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第四部 51話 キースとティアナ

ー/ー



 翌日。王都の自室で少し考えを整理することにした。
 色々と情報が出てきたからだ。しばらく休むように言われているしな。

 まず、ティアナはハーフエルフの王女だった。
 次に新国と鬼は繋がっている。いや、新国が鬼を使っていた。
 
 そして『黒鬼』はドワーフだった。
 グレイの話を聞いた限り、エルフが関わってるのも間違いないだろう。
 
 兄さんは『ハーフエルフの小国』で運命を変えてしまったという。
 ここまで考えれば推測はできる。ハーフエルフの王族を兄さんに殺させたんだ。
 
 後に建国される『新国』の玉座に座る『鍵』の一人だったから。
 そうして『ゼノ・イリオス』は玉座に着いたんだ。
 
 なら、ティアナを……ハーフエルフの王族を殺したい理由は限られる。
 ティアナに地位を奪われたくないからだ。
 
 今まではともかく、成人したティアナは『新国』の王になりえるのだろう。
 おそらく運命はこれから『鍵』であるティアナを玉座に座らせようとする。
 
「…………」
 ゼノが狙ったのは『鍵』を全て殺すことで運命を変えることだ。
 
 この場合、『鍵』とは『ハーフエルフの王族』だ。
 運命というのは『ハーフエルフの王族』が『新国の王となる』こと。
 
 だが、ゼノは『鍵』すなわち『ハーフエルフの王族』を殺し損ねた。
 これから全力でティアナを殺そうとするはずだ。
 
 そのために兄さんの魂を奪って青鬼に取り込んだのだ。
 確かにあの青鬼であれば最後の『鍵』を殺すことができるだろう。
 
 俺は最後に見た真赤の魂を思い返す。
 兄さんの魂であり、レンの魂であり、ソフィアの魂でもある。
 
「……はは」
 思わず笑みがこぼれる。

 ああ――単純で良い。
 ティアナを守り切れば勝ちだ。

 自然とティアナは新国の王になる。
 そういう運命なのだろう。

 ……誰かに殺されなければ。



 その時、扉が小さくノックされた。
 この時間帯に俺の部屋を訪ねる相手は決まっている。

「どうぞ」
「はい」

 俺が返事をすると、入って来たのはやはりティアナだった。
 大人しい色合いの部屋着だった。

「どうした?」
「兄さん、お願いがあります」

 ティアナは神妙な顔で俺を見る。
 落ち込んでいるようだ。珍しい。

 ひょっとしたら、自分が王女ということを気にしていたのか?
 俺が気付かないだけで何か思うところがあったのかも知れない。

「ああ、何かあったのか?」
 俺も慎重に返事をする。

「おみやげを配るのを手伝ってください……。
 私一人じゃ運べません……」

「買いすぎだろ」
 そう言えば帰りの馬車に詰め込んでたな。



 ティアナの後を付いておみやげを配って回る。
 俺は荷物持ちである。もちろん護衛でもあるが。

 ナタリーアリスにブラウン団長、組合長やニナさん。
 孤児院のメンバーや近所の顔見知り、果ては組合員や騎士団にも知り合いがいるらしい。学院の友達には直接渡すとのことだ。後は近所の猫。

「この子が『もちもち大福』ですよ」
「……まあ、確かに」

 ティアナが真っ白い猫を示す。確かに名前通りではあった。
 最近、彼氏ができたんだったか。

 ティアナは干物のような食べ物を渡しながら、その首筋を撫でる。
 隣ではエルも一緒になって食べている。本当に友達らしい。

「で、その隣が『しっかりおこげ』で、あっちは『塩胡椒』です」
「どうして食べ物で縛ったんだ……」

 ちなみに『しっかりおこげ』は黒猫。『塩胡椒』は白と黒のぶち猫である。
 確かに黒猫は真っ黒だし、ぶち猫は白地に黒点があるけどさぁ……。
 
 
 
