翌日、それも早朝四時のこと。しのびの里の出口で、精鋭の御庭番衆とエヴァ、そして夜通し寝ずにしのびの里の警備をしていた信一郎のみが、レイジーを見送る準備をしていた。子供たちはあの剣道場で未だ夢の中。あと三時間は起きないだろう。
(……昨日は、良いお別れが出来たかな)
(――邪魔が一切入らなかったの、学園長のおかげですか)
(まあね。さすがに女の子二人、水入らずの関係を邪魔するほど、私は落ちぶれちゃあいないさ)
信一郎がレイジーにウインクをすると、困惑していたため彼女が頼んだわけではないことが明らかになったのだが。つまるところお節介である。
「……すまないね、こんな早朝に出立することになってしまって」
「いえ、どうせ下っ端共が悪さを企んでいるのでしょう。山梨支部を統括でき、ある程度制御できるのは御屋形様のみ。どうか、ご無事で」
深々と頭を下げる御庭番衆の精鋭たち。レイジーは安心するとしのびの里を何も言わず後にする。エヴァと信一郎、御庭番衆は燧石を手に、ただ切り火を切るのみ。それが、彼らの間の絆を示すものであるのだ。
元々、火というものは如何なる時代、国であろうと清浄・神聖視されてきた。身を清める呪いや魔除け、お祓いの意味合いも込めてされたことこそ切り火である。
粛々と見送った一行であったが、姿が見えなくなると、静かにしのびの里の中へ帰っていった。
「日本古来の送り出しの儀式……ある意味スピリチュアルなものではあるけど、それが彼らにとっての支えなんだろうね」
「――そういえば昨日聞けませんでしたが……あのお二人は?」
信一郎は、そのエヴァの問いに、意味深長に笑って返すのであった。
「……あの二人に関しては、心配いらないよ。なんせ、私の『マブダチ』が取り合ってくれている……はず。もう少しで、ある程度の連絡も来るはずだし。あの子らにとって、非常にいい刺激になるだろうね」
「――――また何も伝えなかったんですね、学園長の信頼のためにも報連相は大事なんじゃあないですか??」
大切なことを毎度黙っている信一郎に頬を膨らませるも、当の本人はおどけているのみ。
「ほらアレだよ、昔のアクション映画の名作、『燃えよドラゴン』に台詞としてあったでしょ? 「考えるな、感じろ」って」
「――何ですか、その映画?」
「あれェジェネレーションギャップ!?」
味方であることに変わりはないだろうが、理想郷の名を崩すほどの、信じられない計画が動き出していることに、エヴァをはじめ院と透は知らないままである。下手したら、この場にいない二人に関しては、知らされたくらいかもしれないが。
「ただの慰安旅行なんて興味ないでしょ? せっかくなら……『教会』やらこの県の根底に潜む膿やら。ぜーんぶ出し切っちゃおうじゃあないかって訳。そして結果的に我々の総合力は高まる。実にいいこと尽くし……ってのが、私の本心って訳よ」
「……いい性格してますよ、本当に」
「将来君のお義父さんになるかもなんだ、人となりくらい知っておいた方が得策だろう?」
不敵に笑む信一郎と、呆れかえるエヴァ。
彼女の心配は見事的中し、この場にいない二人はこの山梨に渦巻く闇に近づく――その一歩手前にいるのだった。
エヴァたちがしのびの里で忍者たちと関わっている中、二人の元に謎の人物が現れる。
山梨に渦巻く義賊伝説と最悪の闇。それが院たちを含む英雄たちの手によって、暴かれようとしていたのだった。