ー/ー



「サクさんが負けた……」

「つえぇな。レベルは俺より低いくせに。反射神経も動体視力もたいしたもんだけど、やっぱりゲームの限界を自分で決めている感じがあるな」

 だったらあんたはゲームの限界を超えてるの? チーターって奴? ズルいだろ!

「馬鹿だな、四人でかかってくればいいのによ」

 私もそう思う。だけど、ダークが持つ異質な雰囲気がそれをさせなかった。サーラちゃんに付いた【恐怖】【焦燥】のステータスは消えていない。

「だったら今から四人でボコボコにしてやるわ! 覚悟しなさい」

 ハヤトの陰に隠れながらエナコが言うと、ダークはヘラヘラした顔で言い返した。

「それは無理だな」
「なんでよ!」
「敵は俺だけじゃないだろ?」

 直後に空気を震わす低い唸り声が聞こえてきた。

「もしかして、ダンジョンボスじゃないですか?」
「みたい。町に入る前に止めたかったのに」
「そっちの奴らは行ってもいいぜ。追ったりしないからよ」

 意外に思える発言の真意は、このあとの背筋が凍る言葉によって示された。

「プレイヤーを殺してもポイントが低いんだ。狙うならこの世界の人間か、女神の代行者だな」

 やっぱりこれはただのゲームじゃない。こいつの言動が私の苛立ちや怒りといった負の感情を刺激する。ゲームの枠から外れた敵だと認識したとき、ハヤトの雷鳴剣がダークの剣に打ち込まれた。

「エナコ、町の人と一緒にここから離れてくれ。サーラちゃんはサクさんの治療を。そのあと三人でダンジョンボスの討伐を頼む」

 ハヤトはひとりでダークと戦うことを選んだ。

「待ってください。ハヤトさんは……」
「大丈夫。俺は勝つよ。なんたって俺たちには勝利の女神がいるんだから」

 それはアドミスではなくて私のことだな!

「絵美ちゃん、ハヤトは私に任せて」
「だけど、ハヤトが死んだら」
「これはもうフロンティアってゲームの枠を逸脱してる。私もよくわかんない。ただ、ハヤトだけじゃなくて町の人も守らないといけないってことはわかる」

 こんなことを言ってしまったけど絵美ちゃんがどう解釈するのだろう。ハヤトのゲーム召喚に深く関わる事態な気がする。もしこれが、ただのゲームの演出だったら開発者を殴りに行ってやる!

「絵美ちゃん、行って!」
「わかりました。ハヤト君、頑張って!」

 ハヤトがダークの相手をしているあいだにサクさんの治療を終えたサーラちゃんは、立ち去る際に応援の言葉を残した。

「絶対に勝ってくださーい!」

 こんな気持ちのこもった言葉をもらったんだ。絶対に勝つぞ!

 【女神の衣】(守備力強化:小、効果時間:一分)

 女神の御業は一度に使わずに様子を見てひとつずつ使用した。理由は、極度の強化は動きの感覚を狂わせてしまいかねないと思ったからだ。

 【女神の声援】(攻撃強化:小、効果時間:一分)

 相手の力量がまったくわからないうちに御業を使い果たしてしまい、勝機を見出したときに届く一手が無い。そんな事態を恐れた消極的な策。

 【女神の合力】(筋力強化:小、体力強化:小、効果時間:小) 

 女神の私にできるのはサポートのみ。ハヤトの地力があってこそ。

 盾持ちのハヤトは守備に重きを置いて堅実な戦いを続けている。対してダークは軽快な動きでガンガン攻撃をしていて、ゆとりが感じられる表情が非常にムカつく。

 無言で戦うふたりが言葉を交わしたのは三つ目の御業の効果が切れたときだった。

「お前が女神の代行者みたいだな。女神はなんて名だ?」
「アドミスってクソ野郎だ」
「なんだ仲が悪いのか。それはありがたい」
「どういう意味だよ」
「絆は大事だろ。そういうことだ」

 いったいなんの話をしているの?

「女神と仲が悪いなら、なんのために戦ってるんだよ。ほっときゃいいだろ、こんな世界のことなんて」
「あいつは関係ない。この世界の人のためだ」

 こいつはフロンティアの住人? それともプレイヤー? 何か知っているふうな口振りからすると、こいつも召喚された人? もしそうならゲームの『死』は本当の『死』で、これが殺し合いだってことも知っていることになる。きっとハヤトもこの考えに行き着いたはずだ。

 ハヤトには死んでほしくないけど人を殺すのはダメ。だけど、こいつを野放しにすれば、この町の人は殺されてしまう。

 【女神の囁き】(なんとなく気づきを与える)

