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女神の代行者

ー/ー



 三人は近くの町でハヤトに追いつき、馬車を使ってハージマの町へと急いだ。

「途中で下ろすなんてどうなってるのよ!」

 エナコが愚痴るのも仕方ない。馬車を下ろされた理由はダンジョンブレイクによってその周辺が危険なためだ。こんなときにそんなリアル志向は迷惑極まりない。

 彼方にはハヤトとサクさん、その後ろにサーラちゃんが走っている。

 体力値に一切ポイントを振らず、スタミナを消費する戦いをしていなかったエナコは、体力値の成長が著しく低い。ダッシュで走るとすぐにバテてしまう。

 倍の速さで走り続ける先頭のふたりが町に到着したとき、すでに門は破られてモンスターが暴れていた。

 町の近くに現れたダンジョンなので、ほとんどのモンスターはこの町を目ざしてやってくる。ダンジョンブレイクの鎮圧条件にはボスモンスターの討伐が必須だ。だけど、そのボスはまだ町には来ていない。手早く雑魚を片付けて襲来に備えれば被害を小さくすることができるはず。

 目に入るモンスターを片っ端から斬り始めたところでサーラちゃんが到着し、ハヤトは住人の治療を指示した。

 私がやることはリディアちゃんの生存確認。エナコが到着するまでのあいだで町中を探索した。

「やっと着いたぁ」
「絵美ちゃん、ハヤトに伝えて。リディアちゃんは北の教会に避難してるって」
「アイサー!」

 エナコの話を聞いたハヤトはモンスターを斬りながら教会に走っていき、みんなもそのあとを追った。

 町の中ではプレイヤーたちが応戦しているけれど、何人もの住人がモンスターによって殺されてしまっていた。レベル三十二のダンジョンのモンスターは手強いのでプレイヤーも死のリスクが付きまとう。とうぜんデスペナルティを受けるので、リスクを負ってまで町を防衛する理由があるということだ。では、その理由はなんなのか。 

 ここを拠点にしている人は町には愛着があるだろう。だけど、それは『町』にではなく、きっと『人』に対してだ。

 このゲームの住民は普通では考えられないほどの高度なAIを有している。そんな人たちと日常的に会話をしていれば、その人を失う悲しさは大きいのだろう。それはつまりハヤトの動機と同じってこと。

 サーラちゃんたちが愛想を尽かさずに協力してるのは、何もハヤトのためだけじゃない。利用しているお店の人やいつも挨拶してくる町民たちを助けるためだ。

 教会に近づくにつれてモンスターは減っている。反比例するように戦闘不能のプレイヤーと殺された町民たちが増えていた。

 それを横目に走るハヤトの視界の先に十字路が見える。それを曲がれば教会だ。

 弾む呼吸と心臓が示すのは期待か不安か。自分の人生を引き換えにしてまで向かった先で、もしも彼女が殺されてしまっていたら……。

 右足を踏ん張って鋭角に曲がったハヤトの目に飛び込んできたのは半壊した教会とその犯人のモンスターだった。教会の前では緑の鎧を着た冒険者らしき人が中ボス的なモンスターと戦っている。

「斬岩剣」

 走る勢いのままに跳んだハヤトの剣がモンスターの頭部を激しく叩いた。ぐらりと揺れる大きな身体を返す刃で再び斬り裂く。モンスターの反撃にも剣を滑り込ませて切り返すさまは、サクさんにも劣らぬ剣豪を思わせた。

 三度、四度と振られる剣は的確にモンスターを斬って弱らせていく。そこに冒険者が追撃をかけ、教会を襲ったモンスターは横転して息絶えた。

「助かった。突然乱入してきたから焦った」

 相手の感謝の言葉も聞くことなくハヤトはあたりを見回した。探しているのはリディアちゃんだろう。この世界で始めて好きになり、心の支えとなっていた彼女への想いは、恋とは少し違う感情に昇華しつつも大切な人に違いない。

