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第四部 9話 ブローチ

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 夕方。俺たちは組合の窓口まで戻って来た。
 後は依頼達成の報告をするだけだ。
 魔物の死体は別で回収を依頼している。
 
 なんだかんだ、ナタリーもフレアも満足げだった。
 ……互いの力量が分かったからだろう。

 フレアとジークも訳ありっぽいから、何か思惑があるのかもしれない。
 建物に入ると、ナタリーを先頭に窓口まで歩く。

 すると、目の前に小さな人だかりが出来ていた。
 ? 誰かが窓口で騒いでる……?

「だから! 連合までの護衛をお願いします!」
「何度も申し上げている通り、今の時勢では……」

 どうやら騒いでいるのはハーフエルフの老婆だった。
 両脇を同じくハーフエルフが固めている。
 ……あれ、見覚えがあるような。

 俺が思い出すより早く、アリスがぽんと手を打った。
 そのまま「緑竜の時の」と呟く。

 ああ、そうだ。
 ハーフエルフの小国で緑竜に遭遇した老婆だ。

「どうしたんですか?」
 アリスの言葉に軽く頷きながら、ナタリーが声を掛ける。

「あ! あの時の!」
「ナタリーさん……」
 老婆が振り返り、受付の女の子が助けを求めるような目を向けた。
 
「この方が今から連合を通って新国を目指すと言っていて……」
「私たちはこれから王女様を探して、新国へ向かうのです。
 そのための護衛を探しているのですが、依頼を出せないと言うのです」

 依頼が出せないのも無理はない。今は新国と危うい関係になっている。
 今向かう必要もないだろう。下手に刺激するべきではないという配慮もある。
 ……受付が困るわけだ。

「そうだ! 貴方たちが受けて頂けませんか?」

 老婆が表情を輝かせてナタリーを見る。
 そこに悪意や打算はないように思えた。

「申し訳ないですが……。
 あたしたちは別の依頼を受けているので難しいです」
「……そうですか」

 ナタリーがやんわりと断ると、老婆が残念そうに肩を落とした。
 もっとも、A級のナタリーアリスを新国まで雇うなら法外な金額になるんだがな。

「ですが、新国に行っても王女様を見つけられるのですか?」
 ナタリーがさらにやんわりと止めようとする。

「……王女様を確かめる術があるのです」
「確かめる?」

 加奈が首を傾げた。
 王女の姿はおろか、生死すら不明のはずだ。

「あの日、王城で見つけたものです」
「これ、魔道具だ。珍しいですねぇ」

 そう言って老婆は懐から立派な装飾の施されたブローチを取り出した。
 アリスが面白そうに老婆の手を覗き込む。

「そうです。このブローチは持ち主の魔力に反応して輝きます。
 ……王女様の誕生祝いでした」
「なるほど。魔力を込めて、光れば……ということですね」

 確かに、そういうことであれば話は分からなくもない。
 新国には多くのハーフエルフが流れている。
 その中に王女が紛れている可能性も低くはないだろう。

「え!? そのブローチに魔力を込めて光れば王女になれるの!?」
「光れば王女になるんじゃない。王女なら光るんだよ」

 そこで、今まで黙っていたフレアが声を張り上げた。
 俺がすぐに切り返すが、フレアは諦めなかった。

「分かんないじゃん! 私が王女かもよ!?」
 ハーフエルフの王女が人間で連合出身かも知れないと?

「違うよ、品格が足りない」
「違うんじゃないかな? 礼節がちょっと……」
「違うでしょ、血筋が良いとは思えないもん」
「違いますね。王族というのは高貴なんですよ?」
「違う。寝言は寝て言え」
 ナタリー、加奈、アリス、ジーク、俺の順で即答した。

