表示設定
表示設定
目次 目次




第四部 21話 互いの手札

ー/ー



 一見すると、その地域は他と違いはなかった。
 舗装された路地や綺麗に清掃された形跡もある。

 ……しかし、人だけがいなかった。
 ……いくつか感じた視線は全て鬼のものだった。

「このまま通り抜けましょう」
 ナタリーが小さく囁いた。

 俺は頷くと、先導するように歩き出す。
 下手に仕掛けてくる心配はないはずだが、気は抜けない。

 ここで戦える護衛は俺だけだ。
 ナタリーは戦闘面では期待できない。

 もっとも、少し離れた場所にはピノもいる。
 ティアナも戦えないわけではない。

 ナタリーの言う通りだ。
 逃げ切るだけならば大丈夫。

「…………」

 俺たちはいかにも迷い込んだ風に歩いてゆく。
 このまま行けば、無事に抜けられそうだ。

 俺は鬼の幹部しか見たことがなかったからな。
 鬼……『ヒトの失敗作』とされた存在を見れたのはプラスだった。

「!?」
 しかし、不意にナタリーが驚いたような声を小さく漏らした。

 すぐに俺とティアナの腕を引いて、進行方向を切り替える。
 鬼の目が届かないことを確認すると、路地裏へと飛び込んだ。

「……なんだなんだ? どうしたんだよ、ナタリー?」
「ナタリーさん?」

 俺とティアナが狭い路地裏で囁く。
 予定にない動きだった。ナタリーらしくない。

「静かに。見つかったら多分詰みだ」
「?」
 首を傾げる俺に、ナタリーは大通りを指さした。

「……なるほどな」

 その光景に納得した。
 通りの向こうから二匹の鬼が歩いてくる。

「あーあ、暇だな。さっさと戦争始めようぜ?」
「……はあ、戦争? また馬鹿なことを。まだ早いですよ」

『三代目赤鬼』と『二代目白鬼』。
 いわゆる幹部の二名だった。

 赤鬼は随分と小柄になっていた。
 巨大な金棒ではなく、六角形の細長くて黒い棒を持っている。

 白鬼は見た目には変化がない。
 特に武装もなしで、軽く腕を組んで適当な相槌を打っていた。

 内心で舌打ちを漏らす。
 確かに見つかれば詰みだろうな。

 俺たちが護衛として来ていることは当然知っているだろう。
 それでも自分たちから手は出せない……。

 だが、この状況で出くわせばそうはいかない。
 多少強引にでも襲ってくるはずだ。

 ……少なくとも、白鬼はそれくらいの判断をするだろう。
 ……そうなれば戦力的に足りない。危ないところだ。

 それにしても運が悪い。
 赤鬼と白鬼の両方ともいるなんて。

 ……まさか、青鬼もいるんじゃないだろうな。

 二匹が通り過ぎてゆく。
 妙な胸騒ぎがしていた。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第四部 22話 白鬼の心配


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 一見すると、その地域は他と違いはなかった。
 舗装された路地や綺麗に清掃された形跡もある。
 ……しかし、人だけがいなかった。
 ……いくつか感じた視線は全て鬼のものだった。
「このまま通り抜けましょう」
 ナタリーが小さく囁いた。
 俺は頷くと、先導するように歩き出す。
 下手に仕掛けてくる心配はないはずだが、気は抜けない。
 ここで戦える護衛は俺だけだ。
 ナタリーは戦闘面では期待できない。
 もっとも、少し離れた場所にはピノもいる。
 ティアナも戦えないわけではない。
 ナタリーの言う通りだ。
 逃げ切るだけならば大丈夫。
「…………」
 俺たちはいかにも迷い込んだ風に歩いてゆく。
 このまま行けば、無事に抜けられそうだ。
 俺は鬼の幹部しか見たことがなかったからな。
 鬼……『ヒトの失敗作』とされた存在を見れたのはプラスだった。
「!?」
 しかし、不意にナタリーが驚いたような声を小さく漏らした。
 すぐに俺とティアナの腕を引いて、進行方向を切り替える。
 鬼の目が届かないことを確認すると、路地裏へと飛び込んだ。
「……なんだなんだ? どうしたんだよ、ナタリー?」
「ナタリーさん?」
 俺とティアナが狭い路地裏で囁く。
 予定にない動きだった。ナタリーらしくない。
「静かに。見つかったら多分詰みだ」
「?」
 首を傾げる俺に、ナタリーは大通りを指さした。
「……なるほどな」
 その光景に納得した。
 通りの向こうから二匹の鬼が歩いてくる。
「あーあ、暇だな。さっさと戦争始めようぜ?」
「……はあ、戦争? また馬鹿なことを。まだ早いですよ」
『三代目赤鬼』と『二代目白鬼』。
 いわゆる幹部の二名だった。
 赤鬼は随分と小柄になっていた。
 巨大な金棒ではなく、六角形の細長くて黒い棒を持っている。
 白鬼は見た目には変化がない。
 特に武装もなしで、軽く腕を組んで適当な相槌を打っていた。
 内心で舌打ちを漏らす。
 確かに見つかれば詰みだろうな。
 俺たちが護衛として来ていることは当然知っているだろう。
 それでも自分たちから手は出せない……。
 だが、この状況で出くわせばそうはいかない。
 多少強引にでも襲ってくるはずだ。
 ……少なくとも、白鬼はそれくらいの判断をするだろう。
 ……そうなれば戦力的に足りない。危ないところだ。
 それにしても運が悪い。
 赤鬼と白鬼の両方ともいるなんて。
 ……まさか、青鬼もいるんじゃないだろうな。
 二匹が通り過ぎてゆく。
 妙な胸騒ぎがしていた。