あ、やべ。これ持ったままじゃん!
数日後。
心葉を送って来た駅で彼女と別れた後、俺は大学出るときに預かってそのままだったトートバッグに気付いた。
今日はちょっと荷物が多かったから持ってやったんだよな。明日渡したら、また帰りが大変になっちゃうし。
仕方なく戻って彼女を探した俺の視界には、立ち話してる心葉ともう一人。コンコースの柱に遮られて、すぐ傍なのに二人から俺はまったく見えてない。
「あの彼、なかなかいい男だよな」
彼女が話してるのはあの見合い相手の男、だ。
この間はスーツで今日はカジュアルだし、髪形も変えてるけど間違いない。俺は自慢するほどじゃないが、人の顔覚えんのは得意なんだよ。
……どういうことだ?
「じゅんちゃんもそう思う? 本当にいい人なのよ」
「さすが俺の心葉、見る目あるな。上手くやれよ。俺の演技もなかなかだったろ?」
「うん! さすが何でもできるよね、じゅんちゃんは」
「あれくらい任しとけって。じゃあ、お家のほうに──」
演技。……演技!?
なんだよ、これ。心葉、この会話はいったいなんだ?
「三沢さん。見合いなんて必要ないんじゃないですか? もう十分親しそうだし」
姿を現した俺に、二人が文字通り固まった。
「あ、違うんだ! 心葉は何も悪くない。俺がちょっと調子乗って、その」
「じゅんちゃん、いいの。私のせいよ。俊樹くん、この人は私のために力貸してくれたの。それだけだから」
「どっちでもいいけど。俺には説明してもらう権利あるよな?」
「……うん。そこのカフェでもいい?」
強張った表情の心葉に頷く。
「心葉──」
「じゅんちゃん、今日は帰って」
何か言い掛けた三沢が、彼女に無理やり押し返されて何度も振り返りながら遠ざかって行った。
「……つまり、見合いなんて最初からなかったんだ。騙したんだな、俺を」
「俊樹くんに近づくきっかけが欲しくて……。俊樹くんが『お金に困ってる』って話してるの聞いたから、それなら私がお金出せば一緒にいてくれるって──」
「なんでそういう話になんの? ココはさ、俺をどうしたかったわけ? 都合のいいペットかなんか?」
「そんなんじゃないの! せめて俊樹くんの欲しいものあげられたら、って。そのついでに、一か月だけでも一緒に過ごせたらそれでよかった。私なんてお金くらいしかないもん。……それだって家のものだし。本当に空っぽだから」
なんとなく、心葉の自信のなさとか後ろ向き加減の理由がわかったような気がした。「持ってる」からこその悩みやなんかもあるってことか。
夏海が教えてくれたみたいに、金目当ての奴が寄って来るのも含めて。「お前は金だけだ」とかそういうこと、言われてたんじゃないのか? くだらない連中に。
だから無意識に地味にしてるのかもしれない、って思い当たった。目立ちたくなくて。
綺麗なんだからもっと飾ればいいのに、なんて安っぽい言葉はきっと心葉には響かないんだ。