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第四部 73話 世界的溜場

ー/ー



 俺たちがセシリー達と話していると、バケット邸の前に馬車が止まった。
 どうやらナタリーが戻って来たらしかった。

「あー、面倒くさかったぁ」

 馬車から出るなり、第一声がそれだった。
 恐らくは参加した会議についてだろう。
 
 相変わらず、良い根性をしている。
 ……親しいとは言え、魔術師団長の家の前である。

「!」

 しかし、続いて馬車から出てきた人たちを見て、驚いた。
 フレアとジークが出てきたのだ。

「元気ー?」
「お久しぶりです」

 フレアが両手を振って、ジークは頭を下げる。
 ちなみにジークが連合の盟主、フレアはその客人である。逆ではない。

「あ……」
「あ……」
 
 次の瞬間、俺とナタリーが同時に声を出した。
 俺の方は馬車からニナも出てきたからだ。逆にナタリーはセシリーに気付いたからだろう。

 ニナとセシリーは一気に引き寄せられていき、担当者のミアが間に入っていった。お疲れ様です。

「どうしたんだよ、すごいメンバーを連れてるけど」
「実を言うと、今日の会議には二人も参加したんだよね」
「……ぴ」

 俺がナタリーに話しかけると、ナタリーがいかにもダルそうに言った。
 肩に乗ったピノが窘めるように鳴く。同時に脚でナタリーの頬を足蹴にした。

「で、今まではお忍びだったんだけど、一度くらいは顔見せに来たってわけ」
「数日中に王都を発つことになりそうだからねぇ」

 ナタリーの言葉にフレアが笑って応じる。
 今日はここに泊まるということだろう。

「王都に来てたんですね」
「はい。本当はもう少し早く訪ねたかったのですが……」

 いつの間にやら、ティアナとジークも挨拶をしている。
 俺とフレアの挨拶よりも少しだけ上品な気がした。

「ん?」

 そこで、ぽんぽんと俺の肩が叩かれる。
 振り返ると、セシルが首を傾げていた。

「……誰?」

 そりゃそうだ。
 初対面に決まっている。

「ああ、俺たちが連合に行った時の……」
「ふんふん」

 俺の説明をセシルは小さく頷いて聞いていた。
 さらに互いを紹介すると、俺はピノを小さく手招きした。

 せっかくだ。
 グレイも呼ぼう。



 夕方になると、また馬車が止まった。
 出てきたのはブラウン団長。この屋敷の主人だった。

「あ、ブラウン団長」
「……これは?」

 俺が歩み寄ると、ブラウン団長は俺に説明を求めた。
 咄嗟に言い淀んでしまう。その隙に馬車からもう一人、下りてきた。

 エリーナだった。最近ではたまにバケット邸に泊まることもあった。
 二人だけで来たところを見ると、魔術師団の要件だったのだろうか。

「ははは……すごいことになってるな?」
「……説明を」

 エリーナが笑い、ブラウン団長がもう一度俺を見る。
 俺は改めて口を開こうとする。

「あの……」
「お、来たな! お邪魔してるぞ!」

 俺が言い終わるより先に、別の声が届いた。
 ……組合長である。すでに軽く飲んでいる。

「どうして集まってるんだ? まさか組合長もいるとは思わなかった」
「ミアから連絡があってな。バケット邸に三国の要人が集まってると」

 ブラウン団長が言うと、組合長は事情を説明するように何度も頷いた。
 なるほど。確かに一大事だ。組合長が関わるのも無理はない。

「質問の答えになっていない気がするが。
 むしろその流れなら、護衛を付けた上で解散を促すように思う」

 ブラウン団長がきっぱりと言い切った。正論である。
 その視線は組合長の右手にあるグラスへと向けられている。

 ……少なくとも、酒を飲む理由にはなっていない。

「いや? だから急いでお邪魔しにきたんじゃねえか。まずは状況確認を……」
「本音を」
