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第四部 56話 早朝エンカウント

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 バケット邸で目を覚ます。
 何度も泊まっているから慣れたものだ。

 昨日は遅くまで宴会をやっていたようで、ナタリーやアリスはもちろん、ティアナもまだ寝ているらしい。

 当然、今日は学院が休みだからである。
 ティアナはサボったりしない。

 エルもティアナと一緒にいるらしく、俺の泊まった部屋にはいなかった。
 まあ、この屋敷の中なら安心だから良いけどさ。

「……お腹空いたな」

 何か食べ物を作ってもらおうと、使用人を探すことにした。
 広い廊下を歩いていると、ばったりと出くわした。

「おはよう」
「……おはようございます」

 ブラウン団長本人だった。
 お腹が空いたとは言いづらかった。



 ブラウン団長と二人、廊下を歩く。
 周囲に人影はない。世間話とはならないだろう。

「……聞いたよ。
 ティアナ・クロスは『ハーフエルフの小国』の第二王女だったらしいな」

「ええ、そうです。
 完全に予想外ですよ」

 ブラウン団長の言葉に俺が溜息を吐いた。
 すると、ブラウン団長は肩を震わせた。

「君の妹はいつも大物だな?」
「…………」

 ナタリーのことを含めて言っているのだろう。
 ブラウン団長は楽しそうに言うが、俺は咄嗟に声が出ない。

 これからナタリーは新国と戦う上で重要な人物になるだろう。
 おそらく、それこそが『ナタリー・クレフ』という『鍵』だったのだ。

 王国が大陸三国の中で勝ち抜くために。
 その後、新国と戦うために。実際、ナタリーがいなければ結果は違っただろう。

 だから俺は『アッシュ・クレフ』に転生した。
 鬼たちは執拗に『ナタリー・クレフ』を殺そうとした。

 ブラウン団長には全て話していたから、お見通しなのだろう。
 だが、キースに転生した時の約束だ。正体は話せない。

「老婆を避けているみたいだな。
 ……まだ学生でいさせてやりたいってところかな?」

 ブラウン団長が悪戯っぽく笑う。
 だから、話せないんだって。

「……本人が嫌がってるからですよ」
「はは」

 俺は苦い顔を浮かべながら返す。
 対照的にブラウン団長は楽しそうだ。

「まあ良い。とにかくあの子は君に任せた。
 守り切れば勝ちなのだろう?」

「はい」

 流石に状況を良く分かってる。
 この質問には強く頷いた。言われなくてもそのつもりだ。

「さあ、食堂に着いた。朝食にしようか?」
「……はい」

 今度は小さく頷いた。
 ……相変わらず、良く分かってらっしゃる。



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 バケット邸で目を覚ます。
 何度も泊まっているから慣れたものだ。
 昨日は遅くまで宴会をやっていたようで、ナタリーやアリスはもちろん、ティアナもまだ寝ているらしい。
 当然、今日は学院が休みだからである。
 ティアナはサボったりしない。
 エルもティアナと一緒にいるらしく、俺の泊まった部屋にはいなかった。
 まあ、この屋敷の中なら安心だから良いけどさ。
「……お腹空いたな」
 何か食べ物を作ってもらおうと、使用人を探すことにした。
 広い廊下を歩いていると、ばったりと出くわした。
「おはよう」
「……おはようございます」
 ブラウン団長本人だった。
 お腹が空いたとは言いづらかった。
 ブラウン団長と二人、廊下を歩く。
 周囲に人影はない。世間話とはならないだろう。
「……聞いたよ。
 ティアナ・クロスは『ハーフエルフの小国』の第二王女だったらしいな」
「ええ、そうです。
 完全に予想外ですよ」
 ブラウン団長の言葉に俺が溜息を吐いた。
 すると、ブラウン団長は肩を震わせた。
「君の妹はいつも大物だな?」
「…………」
 ナタリーのことを含めて言っているのだろう。
 ブラウン団長は楽しそうに言うが、俺は咄嗟に声が出ない。
 これからナタリーは新国と戦う上で重要な人物になるだろう。
 おそらく、それこそが『ナタリー・クレフ』という『鍵』だったのだ。
 王国が大陸三国の中で勝ち抜くために。
 その後、新国と戦うために。実際、ナタリーがいなければ結果は違っただろう。
 だから俺は『アッシュ・クレフ』に転生した。
 鬼たちは執拗に『ナタリー・クレフ』を殺そうとした。
 ブラウン団長には全て話していたから、お見通しなのだろう。
 だが、キースに転生した時の約束だ。正体は話せない。
「老婆を避けているみたいだな。
 ……まだ学生でいさせてやりたいってところかな?」
 ブラウン団長が悪戯っぽく笑う。
 だから、話せないんだって。
「……本人が嫌がってるからですよ」
「はは」
 俺は苦い顔を浮かべながら返す。
 対照的にブラウン団長は楽しそうだ。
「まあ良い。とにかくあの子は君に任せた。
 守り切れば勝ちなのだろう?」
「はい」
 流石に状況を良く分かってる。
 この質問には強く頷いた。言われなくてもそのつもりだ。
「さあ、食堂に着いた。朝食にしようか?」
「……はい」
 今度は小さく頷いた。
 ……相変わらず、良く分かってらっしゃる。