変わらない。

 単純に魔術の技量が――段違いだ。恐らくは魔力の効率か?
 エリーナが赤い本を使っているのは、あの炎の複雑な『命令』を扱うためには口頭では時間が掛かるからだ。だが、こいつにとっては一言で十分なのだ。

 俺が「あ、ヤバいかも」と口の中で呟いた時、黒い炎が青白い炎を打ち消した。ちらりと振り返ると、アリスと加奈が炎で相殺してくれたようだった。

 白鬼はミアが相手をしている。
 ゼノは忌々しそうにアリスを睨みつける。

「な……」

 しかし、その顔色を一変させた。
 まるで驚いたような――いや、恐怖に凍り付いたような。

「……?」

 俺は不審に思うが、その隙は逃さない。
 撤退しようとしていた足を引き返し、ゼノの首目掛けてナイフを振るう。

 しかし、今度は黒鬼が割って入った。
 白鬼と違って、仕込みはない。大斧が俺のナイフを防いだ。

「おい、どうしたんじゃ?」
「……アイツを殺せ」
 質問にゼノは答えず、代わりに黒鬼へと命令する。

「――――!」

 返事は待たずにゼノが魔法を放つ。
 それは聞いたこともない言語だった。

 きっとエルフの知識だろう。魔法の『命令』は自由度が高い。
 ……だが、一体どれほどの情報が詰められていたのか。

 幾条もの青白い炎の束が複雑な軌道を描きながら、視線の先へと収束していった。その全てをアリスと加奈が対処していた。

 魔法の回転率を活かして、弱い魔法を何度も放って一つずつ打ち消していく。
 そして、最後の炎が消えて納得した。

 その矛先にいたのは、ナタリーだった。
 瞬き一つすら惜しむように、ナタリーはゼノ達の動きを観察している。

 あらゆる可能性を探しているのだろう。
 今も観察されている事実に、ゼノは気圧されるように一歩退いた。

 そうだ。
 この状況は好機なのだ。

 最悪、ここに青鬼がいる可能性も考えていた。
 だが、結果としてここにはいなかった。

 青鬼がいなければ、ティアナは殺せない。
 だが――こちらはゼノを殺せる。

 ここに青鬼が来るまでが好機のはずだ。



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みんなのリアクション



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 俺たちはしばらくの間、ゼノからほど近い森に隠れていた。
 幸い、ピノという優秀な警戒役がいたので見つからずに済んでいる。
「……!」
 流石に息を潜めて隠れていたのだが、やがて城の方が騒がしくなってきた。
 クロード達が陽動を仕掛けてくれているということだろう。
 そして、とうとう屋敷からゼノが出てきた。
 白鬼、黒鬼も一緒だ。さらに護衛の兵士が二人。
 城へと向かっていく。そりゃそうだ。
 敵襲があれば、影武者と入れ替わる必要があるだろう。
 ゼノと黒鬼を見るのは初めてだった。
 もっとも、黒鬼を見たことがあるのはグレイだけだが。
 ゼノ・イリオスは高級そうなローブを纏った上で、顔を隠すようにフードを被っていた。それでも赤い瞳を不機嫌そうに細めているのが分かる。
 黒鬼は中肉中背と言った様子で、背格好は白鬼に近い。大斧を担いでいるが、歩く速度は速い。軽々と担いでいる印象だった。
 ナタリーを見ると、ゼノを強く睨みつけている。
 初めて会った時からひどく嫌っているようだった。
 少しの間、後を尾ける。
 城への道の途中、少しだけ開けた広場でナタリーは頷いた。事前に戦場として予定していた地点だ。
 それに合わせて、俺は飛び出す。まずは魔弾を放つ。
 次に障壁を何度も蹴りつけて、木々の隙間を跳ね回った。
「? なんだ?」
 ゼノたちが警戒する。まずは護衛二人へと俺は斬りかかった。
 頭上から急降下しながら、逆手に握った右のナイフを突き下ろす。
「……!」
 標的が気が付いて、俺を見上げた。
 構えていた長剣を上空に向けて払う。
