烈戦

ー/ー



「どうした女神アドミスの代行者。そんなもんか?」

 一方的に攻めているダークは速さもさることながら、パワーもさっきまでとは違う。ハヤトはどうにか防いではいるけれど、構える盾が右に左に弾かれて堅固な守りとは言い難い。明らかに格上な戦いをするこいつのレベルはいったいどれほどなのか。

 通常のプレイヤーでも相手のレベルを知ることはできない。【洞察】のスキルを鍛えることで相手のステータスが見えるけど、【隠蔽】のスキルによって隠すこともできる。その相手が女神の私であってもだ。だが……。

神聖力(ジュエール)を使った御業を舐めんな!」

 【女神の瞳】(ダンジョン深く潜った先や、隠された何かを見通せる)

 ダークを覆うガラスが割れて表示されたレベルに、私の肝は一気に冷えた。

「高すぎでしょ!」

 四十八という数字がこれほど大きく見えたのは初めてだった。

 ハヤトのレベルは三十二。現状のレベルキャップは四十なのにそれを超えたプレイヤーが存在することがありえない。

 【聖獣の加護・極】という、とんでもないパッシブスキルのおかげで、ハヤトは同レベル帯のプレイヤーよりアビリティが高い。だけど、十以上のレベル差と高い等級装備の相手が本気になれば、この展開はとうぜんのこと。

「やばい、やばいよ。絵美ちゃん。助けに来て」
「ダッシュで向かってますけど、あたしの杖は壊れて使えませんからね」

 絶大な威力の魔法に耐えきれずに杖が焼けてしまったエナコの魔法は当てにできない。頼みの綱のサーラちゃんの白魔術もヒールが一回程度だという。これは厳しい状況だ。

 酷い惨状となった町には町民とモンスターが倒れていて、そこかしこで戦いは続いている。でも、町に到着したばかりのときより幾分静かになった気がするのは、ダンジョンブレイクのことを知ったプレイヤーが、スマホから簡易ログインをして町の防衛に参加してくれたからだろう。

 これは、ダンジョンブレイクの被害を受けている町からログアウトした人だけの方法だ。自動戦闘になるので戦闘能力は大きく下がるけど、ゲーム機やパソコンがない外出先からでも町の防衛に参加ができる。ありがたいことに、たとえ死んでしまってもデスペナルティがない。

「町のことは他のプレイヤーに任せて、サクさんがダンジョンボスを倒すことを信じよう」
「ハヤトさんはどうなんですか?」
「大ピンチだって。早く助けにいかないといけないのだけど……なんか本当に息が切れてるようなぁ。なんでか辛く感じるんだけど」
「実はぁ、わたしもなんですぅ」

 大魔術の後遺症で体力値が半減しているサーラちゃんと、もともとスタミナの少ないエナコは最高速度で走り続けることができない。高まる緊張がそう思わせてるの?

 こんなふたりがハヤトのもとに辿り着いても、たいした援護はできないだろう。だからといってハヤトをひとりにはさせない! 声援だって力になる。

 変わらず防戦一方のハヤトは精神的には落ち着いていた。きっと数々の危機を乗り越えてきたことで強くなったんだね。

 そのハヤトの命を狙うダークと名乗るこいつが言ったことが引っかかる。NPC狩りの目的や女神の代行者の意味。それとゲームじゃ動きの制限があると言ったことだ。その疑問のひとつをハヤトが投げかけた。

「てめぇも女神の代行者って奴か?」
「さぁな」
「代行者ってのはゲームに召喚された奴って意味か?」
「話すのは俺に勝ったらって言っただろ」
「なんで俺を狙う。ゲームで死んだら本当に死ぬって知ってるんだろ!」
「…………」

 やっぱりこいつは答える気がないようだ。だったらぶっ倒して聞き出してやれ。こんなイーヴィル野郎に負けんな!

