第四部 72話 三国会議
ー/ー 王都の王城で会議が開かれていた。
水面下で進められていた『王国』『帝国』『連合』の三国による会議である。
参加者は王国から騎士団長『ニナ・ローズ』、魔術師団長『ブラウン・バケット』、組合長『ギルバート・アンドリュー』
帝国から英雄『エリーナ・コルト』
彼女は結局、帝国に帰らぬままでこの会議を迎えていた。
連合から盟主『ジークハルト・サンデル』
さらに護衛として『フレア・サリンジャー』が参加していた。
「では、まずは目的から。
端的に言えば、新国への対処。さらに言うなら、鬼への対処も含みます」
全員が簡単に挨拶を済ませると、進行役の『ラルフ・コーネル』が口を開いた。その隣には補佐役として呼ばれた『ナタリー・クレフ』がいる。
ナタリーは内心で「面倒くさいなぁ」と思いながら、表面上は綺麗な笑みを浮かべていた。
しかし、他の参加者も彼女をよく知っているので、その内心は一言一句違わず、全員に見抜かれていた。
だが、ナタリーは見抜かれていることまで完全に把握しているのだった。
その上で改める気がないのである。親友のアリスは「あそこまで図太くなれない」と良く言っている。
……もっとも、客観的に見れば同じくらいに図太いのだが。
「誘っておいてなんだが……連合としては盟主が国を空けるのはまずかったんじゃないのか?」
まず口を開いたのは組合長だった。
いつもと変わらずに軽い口調でジークへと話しかける。
「問題ありません。今は他の領主に任せても大丈夫です。
……正直なところ、新国は王国しか眼中にありません」
「ははは! それはその通り。帝国もすでに倒した後のようなものだ。
だが……正確には王国自体が目的ではないのかな?」
ジークとエリーナがすぐに応じた。
二人の言う通り、新国は真っ直ぐに王国を狙っている。
だからこそ、ナタリーは思う。
帝国も連合も新国を放置したところで、すぐに害は出ないのだ。
それでも協力を取り付けられているのは、良好な関係が築けているから。
逆に言えば、新国はその点には失敗している。あるいや、そもそも築く気がないのか。
「……ええ。この場の全員が把握していると思うので、言い切ってしまいますが、新国の狙いは『ティアナ・クロス』です」
「未だに半信半疑なのですが……本当にティアナを狙っているのですか?」
ラルフの言葉にニナが答える。
同じ孤児院出身だからこそ、狙われる理由が分からないのだろう。
「はい。その点は間違いないかと。
レンブラントの襲撃直後、青鬼はバケット邸を襲撃しています。
ティアナが滞在していたので、そこを狙ったのではないかと」
「ああ、確かに言っていたよ。
ティアナ・クロスはどこだ、と」
ナタリーが根拠を話すと、ブラウン団長がすぐに補足する。
だが、本質的な問題をフレアが呟いてしまった。
「……なんでだろ? あ、ごめんなさい」
護衛という立場上、すぐに頭を下げる。
しかし、あまりにも核心を突いた質問だった。
狙いは分かったが、目的が不明なのだ。
正統な王族なのは間違いないが、勢力と呼べるほどでもない。
精々火種が良いところだ。
ここまで必死に追いかける理由がない。
加えて、新国は建国されたばかりである。
旧王族が国王になる理由自体がないのだ。
――何か、あたしたちが知らない情報があるのは間違いない。
――だけど、知る必要がない情報なんだと思う。
ナタリーはそう結論付けて、小さく頷いた。
結局、ティアナを守れば良いはずだった。
「次に行きます。レンブラントの襲撃について。
まるで捨て身のような襲撃でしたが、要点は三つ」
ラルフはそう言って、続ける。
「一つ目、白鬼の居場所を掴んだこと。
二つ目、王国内に『ドワーフの大空洞』への入口があるということ。
三つ目、これは新しい情報になりますが……捕虜には意味がないこと」
ラルフの言葉に皆が目を見張った。
「一つ目は大きな成果ですが……」
「三つ目について、詳しい説明が欲しいかな」
ジークとエリーナの言葉に、ラルフは小さく溜息を吐いた。
「ちょうど昨晩の内に、捕虜としていた鬼の大半に逃げられました。
……牢の鍵は掛かったまま、です」
「ああ、なるほど。青鬼の能力を惜しみなく使えば可能だな。
逃げられなかった奴らは……居場所が割れていなかったのか」
エリーナが小さく何度も頷いた。
そして、最後にナタリーを見る。
ナタリーは僅かに目を逸らした。
確かに、残った捕虜はナタリーの提案で人知れず別の牢に入れていたのだ。
「話を戻します。先ほどの三点を踏まえると、打って出るべきです。
現在は白鬼は王国の北東、ちょうど連合との国境付近で動きを止めています」
「……そこを攻めるということですか。
そのための陽動をしたい、と?」
ラルフが言うと、ジークは考え込むように訊いた。
話が早い、とラルフは頷いた。
「ええ、恐らく『ドワーフの大空洞』を使用しているのは鬼だけ。
後は鬼と繋がっている『ゼノ・イリオス』とせいぜい側近辺りでしょう」
ナタリーは内心で頷いた。
ゼノは新国に『エルフの大森林』を使わせ、鬼に『ドワーフの大空洞』を使わせようとしている。
「これは俺の予想もあるけど、多分ゼノはそこにいますよ」
「…………」
ラルフが楽しそうに笑った。
ナタリーはこちらも内心で頷く。
「近いうちに新国は王国へと攻めてくるでしょう。
理由は分からないけれど、急いでいるようです」
「そこを迎え撃つってわけだ。
で、連合には新国の後ろを突いて頂きたい」
ラルフの言葉を受けて、組合長が後を続ける。
新国が王都を攻めるなら連合側から来るしかないことになる。
「……分かりました。ですが、本命の方は?
