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第四部 20話 サンデル領エイク市

ー/ー



 夜の内に『エイク市』に入る。
 そのまま、真っ直ぐに『統一学舎』が指定した宿へと向かった。

「兄さん兄さん、大きなお屋敷ですねっ」
「本当だな。流石に『王立学院』と並ぶだけはある」

 ティアナが声を弾ませる。
 俺は苦笑しながら応じた。

 ちなみに、俺が兄というのは隠さない。
 偶然、身内が護衛に選ばれたというシナリオだ。

 ナタリーが護衛側を代表して建物に入っていった。
 すぐに戻ってくるが、今度は屋敷の使用人たちが一緒だった。

「お出迎えが間に合わずに申し訳ありません。
 滞在中の間は私たちが応対させていただきます」

 執事のような恰好をした男性は深く頭を下げた。
 女性の使用人が数人後ろに控えている。

「いいえ。こちらこそ遅い時間にごめんなさい。
 交流会の間は護衛と一緒にお世話になると思います」

 そう言って、ティアナは深く頭を下げた。
 ……制服姿で柔らかく微笑む姿は先ほどとは別人である。

「……イテ、何すんだ?」
 呆けているグレイを肘で突いた。

 きっと睨みつけてくる。
 深いため息を返してやった。

「……お前もあれをやるんだよ!?」
「ああ、そっか」
 グレイがぽん、と手を叩く。

 グレイは優等生役だ。
 ティアナよりもグレイが言うべきだったのかもしれない。

 まあ、仕方ない。
 今までは後ろから眺めている側だったんだ。

 ……一番後ろからな。



 警戒だけは怠らないように、屋敷で一夜を明けた。
 ……とは言え、部屋に問題はないし、用意してもらった食事も完璧。

 王国と連合の国を背負っての交流会なのだ。
 表立って動くような真似はしないだろう。

 動くなら裏だ。
 俺たちと同じように。

 俺たちは連合の首都である『エイク市』を見て回ることにした。
 本来なら全員で行動したいところだが、そうもいかない。

 ティアナとグレイがずっと一緒にいるのも不自然だろう。
 そこで二手に分かれて都市を見て回ることになったのだ。

 ティアナの方には、まず俺。
 あとはナタリーが一緒だ。

 グレイにはジークとフレア。
 念のため、アリスが付いている。

「……しかし、王都とは違うもんだな」
「ま、もともと交易で栄えた国だからね」

 俺が呟くと、ナタリーが答えた。
 王国の王都と同じくらい発展した都市だが、印象が違う。

 王都は規律正しく整備された都市だ。
 それに対して『エイク市』は自由に発展していく都市に見える。

 領主である連合の『サンデル家』も過剰な介入は避けてきたらしい。
 あくまでも治安維持や社会保障など、公正や平等に対してのみ手を加える。

 ……今は分かりませんが、と。
 この話を聞いた時、ジークは目を伏せていた。

「兄さん! これ!
 ニナさんのおみやげにどうですか!?」

 ティアナが叫ぶ。
 お前、本当におみやげ好きだな。

「んー、こっちの方が良いかも?」
 ナタリーが隣を指さした。

「なるほど……じゃあ、これは『もちもち大福』へのおみやげにしましょう」
「大福? まあ、食べ物も悪くはないか。? ……『もちもち大福』って誰!?」

 言葉の罠に気付いて声を荒げた。危ない。
 贈る物の名前ではない。贈る相手の名前だ。

「近所の猫ですよ?」
 当たり前じゃないですか、と言わんばかりに首を傾げた。

「私のお友達よ」
 頭上でエルが言った。

 え、何そんな付き合いがあるの?
 知らない俺がおかしいの?

