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第百七十七話

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 昼頃、しのびの里に辿り着いた一行は、目を疑った。そこにいたのは、人質として囚われているはずの子供である葵、そして院と透、謡と灰崎の四人を逃がしグレープ・フルボディに残っていた清志郎であった。
 だいぶ人が減ったしのびの里にて、灰崎、御庭番衆たちと共に一行の帰りを待っていたのだ。
「よぉ、学生たち。信一郎は……どうした?」
「大丈夫です、いずれ来るでしょう――ほら」
 空模様はだいぶ不安定な中、信一郎が姿を現した。相変わらずの浮かれていた格好だったが、その表情はだいぶ暗いものであった。
「――詳しいことは、しのびの里の中で聞く。ライバルながら、よくやったよ、信一郎」
「……うるさいぞ、またこき使われ(パシられ)たいか?」
 冗談を語りながらも、浮かない表情のままである信一郎。学生たちもとやかく追求しないことを決めた瞬間であった。

 一行は多くの子供たちのいた、がらんどうの剣道場にて事の整理を行った。
 一つ、信一郎と清志郎、主に二人に対し、この山梨県の子供に関するデータを異なる人物から受け取ったこと。
 二つ、今回の一連の事件には、山梨支部(レイジーを除く)だけではなく、山梨県に存在するヤクザ組織の大多数、そして地域密着型大企業『五斂子社』が関わっていること。
 三つ、しのびの里に存在した子供たち、そして御庭番衆でない忍者たちのうち、その内の八割以上が死亡確認されたこと。
 そのマイナスの情報群を聞いて、明るくいられる人物は誰一人存在しない。失うものが多い戦いは、経験以外に何も得がない戦いである。
 浮かれた服装のままではいられない、と信一郎は持参した荷物から、いつもの彼の正装たる一張羅、漆黒のスーツへと着替える。その姿で提示される議題は、非常に深刻なものであった。
「――そして、これら情報を加味して……私は一つの結論に行きついた。それは……正直常識を疑うような発想かもしれない」
 信一郎が得た情報と、清志郎が得た情報。それらを重ね合わせると、普通ならあり得ない事実が浮き彫りとなるのだ。
「まず、だ。俺がグレープ・フルボディで得た情報は……この山梨県全体の人口ピラミッドに関するものだ」
 下から順に、年少人口、生産年齢人口、前期老年人口、後期老年人口に分かれ、それぞれの年代の人口分布を分かりやすく提示したものが、人口ピラミッド。人口のバランスが良いとされているのが、富士山型と称されるタイプである。主に、医療技術が発達していない昔によく見られた傾向である。
 しかし、時代が発展するごとに、その富士山型と呼称される人口ピラミッドの形は変化していく。前期後期問わず、老年人口が増加する。さらに、生産年齢人口と年少人口の減少。俗に言う少子高齢化社会となるにつれ、形は釣り鐘型、壺型へと姿を変えていく。
 そのはずなのだが、提示されたグラフは実におかしいことになっているのだ。
 なんと、0歳から14歳に位置する年少人口が、ここ十数年連続で常時富士山型のままであったのだ。一切の狂いなく、ずっとそのグラフのままである。まるで手抜き、コピー&ペーストを多用しているかの如く、同じデータがずっと続いていたのだ。
「――おかしい、現代においてそんなことはないはず」
「無論おかしいことこの上ない。この物価高だの、少子高齢化社会だの叫ばれている中、常時『それぞれの人口分布人数が変わらない』ことはおかしい話だ。だが……それ以外におかしい部分があるんだ」
