「ねぇ、長谷部くん。私のこと『ココ』って呼んでくれる? 私も『俊樹くん』て呼んでいい?」
「ああ、いいよ」
確かに、付き合ってるなら「長谷部くん」「尾崎さん」はないよな。
「仲良しの子はみんなそう呼ぶの。『ここは』って言いにくいでしょ? 変な名前だし」
「いや──」
まあ「今ドキっぽい名前だな」とは思ってたから言葉に詰まる。
「かっ、可愛い名前じゃん」
「……ありがと」
なんとか続けた俺に、彼女は目を伏せて苦笑いを浮かべた。ゴメン。
「今のバイト急には休めないし。シフト調整して空けて、早くて明後日くらいからかな。構わない?」
「ええ、もちろん。ありがとう、俊樹くん」
嬉しそうな心葉。バイト料の分は頑張って働くぞ!
「あの、俊樹くん。今日はお食事に行かない? いい……?」
「いいよ、何食う?」
頼まれた『彼氏のフリ』バイト始めて三日目だった。
おずおずと提案する心葉にあっさりOKする。
俺は大学の寮暮らしの貧乏学生だから、「経費」のメシなんてありがたい限りなんだ。……金がないと、心まで貧しくなりそうだよ。だって食べるもんで身体だけじゃなくて気分も変わるじゃん?
「あ、あのね。お友達に教えてもらったんだけど、シェアのお店なんだって。嫌じゃない?」
「全然。そんな繊細じゃないし、俺。特に好き嫌いもないしな。あんまり気の張るとこよりいいな。シェアなら気楽なんだろ」
「うん! 学生でも気軽に行けるとこだって」
彼女に連れられて行った店は明るくて、でも適度に落ち着いてて、すごくいい雰囲気だった。
聞いたとおり、客の年齢層はそんな高くない。「大学生や若い社会人のデート用」って感じ?
「ココってさ、そういう服とかが好きなの?」
「そういう?」
食事中の俺の質問に、テーブル挟んだ彼女は首を傾げた。
「えーと、シックっていうか。もうちょっと明るい感じも似合いそうだなって思って。あ! でも髪も染めてないしお家が厳しいとか?」
心葉は着るものにモノトーンが多い。今日も黒一色のワンピースにクリーム色のカーディガンだった。
上品だけど正直地味のが勝つんだよな。他の女子見ても、これが今の流行りってわけじゃなさそうだし。髪もサラサラストレートの黒髪ロングで綺麗だけどさ。
「……家は別に。私、他の子みたいな可愛い服って似合わないから。悪目立ちするだけだもん」
「そんなことないだろー。まあココがそれでいいなら」
なんでこの子、こんなネガなんだろ。
好きで黒着てるんなら全然いいけど、実は美人なのにもったいないよな。