 人ごみの中にリディアちゃんを見付けたハヤトが足を踏み出したとき、彼女の表情が引きつった。

「ハヤトさん、後ろ!」

 彼女の叫びを聞いて咄嗟に身を捩ったハヤトの背中を、鋭い刃が走り血液が舞った。

「ハヤトさん、ハヤトさん」

 転がったハヤトは避難していた町民の中に飛び込み、瓦礫で散らかった床には血溜まりが広がっていく。

「ハヤト!」

 ハヤトに駆け寄ったリディアちゃんの恐怖に怯えた目が見ているのは、教会を襲ったモンスターと戦っていた冒険者だった。

 真っ赤なハヤトの命が流れていく。これは致命に至る傷だ。

 なんで? どういうこと? PvPは最初に同意がおこなわれる。極悪のイーヴィルの場合はその限りではないけど、不意の攻撃だけはできないはずだ。さっきまではモンスターから町の人を守っていたのに、それがなぜ?

「ハヤト君、大丈夫か?」
「ハヤトさん!」

 あとを追ってきたサクさんとサーラちゃんがハヤトに駆け寄ってくる。それを見た私は理解不能な事態にループしていた思考を無理矢理断ち切った。

「絵美ちゃん、そのプレイヤーがハヤトを斬ったの!」
「サクさん、サーラちゃん、そいつは敵よ!」

 エナコの声で急制動をかけたふたりを剣戟が襲った。金属音が三度鳴り、円を描いたサクさんの槍が一直線に突き込まれる。

「あっぶねぇー」

 少し気の抜けた言い方なのがいかにも悪役らしい。

「どういうつもりだ?」

 サーラちゃんを後ろに庇いながらサクさんがした質問には答えず、「よく今のを防いだな」と、彼の力量を評価した。

「ハヤトさんが!」

 サーラちゃんは流れる血液の量から事態の緊急性を感じたのだろう。その精神状態が【恐怖】【焦燥】としてステータスに現れた。

 死ねば蘇生できない。つまりはキャラクターデリートだ。知らない人からすればただそれだけのこと。なのに、みんなからは本気でそれをどうにかしたいという想いが伝わってくる。

「アドミス!」

 エナコの呼び掛けの意図を察した私は女神の御業を使った。

 【女神の息吹】(回復:小)

 クエストボスとの戦いまで温存しておくはずの御業だけど、そんなことを気にしている場合じゃない。ダンジョンブレイクが起こったさなかにプレイヤーが襲ってきてハヤトが斬られた。その理由はあとでいい。

 光の風がハヤトを包み背中の傷を癒していく。出血は止まりHPが三割ほど回復したハヤトはリディアちゃんの手を借りて立ち上がった。それを見た極悪イーヴィルが言った。

「お前、女神の代行者か?」

 聞いたことのない言葉だ。少なくともゲーム用語じゃない。何かヤバイ奴だと私の勘が騒ぎ立てる。こいつに関わるのは危険だ。それを絵美ちゃんも感じたのだろう。サーラちゃんの手を引いて後退し、ハヤトはリディアちゃんを背にかくまって武器を手にした。

「あいつはなんなの? リディアちゃんたちをモンスターから守ってくれたんだよね?」

 飲み干した治療ポーションの瓶を投げ捨てながら訊いたハヤトに、リディアちゃんは「違います」と、震える声で答えた。

「あの人が教会に避難していた私たちを襲っていたところに、たまたまモンスターが現れたんです。モンスターが教会を壊さなかったら、みんな殺されていました」

 NPC狩り……。これは『禁止』ではなく『禁忌』とされている。一般人のキャラを殺すのはシステム上は可能なことだけど、見つかればその後のゲームプレイが困難になるほどのペナルティが課せられる。これはゲームの注意事項に大きく記載されていることだ。

 しかし、世の中にはダメだと言われるとやりたくなる人がいる。実際に興味本位でそれをしたプレイヤーが数人いた。結果、冒険者登録を抹消され、衛兵に追われ、町に入れば通報されて買い物すらままならなくなった。だからといってゲームをすぐに辞めることもできず、ゲーム内で逮捕された人は、殺した人数分の賠償金を現実で請求されたと記事で読んだ。まさに犯罪者として扱われてしまうのだ。

