表示設定
表示設定
目次 目次




来世に繋がる失恋(7)

ー/ー



 ファーストフード店に着くと彼はいつもの席に座っていつものようにハンバーガーを齧っていつものようにパソコンを打っていた。
 
 あの後……私はどうやってクラスに戻ったのか覚えてない。気がついたら教室の自分の席に座っていて、いつの間にか教科書を開いてノートを取り、知らない間に放課後を迎えていた。
 目の端に彼が教室を出ていく姿が見えた。
 彼は、私の方なんて振り向きもせず影のように扉を抜けていく。
 誰も彼が帰ったことになんて気付いてない。
 私は、クラクラする頭と重く、怠い身体で帰り支度をする。
 友達が「大丈夫?」と心配そうに尋ねてくる。
 彼女が心配してるのは私の体調なのか?心境なのか?
 しかし、どちらだとしても私の答えは決まっている。
「大丈夫。ありがとね」
 そう笑顔で答えた。
 そして私は仕事があるからと言って教室を出る。
 他のクラスメイト達が私が帰るのを見て名残惜しそうな視線を送ってくる。
 誰も私を心配なんてしてない。
 ああっ本当に友達なんだな。彼女って。
 明日は、ちゃんと話そうね。
 私は、そう胸中で呟き、重い足を引きずってファーストフード店へと向かった。
 
 私は、レジカウンターで紅茶だけを買った。
 油っこいパイは写真を見ただけで気持ち悪くなる。
 私は、紅茶を(こぼ)さないように慎重に運びながら彼の座る席の前に立つ。
 私の影でパソコンの画面が暗くなり、彼は顔を上げる。
 彼の特徴的な三白眼が私を捉える。
「久しぶり」
 私は、笑顔を浮かべて言う。
「お久しぶりです」
 彼は、抑揚のない声で言う。
 その声のトーンは話さない女(サイレント・ガール)に話していたものと変わらないはずなのに何処か違って感じた。
 私は、胸の中で唇を噛み締め席に座る。
「元気してた?」
「はいっお陰様で風邪も引いてません」
 そう言うことじゃないんだけどなぁ。
 私はそう思いながらも笑みを崩さない。
 しかし……。
「元気じゃなさそうですね」
 彼の言葉に私は弾かれたように顔を上げる。
「え?なんで?」
「いつもより化粧が濃いから。普段はナチュラルメイクって言うんでしたっけ?もっとスッピンに近かったように思いますが……」
「よく見てるんだね……君……」
 まったく人になんて関心がなさそうなのに……。
 それともすぐ側に劇的に変化した()がいるから?
「撮影で思った以上に疲れちゃってたみたい。朝起きたら顔面崩れてて。慌てて化粧しちゃった」
 私は、誤魔化すように小さく舌を出す。
 彼は、三白眼を小さく細める。
「そうですか」
 彼は、小さく呟き、アップルジュースのストローに口を付ける。
「撮影はどうでしたって……聞かないの?」
