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第百七十九話

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 レイジーに包帯を巻きながらエヴァが、皆が知った結論を簡潔にまとめていく。しかし、レイジーは悲しそうな表情こそすれど、エヴァの頭を優しく撫でていくのだった。
「――――全部、最初から知っていたんだ」
「……うん、全部ね」
 レイジーが『教会』に反旗を翻し、立ち向かう理由。それはエヴァのためでもあり、山梨県全体にかけられた『怠惰』の呪いを打ち砕かんとするためであった。英雄学園在籍時代から『教会』内部に入り込んで、あらゆる情報を抜き出す諜報員目的で信一郎と作戦を共にしていたレイジーは、個人で捜査していく上でその結論に至った。
 信一郎にその結論を語ることは止め、自分はたった一人で『教会』の支部の頂点に立ち、山梨県の呪縛を解くべく動き出したのだ。
 その時はこの事件の結論を知らない信一郎であったが、「無事に戻って来れなくとも、十分な支援を陰ながら行う」という優しさを見せた。反『教会』のスタンスであった『義賊伝説』の大本であるしのびの里との同盟を結び、空席だった御庭番衆頭目としての二足の草鞋体制で、山梨県内を飛び回り、衆生を救うべく暗躍していたのだった。
「――でもさ、結局は『教会』側に寝返った忍者も存在した。その結果……御庭番衆を受け継げるような忍者は子供たちだけ……その子供たちの大多数も……結局は『教会』側の手先になったみたい」
 信一郎が心を殺し、疑似的に殺害した者。それに、来栖側に付いた元大人も一部存在する。『頭目』と呼んでくれる存在は、生き残っている面子だともう数少ない。
「――子供たちは、私を慕ってくれて、最初は若干の悪ふざけ込みで頭目、って呼んでくれたんだ。御庭番衆は基本御屋形様呼びだし、それも嬉しかったし、本来なら御屋形様呼びが普通らしいけど……皆、元大人だとは思えないほどに、底抜けに慕ってくれたんだ」
 それらすべてを打算とは思いたくはなかった。そうだとしたら、レイジーの今までは完全に無駄になってしまう。心の逃げ場が必要であったのだ。
 そんな彼女を察したのか、葵が傍にてレイジーの手を握る。ただの同情目的ではない、今まで目を掛けてくれた彼女への礼でもあったのだ。
 このしのびの里にて、数少ない純粋(レア)な子供である葵。以前から悪態を吐きつつも、なんだかんだ慕ってきた。それは、頼りになる大人と認識しているがゆえ。
 しかし、深層心理でいつも邪魔をするのは、仇の存在である『教会』の現支部長であるため。何かしらの考えがあることは理解しているが、どうあっても頭の隅でその思考が邪魔をするのだ。
 だからこそ、その手には迷いと震えが共存していた。
「――頭目」
「どうしたの、葵。修行でもつけてほしくなった?」
「……そんなことはねえよ。アタシは……強いからさ」
 次第に、今まで根底には存在したものの、何だかんだ抑えてきた、子供としての心根が成長してきた。それは、「甘えたい」という弱み。何ともいじらしいものであったが、肉体だけでなく精神も強くあらねばいけない、一種の強迫観念が葵の心を抑圧させ続けてきたのだ。
「――葵ちゃん、おいで」
「……ンだよ、アタシは……別に――」
 『頭目』のために強がる葵を、優しく抱きしめる。生傷が未だ癒えぬ中、痛みもそれなりにあるはず。それなのに、痛む声一つ上げずに葵を抱きしめたのだ。
「…………ぁ」
「ずっと、ずっと。葵ちゃんは、子供たちのリーダーとして動き続けてきたよね。実際……能力はかなりの物。教会に対する恨み辛みは人一倍だから、その反発精神をばねにして強くなり続ける。いつか――私と一緒に教会を潰しにかかるんだろうね」
「……痛ェよ、頭目。そのまま壁に抱きつかれているみたいだ」
「うるさいよ、葵」
 いつものようなやり取りを繰り広げないと、少しでも自分の本音が漏れ出てしまいそうであったのだ。だから、少しでもいつもの自分らしく振舞っていた。
 ただ、決壊の時は来た。レイジーが、葵の頭を撫でたのだ。この状況下で、山梨県の未来を背負って立つ存在の一人である、純粋な子供。その存在を守りたいという強い思いから潜入した。レイジーにとっては至極当然と言わんばかりの行動であったが、葵にとっては願ってもないことであった。
「あ、ぁ――――」
「――私が、私たちが……命に代えても、必ず守るから。絶対に、上の人間の好きにはさせないよ」
 その日、葵が初めて泣いた。しかし、大泣きしているわけではなく、ただ静かに泣いた。強がりな態度を崩さない、彼女らしい涙であった。