場所が分かっても『エルフの大森林』を抜けるのは難しいのでは」
ジークはすぐに頷いたが、逆に切り返す。
陽動として成立しているのか、と。
「『エルフの大森林』を抜ける必要はありません。
実は『ドワーフの大空洞』に入れる人員が騎士団にいます」
「ほう。それは貴重だな」
ニナの言葉にエリーナは食いついた。
恐らくは相手にとっても想定外であるはずだ。
「つまり……三国で共同戦線を張っている間に、敵の移動手段を用いて、敵の本拠地に乗り込もうと」
「……問題あるかな?」
エリーナが続けると、ブラウン団長は軽く訊いた。
エリーナは「いや」と首を横に振る。
「頭から潰すのは私の好みだよ」
会議が終わっていくのをナタリーは眺めていた。
大筋で問題はないと、ナタリー自身も感じている。
だが、気になるのは移動時間だった。
簡単な話だ。
逃げられては意味がない。
『ドワーフの大空洞』を通ること自体は正しいと思う。
だが、その『扉』は連合の大峡谷にある一つしか分かっていない。
――大峡谷から連合の南まで移動する?
――奇襲と呼ぶにはいくら何でも距離がありすぎる。
どうしても、他の『扉』を探す必要があった。
もっと、敵の本拠地に近い『扉』を。
水面下で進められていた『王国』『帝国』『連合』の三国による会議である。
参加者は王国から騎士団長『ニナ・ローズ』、魔術師団長『ブラウン・バケット』、組合長『ギルバート・アンドリュー』
帝国から英雄『エリーナ・コルト』
彼女は結局、帝国に帰らぬままでこの会議を迎えていた。
連合から盟主『ジークハルト・サンデル』
さらに護衛として『フレア・サリンジャー』が参加していた。
「では、まずは目的から。
端的に言えば、新国への対処。さらに言うなら、鬼への対処も含みます」
全員が簡単に挨拶を済ませると、進行役の『ラルフ・コーネル』が口を開いた。その隣には補佐役として呼ばれた『ナタリー・クレフ』がいる。
ナタリーは内心で「面倒くさいなぁ」と思いながら、表面上は綺麗な笑みを浮かべていた。
しかし、他の参加者も彼女をよく知っているので、その内心は一言一句違わず、全員に見抜かれていた。
だが、ナタリーは見抜かれていることまで完全に把握しているのだった。
その上で改める気がないのである。親友のアリスは「あそこまで図太くなれない」と良く言っている。
……もっとも、客観的に見れば同じくらいに図太いのだが。
「誘っておいてなんだが……連合としては盟主が国を空けるのはまずかったんじゃないのか?」
まず口を開いたのは組合長だった。
いつもと変わらずに軽い口調でジークへと話しかける。
「問題ありません。今は他の領主に任せても大丈夫です。
……正直なところ、新国は王国しか眼中にありません」
「ははは! それはその通り。帝国もすでに倒した後のようなものだ。
だが……正確には王国自体が目的ではないのかな?」
ジークとエリーナがすぐに応じた。
二人の言う通り、新国は真っ直ぐに王国を狙っている。
だからこそ、ナタリーは思う。
帝国も連合も新国を放置したところで、すぐに害は出ないのだ。
それでも協力を取り付けられているのは、良好な関係が築けているから。
逆に言えば、新国はその点には失敗している。あるいや、そもそも築く気がないのか。
「……ええ。この場の全員が把握していると思うので、言い切ってしまいますが、新国の狙いは『ティアナ・クロス』です」
「未だに半信半疑なのですが……本当にティアナを狙っているのですか?」
ラルフの言葉にニナが答える。
同じ孤児院出身だからこそ、狙われる理由が分からないのだろう。
「はい。その点は間違いないかと。
レンブラントの襲撃直後、青鬼はバケット邸を襲撃しています。
ティアナが滞在していたので、そこを狙ったのではないかと」
「ああ、確かに言っていたよ。
ティアナ・クロスはどこだ、と」
ナタリーが根拠を話すと、ブラウン団長がすぐに補足する。
だが、本質的な問題をフレアが呟いてしまった。
「……なんでだろ? あ、ごめんなさい」
護衛という立場上、すぐに頭を下げる。