「聞いて欲しいんですか?」
 彼は、ストローから口を離す。
「みんな聞いてきたよ?〇〇君に会えた?とか、裏話教えて……とか?」
「僕は、"みんな"ではありません」
 彼は、三白眼をきゅっと細める。
「じゃあ、なあに?」
 私は、余裕振るように頬杖を付く。
 彼は、言葉を探すように視線を右上に向け、顎を擦る。
「友達……ですかね?」
 彼は、抑揚のない声に疑問を載せて言う。
 友達……。
 この言葉がこんなにも残酷なものだったなんて初めて知った。
「貴方は、学校で出来た初めての友達です」
 ……いやだ。
「違いますか?」
 違うよ……。
 貴方は、友達なんかじゃないよ。
 友達は……私をこんなに苦しめたりしない。
 こんなに……酷いことをしない。
「だから心配してます。本当に体調は平気なんですか?」
 そうか……友達だから心配してくれてるんだね。
 彼女と同じように。
 気にかけて……気遣って……守ろうとしてくれんだね。
 私は、唇を噛み締める。
 血の味が舌にこびりつく。
「眼帯陰キャ……」
「え……?」
「あの眼帯陰キャも友達なの?」
「誰のことです?」
「今日……プールの裏で一緒に食べてたあの女よ」
 テーブルにポタリっと何かが落ちる。
 彼の三白眼が小さく震える。
「あの女も……友達なの?」
 ポタリ……。
 ポタリ……。
「先輩のことですか?先輩は……友達じゃありません」
 ポタリ……。
 ポタリ……。
「じゃあ、なに?」
「いや、それよりも……」
 ポタリ……。
 ポタリ……。
「答えて!」
 ポタリ……ポタリ……。
「あの女は貴方のなんなの⁉︎」
 ポタリ……ポタリ……ポタリ……。
 ポタリ……ポタリ……ポタリ……。
 スカートが温い。
 彼は、立ち上がるとポケットからハンカチを取りだして私の口を塞ぐ。
「なにを……」
「じっとして」
 視界の端に彼のハンカチの先が映る。
 赤黒く染まった彼のハンカチが。
「すいませんっ店員さんを……いや救急車を呼んでください」
 え……?
 私は、今になって口の中いっぱいに臭い鉄の味が充満し、咽せ混みそうなくらい水気が溜まっていることに気付く。
 視界を落とす。
 テーブルが真っ赤に染まり、制服が赤黒く汚れている。
 彼の手が赤く染まる。
 彼は、表情を変えずに私を見る。
「大丈夫ですか?意識をしっかり」
 えっ?
 なに言ってるの?
 私は大丈夫だよ。
 こんなことして誤魔化さないで。
 ちゃんと答えて。
 あの女はなに?
 私は貴方のなに?
 私は……私は……私は……。
 世界が暗転する。
 意識が闇へ闇へと落ちていく。
 彼の声がかすかに聞こえる。
 私の名前を呼んでいる。
 私は、彼の声を糸に縋る。
 ねえ、お願い教えて……。
 私は、貴方のなんなの?


