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第百五十二話

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 『理想郷』内、そのアヴァロンエリアにて、どこかへ行ってしまったエヴァと信一郎を待ちながらリラクゼーションスパを受けている真っ最中の院と透の二人。しっかりと満喫した結果、時間にして丸一日と半日が経過している。すっかり施術に骨抜きにされた二人の元に現れたのは、不審者と見紛うほどの、浮かれた風体の五十歳男性であった。
「――あのよ、仮にも俺ら今スパ中なんだわ。俺らの上裸見たらぶっ殺すぞ」
「見ないって。大体私小児科医だし、見慣れている上に『そういう』趣味ないからさ。私もここのスパを受けてから、君たち一年次を導こうと思っているからさ。――あ、すまない、いつものマッサージを頼む」
 「小児科医」を名乗るその男の風貌は、このグレープにいる存在とは思えないほどに平凡であった。
 今は脱いでいるものの年季の入った白衣に、全体的にくたびれたよれたTシャツ、それに長年扱い続けているであろう安物のチノパン。さらに百円均一で買ってきたかのような、安物のビーチサンダル。少しばかりの無精ひげがよりだらしなさを演出する。
 さらに、謎なのはその体格。通常五十歳男性というものは、往々にして肉体の老化や、白髪等に悩まされているもの。その男に関しては、白髪は多少混じっているものの、服の上からでもわかるように体格は非常に恵まれていた。とてもジム等で簡易的につくられたものよりも、圧倒的に戦闘向きと言えるほどに引き締まった筋肉をしており、少なくとも『ただの』小児科医とは思えない。
 彼女たちの身の回りに、あからさま若すぎる五十歳がいるのだが、多少麻痺しているものの十分異常な五十歳男性であったのだ。
「あー……腰に効くわ……」
 服を脱ぐことなく、ホットアイマスクだけ着用しそのまま施術を受ける男。その男の喘ぎに似た声を聴き続ける、なんとも言えない空間。ふざけた人間ではないことは、醸し出す雰囲気で十分に理解できるのだが、いかんせん声が伴ってない。
「――お言葉ですが、私たちは援助交際などしないタチでして。もし「イケる」と思い込んで声をかけたなら、情け容赦なく急所を蹴り上げますわよ」
「大丈夫だって、俺は信一郎に聞かされてここに来てんだからさ……あーいい、もっと強くしてくれないか、マッサージ師さん」
 まるで当然と言わんばかりにさらっと明かされる重要事実に、二人は思わず素っ頓狂な声を上げる。しかもその同タイミングにツボに入ったため、より変な声を上げる羽目になる。
「――君らはさ、このグレープに『深層(ふかみ)』があること、知ってるかい?」
「? 知りませんけど、何か?」
 「そっか」とだけ残すと、マッサージ師に手渡される、ある漆黒のカード。それは、このグレープの深淵に至る上で必要不可欠なものである。
 施術が終わった院と透の二人は、慌てて服を着直して、その男を複数の施術台を挟んだ場所から顔だけ出して見つめるも、その男に怪しい雰囲気は感じられない。胡散臭さは人一倍ではあるのだが。
「――なあに、これ見れば一発よ。ほら、このデバイス見てみ」
 目をホットアイマスクで塞がれているはずなのに、見えないはずの二人に向けデバイスを下から山なりに投げる。慌てつつ受け取ると、そこに記されていたのはあるメール文。
『今、私の娘とその友人が理想郷全体でしっかり癒されているヨ☆ ちょうどいい時が来たら、敵ではないことを示しつつ声をかけてくれてくれ☆ 手を出したら清志郎とはいえぶっ飛ばすよ☆』
 透はイマイチよく分かっていなかったものの、院はすぐさま理解した。怪しがる透を安心させるように、そのメールの解説をしだす。
「――お父様は、基本的にメール文章の末尾に星のマークを付けたがります。これはメールを受け取ったことのある人間以外、分からないものとなっています。さらに、メールアドレスが……『変』ですの」
 信一郎のメールアドレスをローマ字読みしていくと、そこに書かれていたのは『娘大好き』だの『娘マイラブ』だの、二人の愛娘を溺愛していることが丸わかりなもの。
 不本意ではあるが、院のデバイスに残されている当人のメールと照らし合わせたら、透は気持ち悪さと共に、今現在進行形でマッサージを受ける謎の人物を安心するきっかけになったのだった。
「……学園長ってよ、あの男には使ってないけどよ……俗に言う「おじさん構文」使うんだな……」
「――そう、礼安は喜んで受け取っていますが……これを学内通貨のお小遣いと共に、ひと月に一度毎回送ってきますの。これは控えめな方ですが、私たちに送られるもので酷いときは絵文字や顔文字ばかりですの」
 しかも、安心させる要素としてメールを眺めるデバイスにもあった。信一郎の使用する、現在のデバイスドライバーのプロトタイプであり、それの完全上位互換たる存在である『デバイスドライバー・シン』を扱っている。
 すなわち、『原初の英雄』時代から信一郎の同期、それを示す何よりもの証拠であるのだ。
「――分かってくれたかい? あの馬鹿、人使いマジで荒いんだよ……同期かつアイツの方が強いからって、私のスケジュールフル無視で護衛を頼んできたんだよ」
 マッサージを終えた男、清志郎とやらは、アイマスクを取って施術台の上にどっかりと座り、二人を不敵な笑みで見つめる。
「礼儀だ、先に自己紹介しよう。俺の名前は有馬清志郎(アリマ セイシロウ)。元陸上自衛隊陸将、そして『原初の英雄』と共に黄金時代を築き上げた。現『ぷろてあクリニック』という、小児科医をやっている者だ」



