コテンパンにされたため、灰崎は一切の抵抗なしにグレープ・フルボディの深淵を案内、至る一行であった。そこにあったものは、昇降機から見えた景色の中では見ることのできない、通常の性癖では満たされず、通常よりも更なる金が生み出される場所。
無垢な子供たちが、粗雑かつ小さなあばら家にて、露出度の高い恰好を着させられている。男女問わず、まるで動物園にて見世物にされているように。そして、それら小さな家の前には名前と『値段』。ある程度高値が付けられているが、その値段は一晩当たりの値段であった。
それぞれの軒先には、『教会』のエンブレムが飾られており、犯人は明確であった。
「――う、嘘だろオイ」
「……反吐が出ますわ」
これほど広い世界の中で、排他、唾棄されるべき概念。正しく、子供の人身売買、及び売春行為であったのだ。しかもそれら子供たちは年端もいかない幼稚園児から中学生ほどまで。ハイジ、アリス、ロリータ、それぞれの歪んだ欲望を最悪の形で叶えられる。
「――俺らのビジネスは、というよりは先代からの慣例仕事≪シノギ≫である売春……というよりは遊郭だ。それ以上の最悪もあるが……それは俺らじゃあなくそれ以外、『教会』のクソ野郎たちの管轄だ。正直……事実上元あった売春所の形は無くなって、『奴ら』の取り仕切りになった結果、ただ場所を提供しているだけに過ぎない。もう……元あった場のような要素は……消え失せたんだ」
『奴ら』。理解こそしているものの、自分たち以外の何物かが、この汚い仕事に関わっている事実を知り、院は詰問しようとした。しかし、自分たちの行っていることは間違っていない、そう言わんばかりに淡々と告げられていく真実に激昂した透は、思わず灰崎の胸ぐらを激しく掴む。
「――バカも休み休み言え、ふざけんじゃあねえ!! これほどの小さな子が、純朴な子供たちが……お前らのシノギに使われてたまるかってんだ!!」
「それが、親と子供……『両方が望んでいた』としたらどうなんだよ」
「……は!?」
実に悲しそうな表情で、透の手を解く灰崎。
昨今、物価等の高騰により、貧困に喘ぐ家庭は増えている。通常の仕事をどれほど頑張ろうが、金は減っていく一方。その癖無能な政治家はやたら多くの金を持っていく、それほどの金を使うことすら困るだろうに、ただの自己顕示欲が肥大化してそう歪んでしまう。そんな中で、無力な自分にできることが、そして一定の人種のお眼鏡にかなったとしたら。誰もかれも、それに喜んで飛びつくだろう。
こういった場合、売春行為を親に黙っているのが通例だろうが、子供も王漣組も、全て包み隠さず語った上で親は了承している。なりふり構わず、世の金払いのいい男や女に抱かれることを望んだのだ。
いわゆる、ロリコンやショタコンに向けての性ビジネス。親や子供たちは望んだ大金が懐に入り、ヤクザ側はある程度の月当たりの見ケ〆料を貰う。客は幼い子を抱ける。子供は親のためになれる。それぞれが望んだ、歪んだウィンウィンの関係性であったのだ。
「お前らが偽善を振りまくことで、こいつらの居場所は無くなる。得られる固定収入も無くなる。お前らはそれだけの責任を取れるのか? 家族のためを思った、純粋な善意をお前ら英雄は踏みにじるのか?」
その灰崎の問いに、透は気まずそうに黙ってしまう。それもそのはず、自分もまた多くの義弟妹のために、身を粉にして現実と戦い続けてきた。多くの危ない橋を渡る機会があった中で、あの子たちを懸命に育ててきた。それは、他でもなくかけがえのない家族のため。
しかし、それに異議を唱え、怒りを露わにしたのは清志郎であった。透に下がるよう呟き、全力を以って灰崎をさらに殴り飛ばしたのだ。敵わないことを分かっていたからこそ、灰崎は無駄な抵抗はしない。しかし、清志郎の方を黙って見やるのだった。
「――かつて、私が目をかけた子がいた。その子は、親のために自分の身を売っていることを明かしてくれた。長かった、その子は非常に頑固者でね。心を融かすのに時間が要った。だが……その子は何て言ったと思う? 「辛い、助けて」と吐露したんだ」