第四部 57話 思うべき落とし穴
ー/ー「おい、本気でやるのか?」
「もちろん! 手を抜く必要はないからね」
俺の言葉にアリスが元気よく答えた。
アリスは突然、俺と手合わせをすると言い出したのだ。
「……本気か?
俺は前衛だぞ?」
場所はブラウン邸の庭だ。
いつかの公爵邸ほどではないが、手合わせくらいはできるだろう。
ちなみにティアナは学院に行っている。
心配はあるが、騎士団も目を光らせているのだ。
王都の中はひとまず安全とすることにしていた。
「だから良いって!
いつまでも休んでいたら体がなまっちゃうでしょ?」
アリスはそう言って胸を張った。
毎日十時間くらい眠っている奴が良く言ったな。
近くの木の下でナタリーが眠そうにしていた。
その肩にはピノもいる。アリスに連行されてきたのだ。
「ほら! 審判やって!」
「あはは、強引だなぁ」
アリスがナタリーをびしっと指さす。
同時に加奈がその姿勢で苦笑した。
「あ! あたしが審判なのね。
はいはい、はじめはじめ!」
ナタリーが投げやりに声を上げる。
やれやれというようにピノが「ぴっ」と代わりに鳴いた。
仕方ないので、一歩踏み出した。
俺は両手に木剣を握っているが、アリスは素手のままだ。
「まったく……遠慮なんてしなくて良いのにさ」
アリスはそう言って口を尖らせる。
「……風よ、吹き飛ばせ」
不意にアリスが呟いた。
その口元には嫌らしい笑みがある。
「な……」
「氷よ、突き刺せ」
一息に俺の懐まで潜り込むと、腰を深く落として加奈が『命令』する。
俺は急いで意識を切り替えて障壁を張る。いくつもの氷柱が障壁へとぶつかった。
「大地よ、持ち上げろ」
「……!」
すぐにアリスは自身の足場を持ち上げて、高く跳んだ。
くそ、分かっていたが魔法の回転が速い。
アリスは宙に浮いたまま、右手を俺に向けた。
思わず俺の頬が引き攣った。
「魔弾よ、貫け」
腐ってもブラウン団長の娘である。
加奈が撃ち下ろした魔弾の数は並みの魔術師とは比較にならない。
「……このぉ!」
俺はムキになって障壁をいくつも張った。
さらに『青い幻』に従って魔弾を避けつつ、障壁を足場にアリスを追う。
空中で身動きが取れないアリスへと、右の長剣と左の小剣を大きく払った。
しかし、アリスは楽しそうに笑みを浮かべる。
「風よ、逸らせ」
「……!?」
絶対に当たると思った俺の一撃は空を切った。
この感覚には覚えがある。何度も味わったんだから。
「……いつの間に」
間違いない。『エリーナ・コルト』の戦い方だ。
アリスが近接戦を担当し、加奈が魔術で補助する。
『緑竜』と戦った時のやり方にエリーナの戦法を組み込みやがったな。
加奈が両手を俺へと向ける。嫌な汗が伝った。
「炎よ、焼き払え」
俺は咄嗟に両腕で顔を庇うが、正面から火球を食らってしまう。
しかし、あまり威力はなかったらしい。俺は急いで障壁を張ると庭の地面に着地する。
見れば、アリスも風で着地したところだった。
自分の口元に笑みが浮かんだのが分かった。
思ったよりも楽しそうだ。今度は俺から踏み込む。
アリスへと長剣を振るう。
「?」
「……ッ」
だが、アリスは魔法を使わずに後ろに大きく跳んだ。
さっきまでと比べて動きが悪い。罠だろうか。
俺はもう一度踏み込もうと――
「ま、待った……!」
「? どうした?」
――アリスの言葉で咄嗟に手を止めてしまう。
すぐに後悔する。
耳を貸すべきではなかった。
「た、体力が尽きたの。今日は引き分け」
「おい、そんな言い訳が……」
俺が問答無用と腰を落として飛び掛かろうとする。
が、アリスは逆に一歩退いた。よく見れば肩でゼイゼイと息をしている。
「い、いいの? これ以上やったら私たちの魔力が暴走するよ?」
「…………」
自爆テロ犯のようなことを言う。
……それも自宅の庭である。
「いいの!? パパに迷惑が掛かるよ!?」
むしろお前はそれでいいのか?