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 『理想郷』内、そのアヴァロンエリアにて、どこかへ行ってしまったエヴァと信一郎を待ちながらリラクゼーションスパを受けている真っ最中の院と透の二人。しっかりと満喫した結果、時間にして丸一日と半日が経過している。すっかり施術に骨抜きにされた二人の元に現れたのは、不審者と見紛うほどの、浮かれた風体の五十歳男性であった。
「――あのよ、仮にも俺ら今スパ中なんだわ。俺らの上裸見たらぶっ殺すぞ」
「見ないって。大体私小児科医だし、見慣れている上に『そういう』趣味ないからさ。私もここのスパを受けてから、君たち一年次を導こうと思っているからさ。――あ、すまない、いつものマッサージを頼む」
 「小児科医」を名乗るその男の風貌は、このグレープにいる存在とは思えないほどに平凡であった。
 今は脱いでいるものの年季の入った白衣に、全体的にくたびれたよれたTシャツ、それに長年扱い続けているであろう安物のチノパン。さらに百円均一で買ってきたかのような、安物のビーチサンダル。少しばかりの無精ひげがよりだらしなさを演出する。
 さらに、謎なのはその体格。通常五十歳男性というものは、往々にして肉体の老化や、白髪等に悩まされているもの。その男に関しては、白髪は多少混じっているものの、服の上からでもわかるように体格は非常に恵まれていた。とてもジム等で簡易的につくられたものよりも、圧倒的に戦闘向きと言えるほどに引き締まった筋肉をしており、少なくとも『ただの』小児科医とは思えない。
 彼女たちの身の回りに、あからさま若すぎる五十歳がいるのだが、多少麻痺しているものの十分異常な五十歳男性であったのだ。
「あー……腰に効くわ……」
 服を脱ぐことなく、ホットアイマスクだけ着用しそのまま施術を受ける男。その男の喘ぎに似た声を聴き続ける、なんとも言えない空間。ふざけた人間ではないことは、醸し出す雰囲気で十分に理解できるのだが、いかんせん声が伴ってない。
「――お言葉ですが、私たちは援助交際などしないタチでして。もし「イケる」と思い込んで声をかけたなら、情け容赦なく急所を蹴り上げますわよ」
「大丈夫だって、俺は信一郎に聞かされてここに来てんだからさ……あーいい、もっと強くしてくれないか、マッサージ師さん」
 まるで当然と言わんばかりにさらっと明かされる重要事実に、二人は思わず素っ頓狂な声を上げる。しかもその同タイミングにツボに入ったため、より変な声を上げる羽目になる。
「――君らはさ、このグレープに『|深層《ふかみ》』があること、知ってるかい?」
「? 知りませんけど、何か?」
 「そっか」とだけ残すと、マッサージ師に手渡される、ある漆黒のカード。それは、このグレープの深淵に至る上で必要不可欠なものである。
 施術が終わった院と透の二人は、慌てて服を着直して、その男を複数の施術台を挟んだ場所から顔だけ出して見つめるも、その男に怪しい雰囲気は感じられない。胡散臭さは人一倍ではあるのだが。
「――なあに、これ見れば一発よ。ほら、このデバイス見てみ」
 目をホットアイマスクで塞がれているはずなのに、見えないはずの二人に向けデバイスを下から山なりに投げる。慌てつつ受け取ると、そこに記されていたのはあるメール文。
『今、私の娘とその友人が理想郷全体でしっかり癒されているヨ☆ ちょうどいい時が来たら、敵ではないことを示しつつ声をかけてくれてくれ☆ 手を出したら清志郎とはいえぶっ飛ばすよ☆』
 透はイマイチよく分かっていなかったものの、院はすぐさま理解した。怪しがる透を安心させるように、そのメールの解説をしだす。
「――お父様は、基本的にメール文章の末尾に星のマークを付けたがります。これはメールを受け取ったことのある人間以外、分からないものとなっています。さらに、メールアドレスが……『変』ですの」
 信一郎のメールアドレスをローマ字読みしていくと、そこに書かれていたのは『娘大好き』だの『娘マイラブ』だの、二人の愛娘を溺愛していることが丸わかりなもの。
 不本意ではあるが、院のデバイスに残されている当人のメールと照らし合わせたら、透は気持ち悪さと共に、今現在進行形でマッサージを受ける謎の人物を安心するきっかけになったのだった。
「……学園長ってよ、あの男には使ってないけどよ……俗に言う「おじさん構文」使うんだな……」
「――そう、礼安は喜んで受け取っていますが……これを学内通貨のお小遣いと共に、ひと月に一度毎回送ってきますの。これは控えめな方ですが、私たちに送られるもので酷いときは絵文字や顔文字ばかりですの」
 しかも、安心させる要素としてメールを眺めるデバイスにもあった。信一郎の使用する、現在のデバイスドライバーのプロトタイプであり、それの完全上位互換たる存在である『デバイスドライバー・シン』を扱っている。
 すなわち、『原初の英雄』時代から信一郎の同期、それを示す何よりもの証拠であるのだ。
「――分かってくれたかい? あの馬鹿、人使いマジで荒いんだよ……同期かつアイツの方が強いからって、私のスケジュールフル無視で護衛を頼んできたんだよ」
 マッサージを終えた男、清志郎とやらは、アイマスクを取って施術台の上にどっかりと座り、二人を不敵な笑みで見つめる。
「礼儀だ、先に自己紹介しよう。俺の名前は|有馬清志郎《アリマ セイシロウ》。元陸上自衛隊陸将、そして『原初の英雄』と共に黄金時代を築き上げた。現『ぷろてあクリニック』という、小児科医をやっている者だ」