 そうして、俺たちは最後に時計塔公園までやってきていた。
 帰り道の途中で立ち寄ったのだ。
 
 俺はぐったりとベンチにもたれている。
 背もたれに首を預け、ほとんど寝ていると言って良いだろう。
 
 本当におみやげは大量だった。ティアナは一つ一つ丁寧に渡していた。
 そのティアナは右隣にちょこんと座っているが、平気そうだった。すごい。
 
 結局、丸一日かかってしまったな。
 すっかり日が暮れた空を眺めて一息ついた。
 
 夜空は晴れているが、すでに暗い。
 どうにか自分の近くは見えるという程度か。
 
「はい、どうぞ」
「……?」
 
 ティアナは不意にそんなことを言った。
 夜空を見上げる俺の顔の前に二つの包みを差し出した。
 
 俺は首を傾げる。
 ティアナがくすくすと笑う声。
 
「おみやげですよ。渡すって言ったじゃないですか。
 これは兄さんに。こっちは『貴方』に」
 
「……!」
 
 それは『キース・クロス』の体を借りている俺への贈り物だった。
 咄嗟に言葉が出ない俺にティアナは続ける。
 
「兄さんへのおみやげは開けないであげてくださいね。
 もう片方は本が入っています」

 二つのおみやげとティアナの両手がみえる。
 まるで夜空に浮かんでいるように錯覚した。

「……もっと勉強しろということか?」
「あはは、それもありますけど」

 俺の言葉にティアナはあっさりと頷いた。
 さらに「今更言っても無駄ですね」なんて失礼なことを言う。

「いつか『貴方』が目的を達成して、兄さんに体を返しても残るモノが良い」
「……さて、俺の記憶力でどこまで残せるか」

 反射的に軽口を返す。
 仕方ないだろう、咄嗟に言葉が出ないのだ。

「もうっ。私の好きな本です。連合でやっと見つけたんですから。
 ちゃんと読んでくださいねっ!」

 俺の夜空にティアナの顔が割り込んだ。
 ベンチに膝立ちして、俺を覗き込んでいるのだろう。

 義妹は恥ずかしそうに笑う。
 俺は苦笑しながら「分かったよ」と頷いた。

 目の前にある夜空が暗いとは感じなくなっていた。



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 翌日。王都の自室で少し考えを整理することにした。
 色々と情報が出てきたからだ。しばらく休むように言われているしな。
 まず、ティアナはハーフエルフの王女だった。
 次に新国と鬼は繋がっている。いや、新国が鬼を使っていた。
 そして『黒鬼』はドワーフだった。
 グレイの話を聞いた限り、エルフが関わってるのも間違いないだろう。
 兄さんは『ハーフエルフの小国』で運命を変えてしまったという。
 ここまで考えれば推測はできる。ハーフエルフの王族を兄さんに殺させたんだ。
 後に建国される『新国』の玉座に座る『鍵』の一人だったから。
 そうして『ゼノ・イリオス』は玉座に着いたんだ。
 なら、ティアナを……ハーフエルフの王族を殺したい理由は限られる。
 ティアナに地位を奪われたくないからだ。
 今まではともかく、成人したティアナは『新国』の王になりえるのだろう。
 おそらく運命はこれから『鍵』であるティアナを玉座に座らせようとする。
「…………」
 ゼノが狙ったのは『鍵』を全て殺すことで運命を変えることだ。
 この場合、『鍵』とは『ハーフエルフの王族』だ。
 運命というのは『ハーフエルフの王族』が『新国の王となる』こと。
 だが、ゼノは『鍵』すなわち『ハーフエルフの王族』を殺し損ねた。
 これから全力でティアナを殺そうとするはずだ。
 そのために兄さんの魂を奪って青鬼に取り込んだのだ。
 確かにあの青鬼であれば最後の『鍵』を殺すことができるだろう。
 俺は最後に見た真赤の魂を思い返す。
 兄さんの魂であり、レンの魂であり、ソフィアの魂でもある。
「……はは」
 思わず笑みがこぼれる。
