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来世に繋がる失恋(6)

ー/ー



 重い足取りで何とか学校に着くと既に昼休みを迎えていた。
 私が教室に入ってきたのを見るとクラスメイトたちは表情を輝かせて私に駆け寄ってくる。
「お帰り!」
「撮影お疲れ様!」
「〇〇君に会えた?」
「お話し聞かせて!」
 仲良いクラスメイトからそれほど仲良くないクラスメイトが怒涛に群がって質問攻めしてくる。
 いつもなら営業スマイルで上手くあしらえるけど、身体が鉛のように重い今はとてもじゃないがそんな気力も体力もない。私はクラスメイトの波に押されて飲み込まれそうになる。
「ちょっとやめなよ!」
 私の前に女子生徒が立って群がるクラスメイトを虫でも払うように手を大きく振る。
 私に彼の情報を教えてくれた彼女だ。
「久々の登校なのよ!迷惑を考えなさい!」
 そう言って彼女はクラスメイト達を睨みつける。
 その強い視線にクラスメイト達は催眠が解けたように気まずそうな顔をして自分たちの席に戻っていく。
「まったく……」
 彼女は、両手を腰に当ててふうっと息を吐いて私を見る。
「大丈夫?」
「うんっ……ありがとう……」
 私は、ボソリっと礼を言う。
 まさか、利害関係だけの繋がりと思っていた彼女が自分を守ってくれるなんて思わなかったので驚きを隠せなかった。
 彼女もそれに気付いたようで顔を顰める。
「なんで驚いてるのよ?」
「いや……だって……」
「友達なんだから当たり前でしょ」
 友達……。
 そうか……私達って友達だったんだ。
 私は、きゅっと胸が締め付けられるのを感じた。
「なんか疲れてるね。とりあえず座ろう」
 そう言うと彼女はいつものお昼仲間の席に私を連れていく。
 お昼仲間達は、さっき彼女に怒られたからか私が来ても気まずそうな「やぁ」と手を上げるだけでそれ以上のことは言わなかった。
 周りのクラスメイト達もじっとら見てくるだけで特に何もアクションしてこない。
「ご飯は?」
「家で食べてきた」
「なんか飲む?と言っても購買で買ったお茶しかないけど……」
 そう言って濃い緑の茶の入ったペットボトルを渡してくる。
「口つけてないよ」
「大丈夫。水筒あるから」
 そう言って鞄から小さな水筒を取り出す。
「撮影は?上手くいった?」
 みんなが聞きたい事を自然の流れで聞いてくる。
「まあ、お陰様で」
「そう。上映されるの楽しみにしてるね」
「内容聞かなくていいの?」
「どうせオフレコでしょ?それにネタバレ嫌いなの」
 何か心地よいなあ。
 本当に友達みたい……ううんっ友達なんだ。
 こんなことならもっと早く仲を深めておけば良かった。
 彼にばかり気を取られて他の事を疎かにし過ぎた。
 そう思いながらも私の視線は自然と彼のいる窓側の席に向いて……。
 いない。
 いつもならつまらなそうにシウマイ弁当を突きながら文庫本を読んでるのにそこには誰もいなかった。
 えっ?なんで?
 席替えした?
 私は、キョロキョロと周りを見回すが彼の姿はない。
 トイレに行ってる?
 それとも職員室?
 まさか何かやらかして停学か退学になったんじゃ……。
「彼はプールの裏だよ」
 私の挙動不審な態度に気付いた彼女が小さな声で言う。
「あんたが撮影で休みだした辺りからそこでお昼を食べてるみたい」
「えっ?なんで?」
 意味が分からなかった。
 何でわざわざそんなところでご飯を食べる必要が。
「知らない。話した事ないし……」
 あれから二ヶ月も経ったのに彼はまだクラスメイトの誰とも溶け込んでないようだ、
 まあ、そんなに驚くことではないけど……。
 でも……ということは彼は今、一人でプールの裏でお昼を食べているの言う事だ。
 誰にも邪魔されず……。
 だったら……。
 私は、身体に少しだけ力が戻るのを感じる。
 今なら夕方を待たずに彼と話せる。
 私は、彼のもとに行こうと立ちあがろうとする。
「やめな」
 私のアクションに気付いた彼女は小さい声で言う。
「今は……行かない方がいい」
 ……えっ?
