俺たちがセシリー達と話していると、バケット邸の前に馬車が止まった。
どうやらナタリーが戻って来たらしかった。
「あー、面倒くさかったぁ」
馬車から出るなり、第一声がそれだった。
恐らくは参加した会議についてだろう。
相変わらず、良い根性をしている。
……親しいとは言え、魔術師団長の家の前である。
「!」
しかし、続いて馬車から出てきた人たちを見て、驚いた。
フレアとジークが出てきたのだ。
「元気ー?」
「お久しぶりです」
フレアが両手を振って、ジークは頭を下げる。
ちなみにジークが連合の盟主、フレアはその客人である。逆ではない。
「あ……」
「あ……」
次の瞬間、俺とナタリーが同時に声を出した。
俺の方は馬車からニナも出てきたからだ。逆にナタリーはセシリーに気付いたからだろう。
ニナとセシリーは一気に引き寄せられていき、担当者のミアが間に入っていった。お疲れ様です。
「どうしたんだよ、すごいメンバーを連れてるけど」
「実を言うと、今日の会議には二人も参加したんだよね」
「……ぴ」
俺がナタリーに話しかけると、ナタリーがいかにもダルそうに言った。
肩に乗ったピノが窘めるように鳴く。同時に脚でナタリーの頬を足蹴にした。
「で、今まではお忍びだったんだけど、一度くらいは顔見せに来たってわけ」
「数日中に王都を発つことになりそうだからねぇ」
ナタリーの言葉にフレアが笑って応じる。
今日はここに泊まるということだろう。
「王都に来てたんですね」
「はい。本当はもう少し早く訪ねたかったのですが……」
いつの間にやら、ティアナとジークも挨拶をしている。
俺とフレアの挨拶よりも少しだけ上品な気がした。
「ん?」
そこで、ぽんぽんと俺の肩が叩かれる。
振り返ると、セシルが首を傾げていた。
「……誰?」
そりゃそうだ。
初対面に決まっている。
「ああ、俺たちが連合に行った時の……」
「ふんふん」
俺の説明をセシルは小さく頷いて聞いていた。
さらに互いを紹介すると、俺はピノを小さく手招きした。
せっかくだ。
グレイも呼ぼう。
夕方になると、また馬車が止まった。
出てきたのはブラウン団長。この屋敷の主人だった。
「あ、ブラウン団長」
「……これは?」
俺が歩み寄ると、ブラウン団長は俺に説明を求めた。
咄嗟に言い淀んでしまう。その隙に馬車からもう一人、下りてきた。
エリーナだった。最近ではたまにバケット邸に泊まることもあった。
二人だけで来たところを見ると、魔術師団の要件だったのだろうか。
「ははは……すごいことになってるな?」
「……説明を」
エリーナが笑い、ブラウン団長がもう一度俺を見る。
俺は改めて口を開こうとする。
「あの……」
「お、来たな! お邪魔してるぞ!」
俺が言い終わるより先に、別の声が届いた。
……組合長である。すでに軽く飲んでいる。
「どうして集まってるんだ? まさか組合長もいるとは思わなかった」
「ミアから連絡があってな。バケット邸に三国の要人が集まってると」
ブラウン団長が言うと、組合長は事情を説明するように何度も頷いた。
なるほど。確かに一大事だ。組合長が関わるのも無理はない。
「質問の答えになっていない気がするが。
むしろその流れなら、護衛を付けた上で解散を促すように思う」
ブラウン団長がきっぱりと言い切った。正論である。
その視線は組合長の右手にあるグラスへと向けられている。
……少なくとも、酒を飲む理由にはなっていない。
「いや? だから急いでお邪魔しにきたんじゃねえか。まずは状況確認を……」
「本音を」
「おもしれーから参加してやれ」
ブラウン団長の割り込みに、組合長が素直に従った。
わざとらしく「おっと」なんて言いながら、空いた左手で口を覆う。
「ははは! では、私も参加しようかな」
「おう、こちらへどうぞ」
さらにエリーナが悪ノリを重ねる。
組合長が案内を始めて、
ブラウン団長は溜息を吐いた。
……いや、戦力が集中しているから、ある意味安全なんだけどさ。
屋敷の庭は大惨事になっていた。
グレイはジークやフレアから学舎の話を聞いて青くなっている。
セシルが詳しい話を聞いて笑っているようだ。
ナタリーとアリスはティアナに酒を飲ませようとしているらしい。
ソニア婆さんの鉄壁を二人があの手この手で越えようとしている。
ティアナ自身の好奇心を刺激する方法が成功しそうだ。
後で俺も止めに入らないといけない。
ニナとセシリーは相変わらず喧嘩をしているようだ。
しかし、ミアは二人を上手くあしらっている。
……今回は酔い潰す作戦らしい。
交互に酒を勧めてはミアは「うんうん」と頷いている。
ちなみにニナとセシリーはすでに呂律も回っておらず、意識も定かではなさそうだ。部下には見せられないだろう。
それでも二人は争いをやめなかった。
……親の仇か何かかな。
ブラウン団長と組合長、エリーナの三人は一緒に飲み始めていた。
どうやら、この三人は同じ世代のようだ。
大戦の経験者なのだろう。もっとも、組合長は戦闘要員ではないが。
貴重な会話が交わされているかもしれない。少しだけ興味があった。
その夜は一晩中、騒ぎ通しだった。
これから新国と戦う上で、これ以上ない息抜きになったと思う。
翌日。バケット邸に近隣住民から問い合わせが来た。
いわく「魔術師団長の屋敷が昨夜は騒がしかったが、何かあったのか」と。
……要約すれば「夜中にうるせーよ」である。
……英雄の家に騒音苦情が届いた初めての事例だった。
正直、怒って良いと思う。