しばらく小屋で待った後、グレイはピノの案内で戻って来た。
フィンにお礼を言って、エイク市の宿に戻って来たのは夜になってしまった。
当然、すぐさま会議である。外で話せる内容ではない。
大峡谷へと行ったメンバーも詳しい話はまだ聞いていなかった。
「さて、それじゃあ聞かせて。
大峡谷から落ちて、一体何があったの?」
全員が揃ったことを確認すると、ナタリーはそう言った。
「ああ、黒鬼に会った」
グレイはそう切り出して、話し始めたのだった。
「お前、何でそんなことになってるんだよ!」
「俺が知りたいよ! 何故か俺が触ると扉が開くんだよ!」
俺の言葉にグレイが叫んだ。もっともである。
扉を開けられるから来い、と大峡谷から落とされては堪らない。
……ちなみに地上の扉は巧妙に隠されていたらしい。
それにしても、グレイは今回の任務で一番割りを食っているかも知れない。
この後、またメンテナンス……いや、台詞の覚え直しである。
「……今からでも、黒鬼を襲撃したらどうだろ?」
「!」
フレアが軽い調子で言った。へらっと笑っている。
感覚で話している癖に、ふと切れ味が鋭いことを言う。剣士らしいというか。
「いや、止めた方が良いですね」
「そうかな?」
ジークがすぐに答えた。
椅子に浅く腰掛けて、フレアを横目で見る。
「相手の陣地に攻め込むには情報が足りない。
入った後、相手に扉を押さえられたら、僕たちは他の出口すら知らない」
「うん、私もそう思う」
「うーん、ジークに賛成かな」
「……む」
ジークの言葉にアリスと加奈が応じた。
フレアは納得したらしく、引き下がっていった。
フレアが感覚派だとしたら、ジーク達は理論派かな。
「そうですよっ!
せっかく教えてくれたのに酷いじゃないですかっ」
ティアナが元気に言った。これは何派だろう?
とりあえず理論派ではなさそうだ。論点がずれてる。
「まあ、本来の目的とは違うからな。
ひとまずは放っておいて良いかな、ナタリー?」
俺はそう言って、ナタリーを振り返る。
すぐに息を呑んだ。
「青鬼は王都を二回襲撃した。
七年ほどの間隔が空いていた。
その間、青鬼の目撃情報は全くなかった。
二度目の襲撃でお兄ちゃんを殺して自分も死んだ」
ナタリーは目を閉じて、ぶつぶつと呟いていた。
「それから分かることは?
七年間、青鬼は存在を消していたのかもしれない。
一度目は赤鬼を『行かせた』後、青鬼自身は存在を消したことになる」
俺はその言葉に耳を傾けていた。
「なぜ?
存在を消している間は『魂』を使わずに済むのかもしれない。
あるいは他にも何か……?」
少しの間、考えてからナタリーは首を横に振る。
判断材料がないという結論だろう。
「他は?
死ぬことで存在座標のずれはリセットされるかもしれない。
そっか……存在座標とは『魂』の座標なんだ。
だとすれば 次の『魂』に移ればリセットされるのは当然か」
ナタリーはこちらの視線は気にもせず、うんうんと何度か頷いた。
「他は?
直接触れていなければ、他人を『帰す』ことはできないはずだ。
それができるなら、二度目も青鬼と一緒に赤鬼は王都に現れたはず。
三匹いるなら、正面から戦えた。やらない理由はない」
そこまで思考を進めると、ナタリーは目を開けた。
「青鬼が捨て身でお兄ちゃんを殺しに来たのは、残り寿命が少なかったからか。
きっと……七年間、存在を消して潜伏した後、残り少ない命を使い切ったんだ」
そう結論付けた後、ナタリーは不意に首を傾げた。
「? じゃあ、ソフィアちゃんの時は?
あの時、青鬼は自殺した。まだ寿命はあったはずなのに」
「――!」
俺は知っている。この目で見たんだ。
あの真赤の魂は見間違いじゃあなかった。
あの黒い短刀……きっと魔道具だ。
ああ、くそ。『黒鬼印』ということか。
あの短刀を使って、ソフィアの――兄さんの魂を取り込んだ。
空いていた命数を埋めたんだ。
「……森の中の扉?」
呆然とした声を聞いた気がした。
誰が言ったのか分からなかった。
……きっと気のせいだろう。