一章
ー/ー
巫女を始めて一時間。
気づいたことがある。
うちの神社、驚くほど参拝客が少ない。
一時間で参拝客は一人。
私がいるお守りなどを売っている社務所には、まだ一人も参拝客はいない。
え、このままじゃただ座ってるだけで終わるよ!?
そんなことを考えていると、一人の年配の女性が社務所にやって来た。
巫女を始めて、始めてのお客さんに私は嬉しくなった。
「この健康祈願のお守りを一つ貰えるかしら?」
「はい!」
私はお守りを丁寧に袋に入れて、そっとお婆さんに渡す。
「ふふっ、可愛い巫女さんね」
笑いかけてくれたお婆さんは、少しだけ目線を下に向けた。
「実はね、孫がこの春から高校生なの。高校生活を楽しんで欲しいのはもちろんだけれど、まずは健康お守りを渡したくて……」
お婆さんは孫の入学を心の底から嬉しそうに話してくれる。
「私ね、もう年齢も年齢だから、医者にそんなに長くは生きられないって言われているの。……本当は私の方がお守りがいるのかもしれないわ」
お婆さんはそう言いながら、お守りを大事そうに握る。
「あの! やっぱり、お守り一旦返してもらえますか!?」
私の急なお願いにお婆さんは戸惑いながらも、私にお守りを渡してくれた。
私はお守りを優しく握り締めながら、目をつぶる。
よし、ここは気持ちを込めて!
「お婆さんもお孫さんも、少しでも明日笑っていられますように!」
私はそう大きな声で叫んで、お婆さんにお守りの手に包むこむように握らせた。
「ふふっ、ありがとう。優しいのね。でも、なんで健康お守りにお願いしたのかしら?」
「笑顔が一番の健康!って祖父がいつも言ってるんです!……でも正直、そんなの綺麗ごとじゃないですか」
「え……?」
お婆さんが不思議そうに私の顔を見つめている。
「毎日笑顔でいるなんて絶対に無理だし、嫌なことは必ずあるし、泣きたい時もあるし。そんな綺麗ごとだけじゃ生きていけないって年齢を重ねるにつれ分かってくる」
「でも、明日も笑顔でいたいと願うことは自由でしょう?」
「少しだけでも楽しいことを探して、自分が笑顔でいるために毎日を過ごす!嫌なこともしなくちゃいけない時はあるけど、それより沢山の楽しいことをする!」
お婆さんがポカーンと私の顔を見つめている。
「人生短いってよく言うけど、本当は全然長い」
「1日って24時間あるんですよ!?……ううん!言い方を変えれば、1440分!」
「うーんっと……何が言いたいかというと、24時間って聞くより1440分って言う方が1日が長く感じません!?」
「要は考え方だと思うんです!」
「私、嫌なことがある時はあと何時間って数えて、楽しいことはあと何分もあるって考える」
「私、今、お婆さんと話してる時間は残り『何分』だろうって考えてる。つまり、お婆さんと話すのは絶対に楽しい!」
私は思いっきりお婆さんに笑いかけた。 お婆さんは私につられたように嬉しそうに笑い返してくれる。
「ふふっ、変わった考え方ねぇ。でも、そんな考え方大好きよ」
お婆さんが私と目を合わせる。
「ねぇ、健康お守りもう一個貰えるかしら? なんだか、もっと長生きしたくなっちゃったわ」
私はお守りをお婆さんに渡す。
「私も残りの人生、『何分』って数えたくなるような人生を歩みたいわ」
そう言って、お婆さんは嬉しそうに微笑む。
私とお婆さんはしばらく話した後、お婆さんは楽しそうに帰っていった。
お婆さんが帰った後、祖父が私に話しかける。
「相変わらず、美七の考え方は変わってるな」
「え、そうかな? 私、巫女のバイト向いてない?」
「さぁ、どうだろうな。まぁ、明日も続けてれば向いているか分かるかもしれん」
「なんか適当にあしらってない!?」
「まぁ、今日もうちの神社は人手が足りん。参拝客が少なくても仕事がないわけじゃないからな。手伝ってくれないと困るぞ」
「分かった。でも、お昼ご飯は私の好物の冷やしそうめんでお願いします!」
「美七、季節はまだ春じゃよ」
「好きなものは好きな時に食べるのが美味しいの!」
「仕方ないのぉ」
お爺ちゃんがそう言いながら、お昼の準備を始めようとする。
「私も手伝うよ……って、そしたら神社に人がいなくなっちゃうか」
「どうせうちの神社に参拝客などそんなに来ん」
「それ神主が言っていいの!?」
「事実じゃからな。まぁ、わしは来た人が少しでも心晴れやかに帰ってくれればそれでいいんじゃよ」
「なんかお爺ちゃん格好良いんだけど!」
「なぁ、美七。お昼ご飯を作りながら、最近の楽しかったことの話でもするか?」
「なんか小学生すぎない!?」
「嫌か?」
お爺ちゃんが私の顔をじっと見つめる。
「全然! その話題、最高!」
毎日、笑顔で過ごすって意外に難しいこと。
でも、みんなただ明日も笑顔でいたいだけ。
だから、今日も……
明日も笑顔でいるための作戦会議を始めます!
