青鬼は屋敷の廊下を歩いていた。
ブラウン・バケット魔術師団長の屋敷である。
逃げ道の多い部屋から順に中を確認していく。
最後は来客用の個室だ。そこに籠っている可能性が高い。
足音を立てないようにゆっくりと階段を上る。
残るは最上階のみ。一部屋ずつ、慎重に中を確認していった。
「やあ」
「……どうも」
突然、後ろから掛けられた声に振り返る。
見れば、この屋敷の主である『ブラウン・バケット』が立っていた。
「ウチに何か御用かな?」
「いや、ちょっと人を探していて」
思わず軽口で応じた。
お互いに状況は良く分かっているだろう。
青鬼はティアナが一人になった隙を突いて攻めてきたのだ。
この状況で商業都市『レンブラント』が襲撃されれば、A級冒険者パーティ『幸せの青い小鳥』が呼び出されることは計算できる。
「娘なら留守だよ」
ブラウン団長がにやりと笑う。
「はッ。娘のことじゃねえよ」
茶番は切り上げて、青鬼も口元を歪めて見せた。
「……ティアナ・クロスはどこだ?」
続けて訊いた。答えよりも相手の反応が欲しかった。
「ん? ん-? ……ああ、あの子か。どこだろうな?」
「……チ」
徹底的に惚けて見せる相手に、青鬼は思わず舌打ちする。
驚くほど本心が見えない。
一対一でも勝てるとは限らない。
ましてや、今の目的とは無関係だ。
「今だ」
「?」
青鬼の思考の隙間を突くような呟きだった。
「……!?」
頭上からの音で、青鬼は直感的に後ろに大きく跳んだ。
直後、頭上の天井から青白い炎が落ちてきた。
続いて背後の窓が割れる音。誰かが近づいてくる。
ブラウン団長から目を離しすぎないように、青鬼はちらりと横目で振り返った。
「久しぶり。お友達の青鬼君」
「……ッ!」
そこにいたのは『エリーナ・コルト』だった。
王国にいた捕虜は解放されたが、このような状況を想定して残っていたのだ。
エリーナはすでに赤い本を青鬼へと突き付けている。
廊下の前方には『ブラウン・バケット』後方には『エリーナ・コルト』だ。
この時点で勝ち目はない。逃げの一択だと青鬼は判断した。
しかし。
「光栄だな。大戦の英雄二人の待ち伏せとは」
「いや? 待ち伏せ? ここは私の家だが?」
「ははは! 相変わらずだな、ブラウン坊や」
青鬼の言葉に二人は軽く返して見せる。
しかし、青鬼はさらに笑った。
「だが、いないと『分かれば』それで良い!
向こうにいると『分かった』からな!」
その瞬間、青鬼が戻る。
確かに、ティアナ・クロスは王都にいなかった。