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トラブル

ー/ー



 現実世界では隼人と絵美ちゃんのお泊りの件でお母さんたちに追及されたけど、立花君のおかげでどうにか逃れることができた。

 明日は夏休みの最終日。だから、登校の前日である今日中には帰還させないとさすがにまずい。なので、今日が決戦の日となった。

 お泊りの件でお説教をもらった絵美ちゃんがログインできなくなったり、ハヤトの行方を確認されるなどで時間を取られてしまっていたら大変な事態になっていたことだろう。

 あと五時間ですべてが終わる。その結果はゲーム世界からの解放か永遠の幽閉か、それとも『死』か……。

 十八時に再び集結した四人は、最終決戦仕様の装備を整え、決戦の地である黒のダンジョンに乗り込んだ。

 さすがは最終ダンジョンといったところだろうか。出現するタイミングや演出や行動パターンがこれまでとは少し違う。それだけでモンスターを手強く感じさせている。それに、VRの中でも最高峰のフロンティアというゲームが作り出したダンジョンは、良くも悪くもプレイヤーの心を震わせた。

 現実感を強く与えるこのゲームがPG-(ペアレンツガイダンス)12指定でいいのかと不思議に思う。

 フロンティアを始めた初日は、未知のダンジョンの不気味さに完全に飲まれていた絵美ちゃんも、すっかり度胸がついていた。彼女が纏う雰囲気は喋らなくともみんなの心を和ませ、過度な緊張を緩める役割を担っている。

 しんがりを務めるサクさんもエナコと変わらず二週間程度の初級者なのに、揺るぎのないどっしり感が頼もしく安心感を与えている。

 そんなふたりに囲まれるサーラちゃんはとても感覚が鋭くて、いち早く異変や危険を察知する。臆病だから?

 個性豊かなこの三闘士でなければハヤトを蘇生することもできなかったし、この世界から解放するための戦いに挑めなかっただろう。奇跡の出会いだ。

 戦いは苦戦しつつもピンチはなく、精神的な消耗はあっても戦力的な消耗はない。ダンジョン攻略は順調に進み、現在は第六階層ボスと戦っている。 バージョンアップからの数日で多くの冒険者が最終クエストに挑み、その情報が掲示板に投稿されている。だけど、その半分が役に立たないのは、この世界が生ものであり時間と共に状況が変わっていくからだ。

 バージョン1の最終クエストが始まってから五日も経っているのに、クリアしたという情報が挙がっていないのはそれが理由だろう。

 そうはいっても有用な情報がないわけじゃない。階層ボスはコロコロ変わるけど、同じボスに当たる場合だってあるのだから。

 みんなが頑張っているあいだ、新たな攻略情報が掲載されていないかと公式掲示板をチェックしていた私は、とんでもない情報を見つけてしまった。

「これ、どうしたらいいのよ……」
「どうしたんですか?」

 思わず口をついた言葉が絵美ちゃんの集中を途切れさせた。

「ごめん、大丈夫。戦いに集中して」
「了解っす」

 このことを伝えたところでやることは変わらない。いや、変えちゃいけない。でも、ハヤトは変えてしまいかねないと予想できる。だから伝えないほうがいいんだ。たとえ、あとで悲しむことになろうとも自分の人生や命と比べればどうということはない。これはゲームのイベントのひとつなのだから。

 こう自己完結したいのに私は葛藤を消すことができなかった。

「アイテム使い切っちゃいました。ストレージから補充しないと」
「やっぱり最終クエストだけあって強いな」
「だけど、ここまでは順調だね。あと二階層頑張ろう!」

 戦いを終えた四人は、ドロップアイテムや戦いの反省点などを話している。そうよ、余計なことを伝えて緊張を切ってはいけないんだ。残り二階層をクリアしてダンジョンボスを倒す。そして、ハヤトをこの世界から解放する。それが目的なんだから。だけど……。

「絵美ちゃん」
「はーい、なんでしょうか女神アドミス」
「ハージマの町が危ないの」

 黙っていることができなかった。

「どういうことですか?」

 このことを決めるのは私じゃない。いや、私には決められなかった。だからハヤトの判断に委ねてしまった。命の選択を。

「近くにダンジョンが出てる。発見が遅れてダンジョンブレイクまで一時間十二分しかない」

 バージョン1の最終クエストが開放されてから五日。プレイヤーたちはこぞってクエストを進めている。そんなときに起こりやすいのがダンジョンブレイクだ。なぜなら、新しいクエストやコンテンツが解放されるとそこに人が集まり過ぎてしまい、辺境の地や入り組んだ場所に現れたダンジョンの発見が遅れてしまうから。

