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第百六十八話

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 幻覚の解けたコンクリートの通路を、忍者一人、そしてエヴァと信一郎の三人のみで走っていた。
「事の発端は、数年前だった」
 山梨の大企業・五斂子(ゴレンシ)社。山梨においては非常に著名な会社であり、山梨の企業七割がたの根本に居座り続ける、グレープの創設にもかかわった大企業である。食品、金融、風俗、娯楽……山梨に存在する、あらゆるエンタメの根本である。
 その五斂子社は、子供、ひいては『育児』にまつわる事業も行っていた。数多くの保育園や孤児院の運営も、五斂子社の子会社が行っている。
 しかし。数年前のこと、山梨県内で子供が失踪する事件が頻発した。五斂子社は事件の追求を大々的に発表した。忍者たちはそういった思惑抜きに、独自に調査を開始したものの、それは五斂子社によるものであった。五斂子社で行われていた行為は分からなかったものの、酷いマッチポンプを見たのだ。
 忍者たちは巨悪であることが判明した五斂子社に戦いを挑むも、結局は敗北。人間以上の力を保有したものが存在する、確実に敵わないことを察してしまったため、御庭番衆以外の忍者は五斂子社の手先となった。
「……どれほど修行を重ねたとしても、敵わないことを知ってしまったがゆえに、誇りを捻じ曲げたとしてもそちらに付く以外なかった。金も積まれ、後には退けなかった。頭目には……悪いと思っている」
「悪いとかの次元じゃあない、強いものに従うのは人間……ひいては生物として、いたって普通のものさ。これが仮に、英雄が行ったことだとしたら大目玉ものだけどね」
「つまり、この通路の先に存在するのは……五斂子社ってことですか」
「――ああ」
 先ほど、エヴァと打ち合う際。明確に敵意が薄いことに気が付いたからこそ、エヴァはあまり責めなかったのだ。しかし、どうしても許せなかった部分が一つだけあった。
「――子供たちを、なんで見殺しにするような真似をしたんですか」
 エヴァたちに表情は一切見せなかったものの、その背には哀愁を背負っていた。
「確かに力は及ばなかったかもしれない、それでも……行き場のない子供たちを裏切るような真似がよく出来ましたね」
 その言葉には、隠しきれない怒気がにじみ出ていた。同じく親を亡くした子供であるエヴァにとって、あの子供たちは救わなければいけない対象であったのだ。
 なのに、子供に頼りにされていた大人が、その子供がこれ以上酷い目にあう姿を、指をくわえて見ていたとしたら。彼女にとっては、何よりも許せない行いであったのだ。
「……その怒りの矛先は、きっと五斂子社に……そしてそれらと並び立つ存在に向けた方がいいだろうね」
 その信一郎の言動に、さらに異を唱えようとした、その時であった。一行の目の前に、長い梯子がかけられていた。信一郎が先導し、エヴァがそれに続くよう走るも、忍者は二人の背を守るように立っていた。
「……何で、付いてこないんですか? 目的地に着いた私たちを……」
「――それ以上はいけないよ、エヴァちゃん」
 指さす方へ振り向くと、忍者だった存在が、それぞれ生気を失った状態でじりじりと迫りつつあったのだ。
 しかも、下腹部にそれぞれチーティングドライバーを着用した状態であったのだ。
「う、うそ……いつから……」
「敵意を感じない、ってのはある種の正解だった。きっと、あの人はずっと罪悪感に押し潰されそうだったんだろう。子供たちをこういう形で見送りたくはなかったんだろう。だからこそ、自分たち以上の力を持つ私たちに、事の解決を祈ったんだろう」
 五斂子社は、結局『教会』の息がかかった存在であった。だからこそ、歯向かってきた忍者たちに「二度と歯向かわないよう」という思考汚染の意味合いも込め、チーティングドライバーを渡したのだろう。
 それが、今秘密に手を伸ばしている寸前に牙を剥くのだ。
「――エヴァちゃん、行こう。そうじゃあないと……あの人の贖罪は終わらないんだろう」
「最初から……死ぬ覚悟で……」
 背から滲み出す哀愁は、その『贖罪』という言葉に反応した。一切エヴァたちの方へ向くこともなく、吐露し始めたのだ。
「――これは、贖罪などではない。あの子たちを導いてしまったのは……私の責任だ。今更罪がどうこうなどという話ではない。許されるつもりなんて……毛頭ないさ。閻魔様にきっちり裁かれて、地獄の旅路をゆっくりと歩むことにしよう」