 私は、彼女の顔を見る。
 彼女は、気まずそうな顔をしたら私をチラリっと見る。
 それだけで私は何かを感じ取ってしまった。
 彼は……一人ではないのだ。
 誰かと……一緒にいるのだ。
 しかも異性(おんな)と……。
 私の身体にさっきとは違う意味の力が巡る。
 私は、身体の重さすら忘れて立ち上がると自分でも驚くぐらい駆け足で教室を飛び出した。

 プール裏の四角に彼らはいた。
 二人がようやく座れるようなレジャーシートを広げ、パソコンを膝の上に置き、左手にシウマイ弁当を、右手に箸を持って器用にキーボードを叩いていた。
 そしてその右横には……。
「今日も綺麗に出来たよ〜プルプルの卵焼きだよ〜」
 女の子が座っていた。
 私と同じブレザーの制服を着た女の子が。
「卵焼きでプルプルって表現は非常に可笑しいと思います」
 彼は、いつものように抑揚のない声で返す。
「そんなことないよー。見てー」
 女の子は、見た目だけは豪華な重箱から箸で卵焼きを摘み上げる。
 綺麗に包まれた真っ黄色の卵焼き。
 その表面がぷるんっぷるんっと揺れている。
「とんでもなくメレンゲを泡立てて作ったの。そこに牛乳とゼラチンを足してプリンのような食感に……」
「だったらプリンにしてください。その方が遥かに効率的で卵も喜びます。それにとんでもなくの使い方が間違ってます」
「えーっそこ突っ込むぅ?」
 女の子は、ぷうっと可愛らしく頬を膨らます。
「いいから食べてみてよ。美味しいから」
 女の子の言葉に彼は、三白眼で重箱を睨む。そして箸を近づけ、プルプル震える卵焼きを摘むとそのまま口に運んだ。
 女の子の切長の右目がじっと彼の口元を見る。
「どお?」
「甘い……」
 彼は、きゅっと三白眼を細める。
「砂糖が何段階進化したらこの形になるのか?と疑問になるレベルです」
「すっごい分かりづらいんだけどその例え……」
 女の子は、右目をきゅっと細める。
「つまり美味しくなかったってこと?」
「いえ、美味しいです」
 彼は、口の中のものを飲み込んでもう一つ摘む。
「ただ、これ以上食べたら将来を待たずに糖尿病なので残りは家で食べます」
 そういって卵焼きを口に放り込み、「甘い」と呟く。
 女の子は、驚きながらも嬉しそうに微笑む。
 あの子は誰だろう?
 角度的に右側の顔しか見えないがとても可愛らしい。
 綺麗に結い上げた光沢のある長い黒髪、卵形の輪郭、化粧気のない整った目鼻立ち、薄いが形の良い唇、細いがブレザー越しにも女性としての成長を感じさせる身体付き、そして切長の右目……。
 一見地味だけど、文句のつけようない清楚な美少女。
 こんな可愛らしい子がうちの学校にいただなんて……。
 同級生では見たことない。
 上級生?転校生?
 いや、そんなことよりも……。
 この雰囲気はなに?
 甘いでもない。
 熱いでもない。
 混ざり合うでも重なり合うでもない。
 最初からそこに在るかのような、一切の不純物の入ることの許さない完璧な形がそこにあった。
 私の右目から涙が落ちる。
 なんで……?
 なんでなの?
 なんでそこにいるのが私じゃないの?
 彼の一番は私じゃないの?
 ねえ?誰?
 貴方は……誰なの?
 風が吹く。
 季節外れの突風は濃い色の草花を揺らし、レジャーシートをざわめかせ、女の子の髪を掻き乱す。
 女の子は、髪の毛を押さえ、身を縮める。
 見えなかった彼女の左の横顔が見える。
 そこにあったのは……大きな白い眼帯だった。
話さない女(サイレント・ガール)
 私は、呆然とその名を呟き、立ち尽くした。
「大丈夫ですか?先輩?」
「うんっ大丈夫だよ。ありがとう」
 二人の会話がノイズのように頭の中を駆けた。


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 私が教室に入ってきたのを見るとクラスメイトたちは表情を輝かせて私に駆け寄ってくる。
「お帰り!」
「撮影お疲れ様!」
「〇〇君に会えた?」
「お話し聞かせて!」
 仲良いクラスメイトからそれほど仲良くないクラスメイトが怒涛に群がって質問攻めしてくる。
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「ちょっとやめなよ!」
 私の前に女子生徒が立って群がるクラスメイトを虫でも払うように手を大きく振る。
 私に彼の情報を教えてくれた彼女だ。
「久々の登校なのよ!迷惑を考えなさい!」
 そう言って彼女はクラスメイト達を睨みつける。
 その強い視線にクラスメイト達は催眠が解けたように気まずそうな顔をして自分たちの席に戻っていく。
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「大丈夫?」
「うんっ……ありがとう……」
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 彼女もそれに気付いたようで顔を顰める。
「なんで驚いてるのよ?」
「いや……だって……」
「友達なんだから当たり前でしょ」
 友達……。
 そうか……私達って友達だったんだ。
 私は、きゅっと胸が締め付けられるのを感じた。
「なんか疲れてるね。とりあえず座ろう」
 そう言うと彼女はいつものお昼仲間の席に私を連れていく。
 お昼仲間達は、さっき彼女に怒られたからか私が来ても気まずそうな「やぁ」と手を上げるだけでそれ以上のことは言わなかった。
 周りのクラスメイト達もじっとら見てくるだけで特に何もアクションしてこない。
「ご飯は?」
「家で食べてきた」
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「口つけてないよ」
「大丈夫。水筒あるから」
 そう言って鞄から小さな水筒を取り出す。
「撮影は?上手くいった?」
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 いない。
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「えっ?なんで?」
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 あれから二ヶ月も経ったのに彼はまだクラスメイトの誰とも溶け込んでないようだ、
 まあ、そんなに驚くことではないけど……。
 でも……ということは彼は今、一人でプールの裏でお昼を食べているの言う事だ。
 誰にも邪魔されず……。
 だったら……。
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 今なら夕方を待たずに彼と話せる。
 私は、彼のもとに行こうと立ちあがろうとする。
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 私のアクションに気付いた彼女は小さい声で言う。
「今は……行かない方がいい」
 ……えっ?