……結局引き分けになった。
……課題はアリスの運動不足である。
「もちろん! 手を抜く必要はないからね」
俺の言葉にアリスが元気よく答えた。
アリスは突然、俺と手合わせをすると言い出したのだ。
「……本気か?
俺は前衛だぞ?」
場所はブラウン邸の庭だ。
いつかの公爵邸ほどではないが、手合わせくらいはできるだろう。
ちなみにティアナは学院に行っている。
心配はあるが、騎士団も目を光らせているのだ。
王都の中はひとまず安全とすることにしていた。
「だから良いって!
いつまでも休んでいたら体がなまっちゃうでしょ?」
アリスはそう言って胸を張った。
毎日十時間くらい眠っている奴が良く言ったな。
近くの木の下でナタリーが眠そうにしていた。
その肩にはピノもいる。アリスに連行されてきたのだ。
「ほら! 審判やって!」
「あはは、強引だなぁ」
アリスがナタリーをびしっと指さす。
同時に加奈がその姿勢で苦笑した。
「あ! あたしが審判なのね。
はいはい、はじめはじめ!」
ナタリーが投げやりに声を上げる。
やれやれというようにピノが「ぴっ」と代わりに鳴いた。
仕方ないので、一歩踏み出した。
俺は両手に木剣を握っているが、アリスは素手のままだ。
「まったく……遠慮なんてしなくて良いのにさ」
アリスはそう言って口を尖らせる。
「……風よ、吹き飛ばせ」
不意にアリスが呟いた。
その口元には嫌らしい笑みがある。
「な……」
「氷よ、突き刺せ」
一息に俺の懐まで潜り込むと、腰を深く落として加奈が『命令』する。
俺は急いで意識を切り替えて障壁を張る。いくつもの氷柱が障壁へとぶつかった。
「大地よ、持ち上げろ」
「……!」
すぐにアリスは自身の足場を持ち上げて、高く跳んだ。
くそ、分かっていたが魔法の回転が速い。
アリスは宙に浮いたまま、右手を俺に向けた。
思わず俺の頬が引き攣った。
「魔弾よ、貫け」
腐ってもブラウン団長の娘である。
加奈が撃ち下ろした魔弾の数は並みの魔術師とは比較にならない。
「……このぉ!」
俺はムキになって障壁をいくつも張った。
さらに『青い幻』に従って魔弾を避けつつ、障壁を足場にアリスを追う。
空中で身動きが取れないアリスへと、右の長剣と左の小剣を大きく払った。
しかし、アリスは楽しそうに笑みを浮かべる。
「風よ、逸らせ」
「……!?」
絶対に当たると思った俺の一撃は空を切った。
この感覚には覚えがある。何度も味わったんだから。
「……いつの間に」
間違いない。『エリーナ・コルト』の戦い方だ。
アリスが近接戦を担当し、加奈が魔術で補助する。
『緑竜』と戦った時のやり方にエリーナの戦法を組み込みやがったな。
加奈が両手を俺へと向ける。嫌な汗が伝った。
「炎よ、焼き払え」
俺は咄嗟に両腕で顔を庇うが、正面から火球を食らってしまう。
しかし、あまり威力はなかったらしい。俺は急いで障壁を張ると庭の地面に着地する。
見れば、アリスも風で着地したところだった。
自分の口元に笑みが浮かんだのが分かった。
思ったよりも楽しそうだ。今度は俺から踏み込む。
アリスへと長剣を振るう。
「?」
「……ッ」
だが、アリスは魔法を使わずに後ろに大きく跳んだ。
さっきまでと比べて動きが悪い。罠だろうか。
俺はもう一度踏み込もうと――
「ま、待った……!」
「? どうした?」
――アリスの言葉で咄嗟に手を止めてしまう。
すぐに後悔する。
耳を貸すべきではなかった。
「た、体力が尽きたの。今日は引き分け」
「おい、そんな言い訳が……」
俺が問答無用と腰を落として飛び掛かろうとする。
が、アリスは逆に一歩退いた。よく見れば肩でゼイゼイと息をしている。
「い、いいの? これ以上やったら私たちの魔力が暴走するよ?」
「…………」
自爆テロ犯のようなことを言う。
……それも自宅の庭である。
「いいの!? パパに迷惑が掛かるよ!?」
むしろお前はそれでいいのか?
……結局引き分けになった。
……課題はアリスの運動不足である。
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