 ああ――単純で良い。
 ティアナを守り切れば勝ちだ。
 自然とティアナは新国の王になる。
 そういう運命なのだろう。
 ……誰かに殺されなければ。
 その時、扉が小さくノックされた。
 この時間帯に俺の部屋を訪ねる相手は決まっている。
「どうぞ」
「はい」
 俺が返事をすると、入って来たのはやはりティアナだった。
 大人しい色合いの部屋着だった。
「どうした?」
「兄さん、お願いがあります」
 ティアナは神妙な顔で俺を見る。
 落ち込んでいるようだ。珍しい。
 ひょっとしたら、自分が王女ということを気にしていたのか?
 俺が気付かないだけで何か思うところがあったのかも知れない。
「ああ、何かあったのか?」
 俺も慎重に返事をする。
「おみやげを配るのを手伝ってください……。
 私一人じゃ運べません……」
「買いすぎだろ」
 そう言えば帰りの馬車に詰め込んでたな。
 ティアナの後を付いておみやげを配って回る。
 俺は荷物持ちである。もちろん護衛でもあるが。
 ナタリーアリスにブラウン団長、組合長やニナさん。
 孤児院のメンバーや近所の顔見知り、果ては組合員や騎士団にも知り合いがいるらしい。学院の友達には直接渡すとのことだ。後は近所の猫。
「この子が『もちもち大福』ですよ」
「……まあ、確かに」
 ティアナが真っ白い猫を示す。確かに名前通りではあった。
 最近、彼氏ができたんだったか。
 ティアナは干物のような食べ物を渡しながら、その首筋を撫でる。
 隣ではエルも一緒になって食べている。本当に友達らしい。
「で、その隣が『しっかりおこげ』で、あっちは『塩胡椒』です」
「どうして食べ物で縛ったんだ……」
 ちなみに『しっかりおこげ』は黒猫。『塩胡椒』は白と黒のぶち猫である。
 確かに黒猫は真っ黒だし、ぶち猫は白地に黒点があるけどさぁ……。
 そうして、俺たちは最後に時計塔公園までやってきていた。
 帰り道の途中で立ち寄ったのだ。
 俺はぐったりとベンチにもたれている。
 背もたれに首を預け、ほとんど寝ていると言って良いだろう。
 本当におみやげは大量だった。ティアナは一つ一つ丁寧に渡していた。
 そのティアナは右隣にちょこんと座っているが、平気そうだった。すごい。
 結局、丸一日かかってしまったな。
 すっかり日が暮れた空を眺めて一息ついた。
 夜空は晴れているが、すでに暗い。
 どうにか自分の近くは見えるという程度か。
「はい、どうぞ」
「……?」
 ティアナは不意にそんなことを言った。
 夜空を見上げる俺の顔の前に二つの包みを差し出した。
 俺は首を傾げる。
 ティアナがくすくすと笑う声。
「おみやげですよ。渡すって言ったじゃないですか。
 これは兄さんに。こっちは『貴方』に」
「……!」
 それは『キース・クロス』の体を借りている俺への贈り物だった。
 咄嗟に言葉が出ない俺にティアナは続ける。
「兄さんへのおみやげは開けないであげてくださいね。
 もう片方は本が入っています」
 二つのおみやげとティアナの両手がみえる。
 まるで夜空に浮かんでいるように錯覚した。
「……もっと勉強しろということか?」
「あはは、それもありますけど」
 俺の言葉にティアナはあっさりと頷いた。
 さらに「今更言っても無駄ですね」なんて失礼なことを言う。
「いつか『貴方』が目的を達成して、兄さんに体を返しても残るモノが良い」
「……さて、俺の記憶力でどこまで残せるか」
 反射的に軽口を返す。
 仕方ないだろう、咄嗟に言葉が出ないのだ。
「もうっ。私の好きな本です。連合でやっと見つけたんですから。
 ちゃんと読んでくださいねっ!」
 俺の夜空にティアナの顔が割り込んだ。
 ベンチに膝立ちして、俺を覗き込んでいるのだろう。
 義妹は恥ずかしそうに笑う。
 俺は苦笑しながら「分かったよ」と頷いた。
 目の前にある夜空が暗いとは感じなくなっていた。