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第四部 19話 天賦の才

ー/ー



 ナタリーは本当に急ぐつもりだったらしい。翌日にはベックリンを発った。
 もっとも、最初から旅程はそのように組まれていたから問題はない。

「フェリスさん! またー」
「またねぇ!」

 いつの間に仲良くなったのか。
 馬車から身を乗り出して、ティアナはフェリスへと手を振っていた。
 フェリスはフェリスで、楽しそうに振り返している。

 結局、昨日はあの屋敷に泊めてもらったから話す機会はあったけどさ。
 まあ、何かしらの波長が合ったということか。

「またな!」「頑張れよッ」「グレイ、今度飲もうや!」
「……はいはい、また今度」

 三つの声が重なった。
 ガロシュ三兄弟の方はグレイが気に入ったらしい。
 あれこれと構い倒してグレイを困らせていた。

 しかし、すぐにベックリンを離れていく。
 連合との国境はすぐそこだ。検問を抜ける必要があった。



 検問が見えてきた。
 連合軍が人相と荷物を確認しているらしい。

 ジークはすでに隠れているはずだ。このために使用人用の馬車は特別製だ。
 ナタリーの発想を王国が実現した悪夢のような仕様になっている。

 下手をすれば、俺たちが乗る客人用よりも値打ちがあるかも知れない。
 さらに、連合側の検問の方法をピノが事前に確認している。

 いくつも用意した隠れ方の内、見つからない方法を調査した上で臨む。
 いや、本当にどこからあの悪知恵が生まれたんだろうな。

 ちなみに両親は善良そのものだぞ?
 ……兄も善良だったしな?

「次、前へ!」

 並んでいると、やがて俺たちの番がやって来た。
 使用人の馬車が先導するように前へ出た。

 ナタリーが事情を説明する。もっとも、学院と学舎の交流会だ。
 止められるはずはない。問題は検閲の方だ。

「……検めさせてもらうぞ」
「もちろん」

 ナタリーが清々しい笑みで頷いた。
 どうしてあの表情ができるのだろう。

「? この床の隙間は?」
「ああ、これは食料を日持ちさせるために冷やすのですよ」
「では、この大きな布は? 随分と質が良いようだが……」
「野営用です。客人が野営する場合に使用します」
「……この大きな樽は? 何が入ってる?」
「酒ですよ。学院から学舎への贈り物になります。確認しますか?」
「む……一応見ようか」

 連合軍が注意深く確認していった。
 ジークを警戒しているのは間違いない。明らかに厳しい。

 だが、ここをジークが抜けることに大きな意味があるんだ。
 連合軍が王国に張り付いている理由はジークを探すためだ。

 すり抜けてしまえば、連合の中枢を握る上で大きなアドバンテージになる。
 この軍が使えずに浮く。切り抜けるだけで勝ちのようなものだろう。

 ジークとはこの後に出会って、連合にいる間だけ従者として雇う……そういうシナリオだ。現地の案内人を用意するのは当然だし、元々連合の人間だから不自然さはないはずだ。

「……よし、良いだろう。通れ」
「はい、ご苦労様です」

 兵士が樽の蓋を閉じる。
 ナタリーが笑顔で応じていた。

 ……本当に、どうしてあんな笑顔が出来るんだろう。
 ……あの樽、二重底になっててジークが隠れてるんだぜ?



「……意外と近いんだな?」
「ええ、これより北は気候が厳しくなりますから」

 俺の向かい側でジークが答えた。
 検問を抜けてしまえば、ジークを向こうの馬車に乗せる理由はない。

 すでにサンデル領に入っている。
 日は傾き始めたが、今日中に首都である『エイク市』まで行けそうだった。



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 ナタリーは本当に急ぐつもりだったらしい。翌日にはベックリンを発った。
 もっとも、最初から旅程はそのように組まれていたから問題はない。
「フェリスさん! またー」
「またねぇ!」
 いつの間に仲良くなったのか。
 馬車から身を乗り出して、ティアナはフェリスへと手を振っていた。
 フェリスはフェリスで、楽しそうに振り返している。
 結局、昨日はあの屋敷に泊めてもらったから話す機会はあったけどさ。
 まあ、何かしらの波長が合ったということか。
「またな!」「頑張れよッ」「グレイ、今度飲もうや!」
「……はいはい、また今度」
 三つの声が重なった。
 ガロシュ三兄弟の方はグレイが気に入ったらしい。
 あれこれと構い倒してグレイを困らせていた。
 しかし、すぐにベックリンを離れていく。
 連合との国境はすぐそこだ。検問を抜ける必要があった。
 検問が見えてきた。
 連合軍が人相と荷物を確認しているらしい。
 ジークはすでに隠れているはずだ。このために使用人用の馬車は特別製だ。
 ナタリーの発想を王国が実現した悪夢のような仕様になっている。
 下手をすれば、俺たちが乗る客人用よりも値打ちがあるかも知れない。
 さらに、連合側の検問の方法をピノが事前に確認している。
 いくつも用意した隠れ方の内、見つからない方法を調査した上で臨む。
 いや、本当にどこからあの悪知恵が生まれたんだろうな。
 ちなみに両親は善良そのものだぞ?
 ……兄も善良だったしな?
「次、前へ!」
 並んでいると、やがて俺たちの番がやって来た。
 使用人の馬車が先導するように前へ出た。
 ナタリーが事情を説明する。もっとも、学院と学舎の交流会だ。
 止められるはずはない。問題は検閲の方だ。
「……検めさせてもらうぞ」
「もちろん」
 ナタリーが清々しい笑みで頷いた。
 どうしてあの表情ができるのだろう。
「? この床の隙間は?」
「ああ、これは食料を日持ちさせるために冷やすのですよ」
「では、この大きな布は? 随分と質が良いようだが……」
「野営用です。客人が野営する場合に使用します」
「……この大きな樽は? 何が入ってる?」
「酒ですよ。学院から学舎への贈り物になります。確認しますか?」
「む……一応見ようか」
 連合軍が注意深く確認していった。
 ジークを警戒しているのは間違いない。明らかに厳しい。
 だが、ここをジークが抜けることに大きな意味があるんだ。
 連合軍が王国に張り付いている理由はジークを探すためだ。
 すり抜けてしまえば、連合の中枢を握る上で大きなアドバンテージになる。
 この軍が使えずに浮く。切り抜けるだけで勝ちのようなものだろう。
 ジークとはこの後に出会って、連合にいる間だけ従者として雇う……そういうシナリオだ。現地の案内人を用意するのは当然だし、元々連合の人間だから不自然さはないはずだ。
「……よし、良いだろう。通れ」
「はい、ご苦労様です」
 兵士が樽の蓋を閉じる。
 ナタリーが笑顔で応じていた。
 ……本当に、どうしてあんな笑顔が出来るんだろう。
 ……あの樽、二重底になっててジークが隠れてるんだぜ?
「……意外と近いんだな?」
「ええ、これより北は気候が厳しくなりますから」
 俺の向かい側でジークが答えた。
 検問を抜けてしまえば、ジークを向こうの馬車に乗せる理由はない。
 すでにサンデル領に入っている。
 日は傾き始めたが、今日中に首都である『エイク市』まで行けそうだった。