表示設定
表示設定
目次 目次




第百七十六話

ー/ー



 『教会』山梨支部、支部長室にて。
 何とかして山梨支部全体の暴走を止めるべく、しのびの里の頭目として動いていたのだが、そのパソコン作業の手を止めざるを得なかった。理由は、来訪者。その部屋にノックと共に入ってきたのは――他でもない来栖であった。
「どうも、レイジー支部長。五斂子社に侵入してきた英雄陣営の追い返しに成功しました。『一部』戦闘員が死亡しましたが……必要な犠牲でした」
「――そう。じゃあ引き続いて英雄陣営を山梨から追い返す努力に励むように。私は色々作業があるから、早々に退出して――」
 来栖がにいと歪に笑うと、彼女の手を乱暴に掴み、壁に押し付ける。
「……何をするの? 支部長相手に性的暴行でも企むつもり?」
「いえ、一つ人伝に聞いた話がありまして。どうやらこの山梨支部に諜報員(スパイ)が紛れ込んでいる情報がタレこまれたのです」
 一切の平静を崩すことなく、不愉快に掴まれた手を解くべく、レイジーは来栖の手首を囚われていない方の手で折れる寸前まで強く握りしめる。
「――そう。それで私に反旗を翻そうって訳? いくら何でもこじつけが幼稚過ぎないかな。私は一つの支部を背負って立つ支部長よ、貴方ごとき幹部に負けるほど落ちぶれてはいないのよ」
「そう――ですか」
 しかし、来栖はもう片方の手で指を鳴らし、その場にある人物たちを招集させる。その顔触れは、レイジーの心を揺さぶるには十分であり、視線が一瞬ブレた。
「この者たちは、新たな幹部候補となりうる存在四名です。私が有志を募った結果こういう人員となったのですが……顔見知りでもいましたか」
「……どういうことかしら。私には一切理解できな――――」
 白を切るレイジーであったが、当人が呼び掛けた一言で、意識がそちらに持っていかれた。
「……『頭目』、もう諦めてよ」
「――――え??」
 ついに牙城が崩れたレイジー。その一瞬の隙をつかれることとなる。
「おや、おやおやおや?? 頭目だなんて、『教会』では呼ばれていない呼び名のはず。なぜ……その単語に反応してしまったのですか? 少なくとも、頭目と呼ばれるのは……そうですね、どこかの忍者風情の長がそう呼ばれているような気がしますが」
「――――お前、何をした」
「どうということはありません、貴女を頂点の座から引きずり落とすための策でございますゆえ」
 手を放す来栖であったが、新たにレイジーに向けたものは、本部直々からのしっぽ切り、支部長の席からの勘当宣言。まさに、退所届であった。
「今までの裏切り行為含め、貴女に居場所はないと判断したようですね。山梨支部の発展含めた、これまでの功績温情込め、ここで命を取ることはしませんが……これ以上山梨県の闇を探ることは止めた方がいいでしょうね」
 ここで見逃すことは、通常ならあり得ないことであることは認識していた。それなりの裏切り行為を働いた者が至る未来は、世の中からの抹消以外にない。しかし、眼前の存在は生かすことを選択したのだ。
 それは、ここで殺すこと以外にて絶望を与えることが目的なのだろう。
「――近いうち、後悔するぞ」
「どうぞ、私たちを存分に後悔させてください。貴女のようなお山の大将が、私を出し抜けるとは思いませんが。新たに山梨支部の頂点に立つ存在……来栖・F・善吉を――絶望させてくださいよ」
 自身のPCのみを手に持ち、支部長室から去るレイジー。その姿を黙って見送る幹部四人と来栖。実に愉快と言わんばかりに笑いを堪えながら。
「……事態は徐々に動き始めた。どうせレイジーは我々山梨支部に喧嘩を売るでしょう。そのために……」
 計画を伝え聞かせる来栖。その場にいた幹部連中は眼前の男が、どれほど性根の腐った存在かを再認識するも、そうでなければ自分たちのリーダーにはふさわしくないと思えてしまったのだ。
 ハンムラビ法典よろしく、『目には目を、歯には歯を』。同じ概念をぶつけ、どちらが優れているかを示すのみである。
「私たちは、この山梨の繁栄≪いま≫をそのままにしたい。あわよくばそのまま発展をしたい。だからこそ――――その繁栄を無碍にする英雄たちを許すわけにはいかないのですよ。五斂子社が世界に誇る企業として……名を轟かせるまで」
 事態は、次第にうねりを増し。やがて取り返しのつかない事態にまで発展する。