「今、女神から天啓がありました。ダンジョンブレイクによってハージマの町がピンチです。今はまだ無事ですけど、ダンジョンブレイクまで一時間ちょっとしかありません」
「戻ってダンジョンを攻略しないと」

 一拍の間も置かずにハヤトはそう応えたけど、みんなは考えていた。

「来た道を戻ったら一時間以上はかかる。そこからダンジョン攻略は無理だ」
「転移の法珠を使います」
「それは緊急時の保険だろ。今使ったらボス戦で危険な状態のときに脱出できなくなる」

 サクさんの冷静な判断にエナコがうなずくと、サーラちゃんが提案した。

「あと二階層でディーグラ戦ですよ。ダンジョンブレイクを防げないなら倒してから戻って町の防衛戦に参加してはどうでしょう?」
「一階層を三十分ずつだとして、ボス戦を終わらせてから町に戻ると二時間くらいよね。すぐに町が全滅なんてことはないだろうけど……」

 『多くの被害が出ることになる』と言葉が続くであろうサーラちゃんの提案を熟考することなく、ハヤトは転移の法珠を取り出した。

「ハヤト、待って!」

 エナコが叫んだときにはすでに遅く、ハヤトはダンジョンの外に転移してしまった。

「どうしましょう。ハヤトさんがいないと進む意味が無いですよね」

 アドミスとの約束は、今日の二十二時までにラストダンジョンのボスを倒すこと。もちろんハヤトがいるうえでだ。

「今日中にバージョン1をクリアしないと蘇生不能バグが修正されないんだろ? なのになんでハヤト君は町の守りに向かったんだ?」

 サクさんもサーラちゃんもハヤトの死亡によるキャラクターデリートのことを考えて話している。ハヤト固有のバグというだけでも彼らには意味不明なはず。そんなことにリアルの時間を削ってまで付き合ってくれているのに、肝心のハヤトが飛び出していってしまった。さすがにこんなことをされては呆れ果ててしまうに違いない。百年の恋ならともかく憧れ程度の想いなら冷めてしまうだろう。

 なぜ私がダンジョンブレイクの件で葛藤したのか。なぜそのことを聞いたハヤトが自分のことを顧みずに飛び出していったのか。それは、このゲームのNPCにも『死』があるからだ。

 リディアちゃんが死んでしまえば復活しない。それは、この世界すべてのキャラクターに当てはまる。ゲームのキャラクターにも命があるなんて、ゲームの中で生きている者にしか理解できない。

 ゲームの世界はハヤトの現実だ。熱中するほど楽しいリアルなゲームというみんなの価値観とは決して交わらない。だけど、お願いするしかない。

「絵美ちゃん、ハヤトだけを行かせちゃだめ。絶対無茶をするから」

 絵美ちゃんはともかく、こんな身勝手な行動を取ったハヤトを、サーラちゃんとサクさんが助けてくれるだろうか。

「ダンジョンブレイクに対処してから戻ってこられるのか?」
「たぶん無理。完全に鎮圧するには半分以上のモンスターと群のボスを倒さないといけないから」
「それなのに向かったのか。男だな!」

 なんて?

 サクさんの表情が眩しく輝いて見える。

「ゲームを始めた頃はいっぱい世話を焼いてもらいましたから、今度はわたしが焼く番ですね」

 サーラちゃんも鼻息が荒い。

「バグは解消できなくても死ななきゃいいんでしょ? だったら無茶をするハヤト君を助けるってことは今までとかわりませんね」

 三人は転移の法珠を取り出した。

 みんな、最高だぜ!

 ゲームからの解放にはならないけど、その世界で生きていけるなら死ぬよりずっといい。もしかしたら次のチャンスだってあるかもしれない。

 だとしても、大規模ダンジョンブレイクで町の人を守って死んでいくなんてのは王道の主人公から外れるモノだ。ハヤトは生き残る。もちろん町の人たちも!

