第四部 71話 本当に仕えるべき主
ー/ー 王国と連合を分かつ大峡谷。
その北部を覆う『エルフの大森林』にある新国の拠点の一つ。
ここで新国こと『イリオス新王国』は慎重に兵力を集めていた。
機会を見て王国へと攻め込むように任務を受けていたからだ。
主力は騎士団長『フィン・レノルズ』と魔法師団長『ユリウス・クーガー』の両名だった。王国の仕組みを元にしているので、どちらも組織のトップだ。
二人は同じ土地出身で、幼馴染と言って良い間柄であった。
どちらも『イリオス新王国』の建国と同時に国王『ゼノ・イリオス』の配下に入ったのだった。
ユリウスが滞在中の屋敷で廊下を歩いていると、背後から大きな足音が響いてきた。振り返ると、やはり騎士団長のフィンがいた。
「おい、ユリウス!」
「……大きな声を出さなくても聞こえているよ」
訓練でもあるのか、フィンは屋内だというのに鎧を着ていた。
対するユリウスは身軽なローブのみ。役割を表すように対照的だった。
「……ちょっと話をしても良いか?」
「?」
珍しく真剣なフィンの様子にユリウスは首を傾げる。
今は様子見の段階であり、任務への不安は見つからなかった。
「どうした? 珍しいな」
「……陛下についてだ。良い機会だろう」
ユリウスは冗談めかして言ったが、フィンの言葉で表情を改める。
確かに、人目がある場所でできる話ではない。
ましてや、騎士団長と魔法師団長だ。
一緒に遠征している際の暇な時間は密会に最適かもしれない。
「一体どうしたんだ、畏まって。何だかドキドキするな?」
「茶化すなよ」
ユリウスが軽く応じると、フィンは肩を竦める。
友人が笑ったのを確認すると、ユリウスは「で?」と先を促した。
「ああ。俺は――俺たちは確かに陛下に忠誠を誓った。
……ハーフエルフの新国のために死力を尽くすと」
フィンは苦しそうな顔でそう言った。
その言葉に偽りはないのだと。
「…………」
ユリウスもそのことは知っていた。
自分自身も同じだったからだ。
「だが、どうしても頭の片隅にこびりついて、離れない感覚があるんだ」
「ああ、どんな?」
フィンは苦い顔をさらに歪めて声を潜める。
ユリウスは片眉を軽く持ち上げて見せた。
「自分でもどうかしていると分かっている。
でも俺が『本当に仕えるべき主』は別にいるのではないか、と」
ユリウスが小さく息を呑む。
叛意を疑われても仕方ないような発言だった。
……もっとも、彼の驚きは別にあったが。
「……全く、何を言っているのだ。お前の言う通り、私たちは忠誠を誓った。
それが全てではないか。『本当に仕えるべき主』とはゼノ・イリオス陛下に他ならない」
「分かっているのだ。だが、気のせいで済ませてはいけない気がしてな。
ふとした拍子に感じてしまう。なぜ、あ……」
「フィン」
ユリウスが窘めるように呟いた。
フィンはすぐにはっとした様子で「すまない」と頭を下げる。
「頭を冷やすことにする。悪かった」
「……ああ」
フィンは早口でそう言うと、急いで去っていく。
ユリウスはその背中に小さく頷いた。
フィンの背中が見えなくなり、周囲から物音一つ聞こえなくなった頃。
ユリウスは小さく呟いた。
「なぜ、あいつが――か」
それはユリウス自身も感じていたことだった。
その北部を覆う『エルフの大森林』にある新国の拠点の一つ。
ここで新国こと『イリオス新王国』は慎重に兵力を集めていた。
機会を見て王国へと攻め込むように任務を受けていたからだ。
主力は騎士団長『フィン・レノルズ』と魔法師団長『ユリウス・クーガー』の両名だった。王国の仕組みを元にしているので、どちらも組織のトップだ。
二人は同じ土地出身で、幼馴染と言って良い間柄であった。
どちらも『イリオス新王国』の建国と同時に国王『ゼノ・イリオス』の配下に入ったのだった。
ユリウスが滞在中の屋敷で廊下を歩いていると、背後から大きな足音が響いてきた。振り返ると、やはり騎士団長のフィンがいた。
「おい、ユリウス!」
「……大きな声を出さなくても聞こえているよ」
訓練でもあるのか、フィンは屋内だというのに鎧を着ていた。
対するユリウスは身軽なローブのみ。役割を表すように対照的だった。
「……ちょっと話をしても良いか?」
「?」
珍しく真剣なフィンの様子にユリウスは首を傾げる。
今は様子見の段階であり、任務への不安は見つからなかった。
「どうした? 珍しいな」
「……陛下についてだ。良い機会だろう」
ユリウスは冗談めかして言ったが、フィンの言葉で表情を改める。
確かに、人目がある場所でできる話ではない。
ましてや、騎士団長と魔法師団長だ。
一緒に遠征している際の暇な時間は密会に最適かもしれない。
「一体どうしたんだ、畏まって。何だかドキドキするな?」
「茶化すなよ」
ユリウスが軽く応じると、フィンは肩を竦める。
友人が笑ったのを確認すると、ユリウスは「で?」と先を促した。
「ああ。俺は――俺たちは確かに陛下に忠誠を誓った。
……ハーフエルフの新国のために死力を尽くすと」
フィンは苦しそうな顔でそう言った。
その言葉に偽りはないのだと。
「…………」
ユリウスもそのことは知っていた。
自分自身も同じだったからだ。
「だが、どうしても頭の片隅にこびりついて、離れない感覚があるんだ」
「ああ、どんな?」
フィンは苦い顔をさらに歪めて声を潜める。
ユリウスは片眉を軽く持ち上げて見せた。
「自分でもどうかしていると分かっている。
でも俺が『本当に仕えるべき主』は別にいるのではないか、と」
ユリウスが小さく息を呑む。
叛意を疑われても仕方ないような発言だった。
……もっとも、彼の驚きは別にあったが。
「……全く、何を言っているのだ。お前の言う通り、私たちは忠誠を誓った。
それが全てではないか。『本当に仕えるべき主』とはゼノ・イリオス陛下に他ならない」
「分かっているのだ。だが、気のせいで済ませてはいけない気がしてな。
ふとした拍子に感じてしまう。なぜ、あ……」
「フィン」
ユリウスが窘めるように呟いた。
フィンはすぐにはっとした様子で「すまない」と頭を下げる。
「頭を冷やすことにする。悪かった」
「……ああ」
フィンは早口でそう言うと、急いで去っていく。
ユリウスはその背中に小さく頷いた。
フィンの背中が見えなくなり、周囲から物音一つ聞こえなくなった頃。
ユリウスは小さく呟いた。
「なぜ、あいつが――か」
それはユリウス自身も感じていたことだった。
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