 それこそが、しのびの里に存在する年少人口――その内の十歳に満たない子供たちのデータ群であるのだ。それぞれ、プロフィールに不審な点はない。しかし、それぞれ親が不明な点や、要所の数々に『わざとらしいノイズ』が走ったものであるため、純粋な証拠としては信憑性が低い。あくまで、『純粋な証拠』としての話であるが。
「なぜこんな理想的すぎるグラフな中、現在生存する年少人口のデータをわざとらしいノイズ付きで見せつけたのか。それが、この山梨県が抱える闇に繋がるんだ」
 最後に提示されたのは、そのUSBに封入されていたもう一つのデータ。そこに記されていたのは、ここ十数年の山梨県全体の『出生率』、及び『死亡率』を纏めたデータであった。
 学生一同は徐々に押し寄せてくる、怖気(おぞけ)嘔気(おうき)を堪えていたのだ。これらの証拠の数々を目の当たりにして、皆一つの最悪ともいえる真実に気づきつつあったのだ。
 それは、葵も一緒であった。提示されたデータ内に葵のものがなかった。それは暗に『そうではない』ことを示していたが、それが更なる気づきに繋がっていくのだ。
「――もうこのデータを見て、気づいたね。皆……酷だろうがこの真実から目を背けたら……いけないよ」
 パソコンの画面に映るそのデータ群。どこからか持ち出してきたデータは、残酷な真実を映し出す。
 そう、出生率と死亡率、それぞれが限りなく低い状態にあったのだ。現実では、有り得ないほどのレベルであった。
 人間、この世界に生まれ落ちた以上死ぬことは決定づけられている。そんな中、人口ピラミッドが気持ち悪いほどに正常であるはずなのに、出生率も死亡率も限りなく低い。その矛盾が、全ての答え。しのびの里の子供たちだけでなく、数少ない一部の例外、葵等を除いた山梨県の子供や大人、お年寄りのほぼに言える事象の結論。

「この山梨県において、生と死の概念はほぼ存在しない。部外者――それこそ、英雄に殺された場合を除いて、ある一定年齢に達した大人やお年寄りは――――皆赤子や子供に戻る。それを何度も何度も何度も繰り返して……全てが理想のまま『留まった』場所こそ、山梨県の闇であり、真実だったんだ」



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 昼頃、しのびの里に辿り着いた一行は、目を疑った。そこにいたのは、人質として囚われているはずの子供である葵、そして院と透、謡と灰崎の四人を逃がしグレープ・フルボディに残っていた清志郎であった。
 だいぶ人が減ったしのびの里にて、灰崎、御庭番衆たちと共に一行の帰りを待っていたのだ。
「よぉ、学生たち。信一郎は……どうした?」
「大丈夫です、いずれ来るでしょう――ほら」
 空模様はだいぶ不安定な中、信一郎が姿を現した。相変わらずの浮かれていた格好だったが、その表情はだいぶ暗いものであった。
「――詳しいことは、しのびの里の中で聞く。ライバルながら、よくやったよ、信一郎」
「……うるさいぞ、また|こき使われ《パシられ》たいか?」 冗談を語りながらも、浮かない表情のままである信一郎。学生たちもとやかく追求しないことを決めた瞬間であった。
 一行は多くの子供たちのいた、がらんどうの剣道場にて事の整理を行った。
 一つ、信一郎と清志郎、主に二人に対し、この山梨県の子供に関するデータを異なる人物から受け取ったこと。
 二つ、今回の一連の事件には、山梨支部(レイジーを除く)だけではなく、山梨県に存在するヤクザ組織の大多数、そして地域密着型大企業『五斂子社』が関わっていること。
 三つ、しのびの里に存在した子供たち、そして御庭番衆でない忍者たちのうち、その内の八割以上が死亡確認されたこと。
 そのマイナスの情報群を聞いて、明るくいられる人物は誰一人存在しない。失うものが多い戦いは、経験以外に何も得がない戦いである。
 浮かれた服装のままではいられない、と信一郎は持参した荷物から、いつもの彼の正装たる一張羅、漆黒のスーツへと着替える。その姿で提示される議題は、非常に深刻なものであった。