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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気づいたことがある。
うちの神社、驚くほど参拝客が少ない。
一時間で参拝客は一人。
私がいるお守りなどを売っている|社務所《しゃむしょ》には、まだ一人も参拝客はいない。
え、このままじゃただ座ってるだけで終わるよ!?
そんなことを考えていると、一人の年配の女性が社務所にやって来た。
巫女を始めて、始めてのお客さんに私は嬉しくなった。
「この健康祈願のお守りを一つ貰えるかしら?」
「はい!」
私はお守りを丁寧に袋に入れて、そっとお婆さんに渡す。
「ふふっ、可愛い巫女さんね」
笑いかけてくれたお婆さんは、少しだけ目線を下に向けた。
「実はね、孫がこの春から高校生なの。高校生活を楽しんで欲しいのはもちろんだけれど、まずは健康お守りを渡したくて……」
お婆さんは孫の入学を心の底から嬉しそうに話してくれる。
「私ね、もう年齢も年齢だから、医者にそんなに長くは生きられないって言われているの。……本当は私の方がお守りがいるのかもしれないわ」
お婆さんはそう言いながら、お守りを大事そうに握る。
「あの! やっぱり、お守り一旦返してもらえますか!?」
私の急なお願いにお婆さんは戸惑いながらも、私にお守りを渡してくれた。
私はお守りを優しく握り締めながら、目をつぶる。
よし、ここは気持ちを込めて!
「お婆さんもお孫さんも、少しでも明日笑っていられますように!」
私はそう大きな声で叫んで、お婆さんにお守りの手に包むこむように握らせた。
「ふふっ、ありがとう。優しいのね。でも、なんで健康お守りにお願いしたのかしら?」
「笑顔が一番の健康!って祖父がいつも言ってるんです!……でも正直、そんなの綺麗ごとじゃないですか」
「え……?」
お婆さんが不思議そうに私の顔を見つめている。
「毎日笑顔でいるなんて絶対に無理だし、嫌なことは必ずあるし、泣きたい時もあるし。そんな綺麗ごとだけじゃ生きていけないって年齢を重ねるにつれ分かってくる」
「でも、明日も笑顔でいたいと願うことは自由でしょう?」
「少しだけでも楽しいことを探して、自分が笑顔でいるために毎日を過ごす!嫌なこともしなくちゃいけない時はあるけど、それより沢山の楽しいことをする!」
お婆さんがポカーンと私の顔を見つめている。
「人生短いってよく言うけど、本当は全然長い」
「1日って24時間あるんですよ!?……ううん!言い方を変えれば、1440分!」
「うーんっと……何が言いたいかというと、24時間って聞くより1440分って言う方が1日が長く感じません!?」
「要は考え方だと思うんです!」
「私、嫌なことがある時はあと何時間って数えて、楽しいことはあと何分もあるって考える」
「私、今、お婆さんと話してる時間は残り『何分』だろうって考えてる。つまり、お婆さんと話すのは絶対に楽しい!」
私は思いっきりお婆さんに笑いかけた。 お婆さんは私につられたように嬉しそうに笑い返してくれる。
「ふふっ、変わった考え方ねぇ。でも、そんな考え方大好きよ」
お婆さんが私と目を合わせる。
「ねぇ、健康お守りもう一個貰えるかしら? なんだか、もっと長生きしたくなっちゃったわ」
私はお守りをお婆さんに渡す。
「私も残りの人生、『何分』って数えたくなるような人生を歩みたいわ」
そう言って、お婆さんは嬉しそうに微笑む。
私とお婆さんはしばらく話した後、お婆さんは楽しそうに帰っていった。
お婆さんが帰った後、祖父が私に話しかける。
「相変わらず、|美七《みな》の考え方は変わってるな」
「え、そうかな? 私、巫女のバイト向いてない?」
「さぁ、どうだろうな。まぁ、明日も続けてれば向いているか分かるかもしれん」
「なんか適当にあしらってない!?」
「まぁ、今日もうちの神社は人手が足りん。参拝客が少なくても仕事がないわけじゃないからな。手伝ってくれないと困るぞ」
「分かった。でも、お昼ご飯は私の好物の冷やしそうめんでお願いします!」
「美七、季節はまだ春じゃよ」
「好きなものは好きな時に食べるのが美味しいの!」
「仕方ないのぉ」
お爺ちゃんがそう言いながら、お昼の準備を始めようとする。
「私も手伝うよ……って、そしたら神社に人がいなくなっちゃうか」
「どうせうちの神社に参拝客などそんなに来ん」
「それ神主が言っていいの!?」
「事実じゃからな。まぁ、わしは来た人が少しでも心晴れやかに帰ってくれればそれでいいんじゃよ」
「なんかお爺ちゃん格好良いんだけど!」
「なぁ、美七。お昼ご飯を作りながら、最近の楽しかったことの話でもするか?」
「なんか小学生すぎない!?」
「嫌か?」
お爺ちゃんが私の顔をじっと見つめる。
「全然! その話題、最高!」
毎日、笑顔で過ごすって意外に難しいこと。
でも、みんなただ明日も笑顔でいたいだけ。
だから、今日も……
明日も笑顔でいるための作戦会議を始めます!