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第四部 10話 サンデル

ー/ー



 バケット邸の前で、フレアとジークが深呼吸していた。
 何度か繰り返した後、意を決したように敷地へと入る。

 今日は二人がブラウン団長と会う日だった。関係者は一通り集まっている。
 強いて言えばティアナだけは学院に行っているくらいか。

「お屋敷だねぇ」
 アリスが先導する中、フレアとジークは興味深そうに屋敷の中を見回していた。

「パパ、連れてきたよ」
「ああ、どうぞ」

 書斎の前まで来ると、アリスはばーんと軽い調子で扉を開けた。
 二人は明らかに緊張している様子だ。もう少しゆっくりしてあげても良い気がする。

 ブラウン団長は二人を見ると、握手のために席を立った。
 その様子を見るに、フレアの祖父とは何か強い繋がりがあったのかもしれない。

「君があの爺さんの……確かに面影がある気もするな」
「……喜ぶべきか悲しむべきか、迷うところですね」

 ブラウン団長はフレアと握手をしながら微笑んだ。
 さらにジークとも握手をして続ける。

「ちなみに、何か身元を証明するものはあるかな?」
「残念ながら物は何も……ただ、一言だけ」
「……聞こう」
「『貸しを返せ、ブラウン坊や』と」
「――く」

 ブラウン団長が一度だけ肩を震わせて笑った。
 その姿は俺の知る姿とは少し違うように見えた。

「分かった。ひとまず信じよう。面会が遅れてすまなかった。
 ……連合との国境付近に呼ばれていてね」
 そう言って、ブラウン団長はあの茶色の瞳を二人に向けた。

 連合と言えば、帝国の進軍に合わせて動きがあったはず。
 しかし、もう一か月以上も前の話だ。連合の方では頻繁に騒ぎが起こってるのか?

「? 連合が動くにしては不自然……。
 いや、ひょっとして……ずっとあのままだったの?」

 ナタリーが目を見開いた。あのままって、一か月前から?
 王国との国境付近に軍を配置し続けていたということか。

 だとしたら、あの頃に連合でも大きな事件が起こっていた?

「……ひょっとしたら、その質問にも答えてくれるのかな?
 ところで――君はあまり爺さんに似ていないな?」
 ブラウン団長は不意にその瞳をジークへと向けた。

 そこでフレアは俺たちを振り返った。
 小さく舌を出して、続ける。

「……ごめんね、姉弟は嘘なんだ」

 対するジークは嬉しそうに微笑む。
 さらに居住まいを正すと、恭しく礼をした。

「失礼しました。私はジークハルト・サンデル。
 旧貴族連合の盟主『サンデル家』の正統な当主です」
 そう言うと、ジークは「噂通りですね」と頭を下げた。

 ジークが連合の……トップになるのか? 王国で言えば王子みたいな?
 いや、王国とは仕組みが違うか? そもそも貴族連合は反乱で崩壊してるから……。
 
 ? 最終的にどうなるんだ?
 首を傾げた俺をナタリーが少し呆れた目で見ていた。

「なるほど。納得した。連合が王国に張り付いて離れないわけだ。
 火種となるであろう元盟主を殺し損ねた上、王国に逃げ込まれたのだからな」

 ブラウン団長が何度も頷いて見せる。
 しかし、すぐに表情を切り替えると、続けて訊いた。

「……王都に来た目的を聞いてもよろしいですか?」

 口調は丁寧になったが、その視線には先ほどまでとは違う厳しさがあった。
 王国の利益を見極めようとしているのが俺にも分かる。

「連合を取り戻したい。王国も新国と奴らには頭を悩ませているのでは?
 王国とは協力できると考えてここまで来ました」
「…………」
「帝国が弱体化した今、新国との共同戦線だけでも見返りにはなるはず。
 他にも考えてはいますが、全て連合を取り戻した後の話です」
「……分かりました。陛下に取り次ぎましょう」
 
 なるほど、こうなるということか。
 ブラウン団長との関わりを通して、王様に取り次ぐことが目的だったと。
 しかし、ここまで話してから、ブラウン団長は首を傾げる。

「記憶が正しければ、現在の連合でもサンデル家は盟主だったはずだが?
 市民連合と名乗っているらしいが……」
「……叔父です」

 ジークが答える。
 ……盟主の弟と鬼が手を組んだということか。

「……どうして直接王城に行かなかったの?」
「そうだね、事情を説明すれば謁見できたんじゃない?」

 話がひと段落したと見たのだろう。ナタリーとアリスがフレアに訊いた。
 要するに、フレアは護衛兼つなぎ役だったわけか。

「それは……」
「ふむ。行っても無駄だったろうな。
 連合出身では陛下との面会も叶わない。少なくとも一か月は待つ。
 ましてや連合のサンデル家となれば、いつになるか分からないな」