 私は、彼女の顔を見る。
 彼女は、気まずそうな顔をしたら私をチラリっと見る。
 それだけで私は何かを感じ取ってしまった。
 彼は……一人ではないのだ。
 誰かと……一緒にいるのだ。
 しかも|異性《おんな》と……。
 私の身体にさっきとは違う意味の力が巡る。
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 二人がようやく座れるようなレジャーシートを広げ、パソコンを膝の上に置き、左手にシウマイ弁当を、右手に箸を持って器用にキーボードを叩いていた。
 そしてその右横には……。
「今日も綺麗に出来たよ〜プルプルの卵焼きだよ〜」
 女の子が座っていた。
 私と同じブレザーの制服を着た女の子が。
「卵焼きでプルプルって表現は非常に可笑しいと思います」
 彼は、いつものように抑揚のない声で返す。
「そんなことないよー。見てー」
 女の子は、見た目だけは豪華な重箱から箸で卵焼きを摘み上げる。
 綺麗に包まれた真っ黄色の卵焼き。
 その表面がぷるんっぷるんっと揺れている。
「とんでもなくメレンゲを泡立てて作ったの。そこに牛乳とゼラチンを足してプリンのような食感に……」
「だったらプリンにしてください。その方が遥かに効率的で卵も喜びます。それにとんでもなくの使い方が間違ってます」
「えーっそこ突っ込むぅ?」
 女の子は、ぷうっと可愛らしく頬を膨らます。
「いいから食べてみてよ。美味しいから」
 女の子の言葉に彼は、三白眼で重箱を睨む。そして箸を近づけ、プルプル震える卵焼きを摘むとそのまま口に運んだ。
 女の子の切長の右目がじっと彼の口元を見る。
「どお?」
「甘い……」
 彼は、きゅっと三白眼を細める。
「砂糖が何段階進化したらこの形になるのか?と疑問になるレベルです」
「すっごい分かりづらいんだけどその例え……」
 女の子は、右目をきゅっと細める。
「つまり美味しくなかったってこと?」
「いえ、美味しいです」
 彼は、口の中のものを飲み込んでもう一つ摘む。
「ただ、これ以上食べたら将来を待たずに糖尿病なので残りは家で食べます」
 そういって卵焼きを口に放り込み、「甘い」と呟く。
 女の子は、驚きながらも嬉しそうに微笑む。
 あの子は誰だろう?
 角度的に右側の顔しか見えないがとても可愛らしい。
 綺麗に結い上げた光沢のある長い黒髪、卵形の輪郭、化粧気のない整った目鼻立ち、薄いが形の良い唇、細いがブレザー越しにも女性としての成長を感じさせる身体付き、そして切長の右目……。
 一見地味だけど、文句のつけようない清楚な美少女。
 こんな可愛らしい子がうちの学校にいただなんて……。
 同級生では見たことない。
 上級生?転校生?
 いや、そんなことよりも……。
 この雰囲気はなに?
 甘いでもない。
 熱いでもない。
 混ざり合うでも重なり合うでもない。
 最初からそこに在るかのような、一切の不純物の入ることの許さない完璧な形がそこにあった。
 私の右目から涙が落ちる。
 なんで……?
 なんでなの?
 なんでそこにいるのが私じゃないの?
 彼の一番は私じゃないの?
 ねえ?誰?
 貴方は……誰なの?
 風が吹く。
 季節外れの突風は濃い色の草花を揺らし、レジャーシートをざわめかせ、女の子の髪を掻き乱す。
 女の子は、髪の毛を押さえ、身を縮める。
 見えなかった彼女の左の横顔が見える。
 そこにあったのは……大きな白い眼帯だった。
「|話さない女《サイレント・ガール》」
 私は、呆然とその名を呟き、立ち尽くした。
「大丈夫ですか?先輩?」
「うんっ大丈夫だよ。ありがとう」
 二人の会話がノイズのように頭の中を駆けた。