 しかし、俺は気付かれたのなら、と障壁を蹴って狙いを変える。
 真下への落下から、斜めに地面へ向けた跳躍に切り替えた。
 さらにナイフを順手に持ち帰ると、もう一人の護衛目掛けてナイフを払う。
 標的ではなくなった相手の剣が空振りに終わる。標的になった相手はそれでも咄嗟に反応する。
 俺を迎え撃つように、剣を払った。
 しかし、俺は『青い幻』に従って、ほんの少しだけ体を縮めて避ける。
 味方が倒されたと気付き、もう一方の相手は俺へと踏み込んだ。
 そこに放っておいた魔弾剣が背後から迫る。やはり精鋭ということだろう、護衛はしっかりと反応して全て弾く。
「く……」
 足を止めて振り返った相手の背中へと俺は逆に踏み込んだ。
 ナイフを斬り下ろしながら、弾かれた魔弾剣の一つを左手で掴む。まとめて、左手も斬り下ろす。背後からの両斬り払い。
「……流石にさせませんよ」
 しかし、白鬼が割って入ろうとする。
「いやいや、させて欲しいっすね」
 その瞬間、白鬼の体が引っ張られた。
「!?」
「……良いリアクションっす」
 白鬼の驚いた声とミアの小馬鹿にするような声が続けて響く。
 これで白鬼は退かせた。邪魔はない。
 俺はもう一人の護衛もそのまま切り伏せると、すぐに障壁を蹴って離脱する。
「……うわ」
 直後、俺の立っていた場所へと、大斧が叩きつけられる。
 黒鬼の一撃に背筋が寒くなる。予想よりもギリギリだった。
「マジか」
「……嫌よ」
 上へと逃げた俺はちらりと下を見て、顔が引きつった。
 頭上のエルも「イヤイヤ」と首を振るように呟く。
 すぐ真下で『ゼノ・イリオス』が俺に掌を向けていた。
 何せ相手はエルフの生まれ変わりだ。きっと食らえば死ぬだろう。
「炎よ、焼き払え」
 それは非常に標準的な、教科書にでも載っているような『命令』だった。
 しかし、放たれた魔術はエリーナの青白い炎とほとんど変わらない。
 単純に魔術の技量が――段違いだ。恐らくは魔力の効率か?
 エリーナが赤い本を使っているのは、あの炎の複雑な『命令』を扱うためには口頭では時間が掛かるからだ。だが、こいつにとっては一言で十分なのだ。
 俺が「あ、ヤバいかも」と口の中で呟いた時、黒い炎が青白い炎を打ち消した。ちらりと振り返ると、アリスと加奈が炎で相殺してくれたようだった。
 白鬼はミアが相手をしている。
 ゼノは忌々しそうにアリスを睨みつける。
「な……」
 しかし、その顔色を一変させた。
 まるで驚いたような――いや、恐怖に凍り付いたような。
「……?」
 俺は不審に思うが、その隙は逃さない。
 撤退しようとしていた足を引き返し、ゼノの首目掛けてナイフを振るう。
 しかし、今度は黒鬼が割って入った。
 白鬼と違って、仕込みはない。大斧が俺のナイフを防いだ。
「おい、どうしたんじゃ?」
「……アイツを殺せ」
 質問にゼノは答えず、代わりに黒鬼へと命令する。
「――――!」
 返事は待たずにゼノが魔法を放つ。
 それは聞いたこともない言語だった。
 きっとエルフの知識だろう。魔法の『命令』は自由度が高い。
 ……だが、一体どれほどの情報が詰められていたのか。
 幾条もの青白い炎の束が複雑な軌道を描きながら、視線の先へと収束していった。その全てをアリスと加奈が対処していた。
 魔法の回転率を活かして、弱い魔法を何度も放って一つずつ打ち消していく。
 そして、最後の炎が消えて納得した。
 その矛先にいたのは、ナタリーだった。
 瞬き一つすら惜しむように、ナタリーはゼノ達の動きを観察している。
 あらゆる可能性を探しているのだろう。
 今も観察されている事実に、ゼノは気圧されるように一歩退いた。
 そうだ。
 この状況は好機なのだ。
 最悪、ここに青鬼がいる可能性も考えていた。
 だが、結果としてここにはいなかった。
 青鬼がいなければ、ティアナは殺せない。
 だが――こちらはゼノを殺せる。
 ここに青鬼が来るまでが好機のはずだ。