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 来世に繋がる失恋(8)


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 ファーストフード店に着くと彼はいつもの席に座っていつものようにハンバーガーを齧っていつものようにパソコンを打っていた。
 あの後……私はどうやってクラスに戻ったのか覚えてない。気がついたら教室の自分の席に座っていて、いつの間にか教科書を開いてノートを取り、知らない間に放課後を迎えていた。
 目の端に彼が教室を出ていく姿が見えた。
 彼は、私の方なんて振り向きもせず影のように扉を抜けていく。
 誰も彼が帰ったことになんて気付いてない。
 私は、クラクラする頭と重く、怠い身体で帰り支度をする。
 友達が「大丈夫?」と心配そうに尋ねてくる。
 彼女が心配してるのは私の体調なのか?心境なのか?
 しかし、どちらだとしても私の答えは決まっている。
「大丈夫。ありがとね」
 そう笑顔で答えた。
 そして私は仕事があるからと言って教室を出る。
 他のクラスメイト達が私が帰るのを見て名残惜しそうな視線を送ってくる。
 誰も私を心配なんてしてない。
 ああっ本当に友達なんだな。彼女って。
 明日は、ちゃんと話そうね。
 私は、そう胸中で呟き、重い足を引きずってファーストフード店へと向かった。
 私は、レジカウンターで紅茶だけを買った。
 油っこいパイは写真を見ただけで気持ち悪くなる。
 私は、紅茶を|溢《こぼ》さないように慎重に運びながら彼の座る席の前に立つ。
 私の影でパソコンの画面が暗くなり、彼は顔を上げる。
 彼の特徴的な三白眼が私を捉える。
「久しぶり」
 私は、笑顔を浮かべて言う。
「お久しぶりです」
 彼は、抑揚のない声で言う。
 その声のトーンは|話さない女《サイレント・ガール》に話していたものと変わらないはずなのに何処か違って感じた。
 私は、胸の中で唇を噛み締め席に座る。
「元気してた?」
「はいっお陰様で風邪も引いてません」
 そう言うことじゃないんだけどなぁ。
 私はそう思いながらも笑みを崩さない。
 しかし……。
「元気じゃなさそうですね」
 彼の言葉に私は弾かれたように顔を上げる。
「え?なんで?」
「いつもより化粧が濃いから。普段はナチュラルメイクって言うんでしたっけ?もっとスッピンに近かったように思いますが……」
「よく見てるんだね……君……」
 まったく人になんて関心がなさそうなのに……。
 それともすぐ側に劇的に変化した|人《女》がいるから?
「撮影で思った以上に疲れちゃってたみたい。朝起きたら顔面崩れてて。慌てて化粧しちゃった」
 私は、誤魔化すように小さく舌を出す。
 彼は、三白眼を小さく細める。
「そうですか」
 彼は、小さく呟き、アップルジュースのストローに口を付ける。
「撮影はどうでしたって……聞かないの?」
「聞いて欲しいんですか?」
 彼は、ストローから口を離す。
「みんな聞いてきたよ?〇〇君に会えた?とか、裏話教えて……とか?」
「僕は、"みんな"ではありません」
 彼は、三白眼をきゅっと細める。
「じゃあ、なあに?」
 私は、余裕振るように頬杖を付く。
 彼は、言葉を探すように視線を右上に向け、顎を擦る。
「友達……ですかね?」
 彼は、抑揚のない声に疑問を載せて言う。
 友達……。
 この言葉がこんなにも残酷なものだったなんて初めて知った。
「貴方は、学校で出来た初めての友達です」
 ……いやだ。
「違いますか?」
 違うよ……。
 貴方は、友達なんかじゃないよ。
 友達は……私をこんなに苦しめたりしない。
 こんなに……酷いことをしない。
「だから心配してます。本当に体調は平気なんですか?」
 そうか……友達だから心配してくれてるんだね。
 彼女と同じように。
 気にかけて……気遣って……守ろうとしてくれんだね。
 私は、唇を噛み締める。
 血の味が舌にこびりつく。
「眼帯陰キャ……」
「え……?」
「あの眼帯陰キャも友達なの?」
「誰のことです?」
「今日……プールの裏で一緒に食べてたあの女よ」
 テーブルにポタリっと何かが落ちる。
 彼の三白眼が小さく震える。
「あの女も……友達なの?」
 ポタリ……。
 ポタリ……。
「先輩のことですか?先輩は……友達じゃありません」
 ポタリ……。
 ポタリ……。
「じゃあ、なに?」
「いや、それよりも……」
 ポタリ……。
 ポタリ……。
「答えて!」
 ポタリ……ポタリ……。
「あの女は貴方のなんなの⁉︎」
 ポタリ……ポタリ……ポタリ……。
 ポタリ……ポタリ……ポタリ……。
 スカートが温い。
 彼は、立ち上がるとポケットからハンカチを取りだして私の口を塞ぐ。
「なにを……」
「じっとして」
 視界の端に彼のハンカチの先が映る。
 赤黒く染まった彼のハンカチが。
「すいませんっ店員さんを……いや救急車を呼んでください」
 え……?
 私は、今になって口の中いっぱいに臭い鉄の味が充満し、咽せ混みそうなくらい水気が溜まっていることに気付く。
 視界を落とす。
 テーブルが真っ赤に染まり、制服が赤黒く汚れている。
 彼の手が赤く染まる。
 彼は、表情を変えずに私を見る。
「大丈夫ですか?意識をしっかり」
 えっ?
 なに言ってるの?
 私は大丈夫だよ。
 こんなことして誤魔化さないで。
 ちゃんと答えて。
 あの女はなに?
 私は貴方のなに?
 私は……私は……私は……。
 世界が暗転する。
 意識が闇へ闇へと落ちていく。
 彼の声がかすかに聞こえる。
 私の名前を呼んでいる。
 私は、彼の声を糸に縋る。
 ねえ、お願い教えて……。
 私は、貴方のなんなの?