作られた、偽りの楽園。全てが理想のままをキープし、ありとあらゆる子供を利用したビジネスの温床となった場。さらに、部外者であり自身の敵である英雄『だけ』に対して、特効ともいえる「殺したら死ぬ」という当然ともいえるマイナス点が、わざと仕込まれているのだ。
「でも……子供が犠牲になった場も存在しますわよね」
「そう、あの屠殺場だ。アレは――日本全国や世界各国にターゲットを向けた臓器売買をするための場であり、死ぬことでそれぞれの人間の傷や記憶、全てをリセットする場だった」
何者かの能力、恐らくは『教会』の人間による、時間に関する事象の操作。それが山梨県に住まう人々全員にかけられたのだ。死に至る痛みを受けた、あるいは病気を患った子供や大人は、そのタイミングで流転が確定する。
あの屠殺・実験場においては、記憶の混濁によるパニックや麻薬の実験によって、使い物にならなくなった場合にあそこに送られ、惨たらしく殺害された上、記憶を完全リセットして新たな子供として、新たな設定と共に生まれ落ちる。
絵に描いたような
理想郷。どこまで行っても、終わりが無いのが終わり。真実をひた隠しにされてきた山梨県の全貌であったのだ。
「――嘘、でしょ」
エヴァにスキンシップしてきたあの子たちも、
「……マジ、かよ」
あの売春場にいた全ての子供たちも、
「…………」
今までぷろてあクリニックにて目を掛けてきた子供たちも。全てが流転した、大人だった存在なのだ。
「――この結論には、あのデータをカルマに提示された瞬間に……想像がついた。アイツほどの悪意があれば、これくらいのことはやる。それほどの――――災厄であり、最悪の存在だから」
こうして、流転する呪いをかけた存在は、カルマであったのだ。本人が
尤もらしい言い訳をするならば、きっと「恒久的な繁栄のため」と
嘯くのだろうが、実際は
徒に生かされ続けているだけ。人間だけでなく、生物全体に等しく与えられた生と死、原初の概念を身勝手に奪われ、ずっとずっとずっとずっと、無限に生き続けなければならない。
よほどの達観した存在でない限り、『死』という確実に訪れるであろう概念は怖いものである。それが、その結論に至らないだけで無限に押し寄せ続ける。これほどの拷問は無いだろう。
どんなに人生に絶望しても、自死出来ない。抗うことをやめたところで、無限に生かされ続けるだけ。もはや人と呼べないほどの生物となった後に、残るのは虚しさだけである。
「――――アタシ、こんなんじゃ……喜べないよ」
葵が見やるのは、透が助け出した子供である、謡。疲れ果て眠ってしまった彼女もまた、流転した子供であろう。何故なら――清志郎に渡されたデータ内に彼女のものもあったのだ。この場において、山梨県に純粋かつ奇跡的に生まれ、頼りの親を亡くした葵だけが、この例外に当てはまる。
普通なら喜ぶだろうが、いわばずっと一人ぼっちのまま。自分の周りにいるのは、流転した子供たちばかり。純粋な
存在は周りに一切おらず、いずれ小児性愛者が流転した存在と落ち合ってしまったら、自分の貞操は徒に散らされるのみ。そうしてもなお、自分は自分勝手に死ぬことが出来ない。八方塞がりであったのだ。
剣道場の空気感は、実に最悪であった。御庭番衆も、運がなく山梨に生まれたがために、たった一人の悪意に翻弄されることが確定している。
皆が無言になった中、突如として、剣道場の扉が荒っぽく開かれる。そこにいたのは、忍者たちや御庭番衆を今率いる存在、レイジーであった。
「ごめんね……ちょっと遅くなったよ」
冗談を口にしていた彼女の体には生傷が複数存在し、事は急を争うことだと再認識。落ち込んでばかりではいられないと無理やり自らを奮い立たせ、皆はレイジーの治療に着手するのだった。