 そんな大きなリスクを負うことになるのだから普通の感性を持っていればやりはしない。大量虐殺なんてなおさらだ。なのにこの人はダンジョンブレイクの騒動に便乗してやろうとした。

「町の人を襲うなんて、いったいどういうつもりだ?」
「イーヴィル属性プレイ。と言いたいところだけど、お前が女神の代行者だってことなら、そう答えられないな」
「女神の代行者とはなんだ。それがどう関係する?」
「知らねぇの? お前は代行者じゃねぇのか?」
「知らないな。初めて聞く言葉だ」

 女神の代行者とはなんだろうか? アドミスに女神をやらされているのは私だけど、それとは別の意味?

 ふたりのやり取りを聞いていたみんなは町民たちを守るため、ハヤトのもとに集まった。

「事情はよくわからないけど、おまえは敵ということだな」
「そうだよ。この世界を奪う者だ」
「おまえの名前はなんというんだ?」
「名前? 名前か。そうだな、ダークとでも呼んでくれ」
「ダークか。この世界に仇をなしそうな悪人らしい名前だ」
「それで、お前の名前は?」
「悪人に名乗る名前はない」
「聞いておいて教えないなんて新しいな」
「仲間を斬った報いを受けてもらうぞ」

 サクさんは槍を構えジリジリと間合いを詰めていく。正義のロールプレイが冴えわたっているように見えたけど、きっと本心からの言葉だろう。

 切っ先には彼の意思が乗っている。このゲームはときおり、そういったことを感じさせる。それができるのはレベルとは違う強さを持つ強者だけだ。

 そのサクさんを前にしてダークは笑ったのだ。サクさん気をつけて。こいつはちょっとヤバイ奴だから。

 槍の一閃を皮切りにして目まぐるしい攻防が始まった。激しく動き回り立ち位置を入れ替えながら槍と剣が打ち合わされる。ダークの速さはそうとうなモノだけど劣らぬ速さの槍が対抗する。

