第四部 58話 教育方針
ー/ー
「こら、サボるな!」
「ぴ!」
お目付け役の俺とピノが声を張り上げる。
俺たちはアリスをびしっと指でさす。
「えー、良いじゃん!」
俺たちの言葉にアリスは口を尖らせる。
さらに不満げに顔を背けて見せた。
俺たちはバケット邸の庭にいた。
この間、手合わせした戦術が有用だったので、ナタリーからのお達しでアリスの体力向上が決まったのだ。
今はジョギング中である。
庭の中をぐるぐると周回していた。
アリスは文句ばかりだが、自業自得にも程がある。
……それにしても、本当に体力ねえなコイツ。
アリスの睡眠時間が長いので、今は夕方だ。
実際、アリスが近接戦闘をできるようになることは非常に有用だろう。
まず、本来は後衛であるアリスの護衛は不要になる。
それどころかナタリーの護衛すら出来るかも知れない。
高火力の魔法を使えるアリスが単独行動できるのだ。
そもそもの戦略にも幅が生まれる。ソフィアの穴を埋めることになるだろう。
アリスのアイデア自体は非常に価値が高いのだ。
今やっていることは走っているだけだが。
「もう無理、死んじゃう! 死んじゃうよ!?
私を殺す気なの? ムリムリムリ……!」
アリスがジョギングしながら文句を言い続けている。
これ以上は走れないという意味だろう。
「いや、まだまだ走れるだろ」
「ぴっ!」
「そんな! 人間はこんな長時間も走れないのよ!
どうしてこんなに酷いことができるの!?」
「……いや、まだ五分も経ってないが」
「ぴぃ?」
「あ、そうだ! 魔法を使わせてよ!
そうすれば楽になる。うん、そうするべき!」
「駄目に決まってるだろ。楽をしようとするな」
「ぴ! ぴぃぴぃ……」
「嘘でしょ!? より良い方法があるなら実践すべきよ!
いや、いっそこの訓練自体をやめるべきよ! まったく無駄にも程があるよ」
「…………」
「…………」
それにしても無駄によくしゃべる。
黙ればもう少し楽だろうに。
「……!?」
その時、甲高い悲鳴が聞こえた。
俺にとっては聞き慣れた声だった。
さらに大きな警告音。
アリスがティアナに渡した魔法陣のものだ。
「……アリス、ピノ」
「風よ、吹き飛ばせ」
「ぴ」
俺はアリスに目配せすると、悲鳴のした方へと走り出す。
後ろでアリスの声。後を追ってくるのが分かった。
逆にピノは去っていく。ナタリーへ連絡に行ったはずだ。
「エル!」
「分かったわ」
頭上にいるエルの能力で聴覚を強化させる。
すぐに遠くにいるティアナの声が聞こえてきた。
「きゃあ! やめてください!」
ティアナの切迫した声。
くそ、学院からの帰りを狙われたのか!?
「嫌です! 離して!」
ティアナが強く拒絶する。
騎士団は何をしているんだ!
「習い事なんてしませんっ!」
……? なんて?
俺とアリスはさらに加速する。
何だか危機感を削がれてしまったが、足を止めるようなことはしない。
「いい加減にしてください!