 そうは言ってもこいつの強さはレベルのとおりで格が違う。レベル十くらいの差を埋めるほどの強さのサクさんであっても勝てなかったダークが相手だ。ハヤトが勝てるかは疑わしい。できるならサクさんと共闘して挑んでほしいのだけど、彼はダンジョンボスとの戦いにおいて主戦力だ。そこから離れてしまうと町は壊滅してしまいかねない。もし倒してから駆け付けてくれたとしても、数十分のあいだは最大戦闘力は発揮できないくらい消耗しているはずだ。

「理不尽だ。なんでこんなにもうまくいかないのよ!」

 ゲームの中に召喚されただけでも異常なことなのに、生き残ることにもゲームからの解放にも邪魔が入る。このダークもその要因のひとつだ。私はあらゆる感情を怒りへ集約し、ダークに向かって振りかざした。

 【女神の憤怒】(落雷による大ダメージ、行動制度低下:大、効果時間:一分)『千(ジュエール)』~一万(ジュエール)

 暗くなった空に雷光が瞬き、雷鳴が轟く。回避不能な憤怒の稲妻をダークへと落として焼き焦がす、はずだった。

「なんでよ……」

 ダークは何事もなかったように無傷で立っている。

「残念だったな。女神の代行者に御業は無効だ」

 私は心が折れそうだ。なのにハヤトは動揺することもなく果敢にダークに向かっていく。悲嘆にも暮れずにこの世界で生き、ゲームの世界からの解放の機会を失った今も他人のために戦っている。その表情からは悲観の色も感じない。

 【女神の救命】(HPがレッドゾーンのとき、ダメージ三十%減、効果時間:小)

 ジリジリと削られたHPがとうとうレッドゾーンに突入した。防戦ながらも一気に勝負がつく展開ではないのはダークが手を抜いているからか。それでも決着が近づいていることには違いない。ハヤトの敗北という結末の決着が。

 ダークは素早い動きで間合いを外して距離を取り、左手を突き出した。

「吹き荒べ 魔女の吐息
 その冷笑に魅せられし者に
 幸福な死を
 コルディライス」

 手首の魔具が呪文に反応して怪しく光り、ハヤトの前髪を優しい風が撫でた。その直後、極寒の吹雪が勢いよく巻き上がった。

「ハヤトさーん」

 身体を小さく丸めてボロボロの盾に身をひそめるハヤトのHPが、レッドゾーンに向かって落ちていくさなか、駆け付けたサーラちゃんが吹雪の中に飛び込んだ。

「照らせ、太陽の恵みよ
 か弱き者の活力と成れ
 ライティングケアリオーラ」

 彼女の使った最後の癒しがハヤトのHPを伸ばしていくけれど、反対にサーラちゃんのHPが物凄い勢いで減少している。

「やばいぃぃぃぃ!」

 私が叫んだ直後、追いついてきたエナコが吹雪に向かって飛び込んだ。

「んなろ!」

 腕を掴まれ引っこ抜かれたサーラちゃんのHPゲージは、赤く点滅する危ういところで減少速度を落として止まった。

「ナイスだエナコ!」

 だけど、喜んでいる場合ではない。ハヤトのピンチは変わらないのだから。

 『ハヤトのステータスが【運動能力低下】です』

 なかなか脱せない劣勢を打破する答えは出ずに冷や汗が出る。

 イエローゾーンを超えて傷が癒えたハヤトだけど、身体を覆うほどの霜が運動能力の低下を起こさせ動きが悪い。それを見て嬉しそうに笑ったダークが血糊のついた剣を振り上げた直後、エナコの活舌の良い早口と叫び声が私の鼓膜を突き刺した。