しかし、あまりにも核心を突いた質問だった。
狙いは分かったが、目的が不明なのだ。
正統な王族なのは間違いないが、勢力と呼べるほどでもない。
精々火種が良いところだ。
ここまで必死に追いかける理由がない。
加えて、新国は建国されたばかりである。
旧王族が国王になる理由自体がないのだ。
――何か、あたしたちが知らない情報があるのは間違いない。
――だけど、知る必要がない情報なんだと思う。
ナタリーはそう結論付けて、小さく頷いた。
結局、ティアナを守れば良いはずだった。
「次に行きます。レンブラントの襲撃について。
まるで捨て身のような襲撃でしたが、要点は三つ」
ラルフはそう言って、続ける。
「一つ目、白鬼の居場所を掴んだこと。
二つ目、王国内に『ドワーフの大空洞』への入口があるということ。
三つ目、これは新しい情報になりますが……捕虜には意味がないこと」
ラルフの言葉に皆が目を見張った。
「一つ目は大きな成果ですが……」
「三つ目について、詳しい説明が欲しいかな」
ジークとエリーナの言葉に、ラルフは小さく溜息を吐いた。
「ちょうど昨晩の内に、捕虜としていた鬼の大半に逃げられました。
……牢の鍵は掛かったまま、です」
「ああ、なるほど。青鬼の能力を惜しみなく使えば可能だな。
逃げられなかった奴らは……居場所が割れていなかったのか」
エリーナが小さく何度も頷いた。
そして、最後にナタリーを見る。
ナタリーは僅かに目を逸らした。
確かに、残った捕虜はナタリーの提案で人知れず別の牢に入れていたのだ。
「話を戻します。先ほどの三点を踏まえると、打って出るべきです。
現在は白鬼は王国の北東、ちょうど連合との国境付近で動きを止めています」
「……そこを攻めるということですか。
そのための陽動をしたい、と?」
ラルフが言うと、ジークは考え込むように訊いた。
話が早い、とラルフは頷いた。
「ええ、恐らく『ドワーフの大空洞』を使用しているのは鬼だけ。
後は鬼と繋がっている『ゼノ・イリオス』とせいぜい側近辺りでしょう」
ナタリーは内心で頷いた。
ゼノは新国に『エルフの大森林』を使わせ、鬼に『ドワーフの大空洞』を使わせようとしている。
「これは俺の予想もあるけど、多分ゼノはそこにいますよ」
「…………」
ラルフが楽しそうに笑った。
ナタリーはこちらも内心で頷く。
「近いうちに新国は王国へと攻めてくるでしょう。
理由は分からないけれど、急いでいるようです」
「そこを迎え撃つってわけだ。
で、連合には新国の後ろを突いて頂きたい」
ラルフの言葉を受けて、組合長が後を続ける。
新国が王都を攻めるなら連合側から来るしかないことになる。
「……分かりました。ですが、本命の方は?
場所が分かっても『エルフの大森林』を抜けるのは難しいのでは」
ジークはすぐに頷いたが、逆に切り返す。
陽動として成立しているのか、と。
「『エルフの大森林』を抜ける必要はありません。
実は『ドワーフの大空洞』に入れる人員が騎士団にいます」
「ほう。それは貴重だな」
ニナの言葉にエリーナは食いついた。
恐らくは相手にとっても想定外であるはずだ。
「つまり……三国で共同戦線を張っている間に、敵の移動手段を用いて、敵の本拠地に乗り込もうと」
「……問題あるかな?」
エリーナが続けると、ブラウン団長は軽く訊いた。
エリーナは「いや」と首を横に振る。
「頭から潰すのは私の好みだよ」
会議が終わっていくのをナタリーは眺めていた。
大筋で問題はないと、ナタリー自身も感じている。
だが、気になるのは移動時間だった。
簡単な話だ。
逃げられては意味がない。
『ドワーフの大空洞』を通ること自体は正しいと思う。
だが、その『扉』は連合の大峡谷にある一つしか分かっていない。
――大峡谷から連合の南まで移動する?
――奇襲と呼ぶにはいくら何でも距離がありすぎる。
どうしても、他の『扉』を探す必要があった。
もっと、敵の本拠地に近い『扉』を。
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