 真実は、すぐそこにて大口を開け、全てを呑み込まんとするのみであった。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第百七十七話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 『教会』山梨支部、支部長室にて。
 何とかして山梨支部全体の暴走を止めるべく、しのびの里の頭目として動いていたのだが、そのパソコン作業の手を止めざるを得なかった。理由は、来訪者。その部屋にノックと共に入ってきたのは――他でもない来栖であった。
「どうも、レイジー支部長。五斂子社に侵入してきた英雄陣営の追い返しに成功しました。『一部』戦闘員が死亡しましたが……必要な犠牲でした」
「――そう。じゃあ引き続いて英雄陣営を山梨から追い返す努力に励むように。私は色々作業があるから、早々に退出して――」
 来栖がにいと歪に笑うと、彼女の手を乱暴に掴み、壁に押し付ける。
「……何をするの? 支部長相手に性的暴行でも企むつもり?」
「いえ、一つ人伝に聞いた話がありまして。どうやらこの山梨支部に|諜報員《スパイ》が紛れ込んでいる情報がタレこまれたのです」
 一切の平静を崩すことなく、不愉快に掴まれた手を解くべく、レイジーは来栖の手首を囚われていない方の手で折れる寸前まで強く握りしめる。
「――そう。それで私に反旗を翻そうって訳? いくら何でもこじつけが幼稚過ぎないかな。私は一つの支部を背負って立つ支部長よ、貴方ごとき幹部に負けるほど落ちぶれてはいないのよ」
「そう――ですか」
 しかし、来栖はもう片方の手で指を鳴らし、その場にある人物たちを招集させる。その顔触れは、レイジーの心を揺さぶるには十分であり、視線が一瞬ブレた。
「この者たちは、新たな幹部候補となりうる存在四名です。私が有志を募った結果こういう人員となったのですが……顔見知りでもいましたか」
「……どういうことかしら。私には一切理解できな――――」
 白を切るレイジーであったが、当人が呼び掛けた一言で、意識がそちらに持っていかれた。
「……『頭目』、もう諦めてよ」
「――――え??」
 ついに牙城が崩れたレイジー。その一瞬の隙をつかれることとなる。
「おや、おやおやおや?? 頭目だなんて、『教会』では呼ばれていない呼び名のはず。なぜ……その単語に反応してしまったのですか? 少なくとも、頭目と呼ばれるのは……そうですね、どこかの忍者風情の長がそう呼ばれているような気がしますが」
「――――お前、何をした」
「どうということはありません、貴女を頂点の座から引きずり落とすための策でございますゆえ」
 手を放す来栖であったが、新たにレイジーに向けたものは、本部直々からのしっぽ切り、支部長の席からの勘当宣言。まさに、退所届であった。
「今までの裏切り行為含め、貴女に居場所はないと判断したようですね。山梨支部の発展含めた、これまでの功績温情込め、ここで命を取ることはしませんが……これ以上山梨県の闇を探ることは止めた方がいいでしょうね」
 ここで見逃すことは、通常ならあり得ないことであることは認識していた。それなりの裏切り行為を働いた者が至る未来は、世の中からの抹消以外にない。しかし、眼前の存在は生かすことを選択したのだ。
 それは、ここで殺すこと以外にて絶望を与えることが目的なのだろう。
「――近いうち、後悔するぞ」
「どうぞ、私たちを存分に後悔させてください。貴女のようなお山の大将が、私を出し抜けるとは思いませんが。新たに山梨支部の頂点に立つ存在……来栖・F・善吉を――絶望させてくださいよ」
 自身のPCのみを手に持ち、支部長室から去るレイジー。その姿を黙って見送る幹部四人と来栖。実に愉快と言わんばかりに笑いを堪えながら。
「……事態は徐々に動き始めた。どうせレイジーは我々山梨支部に喧嘩を売るでしょう。そのために……」
 計画を伝え聞かせる来栖。その場にいた幹部連中は眼前の男が、どれほど性根の腐った存在かを再認識するも、そうでなければ自分たちのリーダーにはふさわしくないと思えてしまったのだ。
 ハンムラビ法典よろしく、『目には目を、歯には歯を』。同じ概念をぶつけ、どちらが優れているかを示すのみである。
「私たちは、この山梨の繁栄≪いま≫をそのままにしたい。あわよくばそのまま発展をしたい。だからこそ――――その繁栄を無碍にする英雄たちを許すわけにはいかないのですよ。五斂子社が世界に誇る企業として……名を轟かせるまで」
 事態は、次第にうねりを増し。やがて取り返しのつかない事態にまで発展する。
 真実は、すぐそこにて大口を開け、全てを呑み込まんとするのみであった。