 『NPCを殺す理由』、『ポイント』

 私はメッセージウィンドウにこの言葉を連ねた。

 隼人の帰還が懸かったクエストから一転、町の住人の命をダンジョンブレイクによるモンスターから救うために駆け付けた。そしたら、NPC狩りをする奴がハヤトの命を狙ってきた。そいつは何か知っている。だから知りたい。私を女神に任命し、隼人をこの世界に呼び出した理由を。この世界の秘密を。

 再び動き出したふたりが何度も剣を打ち合わせながら話したのは、私がハヤトに送った内容だ。

「なんでかって? やっぱりそんなことも知らないのか」
「知らねぇよ。だからてめぇに聞いてんだ」
「だったらお前はなんのためにこの世界に召喚されたんだ?」
「知るか。女神の気紛れじゃねぇのか。こんなデスゲームに進んで参加するわけねぇだろ」
「デスゲーム? そうか、だから女神が嫌いなのか。馬鹿な女神だな。俺の女神はいい奴だぜ」
「どんなところがだ?」
「ゲームの枠を取っ払って、より楽しくしてくれたんだ」

 スピード型にビルドしているであろうダークの速さが一段増した。ハヤトは盾を駆使して守っているけれど、反撃する手数があきらかに減っている。

「さっきこの世界を奪うって言ってたな。それがゲームの枠を取っ払ったって意味か? 女神の命令か?」

 世界を奪うとかNPCがポイントになるとか言っていたけど、それが女神に与えられた使命なの? 女神ってなんなの? アドミスもそんな奴ってこと?

 ハヤトの命を狙うこの敵から語られた謎の一端は私の理解を超えている。その未知なるモノに対する恐怖心が身を震わせた一方で、探求心をも刺激した。

「説明がめんどくさい。俺に勝ったら教えてやるよ」

 この返答はつまり、間接的に自分は絶対に負けないって言ってんだろ? 甘く見やがって! 

 【女神の羽根】(俊敏強化:小、効果時間:二分)

 一割五分の速度アップがダークの動きに対応させた。戦闘開始時よりも増した動きのキレと相まって、ここまで余裕を見せていたダークの表情を引き締めさせる。

 盾の守りは固くダークの攻撃をシャットアウトし、小さな隙に反撃を捻じ込んでいく。ハヤトが優勢になったことで少し余裕ができた私の頭に、ダンジョンボスとの戦いに向かった三人のことが浮かんだ。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 大魔法


