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第四部 50話 黒幕

ー/ー



 王都に着いた翌日。
 俺たちは三組織への報告へと向かった。

 場所は何故かバケット邸だった。
 ナタリー、たまり場じゃないぞ?

「なるほどな。良くやったもんだ」
「ふむ。予想以上の成果と言えるだろうな」
「そうですね。ひとまずは休息を」

 ナタリーが報告を済ませる。
 組合長、ブラウン団長、ニナさんがそれぞれに頷いた。

 確かに予想以上の成果だろう。
 しかしあの時、もしも青鬼が止まっていなかったら?

 俺はちらりと隣のティアナを見遣る。
 本人は首を傾げると、ぱちぱちと目を瞬きながら見上げてきた。

 能天気にもほどがある様子だが、あの青鬼が手を止めたのだ。
 老婆が言うにはティアナはミーシャ姫にそっくりらしい。

『レン・クーガー』はまさにそのミーシャ姫の側近だった。
 確証はないが、影響があったのかもしれない。

 ……少なくとも、ソフィアの時は前世の影響を受けていた。

「あの、お願いがあります」
「? 何かな」

 不意にナタリーが口を開く。
 ブラウン団長が応じると、意外な言葉を口にした。

「エリーナ・コルトと面会させてください」



『エリーナ・コルト』は未だ王国の捕虜として隔離されていた。
 最大限の警戒態勢は敷かれていたが、態度は非常に協力的だ。

 王国としても帝国の英雄に対して敬意を払うように努めている。
 皮肉なことに関係は良好と言って良いだろう。

 王国側が少しずつ帝国兵を解放していることも影響があっただろう。
 もっともエリーナ自身は最後まで残ると言っていたが。

 ナタリーはエリーナのいる牢までやってくると、その姿を眺めた。
 一緒に来ているのは俺とアリス。パーティのメンバーだ。

「……やあ」

 エリーナはこちらに気が付いて挨拶した。
 軍服ほど立派な服装ではないが、粗末な姿だとは感じなかった。

「単刀直入に言う」

 ナタリーは返事すら省いて質問を続ける。
 この質問をするために急いだのだろう。

「新国と鬼は繋がっているわね?」
「……ふふ。どうしてそう思う?」

 ナタリーの直球に対して、エリーナはすぐさま応じた。
 ひょっとしたら予想していたのかもしれない。

「理由は分からないけど、鬼たちがティアナを狙っていたのは間違いない。
 キースやティアナ自身の話を聞く限り、ブローチを探してでも殺したかった」

「…………」

「そして、失敗したらすぐに新国が連合へと押し掛けた。
 これは鬼が殺し損ねたティアナを新国が殺そうってことでしょ?」

 ナタリーは詳しい事情は説明しない。
 それでもエリーナは大筋を理解したらしく、小さく何度か頷いた。

「なるほど。答える前にいくつか条件を付けても良いかな?」
「どうぞ」

 ナタリーが両手をエリーナに向けて見せた。

「まず、帝国兵の完全解放。ここの待遇は悪くない。
 こちらは侵略者だ。むしろ感謝しているほどだよ」

「…………」

「だが王国と帝国の力関係はすでに決した。
 解放しても問題ないはずだ。私自身への信頼もゼロではないと思っている」

「次は?」

「次は……新国と戦う時は私も呼びなさい。
 やられっぱなしは性に合わないのでね」

 条件は二つということか。決して悪くはない。
 いずれは帝国兵を帰す必要があるし、エリーナの協力はむしろプラスだろう。

「……この件はあたし個人と貴方個人の取引よ。確約はできない。
 でも、可能な限り王国側にあたしから交渉する。これで足りる?」

「十分だよ。
 確約と変わらないと思っている」

 エリーナはナタリーへの信頼をにじませた。
 そして、本題を告げた。

「結論から言えば、間違いないだろう。
 鬼は王国が私たちの野営地に攻め込む直前に逃げ出したのだよ」

「そして、まさに王国が攻め込んでいるその時に奴らはやって来た」
「……確かに間違いないわね」

 エリーナの言葉にナタリーは歯を鳴らした。
 この話が事実なら先を越されたどころではない。

「鬼たちは王国で何人か殺す必要があると言っていた。
 恐らく、一人はあの時の少女……ソフィアと呼んでいたか?」

 なるほど。あのソフィアへの襲撃も計画の内か。
 おそらく、兄さんの魂を狙ったんだ。

「もう一人がその『ティアナ』という人物だろう。
 他にいるかは分からないが少なくともこの二人は標的だったはずだ」

 エリーナがそう言うと、ナタリーは礼を返す。
 そして、思考に没頭し始めた。

「…………」

 俺も考えを進める。
 俺しか持たない知識も多い。

 だがこれで色々と分かった。
 一番重要なのは新国が鬼と繋がっていることだろう。

 連合を隠れ蓑にして、鬼たちの本命は新国だったわけだ。
 鬼を使って新国を発展させたことになる。

 そこにグレイが『ドワーフの大空洞』で聞いた話も組み合わせる。
 断片的な情報も多いが、綺麗に納得できた。

「ああ――やっと見つけた」
 口の中で小さく呟いた。
 
 兄さんをこの世界に転生させて、鍵を殺させた。
 そうして、運命を捻じ曲げてこの世界の表舞台に立ったんだ。
 
 自分自身はすでにヒトとして『人間』に負けたから。
 どうやっても、この世界は『人間』のものだったから。
 
 ――『黒幕』は新国の王『ゼノ・イリオス』だ。