 ただ、それでも罪を背負った自分が行うことは、邪魔を許さないことであった。忍者の誇りにかけ、自分たちでは敵わない存在を英雄にどうにかしてほしいからこそ、自分を踏み台にしたのだ。衆目に命を晒したうえでの、最後の反抗であった。いくら思考汚染されようと、行き場のない子供たちを大切に思う気持ちは、一切変わらなかったのだ。
「――行ってくれ。私のような路傍の小石なんぞ、一切気にかけないでくれ。そして……私のことを忘れてくれ。子供を見捨て、矜持を捨てた、辻斬り同然の哀れな流浪人と思ってくれ」
 信一郎は、同性だからわかる男の意地を感じ取り、梯子を再び上がり始めた。エヴァは片腕を離し、忍者……否、ただの裏切り者に敬礼すると、梯子を上り始めたのだ。

 やがて、姿が見えなくなっていた中で、忍者ですらなくなった男は、同種が生み出す幻覚作用のある甘い香りをあまり吸い込まないよう、すぐさま厚手の布を後ろ手でマスクのように結ぶ。
 懐から出すは、隠れて持ち込んでいたチーティングドライバー。同胞だった者を手にかけるのは、未だ経験のない男であった。ゆえに、下腹部に装着後、手元が震えていた。
 しかし、その手の震えを、自身の忍び刀で掌を完全に貫き、意識を誇り高いものに戻す。圧倒的痛覚が脳を支配していたものの、一切叫びはせずに歯を食いしばるのみで耐えてみせたのだ。目は血走り、脂汗があふれ出す。
「――今更、何を怖がっている。しのびの里を裏切ったあの時に、怖がるなんて思考は捨て去ったはずだ。裏切り者なら、最後まで裏切り者であるのみ。今更――後戻りはできないだろう」
 自身の手を貫く忍び刀を派手に抜くと、栓を抜いたかのように血が溢れる。刀にも己の血が滴るほど付着していた。刀の(かしら)部で押し込むように、ドライバーを即起動させる。
「ここより先は……私を殺す以外に道はないぞ。我ら矜持や誇りを捨て堕ちた、醜き悪鬼羅刹――――共に地獄に落ちようじゃあないか。……変身!!」
 同タイミングで忍者だった者がドライバーを速攻起動させ、辺りにどす黒い魔力が満ち溢れるのだった。
『『『『『Loading……Game Start』』』』』
 思考汚染をされ、同じ英雄の敵になった者同士が、激突するのだった。



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 幻覚の解けたコンクリートの通路を、忍者一人、そしてエヴァと信一郎の三人のみで走っていた。
「事の発端は、数年前だった」
 山梨の大企業・|五斂子《ゴレンシ》社。山梨においては非常に著名な会社であり、山梨の企業七割がたの根本に居座り続ける、グレープの創設にもかかわった大企業である。食品、金融、風俗、娯楽……山梨に存在する、あらゆるエンタメの根本である。
 その五斂子社は、子供、ひいては『育児』にまつわる事業も行っていた。数多くの保育園や孤児院の運営も、五斂子社の子会社が行っている。
 しかし。数年前のこと、山梨県内で子供が失踪する事件が頻発した。五斂子社は事件の追求を大々的に発表した。忍者たちはそういった思惑抜きに、独自に調査を開始したものの、それは五斂子社によるものであった。五斂子社で行われていた行為は分からなかったものの、酷いマッチポンプを見たのだ。
 忍者たちは巨悪であることが判明した五斂子社に戦いを挑むも、結局は敗北。人間以上の力を保有したものが存在する、確実に敵わないことを察してしまったため、御庭番衆以外の忍者は五斂子社の手先となった。
「……どれほど修行を重ねたとしても、敵わないことを知ってしまったがゆえに、誇りを捻じ曲げたとしてもそちらに付く以外なかった。金も積まれ、後には退けなかった。頭目には……悪いと思っている」
「悪いとかの次元じゃあない、強いものに従うのは人間……ひいては生物として、いたって普通のものさ。これが仮に、英雄が行ったことだとしたら大目玉ものだけどね」
「つまり、この通路の先に存在するのは……五斂子社ってことですか」
「――ああ」
 先ほど、エヴァと打ち合う際。明確に敵意が薄いことに気が付いたからこそ、エヴァはあまり責めなかったのだ。しかし、どうしても許せなかった部分が一つだけあった。
「――子供たちを、なんで見殺しにするような真似をしたんですか」
 エヴァたちに表情は一切見せなかったものの、その背には哀愁を背負っていた。
