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第四部 40話 舞踏会の前日

ー/ー



 グレイが広い演習場の中で一歩ずつ進んでゆく。
 そこにいくつもの魔弾が飛んできた。

 しかし、グレイは足を止めない。
 氷剣がグレイの隣を抜けて、魔弾を弾く。

『水の攻撃』と『風の攻撃』を二枚ずつ。
 無数の氷剣は、全て風で威力を底上げされている。

 今は二対二の演習中だ。
 前衛のグレイを後衛のティアナが援護している。

「お、らあ!」
「ぐ……」

 グレイと『統一学舎』の生徒がぶつかり合う。
 グレイの突進に合わせて、相手は長剣を振り下ろす。

 身体能力が上がるスキルでもあるのか。
 相手は高速で長剣を操って、何度もグレイへと斬りかかる。

「……よし!」
「!」

 相手が一際強く踏み込んだ。長剣を素早く真横に払う。
 対して、グレイは左の盾を押し出した。

 盾を下から持ち上げるように、グレイは長剣を受け流す。
 両腕が浮いて、相手の胴が大きく空いた。

 さらに深く踏み込むと、右の戦斧を横に大きく払った。
 相手は長剣を翻して、両手で戦斧を受けようとする。

 本来なら間に合わない程の隙だが、相手は素早く剣を戻して受けた。
 しかし――すぐに顔を苦し気に歪めた。

「こ、の……馬鹿力!」

 グレイの戦斧を押さえることは出来ず、相手の前衛が大きく後ろに吹き飛んだ。
 それでも急いで体勢を立て直す。顔を上げてグレイを迎え撃とうとする。

「え?」
 だが、顔を上げてすぐに呆然とした声を出した。

 目の前に水球があった。
 それは一瞬でボコボコと沸騰し――水蒸気となって視界を埋めた。

「『水の妨害』『火の妨害』……かな」
「あとは『地の防御』よ」

 俺が呟くと、エルが答えた。
 相手が「ちくしょう、見えない!」と叫ぶ。

 その直後、がつん、という鈍い音が響いた。
 相手の後衛が急いで風を巻き起こす。水蒸気が晴れてゆく。

 そこには盾を上から下に叩きつけた状態のグレイがいた。
 そのすぐ後ろの地面には壁がせり上がっている。

「なるほどな。
 目くらましした上で上空からの奇襲か」

 確かにティアナが得意とする方法だ。
 混乱している間に壁でグレイを持ち上げて、奇襲させたのだ。

 結局、相手は起き上がって来れなかった。
『王立学院』と『統一学舎』の代表二対二戦は『王立学院』の勝利で終わった。



 明日は五日目。最終日だ。
 予定通り、舞踏会が開かれるだろう。

 そこで鬼と戦うことになる。
 簡単にはいかないだろう。

 ――確保している意味があるのだろうか?

 俺は上着のポケットに入れたままのブローチに触れた。
 拾ってから肌身離さずに持っている。

 ピノには騒動が落ち着いたら、老婆に渡すと言ってある。
 俺以外は別に重要だと考えていないから、今のところは問題ない。

 意味が分からなくとも、確保するしかなかった。
 意味があるのは間違いないだろうから。



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 グレイが広い演習場の中で一歩ずつ進んでゆく。
 そこにいくつもの魔弾が飛んできた。
 しかし、グレイは足を止めない。
 氷剣がグレイの隣を抜けて、魔弾を弾く。
『水の攻撃』と『風の攻撃』を二枚ずつ。
 無数の氷剣は、全て風で威力を底上げされている。
 今は二対二の演習中だ。
 前衛のグレイを後衛のティアナが援護している。
「お、らあ!」
「ぐ……」
 グレイと『統一学舎』の生徒がぶつかり合う。
 グレイの突進に合わせて、相手は長剣を振り下ろす。
 身体能力が上がるスキルでもあるのか。
 相手は高速で長剣を操って、何度もグレイへと斬りかかる。
「……よし!」
「!」
 相手が一際強く踏み込んだ。長剣を素早く真横に払う。
 対して、グレイは左の盾を押し出した。
 盾を下から持ち上げるように、グレイは長剣を受け流す。
 両腕が浮いて、相手の胴が大きく空いた。
 さらに深く踏み込むと、右の戦斧を横に大きく払った。
 相手は長剣を翻して、両手で戦斧を受けようとする。
 本来なら間に合わない程の隙だが、相手は素早く剣を戻して受けた。
 しかし――すぐに顔を苦し気に歪めた。
「こ、の……馬鹿力!」
 グレイの戦斧を押さえることは出来ず、相手の前衛が大きく後ろに吹き飛んだ。
 それでも急いで体勢を立て直す。顔を上げてグレイを迎え撃とうとする。
「え?」
 だが、顔を上げてすぐに呆然とした声を出した。
 目の前に水球があった。
 それは一瞬でボコボコと沸騰し――水蒸気となって視界を埋めた。
「『水の妨害』『火の妨害』……かな」
「あとは『地の防御』よ」
 俺が呟くと、エルが答えた。
 相手が「ちくしょう、見えない!」と叫ぶ。
 その直後、がつん、という鈍い音が響いた。
 相手の後衛が急いで風を巻き起こす。水蒸気が晴れてゆく。
 そこには盾を上から下に叩きつけた状態のグレイがいた。
 そのすぐ後ろの地面には壁がせり上がっている。
「なるほどな。
 目くらましした上で上空からの奇襲か」
 確かにティアナが得意とする方法だ。
 混乱している間に壁でグレイを持ち上げて、奇襲させたのだ。
 結局、相手は起き上がって来れなかった。
『王立学院』と『統一学舎』の代表二対二戦は『王立学院』の勝利で終わった。
 明日は五日目。最終日だ。
 予定通り、舞踏会が開かれるだろう。
 そこで鬼と戦うことになる。
 簡単にはいかないだろう。
 ――確保している意味があるのだろうか?
 俺は上着のポケットに入れたままのブローチに触れた。
 拾ってから肌身離さずに持っている。
 ピノには騒動が落ち着いたら、老婆に渡すと言ってある。
 俺以外は別に重要だと考えていないから、今のところは問題ない。
 意味が分からなくとも、確保するしかなかった。
 意味があるのは間違いないだろうから。