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第四部 66話 血

ー/ー



「ナタリー! 無事か?」
「うん、どうにかね……」

 俺はナタリーへと駆け寄った。
 鬼たちの狙いはナタリーだったらしいが、無事のようだ。

「ミアは?」
「白鬼に気絶させられただけだね」

 俺の言葉にアリスが答えた。
 しかし、ナタリーは首を傾げる。

「んー、師匠らしくないんだよなぁ……。
 まあ良いや、馬車の方は大丈夫かな」

 ナタリーは素早く人払いを済ませると、馬車に近づいた。
 一度、中に入って何やらごそごそと音を出す。

「あの、兄さん? 少し酔っちゃいました……」
「…………」

 やがて、中から覚束ない足取りのティアナと仏頂面を張り付けたソニア婆さんが出てきた。

 酔っているのは仕方ない。青鬼の刀を飛んで避けたのだから、中に隠れていてはたまらないだろう。

「? 兄さん?」
「うん、大丈夫そうだな」

 念のため、俺はティアナの体の無事を確かめて安堵の息を漏らした。
 怪我などはないようだ。ソニア婆さんも大丈夫。

「少し外の風に当たると良いよ」
「はい」

 俺は風通りの良い丘の上を指さした。
 ティアナは素直にそちらへと歩いて行った。

「……私、白鬼の背中に捕まってたんだ」
「流石に自業自得だろ」

 アリスが顔を顰める。
 自分から白鬼の馬に乗ったんだから仕方ない。

「白鬼も迷っただろうね」
「やめてー」

 ナタリーが楽しそうに笑う。標的をアリスに変えても良かったはずだ。
 アリスは嫌々と首を左右に振っている。

「フィオネ様!」

 ソニア婆さんの声に俺たちが一斉に振り返る。
 見れば、ティアナが丘の上で膝を突いていた。

「ティアナ、どうした……ッ!」

 急いでティアナの隣まで走って、気が付いた。
 丘の上からはレンブラントが一望できたのだ。

 鬼の襲撃を受けて、未だ収まらない戦火も。
 小さく見える、もう動かない人影も。

 俺たちにとっては見慣れたものだが、王都から離れた経験が少ないティアナは違う。連合の時はともかく、本当の戦場を見るのはこれが初めてだった。

「……兄さん」
「どうした?」

 小さな声。心配になった俺はティアナに合わせてしゃがみ込んだ。
 しかし、次にティアナが顔を上げた時には、強い意志があった。

「兄さん。私は自分が王女だなんて思ったことはありません。
 でも、もしも私が王女なら……止められますか?」

 ティアナが俺の両腕をしっかりと掴んだ。
 真っ直ぐに俺の目を見て、息すら届きそうな声で言う。

「私が王女になれば……!
 もう『こんなこと』は起こさずに済みますか?」

 きっと、この瞬間だったのだ。
『ティアナ・クロス』が『鍵』として確定したのは。



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「ナタリー! 無事か?」
「うん、どうにかね……」
 俺はナタリーへと駆け寄った。
 鬼たちの狙いはナタリーだったらしいが、無事のようだ。
「ミアは?」
「白鬼に気絶させられただけだね」
 俺の言葉にアリスが答えた。
 しかし、ナタリーは首を傾げる。
「んー、師匠らしくないんだよなぁ……。
 まあ良いや、馬車の方は大丈夫かな」
 ナタリーは素早く人払いを済ませると、馬車に近づいた。
 一度、中に入って何やらごそごそと音を出す。
「あの、兄さん? 少し酔っちゃいました……」
「…………」
 やがて、中から覚束ない足取りのティアナと仏頂面を張り付けたソニア婆さんが出てきた。
 酔っているのは仕方ない。青鬼の刀を飛んで避けたのだから、中に隠れていてはたまらないだろう。
「? 兄さん?」
「うん、大丈夫そうだな」
 念のため、俺はティアナの体の無事を確かめて安堵の息を漏らした。
 怪我などはないようだ。ソニア婆さんも大丈夫。
「少し外の風に当たると良いよ」
「はい」
 俺は風通りの良い丘の上を指さした。
 ティアナは素直にそちらへと歩いて行った。
「……私、白鬼の背中に捕まってたんだ」
「流石に自業自得だろ」
 アリスが顔を顰める。
 自分から白鬼の馬に乗ったんだから仕方ない。
「白鬼も迷っただろうね」
「やめてー」
 ナタリーが楽しそうに笑う。標的をアリスに変えても良かったはずだ。
 アリスは嫌々と首を左右に振っている。
「フィオネ様!」
 ソニア婆さんの声に俺たちが一斉に振り返る。
 見れば、ティアナが丘の上で膝を突いていた。
「ティアナ、どうした……ッ!」
 急いでティアナの隣まで走って、気が付いた。
 丘の上からはレンブラントが一望できたのだ。
 鬼の襲撃を受けて、未だ収まらない戦火も。
 小さく見える、もう動かない人影も。
 俺たちにとっては見慣れたものだが、王都から離れた経験が少ないティアナは違う。連合の時はともかく、本当の戦場を見るのはこれが初めてだった。
「……兄さん」
「どうした?」
 小さな声。心配になった俺はティアナに合わせてしゃがみ込んだ。
 しかし、次にティアナが顔を上げた時には、強い意志があった。
「兄さん。私は自分が王女だなんて思ったことはありません。
 でも、もしも私が王女なら……止められますか?」
 ティアナが俺の両腕をしっかりと掴んだ。
 真っ直ぐに俺の目を見て、息すら届きそうな声で言う。
「私が王女になれば……!
 もう『こんなこと』は起こさずに済みますか?」
 きっと、この瞬間だったのだ。
『ティアナ・クロス』が『鍵』として確定したのは。