 ――『エルフ』の生まれ変わりが『人間』に再戦を挑んでいる。



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 王都に着いた翌日。
 俺たちは三組織への報告へと向かった。
 場所は何故かバケット邸だった。
 ナタリー、たまり場じゃないぞ?
「なるほどな。良くやったもんだ」
「ふむ。予想以上の成果と言えるだろうな」
「そうですね。ひとまずは休息を」
 ナタリーが報告を済ませる。
 組合長、ブラウン団長、ニナさんがそれぞれに頷いた。
 確かに予想以上の成果だろう。
 しかしあの時、もしも青鬼が止まっていなかったら?
 俺はちらりと隣のティアナを見遣る。
 本人は首を傾げると、ぱちぱちと目を瞬きながら見上げてきた。
 能天気にもほどがある様子だが、あの青鬼が手を止めたのだ。
 老婆が言うにはティアナはミーシャ姫にそっくりらしい。
『レン・クーガー』はまさにそのミーシャ姫の側近だった。
 確証はないが、影響があったのかもしれない。
 ……少なくとも、ソフィアの時は前世の影響を受けていた。
「あの、お願いがあります」
「? 何かな」
 不意にナタリーが口を開く。
 ブラウン団長が応じると、意外な言葉を口にした。
「エリーナ・コルトと面会させてください」
『エリーナ・コルト』は未だ王国の捕虜として隔離されていた。
 最大限の警戒態勢は敷かれていたが、態度は非常に協力的だ。
 王国としても帝国の英雄に対して敬意を払うように努めている。
 皮肉なことに関係は良好と言って良いだろう。
 王国側が少しずつ帝国兵を解放していることも影響があっただろう。
 もっともエリーナ自身は最後まで残ると言っていたが。
 ナタリーはエリーナのいる牢までやってくると、その姿を眺めた。
 一緒に来ているのは俺とアリス。パーティのメンバーだ。
「……やあ」
 エリーナはこちらに気が付いて挨拶した。
 軍服ほど立派な服装ではないが、粗末な姿だとは感じなかった。
「単刀直入に言う」
 ナタリーは返事すら省いて質問を続ける。
 この質問をするために急いだのだろう。
「新国と鬼は繋がっているわね?」
「……ふふ。どうしてそう思う?」
 ナタリーの直球に対して、エリーナはすぐさま応じた。
 ひょっとしたら予想していたのかもしれない。
「理由は分からないけど、鬼たちがティアナを狙っていたのは間違いない。
 キースやティアナ自身の話を聞く限り、ブローチを探してでも殺したかった」
「…………」
「そして、失敗したらすぐに新国が連合へと押し掛けた。
 これは鬼が殺し損ねたティアナを新国が殺そうってことでしょ?」
 ナタリーは詳しい事情は説明しない。
 それでもエリーナは大筋を理解したらしく、小さく何度か頷いた。
「なるほど。答える前にいくつか条件を付けても良いかな?」
「どうぞ」
 ナタリーが両手をエリーナに向けて見せた。
「まず、帝国兵の完全解放。ここの待遇は悪くない。
 こちらは侵略者だ。むしろ感謝しているほどだよ」
「…………」
「だが王国と帝国の力関係はすでに決した。
 解放しても問題ないはずだ。私自身への信頼もゼロではないと思っている」
「次は?」
「次は……新国と戦う時は私も呼びなさい。
 やられっぱなしは性に合わないのでね」
 条件は二つということか。決して悪くはない。
 いずれは帝国兵を帰す必要があるし、エリーナの協力はむしろプラスだろう。
「……この件はあたし個人と貴方個人の取引よ。確約はできない。
 でも、可能な限り王国側にあたしから交渉する。これで足りる?」
「十分だよ。
 確約と変わらないと思っている」
 エリーナはナタリーへの信頼をにじませた。
 そして、本題を告げた。
「結論から言えば、間違いないだろう。
 鬼は王国が私たちの野営地に攻め込む直前に逃げ出したのだよ」
「そして、まさに王国が攻め込んでいるその時に奴らはやって来た」
「……確かに間違いないわね」
 エリーナの言葉にナタリーは歯を鳴らした。
 この話が事実なら先を越されたどころではない。
「鬼たちは王国で何人か殺す必要があると言っていた。
 恐らく、一人はあの時の少女……ソフィアと呼んでいたか?」
 なるほど。あのソフィアへの襲撃も計画の内か。
 おそらく、兄さんの魂を狙ったんだ。
「もう一人がその『ティアナ』という人物だろう。
 他にいるかは分からないが少なくともこの二人は標的だったはずだ」
 エリーナがそう言うと、ナタリーは礼を返す。
 そして、思考に没頭し始めた。
「…………」
 俺も考えを進める。
 俺しか持たない知識も多い。
 だがこれで色々と分かった。
 一番重要なのは新国が鬼と繋がっていることだろう。
 連合を隠れ蓑にして、鬼たちの本命は新国だったわけだ。
 鬼を使って新国を発展させたことになる。
 そこにグレイが『ドワーフの大空洞』で聞いた話も組み合わせる。
 断片的な情報も多いが、綺麗に納得できた。
「ああ――やっと見つけた」
 口の中で小さく呟いた。
 兄さんをこの世界に転生させて、鍵を殺させた。
 そうして、運命を捻じ曲げてこの世界の表舞台に立ったんだ。
 自分自身はすでにヒトとして『人間』に負けたから。
 どうやっても、この世界は『人間』のものだったから。
 ――『黒幕』は新国の王『ゼノ・イリオス』だ。
 ――『エルフ』の生まれ変わりが『人間』に再戦を挑んでいる。