王都に戻ってくると、すぐにナタリーは会議に呼ばれるようになった。
本人は嫌そうだが、完全に参謀のような立ち位置だった。
今日も出かけているらしい。
普段の態度があんまりだから違和感しかないが、冷静に考えると実績は十分なんだよなぁ。
レンブラントの一件についても対応を検討中らしい。
ひとまず俺たちの仕事はティアナの護衛だけだ。
ナタリーの提案通り、俺たちは王都内を転々と移動していた。
拠点はバケット邸として、王都の宿をいくつも準備している。
ティアナの護衛として、俺とアリス、ミアの三人体制だ。
相応の戦力がなければ突破できないだろう。
今日はバケット邸に戻ってくる日だった。
アリスは嫌そうにしながら庭の外周を走っている。
ティアナはソニア婆さんから王族としてのマナーを叩きこまれている。
あの日から、ティアナはソニア婆さんに反発することはなくなっていた。
「ですから! もっと背筋を伸ばしてください!」
「はい、こうですか?」
「もっとです」
「はい……やりすぎじゃないですか?」
「……少し戻してください」
ティアナは元々素養があったのだろう。
真面目に取り組み始めると、一気に覚えていった。
よほど嬉しかったのか、教える側のソニア婆さんの方が空回りしている。
何でも、昔はミーシャ姫のマナー教育もしていたとか。
ミアは昼寝をしていた。
白鬼の居場所を掴んだことで褒められて、すっかり調子に乗っている。
「やってますね」
声を掛けられて庭の入口を見る。
そこには魔術師団副団長『セシリー・ルイス』と王立学院時代の同級生『セシル・ルイス』が立っていた。
「セシル!」
「……元気?」
俺の言葉にセシルは小さく手を振った。
グレイとは一緒に連合まで行ったが、セシルと会うのは久しぶりだ。
「どうですか? いったん休憩にして、少し話しませんか?」
「はい! 休憩にします!」
セシリーの言葉に、庭の隅にいたアリスが大声で答える。
……良く聞こえるもんだな。普段は呼んでも聞こえないのに。
バケット邸にはテラスのようなものがあり、そこで休憩ができるようになっていた。もっとも、俺たちは芝の上に座ることも多いが。
「今日はどうしたっすか?
ナタリーが出かけて行ったから、てっきり会議があったのかと」
ミアが欠伸をかみ殺して言う。
確かに、ナタリーが参加するような会議なら、セシリーも参加するはずだ。
「いえ、今日はブラウン団長だけで良いそうです。
私はセシルと一緒にこちらの護衛に来ました」
「…………」
セシリーの言葉に妹のセシルは目を逸らした。
それを見て、俺とミアは軽く目配せをする
間違いない。
今日の会議にはニナさんが参加しているからだ。
恐らくはそこまで重要な議題じゃないから、二人を会わせないように配慮したのだろう。
……スケジュールを組むのも大変だなぁ。
二人とも、単体なら人格者なのに。
「それにしても、セシリーとこうして話すのも久しぶりだね」
「……そうね。あのバカが死んでからは機会がなかったから」
バカとは誰だろうな。
俺の頭脳をもってしても分からないなぁ。
「で、そちらが……」
「ティアナ・クロスです。よろしくお願いします」
セシリーの視線を受けて、ティアナが深々と頭を下げた。
その様子を見て、セシリーは意外そうな表情を一瞬浮かべた。
しかし、すぐに微笑みに変えると「こちらこそ」と答えた。
そうか、顔合わせは初めてだったか。ハーフエルフの王族だというのに腰が低いから驚いたというところだろう。
そこに「お茶をお持ちしました」という使用人の言葉が聞こえてきた。
すぐに紅茶とケーキが並べられていく。
エルが俺の頭から降りると、ティアナの膝の上に座る。
そして、ティアナに撫でられながら、ケーキを分けてもらっていた。
お前の主人は俺じゃないのか?
……いや、違う。お前は俺の主人のつもりだったか。
「?」
ふと、目を向ければセシルが首を傾げていた。
その視線を追えば、空になった皿がある。
他のメンバーの皿にはケーキが乗っていた。
セシルがもう一度、首を傾げて見せる。
いや「おかしいなぁ」じゃねえよ!
食ったから無くなっただけだよ!
そして、セシルは隣に座るティアナの袖をくい、と引く。
さらに口を開けて言う。
「……私も」
「やめなさい」
王立学院の後輩からケーキをねだるセシルの頭を姉がスパン、と叩く。
「お前もだ」
「痛っ!」
迷わずに差し出そうとしていたティアナの額を俺がぺち、と叩いた。
アリスとミアが楽しそうに笑う。
……野良猫じゃねえんだから。