「おもしれーから参加してやれ」

 ブラウン団長の割り込みに、組合長が素直に従った。
 わざとらしく「おっと」なんて言いながら、空いた左手で口を覆う。

「ははは! では、私も参加しようかな」
「おう、こちらへどうぞ」

 さらにエリーナが悪ノリを重ねる。
 組合長が案内を始めて、ブラウン団長(家主)は溜息を吐いた。

 ……いや、戦力が集中しているから、ある意味安全なんだけどさ。



 屋敷の庭は大惨事になっていた。
 
 グレイはジークやフレアから学舎の話を聞いて青くなっている。
 セシルが詳しい話を聞いて笑っているようだ。

 ナタリーとアリスはティアナに酒を飲ませようとしているらしい。
 ソニア婆さんの鉄壁を二人があの手この手で越えようとしている。

 ティアナ自身の好奇心を刺激する方法が成功しそうだ。
 後で俺も止めに入らないといけない。

 ニナとセシリーは相変わらず喧嘩をしているようだ。
 しかし、ミアは二人を上手くあしらっている。

 ……今回は酔い潰す作戦らしい。
 交互に酒を勧めてはミアは「うんうん」と頷いている。

 ちなみにニナとセシリーはすでに呂律も回っておらず、意識も定かではなさそうだ。部下には見せられないだろう。

 それでも二人は争いをやめなかった。
 ……親の仇か何かかな。

 ブラウン団長と組合長、エリーナの三人は一緒に飲み始めていた。
 どうやら、この三人は同じ世代のようだ。

 大戦の経験者なのだろう。もっとも、組合長は戦闘要員ではないが。
 貴重な会話が交わされているかもしれない。少しだけ興味があった。

 その夜は一晩中、騒ぎ通しだった。
 これから新国と戦う上で、これ以上ない息抜きになったと思う。



 翌日。バケット邸に近隣住民から問い合わせが来た。
 いわく「魔術師団長の屋敷が昨夜は騒がしかったが、何かあったのか」と。

 ……要約すれば「夜中にうるせーよ」である。
 ……英雄の家に騒音苦情が届いた初めての事例だった。

 正直、怒って良いと思う。



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 俺たちがセシリー達と話していると、バケット邸の前に馬車が止まった。
 どうやらナタリーが戻って来たらしかった。
「あー、面倒くさかったぁ」
 馬車から出るなり、第一声がそれだった。
 恐らくは参加した会議についてだろう。
 相変わらず、良い根性をしている。
 ……親しいとは言え、魔術師団長の家の前である。
「!」
 しかし、続いて馬車から出てきた人たちを見て、驚いた。
 フレアとジークが出てきたのだ。
「元気ー?」
「お久しぶりです」
 フレアが両手を振って、ジークは頭を下げる。
 ちなみにジークが連合の盟主、フレアはその客人である。逆ではない。
「あ……」
「あ……」
 次の瞬間、俺とナタリーが同時に声を出した。
 俺の方は馬車からニナも出てきたからだ。逆にナタリーはセシリーに気付いたからだろう。
 ニナとセシリーは一気に引き寄せられていき、担当者のミアが間に入っていった。お疲れ様です。
「どうしたんだよ、すごいメンバーを連れてるけど」
「実を言うと、今日の会議には二人も参加したんだよね」
「……ぴ」
 俺がナタリーに話しかけると、ナタリーがいかにもダルそうに言った。
 肩に乗ったピノが窘めるように鳴く。同時に脚でナタリーの頬を足蹴にした。
「で、今まではお忍びだったんだけど、一度くらいは顔見せに来たってわけ」
「数日中に王都を発つことになりそうだからねぇ」
 ナタリーの言葉にフレアが笑って応じる。
 今日はここに泊まるということだろう。
「王都に来てたんですね」
「はい。本当はもう少し早く訪ねたかったのですが……」
 いつの間にやら、ティアナとジークも挨拶をしている。
 俺とフレアの挨拶よりも少しだけ上品な気がした。