「あ、最近彼氏が出来たみたいだよ」
 ナタリーが言った。

 何でお前まで知ってるんだ……。
 そうか、ピノだ。あいつは何でも知っている。

「あ、そうなんですね!」
「あら、やっとくっついたの」
「そもそも!」

 ティアナとエルの声に自分の声を大きく被せた。
 どうして連合まで来て、近所の猫のコイバナが始まろうとしているのか。

「近所の猫へのおみやげ!? 必要なのか!?
 待て、ニナさんへのおみやげが猫へのおみやげになった……?」
 いよいよもって俺は混乱し始めた。

 一体何を買おうとしたのか、覗き込む。
 しかし、それよりも先にティアナが別方向を指さした。

「あ、兄さん! これ、兄さんへのおみやげにどうですか?」
「俺へのおみやげに至っては意味があるのか……?」

 楽しそうで何よりだ。
 ただ、ティアナにはおみやげのセンスがないことは良く分かった。



 しばらく歩くと、空気が澱んだような区画に足を踏み入れた。
 一度は顔を出しておこうと、全員で決めている。

 青い肌の異形がこちらを睨んでいた。
 俺は目を合わせないように気を付ける。

 ここは鬼が住んでいる地域。
 今、連合ではこのような地域が増えている。



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 夜の内に『エイク市』に入る。
 そのまま、真っ直ぐに『統一学舎』が指定した宿へと向かった。
「兄さん兄さん、大きなお屋敷ですねっ」
「本当だな。流石に『王立学院』と並ぶだけはある」
 ティアナが声を弾ませる。
 俺は苦笑しながら応じた。
 ちなみに、俺が兄というのは隠さない。
 偶然、身内が護衛に選ばれたというシナリオだ。
 ナタリーが護衛側を代表して建物に入っていった。
 すぐに戻ってくるが、今度は屋敷の使用人たちが一緒だった。
「お出迎えが間に合わずに申し訳ありません。
 滞在中の間は私たちが応対させていただきます」
 執事のような恰好をした男性は深く頭を下げた。
 女性の使用人が数人後ろに控えている。
「いいえ。こちらこそ遅い時間にごめんなさい。
 交流会の間は護衛と一緒にお世話になると思います」
 そう言って、ティアナは深く頭を下げた。
 ……制服姿で柔らかく微笑む姿は先ほどとは別人である。
「……イテ、何すんだ?」
 呆けているグレイを肘で突いた。
 きっと睨みつけてくる。
 深いため息を返してやった。
「……お前もあれをやるんだよ!?」
「ああ、そっか」
 グレイがぽん、と手を叩く。
 グレイは優等生役だ。
 ティアナよりもグレイが言うべきだったのかもしれない。
 まあ、仕方ない。
 今までは後ろから眺めている側だったんだ。
 ……一番後ろからな。
 警戒だけは怠らないように、屋敷で一夜を明けた。
 ……とは言え、部屋に問題はないし、用意してもらった食事も完璧。
 王国と連合の国を背負っての交流会なのだ。
 表立って動くような真似はしないだろう。
 動くなら裏だ。
 俺たちと同じように。
 俺たちは連合の首都である『エイク市』を見て回ることにした。
 本来なら全員で行動したいところだが、そうもいかない。
 ティアナとグレイがずっと一緒にいるのも不自然だろう。
 そこで二手に分かれて都市を見て回ることになったのだ。
 ティアナの方には、まず俺。
 あとはナタリーが一緒だ。
 グレイにはジークとフレア。
 念のため、アリスが付いている。
「……しかし、王都とは違うもんだな」
「ま、もともと交易で栄えた国だからね」
 俺が呟くと、ナタリーが答えた。
 王国の王都と同じくらい発展した都市だが、印象が違う。
 王都は規律正しく整備された都市だ。
 それに対して『エイク市』は自由に発展していく都市に見える。
 領主である連合の『サンデル家』も過剰な介入は避けてきたらしい。
 あくまでも治安維持や社会保障など、公正や平等に対してのみ手を加える。
 ……今は分かりませんが、と。
 この話を聞いた時、ジークは目を伏せていた。
「兄さん! これ!
 ニナさんのおみやげにどうですか!?」
 ティアナが叫ぶ。
 お前、本当におみやげ好きだな。
「んー、こっちの方が良いかも?」
 ナタリーが隣を指さした。
「なるほど……じゃあ、これは『もちもち大福』へのおみやげにしましょう」
「大福? まあ、食べ物も悪くはないか。? ……『もちもち大福』って誰!?」
 言葉の罠に気付いて声を荒げた。危ない。
 贈る物の名前ではない。贈る相手の名前だ。
「近所の猫ですよ?」
 当たり前じゃないですか、と言わんばかりに首を傾げた。
「私のお友達よ」
 頭上でエルが言った。
 え、何そんな付き合いがあるの?
 知らない俺がおかしいの?
「あ、最近彼氏が出来たみたいだよ」
 ナタリーが言った。
 何でお前まで知ってるんだ……。
 そうか、ピノだ。あいつは何でも知っている。
「あ、そうなんですね!」
「あら、やっとくっついたの」
「そもそも!」
 ティアナとエルの声に自分の声を大きく被せた。
 どうして連合まで来て、近所の猫のコイバナが始まろうとしているのか。
「近所の猫へのおみやげ!? 必要なのか!?
 待て、ニナさんへのおみやげが猫へのおみやげになった……?」
 いよいよもって俺は混乱し始めた。
 一体何を買おうとしたのか、覗き込む。
 しかし、それよりも先にティアナが別方向を指さした。
「あ、兄さん! これ、兄さんへのおみやげにどうですか?」
「俺へのおみやげに至っては意味があるのか……?」
 楽しそうで何よりだ。
 ただ、ティアナにはおみやげのセンスがないことは良く分かった。
 しばらく歩くと、空気が澱んだような区画に足を踏み入れた。
 一度は顔を出しておこうと、全員で決めている。
 青い肌の異形がこちらを睨んでいた。
 俺は目を合わせないように気を付ける。
 ここは鬼が住んでいる地域。
 今、連合ではこのような地域が増えている。