 このハイレベルの戦いは互角に見えた。少なくとも私の目には。だけど、薙ぎ払われた槍を跳び越えたダークの剣が、空中でサクさんの肩を斬ったことで戦いは決着した。



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「途中で下ろすなんてどうなってるのよ!」
 エナコが愚痴るのも仕方ない。馬車を下ろされた理由はダンジョンブレイクによってその周辺が危険なためだ。こんなときにそんなリアル志向は迷惑極まりない。
 彼方にはハヤトとサクさん、その後ろにサーラちゃんが走っている。
 体力値に一切ポイントを振らず、スタミナを消費する戦いをしていなかったエナコは、体力値の成長が著しく低い。ダッシュで走るとすぐにバテてしまう。
 倍の速さで走り続ける先頭のふたりが町に到着したとき、すでに門は破られてモンスターが暴れていた。
 町の近くに現れたダンジョンなので、ほとんどのモンスターはこの町を目ざしてやってくる。ダンジョンブレイクの鎮圧条件にはボスモンスターの討伐が必須だ。だけど、そのボスはまだ町には来ていない。手早く雑魚を片付けて襲来に備えれば被害を小さくすることができるはず。
 目に入るモンスターを片っ端から斬り始めたところでサーラちゃんが到着し、ハヤトは住人の治療を指示した。
 私がやることはリディアちゃんの生存確認。エナコが到着するまでのあいだで町中を探索した。
「やっと着いたぁ」
「絵美ちゃん、ハヤトに伝えて。リディアちゃんは北の教会に避難してるって」
「アイサー!」
 エナコの話を聞いたハヤトはモンスターを斬りながら教会に走っていき、みんなもそのあとを追った。
 町の中ではプレイヤーたちが応戦しているけれど、何人もの住人がモンスターによって殺されてしまっていた。レベル三十二のダンジョンのモンスターは手強いのでプレイヤーも死のリスクが付きまとう。とうぜんデスペナルティを受けるので、リスクを負ってまで町を防衛する理由があるということだ。では、その理由はなんなのか。 
 ここを拠点にしている人は町には愛着があるだろう。だけど、それは『町』にではなく、きっと『人』に対してだ。
 このゲームの住民は普通では考えられないほどの高度なAIを有している。そんな人たちと日常的に会話をしていれば、その人を失う悲しさは大きいのだろう。それはつまりハヤトの動機と同じってこと。
 サーラちゃんたちが愛想を尽かさずに協力してるのは、何もハヤトのためだけじゃない。利用しているお店の人やいつも挨拶してくる町民たちを助けるためだ。
 教会に近づくにつれてモンスターは減っている。反比例するように戦闘不能のプレイヤーと殺された町民たちが増えていた。
 それを横目に走るハヤトの視界の先に十字路が見える。それを曲がれば教会だ。
 弾む呼吸と心臓が示すのは期待か不安か。自分の人生を引き換えにしてまで向かった先で、もしも彼女が殺されてしまっていたら……。
 右足を踏ん張って鋭角に曲がったハヤトの目に飛び込んできたのは半壊した教会とその犯人のモンスターだった。教会の前では緑の鎧を着た冒険者らしき人が中ボス的なモンスターと戦っている。
「斬岩剣」
 走る勢いのままに跳んだハヤトの剣がモンスターの頭部を激しく叩いた。ぐらりと揺れる大きな身体を返す刃で再び斬り裂く。モンスターの反撃にも剣を滑り込ませて切り返すさまは、サクさんにも劣らぬ剣豪を思わせた。
 三度、四度と振られる剣は的確にモンスターを斬って弱らせていく。そこに冒険者が追撃をかけ、教会を襲ったモンスターは横転して息絶えた。
「助かった。突然乱入してきたから焦った」
 相手の感謝の言葉も聞くことなくハヤトはあたりを見回した。探しているのはリディアちゃんだろう。この世界で始めて好きになり、心の支えとなっていた彼女への想いは、恋とは少し違う感情に昇華しつつも大切な人に違いない。
 人ごみの中にリディアちゃんを見付けたハヤトが足を踏み出したとき、彼女の表情が引きつった。
「ハヤトさん、後ろ!」
 彼女の叫びを聞いて咄嗟に身を捩ったハヤトの背中を、鋭い刃が走り血液が舞った。
「ハヤトさん、ハヤトさん」
 転がったハヤトは避難していた町民の中に飛び込み、瓦礫で散らかった床には血溜まりが広がっていく。
「ハヤト!」
 ハヤトに駆け寄ったリディアちゃんの恐怖に怯えた目が見ているのは、教会を襲ったモンスターと戦っていた冒険者だった。
 真っ赤なハヤトの命が流れていく。これは致命に至る傷だ。
 なんで? どういうこと? PvPは最初に同意がおこなわれる。極悪のイーヴィルの場合はその限りではないけど、不意の攻撃だけはできないはずだ。さっきまではモンスターから町の人を守っていたのに、それがなぜ?
「ハヤト君、大丈夫か?」
「ハヤトさん!」
 あとを追ってきたサクさんとサーラちゃんがハヤトに駆け寄ってくる。それを見た私は理解不能な事態にループしていた思考を無理矢理断ち切った。
