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第四部 85話 S級冒険者たち

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 王都の主力が新国の主力と睨み合っている頃。
 一番街から四番街の門を守るように兵が配置されていた。

 主力に比べれば、決して多くはない数。
 三組織の混成部隊である。

 ナタリーから聞いた『ドワーフの大空洞』の『扉』は監視している。
 彼らはそこから出てくる鬼を迎え撃つ役割だった。

 王都近くに『扉』がある以上、下手に離れることはできない。
 王都の近くを新国との主戦場にしようとしているのも同様の理由からだ。

 今、まさに鬼たちと衝突しようとしていた。



「……急に呼び戻されたと思ったら、すぐに戦うなんて思わなかったわよ」
「いやぁ、『聖女』がいなきゃ始まらないだろう」

 フェリスはそうぼやくと、隣のラルフをちらりと見た。
 ラルフは視線を泳がせながら、軽い調子で返す。

 フェリスとガロシュ三兄弟はレンブラント襲撃後、急いで王都に呼び戻されたのだった。それからあまり日を開けずに戦うこととなっていた。

「はっはっは! そう怒るなよ、フェリス。
 レンブラントの自宅と財産が焼け落ちたからって八つ当たりは良くないぞ」

「あ、そうだ。フェリスのファンクラブから寄付金を預かってるんだ。
 聖女の家を復興させてくれってな……結構な額なんだぜ?」

「俺たちが監修して、しっかりと再現してやるよ。
 良かったな。お前の家は元通りになるぞ」

 ガロシュ三兄弟が口々にそう言った。
 途端にフェリスは目の色を変える。

「本当に!? 私に家をプレゼントしてくれるの!?」
 フェリスが喜びを体現するようにその場で飛び跳ねた。

「? いや、違うぞ。家がもらえるはずないだろう」
「そうそう、フェリスの家を再現するだけだ」
「ああ、そこを観光地『聖女の家』として無料開放するんだ」

 ガロシュ三兄弟が「何言ってるんだ?」と言う顔でフェリスを見た。
 フェリスは「やったぁ!」と跳んだままで動きを止める。

「なんだそれ!? 流石に意味が分からない!
 焼け落ちた私の家を復元するってのに、私はそこに住めないの!?」

 フェリスが叫んだ。それを周囲の兵は気まずそうに眺めている。
 しかし、ガロシュ三兄弟は「心外だ」と顔を曇らせる。

「住んじゃ駄目なんて言ってないだろ」
「ああ、フェリスは特別に生活して良いことになってる」
「ただし、さっき言った通り、観光地として無料開放するけどな」
「ほんと!? や……?」