「ファイムフレアー!」

 高速詠唱された二節の呪文によって炎の波がハヤト諸共ダークを飲み込んだ。

「熱っちーな」

 サーラちゃんの杖を使ったエナコの魔法がダークを怯ませ身を引かせた。

 『ハヤトの【運動機能低下】が解除されました』

 エナコの魔法はハヤトの魔法耐性が威力を削ぎつつも、冷却による運動機能低下を解除した。

「うらぁ!」

 まるで決められていたかのような連携で瞬時に攻撃に転じるハヤトは、カリカリに強化した剣で等級の高そうな緑の鎧にふたつの傷を刻んだ。

 ピンチからチャンスへ。今一歩足りなかったけれど、その好機を作ったのはエナコの魔法だ。

「あんた、三対一だってわかってる?」

 著しく低下した魔力と底を突いたMPながら、エナコは杖をダークに向けて威嚇する。このハッタリはダークの動きを抑制し、ハヤトの援護となった。



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「どうした女神アドミスの代行者。そんなもんか?」
 一方的に攻めているダークは速さもさることながら、パワーもさっきまでとは違う。ハヤトはどうにか防いではいるけれど、構える盾が右に左に弾かれて堅固な守りとは言い難い。明らかに格上な戦いをするこいつのレベルはいったいどれほどなのか。
 通常のプレイヤーでも相手のレベルを知ることはできない。【洞察】のスキルを鍛えることで相手のステータスが見えるけど、【隠蔽】のスキルによって隠すこともできる。その相手が女神の私であってもだ。だが……。
「|神聖力《ジュエール》を使った御業を舐めんな!」
 【女神の瞳】(ダンジョン深く潜った先や、隠された何かを見通せる)
 ダークを覆うガラスが割れて表示されたレベルに、私の肝は一気に冷えた。
「高すぎでしょ!」
 四十八という数字がこれほど大きく見えたのは初めてだった。
 ハヤトのレベルは三十二。現状のレベルキャップは四十なのにそれを超えたプレイヤーが存在することがありえない。
 【聖獣の加護・極】という、とんでもないパッシブスキルのおかげで、ハヤトは同レベル帯のプレイヤーよりアビリティが高い。だけど、十以上のレベル差と高い等級装備の相手が本気になれば、この展開はとうぜんのこと。
「やばい、やばいよ。絵美ちゃん。助けに来て」
「ダッシュで向かってますけど、あたしの杖は壊れて使えませんからね」
 絶大な威力の魔法に耐えきれずに杖が焼けてしまったエナコの魔法は当てにできない。頼みの綱のサーラちゃんの白魔術もヒールが一回程度だという。これは厳しい状況だ。
 酷い惨状となった町には町民とモンスターが倒れていて、そこかしこで戦いは続いている。でも、町に到着したばかりのときより幾分静かになった気がするのは、ダンジョンブレイクのことを知ったプレイヤーが、スマホから簡易ログインをして町の防衛に参加してくれたからだろう。
 これは、ダンジョンブレイクの被害を受けている町からログアウトした人だけの方法だ。自動戦闘になるので戦闘能力は大きく下がるけど、ゲーム機やパソコンがない外出先からでも町の防衛に参加ができる。ありがたいことに、たとえ死んでしまってもデスペナルティがない。
「町のことは他のプレイヤーに任せて、サクさんがダンジョンボスを倒すことを信じよう」
「ハヤトさんはどうなんですか?」
「大ピンチだって。早く助けにいかないといけないのだけど……なんか本当に息が切れてるようなぁ。なんでか辛く感じるんだけど」
「実はぁ、わたしもなんですぅ」
 大魔術の後遺症で体力値が半減しているサーラちゃんと、もともとスタミナの少ないエナコは最高速度で走り続けることができない。高まる緊張がそう思わせてるの?
 こんなふたりがハヤトのもとに辿り着いても、たいした援護はできないだろう。だからといってハヤトをひとりにはさせない! 声援だって力になる。
 変わらず防戦一方のハヤトは精神的には落ち着いていた。きっと数々の危機を乗り越えてきたことで強くなったんだね。
 そのハヤトの命を狙うダークと名乗るこいつが言ったことが引っかかる。NPC狩りの目的や女神の代行者の意味。それとゲームじゃ動きの制限があると言ったことだ。その疑問のひとつをハヤトが投げかけた。
「てめぇも女神の代行者って奴か?」
「さぁな」
「代行者ってのはゲームに召喚された奴って意味か?」
「話すのは俺に勝ったらって言っただろ」