 サーラちゃんはリアルフレンドのレガシー君にメッセージを送って町の防衛のお願いをした。すぐに返信されてきたメッセージには『仲間を連れていく』と、短文で書かれていた。ちょっとカッコいいぞ。



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 現実世界では隼人と絵美ちゃんのお泊りの件でお母さんたちに追及されたけど、立花君のおかげでどうにか逃れることができた。
 明日は夏休みの最終日。だから、登校の前日である今日中には帰還させないとさすがにまずい。なので、今日が決戦の日となった。
 お泊りの件でお説教をもらった絵美ちゃんがログインできなくなったり、ハヤトの行方を確認されるなどで時間を取られてしまっていたら大変な事態になっていたことだろう。
 あと五時間ですべてが終わる。その結果はゲーム世界からの解放か永遠の幽閉か、それとも『死』か……。
 十八時に再び集結した四人は、最終決戦仕様の装備を整え、決戦の地である黒のダンジョンに乗り込んだ。
 さすがは最終ダンジョンといったところだろうか。出現するタイミングや演出や行動パターンがこれまでとは少し違う。それだけでモンスターを手強く感じさせている。それに、VRの中でも最高峰のフロンティアというゲームが作り出したダンジョンは、良くも悪くもプレイヤーの心を震わせた。
 現実感を強く与えるこのゲームが|PG-《ペアレンツガイダンス》12指定でいいのかと不思議に思う。
 フロンティアを始めた初日は、未知のダンジョンの不気味さに完全に飲まれていた絵美ちゃんも、すっかり度胸がついていた。彼女が纏う雰囲気は喋らなくともみんなの心を和ませ、過度な緊張を緩める役割を担っている。
 しんがりを務めるサクさんもエナコと変わらず二週間程度の初級者なのに、揺るぎのないどっしり感が頼もしく安心感を与えている。
 そんなふたりに囲まれるサーラちゃんはとても感覚が鋭くて、いち早く異変や危険を察知する。臆病だから?
 個性豊かなこの三闘士でなければハヤトを蘇生することもできなかったし、この世界から解放するための戦いに挑めなかっただろう。奇跡の出会いだ。
 戦いは苦戦しつつもピンチはなく、精神的な消耗はあっても戦力的な消耗はない。ダンジョン攻略は順調に進み、現在は第六階層ボスと戦っている。 バージョンアップからの数日で多くの冒険者が最終クエストに挑み、その情報が掲示板に投稿されている。だけど、その半分が役に立たないのは、この世界が生ものであり時間と共に状況が変わっていくからだ。
 バージョン1の最終クエストが始まってから五日も経っているのに、クリアしたという情報が挙がっていないのはそれが理由だろう。
 そうはいっても有用な情報がないわけじゃない。階層ボスはコロコロ変わるけど、同じボスに当たる場合だってあるのだから。
 みんなが頑張っているあいだ、新たな攻略情報が掲載されていないかと公式掲示板をチェックしていた私は、とんでもない情報を見つけてしまった。
「これ、どうしたらいいのよ……」
「どうしたんですか?」
 思わず口をついた言葉が絵美ちゃんの集中を途切れさせた。
「ごめん、大丈夫。戦いに集中して」
「了解っす」
 このことを伝えたところでやることは変わらない。いや、変えちゃいけない。でも、ハヤトは変えてしまいかねないと予想できる。だから伝えないほうがいいんだ。たとえ、あとで悲しむことになろうとも自分の人生や命と比べればどうということはない。これはゲームのイベントのひとつなのだから。
 こう自己完結したいのに私は葛藤を消すことができなかった。
「アイテム使い切っちゃいました。ストレージから補充しないと」
「やっぱり最終クエストだけあって強いな」
「だけど、ここまでは順調だね。あと二階層頑張ろう!」
 戦いを終えた四人は、ドロップアイテムや戦いの反省点などを話している。そうよ、余計なことを伝えて緊張を切ってはいけないんだ。残り二階層をクリアしてダンジョンボスを倒す。そして、ハヤトをこの世界から解放する。それが目的なんだから。だけど……。
「絵美ちゃん」
「はーい、なんでしょうか女神アドミス」
「ハージマの町が危ないの」
 黙っていることができなかった。
「どういうことですか?」
 このことを決めるのは私じゃない。いや、私には決められなかった。だからハヤトの判断に委ねてしまった。命の選択を。