「確かに力は及ばなかったかもしれない、それでも……行き場のない子供たちを裏切るような真似がよく出来ましたね」
 その言葉には、隠しきれない怒気がにじみ出ていた。同じく親を亡くした子供であるエヴァにとって、あの子供たちは救わなければいけない対象であったのだ。
 なのに、子供に頼りにされていた大人が、その子供がこれ以上酷い目にあう姿を、指をくわえて見ていたとしたら。彼女にとっては、何よりも許せない行いであったのだ。
「……その怒りの矛先は、きっと五斂子社に……そしてそれらと並び立つ存在に向けた方がいいだろうね」
 その信一郎の言動に、さらに異を唱えようとした、その時であった。一行の目の前に、長い梯子がかけられていた。信一郎が先導し、エヴァがそれに続くよう走るも、忍者は二人の背を守るように立っていた。
「……何で、付いてこないんですか? 目的地に着いた私たちを……」
「――それ以上はいけないよ、エヴァちゃん」
 指さす方へ振り向くと、忍者だった存在が、それぞれ生気を失った状態でじりじりと迫りつつあったのだ。
 しかも、下腹部にそれぞれチーティングドライバーを着用した状態であったのだ。
「う、うそ……いつから……」
「敵意を感じない、ってのはある種の正解だった。きっと、あの人はずっと罪悪感に押し潰されそうだったんだろう。子供たちをこういう形で見送りたくはなかったんだろう。だからこそ、自分たち以上の力を持つ私たちに、事の解決を祈ったんだろう」
 五斂子社は、結局『教会』の息がかかった存在であった。だからこそ、歯向かってきた忍者たちに「二度と歯向かわないよう」という思考汚染の意味合いも込め、チーティングドライバーを渡したのだろう。
 それが、今秘密に手を伸ばしている寸前に牙を剥くのだ。
「――エヴァちゃん、行こう。そうじゃあないと……あの人の贖罪は終わらないんだろう」
「最初から……死ぬ覚悟で……」
 背から滲み出す哀愁は、その『贖罪』という言葉に反応した。一切エヴァたちの方へ向くこともなく、吐露し始めたのだ。
「――これは、贖罪などではない。あの子たちを導いてしまったのは……私の責任だ。今更罪がどうこうなどという話ではない。許されるつもりなんて……毛頭ないさ。閻魔様にきっちり裁かれて、地獄の旅路をゆっくりと歩むことにしよう」
 ただ、それでも罪を背負った自分が行うことは、邪魔を許さないことであった。忍者の誇りにかけ、自分たちでは敵わない存在を英雄にどうにかしてほしいからこそ、自分を踏み台にしたのだ。衆目に命を晒したうえでの、最後の反抗であった。いくら思考汚染されようと、行き場のない子供たちを大切に思う気持ちは、一切変わらなかったのだ。
「――行ってくれ。私のような路傍の小石なんぞ、一切気にかけないでくれ。そして……私のことを忘れてくれ。子供を見捨て、矜持を捨てた、辻斬り同然の哀れな流浪人と思ってくれ」
 信一郎は、同性だからわかる男の意地を感じ取り、梯子を再び上がり始めた。エヴァは片腕を離し、忍者……否、ただの裏切り者に敬礼すると、梯子を上り始めたのだ。
 やがて、姿が見えなくなっていた中で、忍者ですらなくなった男は、同種が生み出す幻覚作用のある甘い香りをあまり吸い込まないよう、すぐさま厚手の布を後ろ手でマスクのように結ぶ。
 懐から出すは、隠れて持ち込んでいたチーティングドライバー。同胞だった者を手にかけるのは、未だ経験のない男であった。ゆえに、下腹部に装着後、手元が震えていた。
 しかし、その手の震えを、自身の忍び刀で掌を完全に貫き、意識を誇り高いものに戻す。圧倒的痛覚が脳を支配していたものの、一切叫びはせずに歯を食いしばるのみで耐えてみせたのだ。目は血走り、脂汗があふれ出す。
「――今更、何を怖がっている。しのびの里を裏切ったあの時に、怖がるなんて思考は捨て去ったはずだ。裏切り者なら、最後まで裏切り者であるのみ。今更――後戻りはできないだろう」
 自身の手を貫く忍び刀を派手に抜くと、栓を抜いたかのように血が溢れる。刀にも己の血が滴るほど付着していた。刀の|頭《かしら》部で押し込むように、ドライバーを即起動させる。
「ここより先は……私を殺す以外に道はないぞ。我ら矜持や誇りを捨て堕ちた、醜き悪鬼羅刹――――共に地獄に落ちようじゃあないか。……変身!!」
 同タイミングで忍者だった者がドライバーを速攻起動させ、辺りにどす黒い魔力が満ち溢れるのだった。
『『『『『Loading……Game Start』』』』』
 思考汚染をされ、同じ英雄の敵になった者同士が、激突するのだった。