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「サクさんが負けた……」
「つえぇな。レベルは俺より低いくせに。反射神経も動体視力もたいしたもんだけど、やっぱりゲームの限界を自分で決めている感じがあるな」
 だったらあんたはゲームの限界を超えてるの? チーターって奴? ズルいだろ!
「馬鹿だな、四人でかかってくればいいのによ」
 私もそう思う。だけど、ダークが持つ異質な雰囲気がそれをさせなかった。サーラちゃんに付いた【恐怖】【焦燥】のステータスは消えていない。
「だったら今から四人でボコボコにしてやるわ! 覚悟しなさい」
 ハヤトの陰に隠れながらエナコが言うと、ダークはヘラヘラした顔で言い返した。
「それは無理だな」
「なんでよ!」
「敵は俺だけじゃないだろ?」
 直後に空気を震わす低い唸り声が聞こえてきた。
「もしかして、ダンジョンボスじゃないですか?」
「みたい。町に入る前に止めたかったのに」
「そっちの奴らは行ってもいいぜ。追ったりしないからよ」
 意外に思える発言の真意は、このあとの背筋が凍る言葉によって示された。
「プレイヤーを殺してもポイントが低いんだ。狙うならこの世界の人間か、女神の代行者だな」
 やっぱりこれはただのゲームじゃない。こいつの言動が私の苛立ちや怒りといった負の感情を刺激する。ゲームの枠から外れた敵だと認識したとき、ハヤトの雷鳴剣がダークの剣に打ち込まれた。
「エナコ、町の人と一緒にここから離れてくれ。サーラちゃんはサクさんの治療を。そのあと三人でダンジョンボスの討伐を頼む」
 ハヤトはひとりでダークと戦うことを選んだ。
「待ってください。ハヤトさんは……」
「大丈夫。俺は勝つよ。なんたって俺たちには勝利の女神がいるんだから」
 それはアドミスではなくて私のことだな!
「絵美ちゃん、ハヤトは私に任せて」
「だけど、ハヤトが死んだら」
「これはもうフロンティアってゲームの枠を逸脱してる。私もよくわかんない。ただ、ハヤトだけじゃなくて町の人も守らないといけないってことはわかる」
 こんなことを言ってしまったけど絵美ちゃんがどう解釈するのだろう。ハヤトのゲーム召喚に深く関わる事態な気がする。もしこれが、ただのゲームの演出だったら開発者を殴りに行ってやる!
「絵美ちゃん、行って!」
「わかりました。ハヤト君、頑張って!」
 ハヤトがダークの相手をしているあいだにサクさんの治療を終えたサーラちゃんは、立ち去る際に応援の言葉を残した。
「絶対に勝ってくださーい!」
 こんな気持ちのこもった言葉をもらったんだ。絶対に勝つぞ!
 【女神の衣】(守備力強化:小、効果時間:一分)
 女神の御業は一度に使わずに様子を見てひとつずつ使用した。理由は、極度の強化は動きの感覚を狂わせてしまいかねないと思ったからだ。
 【女神の声援】(攻撃強化:小、効果時間:一分)
 相手の力量がまったくわからないうちに御業を使い果たしてしまい、勝機を見出したときに届く一手が無い。そんな事態を恐れた消極的な策。
 【女神の合力】(筋力強化:小、体力強化:小、効果時間:小) 
 女神の私にできるのはサポートのみ。ハヤトの地力があってこそ。
 盾持ちのハヤトは守備に重きを置いて堅実な戦いを続けている。対してダークは軽快な動きでガンガン攻撃をしていて、ゆとりが感じられる表情が非常にムカつく。
 無言で戦うふたりが言葉を交わしたのは三つ目の御業の効果が切れたときだった。
「お前が女神の代行者みたいだな。女神はなんて名だ?」
「アドミスってクソ野郎だ」
「なんだ仲が悪いのか。それはありがたい」
「どういう意味だよ」
「絆は大事だろ。そういうことだ」
 いったいなんの話をしているの?
「女神と仲が悪いなら、なんのために戦ってるんだよ。ほっときゃいいだろ、こんな世界のことなんて」
「あいつは関係ない。この世界の人のためだ」
 こいつはフロンティアの住人? それともプレイヤー? 何か知っているふうな口振りからすると、こいつも召喚された人? もしそうならゲームの『死』は本当の『死』で、これが殺し合いだってことも知っていることになる。きっとハヤトもこの考えに行き着いたはずだ。
 ハヤトには死んでほしくないけど人を殺すのはダメ。だけど、こいつを野放しにすれば、この町の人は殺されてしまう。
 【女神の囁き】(なんとなく気づきを与える)
 『NPCを殺す理由』、『ポイント』
 私はメッセージウィンドウにこの言葉を連ねた。
 隼人の帰還が懸かったクエストから一転、町の住人の命をダンジョンブレイクによるモンスターから救うために駆け付けた。そしたら、NPC狩りをする奴がハヤトの命を狙ってきた。そいつは何か知っている。だから知りたい。私を女神に任命し、隼人をこの世界に呼び出した理由を。この世界の秘密を。
 再び動き出したふたりが何度も剣を打ち合わせながら話したのは、私がハヤトに送った内容だ。
「なんでかって? やっぱりそんなことも知らないのか」
「知らねぇよ。だからてめぇに聞いてんだ」
「だったらお前はなんのためにこの世界に召喚されたんだ?」
「知るか。女神の気紛れじゃねぇのか。こんなデスゲームに進んで参加するわけねぇだろ」
「デスゲーム? そうか、だから女神が嫌いなのか。馬鹿な女神だな。俺の女神はいい奴だぜ」
「どんなところがだ?」
「ゲームの枠を取っ払って、より楽しくしてくれたんだ」
 スピード型にビルドしているであろうダークの速さが一段増した。ハヤトは盾を駆使して守っているけれど、反撃する手数があきらかに減っている。
「さっきこの世界を奪うって言ってたな。それがゲームの枠を取っ払ったって意味か? 女神の命令か?」
 世界を奪うとかNPCがポイントになるとか言っていたけど、それが女神に与えられた使命なの? 女神ってなんなの? アドミスもそんな奴ってこと?
 ハヤトの命を狙うこの敵から語られた謎の一端は私の理解を超えている。その未知なるモノに対する恐怖心が身を震わせた一方で、探求心をも刺激した。
「説明がめんどくさい。俺に勝ったら教えてやるよ」
 この返答はつまり、間接的に自分は絶対に負けないって言ってんだろ? 甘く見やがって! 
 【女神の羽根】(俊敏強化:小、効果時間:二分)
 一割五分の速度アップがダークの動きに対応させた。戦闘開始時よりも増した動きのキレと相まって、ここまで余裕を見せていたダークの表情を引き締めさせる。
 盾の守りは固くダークの攻撃をシャットアウトし、小さな隙に反撃を捻じ込んでいく。ハヤトが優勢になったことで少し余裕ができた私の頭に、ダンジョンボスとの戦いに向かった三人のことが浮かんだ。