「――そして、これら情報を加味して……私は一つの結論に行きついた。それは……正直常識を疑うような発想かもしれない」
 信一郎が得た情報と、清志郎が得た情報。それらを重ね合わせると、普通ならあり得ない事実が浮き彫りとなるのだ。
「まず、だ。俺がグレープ・フルボディで得た情報は……この山梨県全体の人口ピラミッドに関するものだ」
 下から順に、年少人口、生産年齢人口、前期老年人口、後期老年人口に分かれ、それぞれの年代の人口分布を分かりやすく提示したものが、人口ピラミッド。人口のバランスが良いとされているのが、富士山型と称されるタイプである。主に、医療技術が発達していない昔によく見られた傾向である。
 しかし、時代が発展するごとに、その富士山型と呼称される人口ピラミッドの形は変化していく。前期後期問わず、老年人口が増加する。さらに、生産年齢人口と年少人口の減少。俗に言う少子高齢化社会となるにつれ、形は釣り鐘型、壺型へと姿を変えていく。
 そのはずなのだが、提示されたグラフは実におかしいことになっているのだ。
 なんと、0歳から14歳に位置する年少人口が、ここ十数年連続で常時富士山型のままであったのだ。一切の狂いなく、ずっとそのグラフのままである。まるで手抜き、コピー&ペーストを多用しているかの如く、同じデータがずっと続いていたのだ。
「――おかしい、現代においてそんなことはないはず」
「無論おかしいことこの上ない。この物価高だの、少子高齢化社会だの叫ばれている中、常時『それぞれの人口分布人数が変わらない』ことはおかしい話だ。だが……それ以外におかしい部分があるんだ」
 それこそが、しのびの里に存在する年少人口――その内の十歳に満たない子供たちのデータ群であるのだ。それぞれ、プロフィールに不審な点はない。しかし、それぞれ親が不明な点や、要所の数々に『わざとらしいノイズ』が走ったものであるため、純粋な証拠としては信憑性が低い。あくまで、『純粋な証拠』としての話であるが。
「なぜこんな理想的すぎるグラフな中、現在生存する年少人口のデータをわざとらしいノイズ付きで見せつけたのか。それが、この山梨県が抱える闇に繋がるんだ」
 最後に提示されたのは、そのUSBに封入されていたもう一つのデータ。そこに記されていたのは、ここ十数年の山梨県全体の『出生率』、及び『死亡率』を纏めたデータであった。
 学生一同は徐々に押し寄せてくる、|怖気《おぞけ》と|嘔気《おうき》を堪えていたのだ。これらの証拠の数々を目の当たりにして、皆一つの最悪ともいえる真実に気づきつつあったのだ。
 それは、葵も一緒であった。提示されたデータ内に葵のものがなかった。それは暗に『そうではない』ことを示していたが、それが更なる気づきに繋がっていくのだ。
「――もうこのデータを見て、気づいたね。皆……酷だろうがこの真実から目を背けたら……いけないよ」
 パソコンの画面に映るそのデータ群。どこからか持ち出してきたデータは、残酷な真実を映し出す。
 そう、出生率と死亡率、それぞれが限りなく低い状態にあったのだ。現実では、有り得ないほどのレベルであった。
 人間、この世界に生まれ落ちた以上死ぬことは決定づけられている。そんな中、人口ピラミッドが気持ち悪いほどに正常であるはずなのに、出生率も死亡率も限りなく低い。その矛盾が、全ての答え。しのびの里の子供たちだけでなく、数少ない一部の例外、葵等を除いた山梨県の子供や大人、お年寄りのほぼに言える事象の結論。
「この山梨県において、生と死の概念はほぼ存在しない。部外者――それこそ、英雄に殺された場合を除いて、ある一定年齢に達した大人やお年寄りは――――皆赤子や子供に戻る。それを何度も何度も何度も繰り返して……全てが理想のまま『留まった』場所こそ、山梨県の闇であり、真実だったんだ」