「近くにダンジョンが出てる。発見が遅れてダンジョンブレイクまで一時間十二分しかない」
 バージョン1の最終クエストが開放されてから五日。プレイヤーたちはこぞってクエストを進めている。そんなときに起こりやすいのがダンジョンブレイクだ。なぜなら、新しいクエストやコンテンツが解放されるとそこに人が集まり過ぎてしまい、辺境の地や入り組んだ場所に現れたダンジョンの発見が遅れてしまうから。
「今、女神から天啓がありました。ダンジョンブレイクによってハージマの町がピンチです。今はまだ無事ですけど、ダンジョンブレイクまで一時間ちょっとしかありません」
「戻ってダンジョンを攻略しないと」
 一拍の間も置かずにハヤトはそう応えたけど、みんなは考えていた。
「来た道を戻ったら一時間以上はかかる。そこからダンジョン攻略は無理だ」
「転移の法珠を使います」
「それは緊急時の保険だろ。今使ったらボス戦で危険な状態のときに脱出できなくなる」
 サクさんの冷静な判断にエナコがうなずくと、サーラちゃんが提案した。
「あと二階層でディーグラ戦ですよ。ダンジョンブレイクを防げないなら倒してから戻って町の防衛戦に参加してはどうでしょう?」
「一階層を三十分ずつだとして、ボス戦を終わらせてから町に戻ると二時間くらいよね。すぐに町が全滅なんてことはないだろうけど……」
 『多くの被害が出ることになる』と言葉が続くであろうサーラちゃんの提案を熟考することなく、ハヤトは転移の法珠を取り出した。
「ハヤト、待って!」
 エナコが叫んだときにはすでに遅く、ハヤトはダンジョンの外に転移してしまった。
「どうしましょう。ハヤトさんがいないと進む意味が無いですよね」
 アドミスとの約束は、今日の二十二時までにラストダンジョンのボスを倒すこと。もちろんハヤトがいるうえでだ。
「今日中にバージョン1をクリアしないと蘇生不能バグが修正されないんだろ? なのになんでハヤト君は町の守りに向かったんだ?」
 サクさんもサーラちゃんもハヤトの死亡によるキャラクターデリートのことを考えて話している。ハヤト固有のバグというだけでも彼らには意味不明なはず。そんなことにリアルの時間を削ってまで付き合ってくれているのに、肝心のハヤトが飛び出していってしまった。さすがにこんなことをされては呆れ果ててしまうに違いない。百年の恋ならともかく憧れ程度の想いなら冷めてしまうだろう。
 なぜ私がダンジョンブレイクの件で葛藤したのか。なぜそのことを聞いたハヤトが自分のことを顧みずに飛び出していったのか。それは、このゲームのNPCにも『死』があるからだ。
 リディアちゃんが死んでしまえば復活しない。それは、この世界すべてのキャラクターに当てはまる。ゲームのキャラクターにも命があるなんて、ゲームの中で生きている者にしか理解できない。
 ゲームの世界はハヤトの現実だ。熱中するほど楽しいリアルなゲームというみんなの価値観とは決して交わらない。だけど、お願いするしかない。
「絵美ちゃん、ハヤトだけを行かせちゃだめ。絶対無茶をするから」
 絵美ちゃんはともかく、こんな身勝手な行動を取ったハヤトを、サーラちゃんとサクさんが助けてくれるだろうか。
「ダンジョンブレイクに対処してから戻ってこられるのか?」
「たぶん無理。完全に鎮圧するには半分以上のモンスターと群のボスを倒さないといけないから」
「それなのに向かったのか。男だな!」
 なんて?
 サクさんの表情が眩しく輝いて見える。
「ゲームを始めた頃はいっぱい世話を焼いてもらいましたから、今度はわたしが焼く番ですね」
 サーラちゃんも鼻息が荒い。
「バグは解消できなくても死ななきゃいいんでしょ? だったら無茶をするハヤト君を助けるってことは今までとかわりませんね」
 三人は転移の法珠を取り出した。
 みんな、最高だぜ!
 ゲームからの解放にはならないけど、その世界で生きていけるなら死ぬよりずっといい。もしかしたら次のチャンスだってあるかもしれない。
 だとしても、大規模ダンジョンブレイクで町の人を守って死んでいくなんてのは王道の主人公から外れるモノだ。ハヤトは生き残る。もちろん町の人たちも!
 サーラちゃんはリアルフレンドのレガシー君にメッセージを送って町の防衛のお願いをした。すぐに返信されてきたメッセージには『仲間を連れていく』と、短文で書かれていた。ちょっとカッコいいぞ。