「ん?」
 そこで、ぽんぽんと俺の肩が叩かれる。
 振り返ると、セシルが首を傾げていた。
「……誰?」
 そりゃそうだ。
 初対面に決まっている。
「ああ、俺たちが連合に行った時の……」
「ふんふん」
 俺の説明をセシルは小さく頷いて聞いていた。
 さらに互いを紹介すると、俺はピノを小さく手招きした。
 せっかくだ。
 グレイも呼ぼう。
 夕方になると、また馬車が止まった。
 出てきたのはブラウン団長。この屋敷の主人だった。
「あ、ブラウン団長」
「……これは?」
 俺が歩み寄ると、ブラウン団長は俺に説明を求めた。
 咄嗟に言い淀んでしまう。その隙に馬車からもう一人、下りてきた。
 エリーナだった。最近ではたまにバケット邸に泊まることもあった。
 二人だけで来たところを見ると、魔術師団の要件だったのだろうか。
「ははは……すごいことになってるな?」
「……説明を」
 エリーナが笑い、ブラウン団長がもう一度俺を見る。
 俺は改めて口を開こうとする。
「あの……」
「お、来たな! お邪魔してるぞ!」
 俺が言い終わるより先に、別の声が届いた。
 ……組合長である。すでに軽く飲んでいる。
「どうして集まってるんだ? まさか組合長もいるとは思わなかった」
「ミアから連絡があってな。バケット邸に三国の要人が集まってると」
 ブラウン団長が言うと、組合長は事情を説明するように何度も頷いた。
 なるほど。確かに一大事だ。組合長が関わるのも無理はない。
「質問の答えになっていない気がするが。
 むしろその流れなら、護衛を付けた上で解散を促すように思う」
 ブラウン団長がきっぱりと言い切った。正論である。
 その視線は組合長の右手にあるグラスへと向けられている。
 ……少なくとも、酒を飲む理由にはなっていない。
「いや? だから急いでお邪魔しにきたんじゃねえか。まずは状況確認を……」
「本音を」
「おもしれーから参加してやれ」
 ブラウン団長の割り込みに、組合長が素直に従った。
 わざとらしく「おっと」なんて言いながら、空いた左手で口を覆う。
「ははは! では、私も参加しようかな」
「おう、こちらへどうぞ」
 さらにエリーナが悪ノリを重ねる。
 組合長が案内を始めて、|ブラウン団長《家主》は溜息を吐いた。
 ……いや、戦力が集中しているから、ある意味安全なんだけどさ。
 屋敷の庭は大惨事になっていた。
 グレイはジークやフレアから学舎の話を聞いて青くなっている。
 セシルが詳しい話を聞いて笑っているようだ。
 ナタリーとアリスはティアナに酒を飲ませようとしているらしい。
 ソニア婆さんの鉄壁を二人があの手この手で越えようとしている。
 ティアナ自身の好奇心を刺激する方法が成功しそうだ。
 後で俺も止めに入らないといけない。
 ニナとセシリーは相変わらず喧嘩をしているようだ。
 しかし、ミアは二人を上手くあしらっている。
 ……今回は酔い潰す作戦らしい。
 交互に酒を勧めてはミアは「うんうん」と頷いている。
 ちなみにニナとセシリーはすでに呂律も回っておらず、意識も定かではなさそうだ。部下には見せられないだろう。
 それでも二人は争いをやめなかった。
 ……親の仇か何かかな。
 ブラウン団長と組合長、エリーナの三人は一緒に飲み始めていた。
 どうやら、この三人は同じ世代のようだ。
 大戦の経験者なのだろう。もっとも、組合長は戦闘要員ではないが。
 貴重な会話が交わされているかもしれない。少しだけ興味があった。
 その夜は一晩中、騒ぎ通しだった。
 これから新国と戦う上で、これ以上ない息抜きになったと思う。
 翌日。バケット邸に近隣住民から問い合わせが来た。
 いわく「魔術師団長の屋敷が昨夜は騒がしかったが、何かあったのか」と。
 ……要約すれば「夜中にうるせーよ」である。
 ……英雄の家に騒音苦情が届いた初めての事例だった。
 正直、怒って良いと思う。