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 レイジーに包帯を巻きながらエヴァが、皆が知った結論を簡潔にまとめていく。しかし、レイジーは悲しそうな表情こそすれど、エヴァの頭を優しく撫でていくのだった。
「――――全部、最初から知っていたんだ」
「……うん、全部ね」
 レイジーが『教会』に反旗を翻し、立ち向かう理由。それはエヴァのためでもあり、山梨県全体にかけられた『怠惰』の呪いを打ち砕かんとするためであった。英雄学園在籍時代から『教会』内部に入り込んで、あらゆる情報を抜き出す諜報員目的で信一郎と作戦を共にしていたレイジーは、個人で捜査していく上でその結論に至った。
 信一郎にその結論を語ることは止め、自分はたった一人で『教会』の支部の頂点に立ち、山梨県の呪縛を解くべく動き出したのだ。
 その時はこの事件の結論を知らない信一郎であったが、「無事に戻って来れなくとも、十分な支援を陰ながら行う」という優しさを見せた。反『教会』のスタンスであった『義賊伝説』の大本であるしのびの里との同盟を結び、空席だった御庭番衆頭目としての二足の草鞋体制で、山梨県内を飛び回り、衆生を救うべく暗躍していたのだった。
「――でもさ、結局は『教会』側に寝返った忍者も存在した。その結果……御庭番衆を受け継げるような忍者は子供たちだけ……その子供たちの大多数も……結局は『教会』側の手先になったみたい」
 信一郎が心を殺し、疑似的に殺害した者。それに、来栖側に付いた元大人も一部存在する。『頭目』と呼んでくれる存在は、生き残っている面子だともう数少ない。
「――子供たちは、私を慕ってくれて、最初は若干の悪ふざけ込みで頭目、って呼んでくれたんだ。御庭番衆は基本御屋形様呼びだし、それも嬉しかったし、本来なら御屋形様呼びが普通らしいけど……皆、元大人だとは思えないほどに、底抜けに慕ってくれたんだ」
 それらすべてを打算とは思いたくはなかった。そうだとしたら、レイジーの今までは完全に無駄になってしまう。心の逃げ場が必要であったのだ。
 そんな彼女を察したのか、葵が傍にてレイジーの手を握る。ただの同情目的ではない、今まで目を掛けてくれた彼女への礼でもあったのだ。
 このしのびの里にて、数少ない|純粋《レア》な子供である葵。以前から悪態を吐きつつも、なんだかんだ慕ってきた。それは、頼りになる大人と認識しているがゆえ。
 しかし、深層心理でいつも邪魔をするのは、仇の存在である『教会』の現支部長であるため。何かしらの考えがあることは理解しているが、どうあっても頭の隅でその思考が邪魔をするのだ。
 だからこそ、その手には迷いと震えが共存していた。
「――頭目」
「どうしたの、葵。修行でもつけてほしくなった?」
「……そんなことはねえよ。アタシは……強いからさ」
 次第に、今まで根底には存在したものの、何だかんだ抑えてきた、子供としての心根が成長してきた。それは、「甘えたい」という弱み。何ともいじらしいものであったが、肉体だけでなく精神も強くあらねばいけない、一種の強迫観念が葵の心を抑圧させ続けてきたのだ。
「――葵ちゃん、おいで」
「……ンだよ、アタシは……別に――」
 『頭目』のために強がる葵を、優しく抱きしめる。生傷が未だ癒えぬ中、痛みもそれなりにあるはず。それなのに、痛む声一つ上げずに葵を抱きしめたのだ。
「…………ぁ」
「ずっと、ずっと。葵ちゃんは、子供たちのリーダーとして動き続けてきたよね。実際……能力はかなりの物。教会に対する恨み辛みは人一倍だから、その反発精神をばねにして強くなり続ける。いつか――私と一緒に教会を潰しにかかるんだろうね」
「……痛ェよ、頭目。そのまま壁に抱きつかれているみたいだ」
「うるさいよ、葵」
 いつものようなやり取りを繰り広げないと、少しでも自分の本音が漏れ出てしまいそうであったのだ。だから、少しでもいつもの自分らしく振舞っていた。
 ただ、決壊の時は来た。レイジーが、葵の頭を撫でたのだ。この状況下で、山梨県の未来を背負って立つ存在の一人である、純粋な子供。その存在を守りたいという強い思いから潜入した。レイジーにとっては至極当然と言わんばかりの行動であったが、葵にとっては願ってもないことであった。
「あ、ぁ――――」
「――私が、私たちが……命に代えても、必ず守るから。絶対に、上の人間の好きにはさせないよ」
 その日、葵が初めて泣いた。しかし、大泣きしているわけではなく、ただ静かに泣いた。強がりな態度を崩さない、彼女らしい涙であった。