 ブラウン団長が答える。
 フレアがさらに続けた。

「一か月も待てない。それじゃあ間に合わないのよ。
 ……私たちは来月に総攻撃を仕掛ける」



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 バケット邸の前で、フレアとジークが深呼吸していた。
 何度か繰り返した後、意を決したように敷地へと入る。
 今日は二人がブラウン団長と会う日だった。関係者は一通り集まっている。
 強いて言えばティアナだけは学院に行っているくらいか。
「お屋敷だねぇ」
 アリスが先導する中、フレアとジークは興味深そうに屋敷の中を見回していた。
「パパ、連れてきたよ」
「ああ、どうぞ」
 書斎の前まで来ると、アリスはばーんと軽い調子で扉を開けた。
 二人は明らかに緊張している様子だ。もう少しゆっくりしてあげても良い気がする。
 ブラウン団長は二人を見ると、握手のために席を立った。
 その様子を見るに、フレアの祖父とは何か強い繋がりがあったのかもしれない。
「君があの爺さんの……確かに面影がある気もするな」
「……喜ぶべきか悲しむべきか、迷うところですね」
 ブラウン団長はフレアと握手をしながら微笑んだ。
 さらにジークとも握手をして続ける。
「ちなみに、何か身元を証明するものはあるかな?」
「残念ながら物は何も……ただ、一言だけ」
「……聞こう」
「『貸しを返せ、ブラウン坊や』と」
「――く」
 ブラウン団長が一度だけ肩を震わせて笑った。
 その姿は俺の知る姿とは少し違うように見えた。
「分かった。ひとまず信じよう。面会が遅れてすまなかった。
 ……連合との国境付近に呼ばれていてね」
 そう言って、ブラウン団長はあの茶色の瞳を二人に向けた。
 連合と言えば、帝国の進軍に合わせて動きがあったはず。
 しかし、もう一か月以上も前の話だ。連合の方では頻繁に騒ぎが起こってるのか?
「? 連合が動くにしては不自然……。
 いや、ひょっとして……ずっとあのままだったの?」
 ナタリーが目を見開いた。あのままって、一か月前から?
 王国との国境付近に軍を配置し続けていたということか。
 だとしたら、あの頃に連合でも大きな事件が起こっていた?
「……ひょっとしたら、その質問にも答えてくれるのかな?
 ところで――君はあまり爺さんに似ていないな?」
 ブラウン団長は不意にその瞳をジークへと向けた。
 そこでフレアは俺たちを振り返った。
 小さく舌を出して、続ける。
「……ごめんね、姉弟は嘘なんだ」
 対するジークは嬉しそうに微笑む。
 さらに居住まいを正すと、恭しく礼をした。
「失礼しました。私はジークハルト・サンデル。
 旧貴族連合の盟主『サンデル家』の正統な当主です」
 そう言うと、ジークは「噂通りですね」と頭を下げた。
 ジークが連合の……トップになるのか? 王国で言えば王子みたいな?
 いや、王国とは仕組みが違うか? そもそも貴族連合は反乱で崩壊してるから……。
 ? 最終的にどうなるんだ?
 首を傾げた俺をナタリーが少し呆れた目で見ていた。
「なるほど。納得した。連合が王国に張り付いて離れないわけだ。
 火種となるであろう元盟主を殺し損ねた上、王国に逃げ込まれたのだからな」
 ブラウン団長が何度も頷いて見せる。
 しかし、すぐに表情を切り替えると、続けて訊いた。
「……王都に来た目的を聞いてもよろしいですか?」
 口調は丁寧になったが、その視線には先ほどまでとは違う厳しさがあった。
 王国の利益を見極めようとしているのが俺にも分かる。
「連合を取り戻したい。王国も新国と奴らには頭を悩ませているのでは?
 王国とは協力できると考えてここまで来ました」
「…………」
「帝国が弱体化した今、新国との共同戦線だけでも見返りにはなるはず。
 他にも考えてはいますが、全て連合を取り戻した後の話です」
「……分かりました。陛下に取り次ぎましょう」
 なるほど、こうなるということか。
 ブラウン団長との関わりを通して、王様に取り次ぐことが目的だったと。
 しかし、ここまで話してから、ブラウン団長は首を傾げる。
「記憶が正しければ、現在の連合でもサンデル家は盟主だったはずだが?
 市民連合と名乗っているらしいが……」
「……叔父です」
 ジークが答える。
 ……盟主の弟と鬼が手を組んだということか。
「……どうして直接王城に行かなかったの?」
「そうだね、事情を説明すれば謁見できたんじゃない?」
 話がひと段落したと見たのだろう。ナタリーとアリスがフレアに訊いた。
 要するに、フレアは護衛兼つなぎ役だったわけか。
「それは……」
「ふむ。行っても無駄だったろうな。
 連合出身では陛下との面会も叶わない。少なくとも一か月は待つ。
 ましてや連合のサンデル家となれば、いつになるか分からないな」
 ブラウン団長が答える。
 フレアがさらに続けた。
「一か月も待てない。それじゃあ間に合わないのよ。
 ……私たちは来月に総攻撃を仕掛ける」