「そ……そこまで言うことないじゃんか!」
「がっ!?」

 意外と繊細なところがあったのか、フレアは大声で叫ぶ。
 さらに素早く俺の横っ面を裏拳で殴った。なぜだ。

「……分かりました。私たちは馬で北へ向かうことにします」
 俺たちの様子に毒気が抜かれたように老婆が応じた。

「すみません。あたしたちも、可能性がある人を探してみます」
 ナタリーの言葉に老婆が頭を下げた。



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 夕方。俺たちは組合の窓口まで戻って来た。
 後は依頼達成の報告をするだけだ。
 魔物の死体は別で回収を依頼している。
 なんだかんだ、ナタリーもフレアも満足げだった。
 ……互いの力量が分かったからだろう。
 フレアとジークも訳ありっぽいから、何か思惑があるのかもしれない。
 建物に入ると、ナタリーを先頭に窓口まで歩く。
 すると、目の前に小さな人だかりが出来ていた。
 ? 誰かが窓口で騒いでる……?
「だから! 連合までの護衛をお願いします!」
「何度も申し上げている通り、今の時勢では……」
 どうやら騒いでいるのはハーフエルフの老婆だった。
 両脇を同じくハーフエルフが固めている。
 ……あれ、見覚えがあるような。
 俺が思い出すより早く、アリスがぽんと手を打った。
 そのまま「緑竜の時の」と呟く。
 ああ、そうだ。
 ハーフエルフの小国で緑竜に遭遇した老婆だ。
「どうしたんですか?」
 アリスの言葉に軽く頷きながら、ナタリーが声を掛ける。
「あ! あの時の!」
「ナタリーさん……」
 老婆が振り返り、受付の女の子が助けを求めるような目を向けた。
「この方が今から連合を通って新国を目指すと言っていて……」
「私たちはこれから王女様を探して、新国へ向かうのです。
 そのための護衛を探しているのですが、依頼を出せないと言うのです」
 依頼が出せないのも無理はない。今は新国と危うい関係になっている。
 今向かう必要もないだろう。下手に刺激するべきではないという配慮もある。
 ……受付が困るわけだ。
「そうだ! 貴方たちが受けて頂けませんか?」
 老婆が表情を輝かせてナタリーを見る。
 そこに悪意や打算はないように思えた。
「申し訳ないですが……。
 あたしたちは別の依頼を受けているので難しいです」
「……そうですか」
 ナタリーがやんわりと断ると、老婆が残念そうに肩を落とした。
 もっとも、A級のナタリーアリスを新国まで雇うなら法外な金額になるんだがな。
「ですが、新国に行っても王女様を見つけられるのですか?」
 ナタリーがさらにやんわりと止めようとする。
「……王女様を確かめる術があるのです」
「確かめる?」
 加奈が首を傾げた。
 王女の姿はおろか、生死すら不明のはずだ。
「あの日、王城で見つけたものです」
「これ、魔道具だ。珍しいですねぇ」
 そう言って老婆は懐から立派な装飾の施されたブローチを取り出した。
 アリスが面白そうに老婆の手を覗き込む。
「そうです。このブローチは持ち主の魔力に反応して輝きます。
 ……王女様の誕生祝いでした」
「なるほど。魔力を込めて、光れば……ということですね」
 確かに、そういうことであれば話は分からなくもない。
 新国には多くのハーフエルフが流れている。
 その中に王女が紛れている可能性も低くはないだろう。
「え!? そのブローチに魔力を込めて光れば王女になれるの!?」
「光れば王女になるんじゃない。王女なら光るんだよ」
 そこで、今まで黙っていたフレアが声を張り上げた。
 俺がすぐに切り返すが、フレアは諦めなかった。
「分かんないじゃん! 私が王女かもよ!?」
 ハーフエルフの王女が人間で連合出身かも知れないと?
「違うよ、品格が足りない」
「違うんじゃないかな? 礼節がちょっと……」
「違うでしょ、血筋が良いとは思えないもん」
「違いますね。王族というのは高貴なんですよ?」
「違う。寝言は寝て言え」
 ナタリー、加奈、アリス、ジーク、俺の順で即答した。
「そ……そこまで言うことないじゃんか!」
「がっ!?」
 意外と繊細なところがあったのか、フレアは大声で叫ぶ。
 さらに素早く俺の横っ面を裏拳で殴った。なぜだ。
「……分かりました。私たちは馬で北へ向かうことにします」
 俺たちの様子に毒気が抜かれたように老婆が応じた。
「すみません。あたしたちも、可能性がある人を探してみます」
 ナタリーの言葉に老婆が頭を下げた。