まだ夜も明けきらないような早朝。
ナタリーは『扉』を少しだけ開けて、ピノを飛ばした。
すぐにピノは報告に戻って来た。
単純な情報収集ではピノの能力は群を抜いている。
ナタリーは地上の情報を得ると、すぐに作戦を構築していった。
すでにゼノの位置まで把握しているようだ。
「うん。白鬼と黒鬼も一緒だね」
確認するように要点を確認して、作戦を俺たちに伝える。
「まずはあたしたちは地上に出て、ゼノ達の近くに陣取ろう。
次にクロードさんに襲撃を掛けてもらう」
「……流石に危険じゃないか?」
俺が咄嗟に訊き返す。クロードを囮に使うことになる。
しかし、ナタリーは首を左右に振った。
「そこはなるべく兵が多いと思わせる。
目的は時間稼ぎなんだから、最悪でも逃げ回ってくれれば良い」
「あの人も苦労人だなぁ」
ナタリーの言い草に俺は思わずぼやいてしまった。
なんというか、仕事を押し付けられる中間管理職だ。
「で、意識がそちらへと向いた瞬間に仕掛ける」
「……なるほど。大筋は連合の時と同じだな?」
ナタリーの作戦に俺が訊き返すと、すぐに頷きが返ってくる。
連合の交流会と同じだ。あの時と違うのは相手はこちらを認識していないはず、というところか。
さらにピノをこき使って、ナタリーはクロードと連絡を取ったらしい。
ピノが過労死しそうだった。使い魔を過労死させるって、えげつない気がする。
そうして、俺たちは『ドワーフの大空洞』から外に出た。
予想通り、外は深い森だった。
『エルフの大森林』ということなのだろう。
『扉』は大きな樹の根本に隠されていたらしい。
しかし、少し進むと城下町に入る。
検問などがないことを考えると、『扉』は都市内に位置するということか。
俺たちは薄汚れたローブで体を隠しながら、城下町を目立たないようにすすむ。幸い、早朝ということもあって都市内の警備は厳しくないようだった。
「……へえ」
アリスが興味深そうに声を出した。
都市の住居は樹を拡張する形で作られていた。
足場を作り、屋根を作る。その様子はハーフエルフのイメージに合っていた。
自然と見上げる形になる。しかし、アリスの目を引いたのは王城の方だろう。
中心にある王城は高くて立派な城壁で囲まれていて、王都のものと遜色がない。
それでも大きく違う点は、王城の中心を貫くように一際大きな樹が立っていたところだろう。樹を元に作られた住居と同じく、樹を元に作られた城なのだ。
「……あそこか?」
「……それが面白いことに違うのよ」
俺が王城を示して言うと、ナタリーは悪戯っぽく笑う。
目的地は王城ではないようだ。
ナタリーの先導に従って、城下町を歩いていく。
やがて王城から離れていき、最後は城下町の中心からも離れていった。
辿り着いたのは、一軒の屋敷だった。
外からは他の民家と違いはない。
ナタリーはその家を視界に収めると、小さく笑って近くの樹の影へと身をひそめた。俺たちは後を追う。
「用心深いのが裏目に出たね。わざわざ離れにいるみたいだ。
白鬼と一緒にいるから間違いない。あのお城にいるのは影武者かな」
「ああ、なるほど!
白鬼の下っ端ってことだね。確かに影武者にはぴったりだ」
ナタリーがそう言うと、アリスはぽん、と納得したように手を打った。
そうか。白鬼部隊を使った影武者か……この場合は逆効果だが。
最後にナタリーはミアをちらりと見る。
ミアはすぐに頷いた。
「確かに、白鬼はあの屋敷にいるっすね」
「よし、後は後続の動きを待とう」
ナタリーが頷いて、俺たちは身を潜めることになった。
待っていると、王都の方が心配になってくる。
……今頃は既にぶつかり合っているだろう。