【2】
ー/ー
◇ ◇ ◇
「今野 蓮太郎さんが亡くなった件についてですが……」
刑事が私の家まで来たわ。
きっとあの母親が「あの子が怪しい」とでも言ったんでしょうね。
卑しい貧乏人って他人に責任転嫁する以外に能ないの?
刑事さんも振り回されてお気の毒に、ってきちんと対応はしたわ。面倒だったけど。
「いつですか? ──ああ、その日はゼミで学会の打ち合わせで十一時まで大学でした。食事も先生がデリバリー取ってくださって」
これは事実。その日は朝十時から夜の十一時まで私はずっと講義とゼミで拘束されてた。
正直その時は勘弁してよって感じだったけど、おかげで助かったわ。今野が死んだのはどうやら午後、それも夕方までらしいね。
「月曜の十五時から十八時頃までどこにいらっしゃいました?」って訊き方だったから。
「そうですか。お時間取らせて申し訳ありませんでした」
「いいえ。お疲れ様です」
本当に大変なお仕事よね。頭の悪いババアの虚言でいちいち事情訊きに回らなきゃならないんだから。
当然裏取りはされたらしくて、先生に「何かあったのか?」って心配されちゃったわよ。本当にいい迷惑だわ。
「あんたがやったんだ! 蓮ちゃんをあんたが──!」
うちまで来て喚くババア。
家の前で騒がれて仕方なく外に出たけど。なんでこんなのまで相手しなきゃなんないの?
「お前みたいな低能のゴミのガキがまともなわけないでしょ。お前のせいだよ」
囁いた私に、ババアは包丁を取り出した。
ああ、やっぱり。こいつを犯罪者にできるなら刺されても別に良かったんだけどね。
「あんたなんかに──」
空を覆う雲が一瞬途切れ、鋭い光がババアの包丁に反射した。
叫びながら私に襲い掛かろうとしたババアと私の間に、「誰か」が立ちはだかった。若い男。
ババアはその男を明確に狙って刺した。
たまたま揉み合って当たっちゃった、とかじゃない。私もしっかり見たから。
たぶん「私を庇おうとした」男も憎かったんじゃない?
男は胸を刺されて道に倒れた。ああ、ここお前らが土下座した場所じゃん。思い出した? 楽しい?
私は最高に楽しいよ。
スマホで警察に連絡した後。
「お前みたいな馬鹿が産んで育てたから、あいつは誰にでも嫌われて憎まれて、挙句に殺されるクズに育ったんじゃないの? つまりぜーんぶお前のせい。ねえ、今の気分は? 無実の私に責任なすりつけようとして失敗して、自分が『人殺し』になった気分は? 教えてよ、ねえ!」
我ながら嬉しそうな私の声に、ババアは奇声を上げてその場に蹲った。
駆け付けた警官たちに、私は事実をそのまま話した。防犯カメラに全部写ってるだろうってことも。
「あなたが最後に追い打ちをかけたのは、その──」
後日防犯カメラを確認したらしい刑事が、警察まで出向いた私に言い難そうにしてた。
「え? ここは法治国家ですよね? 人殺しに『人殺し』って思ったことを言うのが犯罪になるんですか? 『死ね』とも『殺す』とも一切言ってないのに?」
「……いえ、そういうことではないです」
わざとらしい私の言葉に、刑事の声はさらに小さくなった。
「そうですか。じゃあもう帰っても構いませんか?」
「……はい。どうぞお引き取りいただいて問題ありません」
軽く会釈してその場を離れ、警察署の建物を出る。
あのババアは、もう碌に言葉も通じないんだってさ。それで人殺しも無罪放免になるなら酷すぎない?
まあどっちにしても「監禁」されるには違いないのか。牢屋か、格子つきの檻みたいな病院かの差ってだけで。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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◇ ◇ ◇
「|今野《こんの》 |蓮太郎《れんたろう》さんが亡くなった件についてですが……」
刑事が私の家まで来たわ。
きっとあの|母親《ババア》が「あの子が怪しい」とでも言ったんでしょうね。
卑しい貧乏人って他人に責任転嫁する以外に能ないの?
刑事さんも振り回されてお気の毒に、ってきちんと対応はしたわ。面倒だったけど。
「いつですか? ──ああ、その日はゼミで学会の打ち合わせで十一時まで大学でした。食事も先生がデリバリー取ってくださって」
これは事実。その日は朝十時から夜の十一時まで私はずっと講義とゼミで拘束されてた。
正直その時は勘弁してよって感じだったけど、おかげで助かったわ。今野が死んだのはどうやら午後、それも夕方までらしいね。
「月曜の十五時から十八時頃までどこにいらっしゃいました?」って訊き方だったから。
「そうですか。お時間取らせて申し訳ありませんでした」
「いいえ。お疲れ様です」
本当に大変なお仕事よね。頭の悪いババアの虚言でいちいち事情訊きに回らなきゃならないんだから。
当然裏取りはされたらしくて、先生に「何かあったのか?」って心配されちゃったわよ。本当にいい迷惑だわ。
「あんたがやったんだ! 蓮ちゃんをあんたが──!」
うちまで来て喚くババア。
家の前で騒がれて仕方なく外に出たけど。なんでこんなのまで相手しなきゃなんないの?
「お前みたいな低能のゴミのガキがまともなわけないでしょ。お前のせいだよ」
囁いた私に、ババアは包丁を取り出した。
ああ、《《やっぱり》》。こいつを犯罪者にできるなら刺されても別に良かったんだけどね。
「あんたなんかに──」
空を覆う雲が一瞬途切れ、鋭い光がババアの包丁に反射した。
叫びながら私に襲い掛かろうとしたババアと私の間に、「誰か」が立ちはだかった。若い男。
ババアはその男を明確に狙って刺した。
たまたま揉み合って当たっちゃった、とかじゃない。私《《も》》しっかり見たから。
たぶん「私を庇おうとした」男も憎かったんじゃない?
男は胸を刺されて道に倒れた。ああ、ここお前らが土下座した場所じゃん。思い出した? 楽しい?
私は最高に楽しいよ。
スマホで警察に連絡した後。
「お前みたいな馬鹿が産んで育てたから、あいつは誰にでも嫌われて憎まれて、挙句に殺されるクズに育ったんじゃないの? つまりぜーんぶお前のせい。ねえ、今の気分は? 無実の私に責任なすりつけようとして失敗して、自分が『人殺し』になった気分は? 教えてよ、ねえ!」
我ながら嬉しそうな私の声に、ババアは奇声を上げてその場に蹲った。
駆け付けた警官たちに、私は事実をそのまま話した。《《防犯カメラ》》に全部写ってるだろうってことも。
「あなたが最後に追い打ちをかけたのは、その──」
後日防犯カメラを確認したらしい刑事が、警察まで出向いた私に言い難そうにしてた。
「え? ここは法治国家ですよね? 人殺しに『人殺し』って思ったことを言うのが犯罪になるんですか? 『死ね』とも『殺す』とも一切言ってないのに?」
「……いえ、そういうことではないです」
わざとらしい私の言葉に、刑事の声はさらに小さくなった。
「そうですか。じゃあもう帰っても構いませんか?」
「……はい。どうぞお引き取りいただいて問題ありません」
軽く会釈してその場を離れ、警察署の建物を出る。
あのババアは、もう碌に言葉も通じないんだってさ。それで人殺しも無罪放免になるなら酷すぎない?
まあどっちにしても「監禁」されるには違いないのか。牢屋か、格子つきの檻みたいな病院かの差ってだけで。