「絵美ちゃん、そのプレイヤーがハヤトを斬ったの!」
「サクさん、サーラちゃん、そいつは敵よ!」
 エナコの声で急制動をかけたふたりを剣戟が襲った。金属音が三度鳴り、円を描いたサクさんの槍が一直線に突き込まれる。
「あっぶねぇー」
 少し気の抜けた言い方なのがいかにも悪役らしい。
「どういうつもりだ?」
 サーラちゃんを後ろに庇いながらサクさんがした質問には答えず、「よく今のを防いだな」と、彼の力量を評価した。
「ハヤトさんが!」
 サーラちゃんは流れる血液の量から事態の緊急性を感じたのだろう。その精神状態が【恐怖】【焦燥】としてステータスに現れた。
 死ねば蘇生できない。つまりはキャラクターデリートだ。知らない人からすればただそれだけのこと。なのに、みんなからは本気でそれをどうにかしたいという想いが伝わってくる。
「アドミス!」
 エナコの呼び掛けの意図を察した私は女神の御業を使った。
 【女神の息吹】(回復:小)
 クエストボスとの戦いまで温存しておくはずの御業だけど、そんなことを気にしている場合じゃない。ダンジョンブレイクが起こったさなかにプレイヤーが襲ってきてハヤトが斬られた。その理由はあとでいい。
 光の風がハヤトを包み背中の傷を癒していく。出血は止まりHPが三割ほど回復したハヤトはリディアちゃんの手を借りて立ち上がった。それを見た極悪イーヴィルが言った。
「お前、女神の代行者か?」
 聞いたことのない言葉だ。少なくともゲーム用語じゃない。何かヤバイ奴だと私の勘が騒ぎ立てる。こいつに関わるのは危険だ。それを絵美ちゃんも感じたのだろう。サーラちゃんの手を引いて後退し、ハヤトはリディアちゃんを背にかくまって武器を手にした。
「あいつはなんなの? リディアちゃんたちをモンスターから守ってくれたんだよね?」
 飲み干した治療ポーションの瓶を投げ捨てながら訊いたハヤトに、リディアちゃんは「違います」と、震える声で答えた。
「あの人が教会に避難していた私たちを襲っていたところに、たまたまモンスターが現れたんです。モンスターが教会を壊さなかったら、みんな殺されていました」
 NPC狩り……。これは『禁止』ではなく『禁忌』とされている。一般人のキャラを殺すのはシステム上は可能なことだけど、見つかればその後のゲームプレイが困難になるほどのペナルティが課せられる。これはゲームの注意事項に大きく記載されていることだ。
 しかし、世の中にはダメだと言われるとやりたくなる人がいる。実際に興味本位でそれをしたプレイヤーが数人いた。結果、冒険者登録を抹消され、衛兵に追われ、町に入れば通報されて買い物すらままならなくなった。だからといってゲームをすぐに辞めることもできず、ゲーム内で逮捕された人は、殺した人数分の賠償金を現実で請求されたと記事で読んだ。まさに犯罪者として扱われてしまうのだ。
 そんな大きなリスクを負うことになるのだから普通の感性を持っていればやりはしない。大量虐殺なんてなおさらだ。なのにこの人はダンジョンブレイクの騒動に便乗してやろうとした。
「町の人を襲うなんて、いったいどういうつもりだ?」
「イーヴィル属性プレイ。と言いたいところだけど、お前が女神の代行者だってことなら、そう答えられないな」
「女神の代行者とはなんだ。それがどう関係する?」
「知らねぇの? お前は代行者じゃねぇのか?」
「知らないな。初めて聞く言葉だ」
 女神の代行者とはなんだろうか? アドミスに女神をやらされているのは私だけど、それとは別の意味?
 ふたりのやり取りを聞いていたみんなは町民たちを守るため、ハヤトのもとに集まった。
「事情はよくわからないけど、おまえは敵ということだな」
「そうだよ。この世界を奪う者だ」
「おまえの名前はなんというんだ?」
「名前? 名前か。そうだな、ダークとでも呼んでくれ」
「ダークか。この世界に仇をなしそうな悪人らしい名前だ」
「それで、お前の名前は?」
「悪人に名乗る名前はない」
「聞いておいて教えないなんて新しいな」
「仲間を斬った報いを受けてもらうぞ」
 サクさんは槍を構えジリジリと間合いを詰めていく。正義のロールプレイが冴えわたっているように見えたけど、きっと本心からの言葉だろう。
 切っ先には彼の意思が乗っている。このゲームはときおり、そういったことを感じさせる。それができるのはレベルとは違う強さを持つ強者だけだ。
 そのサクさんを前にしてダークは笑ったのだ。サクさん気をつけて。こいつはちょっとヤバイ奴だから。
 槍の一閃を皮切りにして目まぐるしい攻防が始まった。激しく動き回り立ち位置を入れ替えながら槍と剣が打ち合わされる。ダークの速さはそうとうなモノだけど劣らぬ速さの槍が対抗する。
 このハイレベルの戦いは互角に見えた。少なくとも私の目には。だけど、薙ぎ払われた槍を跳び越えたダークの剣が、空中でサクさんの肩を斬ったことで戦いは決着した。