 ガロシュ三兄弟は「良かったな」なんて頷いた。
 フェリスは一度、「やったー」と喜び掛けてから首を傾げる。

「……良いわけあるかぁ! 私の生活が無料開放されてるじゃない!?
 あ! 観光地『聖女の家』って私自身も含めてるわね!?」

 いつの間にか、自分の生活が観光地の一部として無料開放されそうになっていて、驚愕するフェリス。要は見世物小屋である。

 ガロシュ三兄弟は「バレたか……」と項垂れている。
 だがすでにフェリスの焼けた家の内装は全て伝わっていた。

「……お前ら、来るぞ」

 ラルフが溜息と一緒に呟いた。
 すでに、鬼たちは目前にまで迫っている。

 レンブラントの一件については責任も感じているため、彼も強くは出れないのだった。

「ああ、もう!」

 フェリスが足を強く踏み鳴らす。
 まるで地団太のような、その衝撃を中心に風が逆巻いた。
 
「……!」
 周囲の兵士たちから驚いた声が上がる。

 聖女の各種スキルによる身体能力向上である。
 さらに、フェリスは前に踏み出した。

 彼女は戦闘能力は何も持たないが、常に最前線に立っていた。
 そして、そのスキルの数々を使って周囲の兵士をサポートする。

 親しみやすさも相まって、その人望は凄まじいものがあった。
 組合からの信頼も厚い。この部隊の兵数が少ないのは彼女がいるからだ。

 当然、敵もそれは分かっている。
 彼女目掛けて、鬼たちが殺到した。

「がはは! それは出来ないんだな!」
「そうだな、少なくとも成功したことはない」
「そのためだけに俺たち三人がいるからな」

 それをガロシュ三兄弟は次々と吹き飛ばしていった。
 大剣、大斧、片手剣に盾、と三人はそれぞれに武装している。

 彼らのスキルは『共有』という。
 三人がそれぞれに思考や感覚を共有することが出来るのだ。

 この状態であれば、一人一人がS級冒険者である。
 視覚による補完はもちろん、攻撃のタイミングなども完璧に合わせてくる。
 
 そして、彼らの言う通り、その役割はフェリスの護衛のみだ。
 当然、フェリスのスキルは彼らにも掛かっている。

 フェリスとその周囲を固めるガロシュ三兄弟。
 ましてや、生半可な傷はすぐに治療される。

 ……この陣形が崩せないのだった。

「はぁ、いつも俺は軽く見られるんだよなぁ……」

 上空からの声。
 いつの間にか空中に漂っていたラルフが鬼の集団に狙いを定める。

 直後、雷撃の雨が鬼たちに降り注いだ。



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 王都の主力が新国の主力と睨み合っている頃。
 一番街から四番街の門を守るように兵が配置されていた。
 主力に比べれば、決して多くはない数。
 三組織の混成部隊である。
 ナタリーから聞いた『ドワーフの大空洞』の『扉』は監視している。
 彼らはそこから出てくる鬼を迎え撃つ役割だった。
 王都近くに『扉』がある以上、下手に離れることはできない。
 王都の近くを新国との主戦場にしようとしているのも同様の理由からだ。
 今、まさに鬼たちと衝突しようとしていた。
「……急に呼び戻されたと思ったら、すぐに戦うなんて思わなかったわよ」
「いやぁ、『聖女』がいなきゃ始まらないだろう」
 フェリスはそうぼやくと、隣のラルフをちらりと見た。
 ラルフは視線を泳がせながら、軽い調子で返す。
 フェリスとガロシュ三兄弟はレンブラント襲撃後、急いで王都に呼び戻されたのだった。それからあまり日を開けずに戦うこととなっていた。
「はっはっは! そう怒るなよ、フェリス。
 レンブラントの自宅と財産が焼け落ちたからって八つ当たりは良くないぞ」
「あ、そうだ。フェリスのファンクラブから寄付金を預かってるんだ。
 聖女の家を復興させてくれってな……結構な額なんだぜ?」
「俺たちが監修して、しっかりと再現してやるよ。
 良かったな。お前の家は元通りになるぞ」
 ガロシュ三兄弟が口々にそう言った。
 途端にフェリスは目の色を変える。
「本当に!? 私に家をプレゼントしてくれるの!?」
 フェリスが喜びを体現するようにその場で飛び跳ねた。
「? いや、違うぞ。家がもらえるはずないだろう」
「そうそう、フェリスの家を再現するだけだ」
「ああ、そこを観光地『聖女の家』として無料開放するんだ」
 ガロシュ三兄弟が「何言ってるんだ?」と言う顔でフェリスを見た。
 フェリスは「やったぁ!」と跳んだままで動きを止める。
「なんだそれ!? 流石に意味が分からない!
 焼け落ちた私の家を復元するってのに、私はそこに住めないの!?」
 フェリスが叫んだ。それを周囲の兵は気まずそうに眺めている。
 しかし、ガロシュ三兄弟は「心外だ」と顔を曇らせる。
「住んじゃ駄目なんて言ってないだろ」
「ああ、フェリスは特別に生活して良いことになってる」
「ただし、さっき言った通り、観光地として無料開放するけどな」
「ほんと!? や……?」
 ガロシュ三兄弟は「良かったな」なんて頷いた。
 フェリスは一度、「やったー」と喜び掛けてから首を傾げる。
「……良いわけあるかぁ! 私の生活が無料開放されてるじゃない!?
 あ! 観光地『聖女の家』って私自身も含めてるわね!?」
 いつの間にか、自分の生活が観光地の一部として無料開放されそうになっていて、驚愕するフェリス。要は見世物小屋である。
 ガロシュ三兄弟は「バレたか……」と項垂れている。
 だがすでにフェリスの焼けた家の内装は全て伝わっていた。
「……お前ら、来るぞ」
 ラルフが溜息と一緒に呟いた。
 すでに、鬼たちは目前にまで迫っている。
 レンブラントの一件については責任も感じているため、彼も強くは出れないのだった。
「ああ、もう!」
 フェリスが足を強く踏み鳴らす。
 まるで地団太のような、その衝撃を中心に風が逆巻いた。
「……!」
 周囲の兵士たちから驚いた声が上がる。
 聖女の各種スキルによる身体能力向上である。
 さらに、フェリスは前に踏み出した。
 彼女は戦闘能力は何も持たないが、常に最前線に立っていた。
 そして、そのスキルの数々を使って周囲の兵士をサポートする。
 親しみやすさも相まって、その人望は凄まじいものがあった。
 組合からの信頼も厚い。この部隊の兵数が少ないのは彼女がいるからだ。
 当然、敵もそれは分かっている。
 彼女目掛けて、鬼たちが殺到した。
「がはは! それは出来ないんだな!」
「そうだな、少なくとも成功したことはない」
「そのためだけに俺たち三人がいるからな」
 それをガロシュ三兄弟は次々と吹き飛ばしていった。
 大剣、大斧、片手剣に盾、と三人はそれぞれに武装している。
 彼らのスキルは『共有』という。
 三人がそれぞれに思考や感覚を共有することが出来るのだ。
 この状態であれば、一人一人がS級冒険者である。
 視覚による補完はもちろん、攻撃のタイミングなども完璧に合わせてくる。
 そして、彼らの言う通り、その役割はフェリスの護衛のみだ。
 当然、フェリスのスキルは彼らにも掛かっている。
 フェリスとその周囲を固めるガロシュ三兄弟。
 ましてや、生半可な傷はすぐに治療される。
 ……この陣形が崩せないのだった。
「はぁ、いつも俺は軽く見られるんだよなぁ……」
 上空からの声。
 いつの間にか空中に漂っていたラルフが鬼の集団に狙いを定める。
 直後、雷撃の雨が鬼たちに降り注いだ。