騎士団を呼びますよ!?」
珍しい。少なくとも俺は初めて見る。
温厚なティアナが声を荒げていた。
「マナーなんて知りませんっ!」
……親子喧嘩かな? 教育ママ的な。
ティアナが最後に叫ぶ度、思わずほっこりしてしまう。
けたたましく鳴り響く警告音との差がすごい。
足が止まりそうになりながらも、俺たちはティアナの元まで辿り着く。
やはりというか、ティアナの前にはあの老婆がいた。
「ですから、フィオネ様には王女に相応しい振る舞いを……」
老婆がティアナに言い寄る。
「嫌ですよっ!? 王女なんてやりませんっ!」
ティアナがぷい、とそっぽを向く。
騎士団が遠巻きにおろおろと見守っている。
俺とアリスが大きく溜息を吐いた。
「……とうとう会っちゃったね」
「そうだな。まあ、いつまでも逃げられないよなぁ」
アリスの言葉に俺は苦笑した。
その間もティアナと老婆は言い合っている。
「…………」
「? 何?」
俺はアリスをまじまじと見つめた。
アリスが首を傾げて見せる。
「まだまだ余力あるじゃねえか?」
「やば」
俺の言葉にアリスが顔を背けた。
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「ぴ!」
お目付け役の俺とピノが声を張り上げる。
俺たちはアリスをびしっと指でさす。
「えー、良いじゃん!」
俺たちの言葉にアリスは口を尖らせる。
さらに不満げに顔を背けて見せた。
俺たちはバケット邸の庭にいた。
この間、手合わせした戦術が有用だったので、ナタリーからのお達しでアリスの体力向上が決まったのだ。
今はジョギング中である。
庭の中をぐるぐると周回していた。
アリスは文句ばかりだが、自業自得にも程がある。
……それにしても、本当に体力ねえなコイツ。
アリスの睡眠時間が長いので、今は夕方だ。
実際、アリスが近接戦闘をできるようになることは非常に有用だろう。
まず、本来は後衛であるアリスの護衛は不要になる。
それどころかナタリーの護衛すら出来るかも知れない。
高火力の魔法を使えるアリスが単独行動できるのだ。
そもそもの戦略にも幅が生まれる。ソフィアの穴を埋めることになるだろう。
アリスのアイデア自体は非常に価値が高いのだ。
今やっていることは走っているだけだが。
「もう無理、死んじゃう! 死んじゃうよ!?
私を殺す気なの? ムリムリムリ……!」
アリスがジョギングしながら文句を言い続けている。
これ以上は走れないという意味だろう。
「いや、まだまだ走れるだろ」
「ぴっ!」
「そんな! 人間はこんな長時間も走れないのよ!
どうしてこんなに酷いことができるの!?」
「……いや、まだ五分も経ってないが」
「ぴぃ?」
「あ、そうだ! 魔法を使わせてよ!
そうすれば楽になる。うん、そうするべき!」
「駄目に決まってるだろ。楽をしようとするな」
「ぴ! ぴぃぴぃ……」
「嘘でしょ!? より良い方法があるなら実践すべきよ!
いや、いっそこの訓練自体をやめるべきよ! まったく無駄にも程があるよ」
「…………」
「…………」
それにしても無駄によくしゃべる。
黙ればもう少し楽だろうに。
「……!?」
その時、甲高い悲鳴が聞こえた。
俺にとっては聞き慣れた声だった。
さらに大きな警告音。
アリスがティアナに渡した魔法陣のものだ。
「……アリス、ピノ」
「風よ、吹き飛ばせ」
「ぴ」
俺はアリスに目配せすると、悲鳴のした方へと走り出す。
後ろでアリスの声。後を追ってくるのが分かった。
逆にピノは去っていく。ナタリーへ連絡に行ったはずだ。
「エル!」
「分かったわ」
頭上にいるエルの能力で聴覚を強化させる。
すぐに遠くにいるティアナの声が聞こえてきた。
「きゃあ! やめてください!」
ティアナの切迫した声。
くそ、学院からの帰りを狙われたのか!?
「嫌です! 離して!」
ティアナが強く拒絶する。
騎士団は何をしているんだ!
「習い事なんてしませんっ!」
……? なんて?
俺とアリスはさらに加速する。
何だか危機感を削がれてしまったが、足を止めるようなことはしない。
「いい加減にしてください!
騎士団を呼びますよ!?」
珍しい。少なくとも俺は初めて見る。
温厚なティアナが声を荒げていた。
「マナーなんて知りませんっ!」
……親子喧嘩かな? 教育ママ的な。
ティアナが最後に叫ぶ度、思わずほっこりしてしまう。
けたたましく鳴り響く警告音との差がすごい。
足が止まりそうになりながらも、俺たちはティアナの元まで辿り着く。
やはりというか、ティアナの前にはあの老婆がいた。
「ですから、フィオネ様には王女に相応しい振る舞いを……」
老婆がティアナに言い寄る。
「嫌ですよっ!? 王女なんてやりませんっ!」
ティアナがぷい、とそっぽを向く。
騎士団が遠巻きにおろおろと見守っている。
俺とアリスが大きく溜息を吐いた。
「……とうとう会っちゃったね」
「そうだな。まあ、いつまでも逃げられないよなぁ」
アリスの言葉に俺は苦笑した。
その間もティアナと老婆は言い合っている。
「…………」
「? 何?」
俺はアリスをまじまじと見つめた。
アリスが首を傾げて見せる。
「まだまだ余力あるじゃねえか?」
「やば」
俺の言葉にアリスが顔を背けた。