「なんで俺を狙う。ゲームで死んだら本当に死ぬって知ってるんだろ!」
「…………」
 やっぱりこいつは答える気がないようだ。だったらぶっ倒して聞き出してやれ。こんなイーヴィル野郎に負けんな!
 そうは言ってもこいつの強さはレベルのとおりで格が違う。レベル十くらいの差を埋めるほどの強さのサクさんであっても勝てなかったダークが相手だ。ハヤトが勝てるかは疑わしい。できるならサクさんと共闘して挑んでほしいのだけど、彼はダンジョンボスとの戦いにおいて主戦力だ。そこから離れてしまうと町は壊滅してしまいかねない。もし倒してから駆け付けてくれたとしても、数十分のあいだは最大戦闘力は発揮できないくらい消耗しているはずだ。
「理不尽だ。なんでこんなにもうまくいかないのよ!」
 ゲームの中に召喚されただけでも異常なことなのに、生き残ることにもゲームからの解放にも邪魔が入る。このダークもその要因のひとつだ。私はあらゆる感情を怒りへ集約し、ダークに向かって振りかざした。
 【女神の憤怒】(落雷による大ダメージ、行動制度低下:大、効果時間:一分)『千|J《ジュエール》』~一万|J《ジュエール》』
 暗くなった空に雷光が瞬き、雷鳴が轟く。回避不能な憤怒の稲妻をダークへと落として焼き焦がす、はずだった。
「なんでよ……」
 ダークは何事もなかったように無傷で立っている。
「残念だったな。女神の代行者に御業は無効だ」
 私は心が折れそうだ。なのにハヤトは動揺することもなく果敢にダークに向かっていく。悲嘆にも暮れずにこの世界で生き、ゲームの世界からの解放の機会を失った今も他人のために戦っている。その表情からは悲観の色も感じない。
 【女神の救命】(HPがレッドゾーンのとき、ダメージ三十%減、効果時間:小)
 ジリジリと削られたHPがとうとうレッドゾーンに突入した。防戦ながらも一気に勝負がつく展開ではないのはダークが手を抜いているからか。それでも決着が近づいていることには違いない。ハヤトの敗北という結末の決着が。
 ダークは素早い動きで間合いを外して距離を取り、左手を突き出した。
「吹き荒べ 魔女の吐息
 その冷笑に魅せられし者に
 幸福な死を
 コルディライス」
 手首の魔具が呪文に反応して怪しく光り、ハヤトの前髪を優しい風が撫でた。その直後、極寒の吹雪が勢いよく巻き上がった。
「ハヤトさーん」
 身体を小さく丸めてボロボロの盾に身をひそめるハヤトのHPが、レッドゾーンに向かって落ちていくさなか、駆け付けたサーラちゃんが吹雪の中に飛び込んだ。
「照らせ、太陽の恵みよ
 か弱き者の活力と成れ
 ライティングケアリオーラ」
 彼女の使った最後の癒しがハヤトのHPを伸ばしていくけれど、反対にサーラちゃんのHPが物凄い勢いで減少している。
「やばいぃぃぃぃ!」
 私が叫んだ直後、追いついてきたエナコが吹雪に向かって飛び込んだ。
「んなろ!」
 腕を掴まれ引っこ抜かれたサーラちゃんのHPゲージは、赤く点滅する危ういところで減少速度を落として止まった。
「ナイスだエナコ!」
 だけど、喜んでいる場合ではない。ハヤトのピンチは変わらないのだから。
 『ハヤトのステータスが【運動能力低下】です』
 なかなか脱せない劣勢を打破する答えは出ずに冷や汗が出る。
 イエローゾーンを超えて傷が癒えたハヤトだけど、身体を覆うほどの霜が運動能力の低下を起こさせ動きが悪い。それを見て嬉しそうに笑ったダークが血糊のついた剣を振り上げた直後、エナコの活舌の良い早口と叫び声が私の鼓膜を突き刺した。
「ファイムフレアー!」
 高速詠唱された二節の呪文によって炎の波がハヤト諸共ダークを飲み込んだ。
「熱っちーな」
 サーラちゃんの杖を使ったエナコの魔法がダークを怯ませ身を引かせた。
 『ハヤトの【運動機能低下】が解除されました』
 エナコの魔法はハヤトの魔法耐性が威力を削ぎつつも、冷却による運動機能低下を解除した。
「うらぁ!」
 まるで決められていたかのような連携で瞬時に攻撃に転じるハヤトは、カリカリに強化した剣で等級の高そうな緑の鎧にふたつの傷を刻んだ。
 ピンチからチャンスへ。今一歩足りなかったけれど、その好機を作ったのはエナコの魔法だ。
「あんた、三対一だってわかってる?」
 著しく低下した魔力と底を突いたMPながら、エナコは杖をダークに向けて威嚇する。このハッタリはダークの動きを抑制し、ハヤトの援護となった。