ナタリーの後に続いて、森の中を進む。
記憶は鮮明に戻ったらしい。足取りに迷いはなかった。
メンバーは全員……と言いたいところだが、ソニア婆さんだけは置いて来た。
どうしても付いていくと聞かなかったが、流石に体力的に難しい。
そこでナタリーが得意の口八丁で説得した。
今頃はナタリーの言葉を信じて、健気にティアナの囮役をしているはず。
まるで、ティアナと一緒に潜伏しているかのように振舞っているのだ。
いや、実際のところ、青鬼から見ると時間の無駄だから有効な手なんだけど……ナタリーの恐ろしいところである。
何せ「実際に青鬼が来たらどうするんだ?」と訊けば「いや、実際は来ないでしょ」なんて答えるのだ。
先にゼノのところに行くよ、と。
……要するに無駄な囮である。
一時間ほど歩いただろうか。
聞いていた話では、そろそろ『扉』に着く頃だ。
「……ぴ」
小さく鳴いて、先行していたピノがナタリーの元へと戻って来た。
ナタリーの肩に乗ると、いくつか相談をする。
「見張りはいないみたい。
……正直、ひょっとしたらいるかもとは思っていたんだけど」
ナタリーの言葉に安心して、俺たちはさらに先へと急ぐ。
意外とあっさり目的地まで辿り着いた。
「……これは知らないと気付かないっすねぇ」
「でも、ナタリーは昔見つけたんでしょ?」
「流石というか……目敏い?」
ミアが呟くと、アリスと加奈が応じる。
そこは崖の割れ目の奥に隠されているような空間だった。
大の大人が少し身を縮めれば入れる程度の隙間。
しかも、ご丁寧に木々で隠されている。
「あれ? 行き止まりだぞ」
「この割れ目の中に入って……登るのよ」
「? 登る?」
先行した俺が首を傾げると、ナタリーが答える。
だが、その意味は分からない。それでも上を見上げた。
すると、確かに崖の割れ目は上まで続いている。
しかし、せいぜい俺の三倍くらいの高さまでだ。
一見、何もないように見える。
それでも、ナタリーは俺に小さく頷いた。
「……マジか」
言われた通りに登ってみると、巧妙な死角になっている通路があった。
通路は緩やかに下っていて、そのまま進めば崖の割れ目の奥に進めるようだ。
要するに、一見は行き止まりに見えるが、実は段差になっていたということらしい。こんなもの、普通は気付かないだろ。どこまで穿った見方だよ。
俺は登りやすいように、ロープだけ設置すると先に進んだ。
すぐに広場のような空間に出る。広場の壁には目的の『扉』が見えた。
何の模様か、簡単な装飾が施されている。
この向こう側が『ドワーフの大空洞』ということだろう。
全員が広場に入る。
ナタリーに促されて、グレイが一歩前に出た。
「これで開かなかったら笑えるな?」
「……グレイが自分を王族だと勘違いしたことになる」
俺が呟いたら、隣にいたセシルが小さく笑う。
思わず俺も噴き出してしまった。
「あのキャラで自称王子様かぁ」
「……大丈夫。開けば本当に王子様」
「あ、そうか。開けば良いんだな……開けば」
「……うん。友達として陰ながら応援してあげよ。自称は辛い」
『扉』の前で緊張するグレイを他所に俺とセシルが盛り上がっている。
他のメンバーは笑いを堪えているように見えた。
「「せーのっ、王子様頑張ってー」」
「お前ら後で覚えてろよッ!?」
俺とセシルの小さな声援にグレイが半ばキレた様子で言い返す。
ナタリーが「急ぎなさいよ」と言って、グレイは『扉』に触れた。
すると、分かってはいたが『扉』はちゃんと開いた。
グレイはキッと俺たちを睨む。開いても微妙な空気感だった。
中に入ると、そこはすでに洞窟の中と言って良かった。
なるほど。段差を登った後の下り坂で、すでに地下まで下りていたのか。
「この空間が大陸中に張り巡らされていると考えるとすごいな」
「予想以上に『扉』も隠されていますしね……」
俺が中を見回しながら言うと、ティアナが返してくれた。
大峡谷の陰や崖の中だ。簡単には見つからないだろう。
中は薄暗く、少し湿度が高かった。
奥へと続く一本道は先が見通せず、一定間隔で松明が置かれている。
火を灯しながら進むということだろう。
ナタリーは少しの間、道の先を見つめていたが、やがて全員に声を掛けた。
「ゆっくりと進もう。あ、絶対に『扉』は閉じないでね。
後でピノに案内してもらって、後続にも使ってもらうから」